その後もアインズの主導で話しが進められていく。さすがは元営業マンだけあって手慣れたものだが、もっともこれだけ有利な条件が揃っているので当然だろう。
その反面、法国サイドは完全にペースを握られてしまった。さらにアインズがこちらの状況をかなり把握している事に驚愕する。まさかバハルス帝国との密約の情報まで知られている事に驚く。レイモンはクレマンティーヌの事が頭を過ぎったが、彼女と云えどもそこまでの情報に触れる立ち場ではない。漆黒聖典といっても、隊長も含めて所詮は実戦部隊である。
何故ここまで!という疑問は土の神殿の件が思いあたった――第八位階魔法の《プレイナーズ・アイ/次元の目》を防いだ上で、あれだけの惨状を起こした事を考えれば法国の機密は筒抜けという事だ。
「以前ニグンを対象にした監視魔法が妨害された件なのですが…」
「あの事か?お前達は情報系魔法に付いての認識が無さ過ぎる。なんの対策も施さずによくもまあ、あんなバカな真似をしたものだ。」
「お、お恥ずかしい話しですな。私も現場で立ちあっておりましたがエライ目に遭ってしまいました。」
そういってレイモンは苦笑する。神の居城を盗み視した事については、そこまでお怒りではない様だ…しかし絶対に二度とするまいと固く決心する。そこまでの被害だったのだ。
「ほう!お前は「真に遺憾である」を喰らったのか!?それは災難だったな。あれの効果は
「えっ!8レベルドレインって……そんな、なんて恐ろしい…」
法国でもっともレベルについて詳しい占星千里は、その凄まじい内容に戦慄する。8レベルというのは普通の人間なら一生で上がるレベルに等しい。比較的レベルが上がり易い冒険者でも10年がかりだ。自分達の様な英雄クラスであっても年単位だ。それにレベルというのは上がればその分、次のレベルアップが遅くなる。それを一瞬で奪い去るというのだから、いかに恐ろしいのかが理解出来る。
いったいこのアインズ・ウール・ゴウン様とナザリック地下大墳墓はどこまでの力を持っているのか――六大神や八欲王すら凌ぐのでは?との思いが拭えない。これは白金の竜王が黙ってはいまいと、彼と面識のあるレイモンやカイレは考える。
「先程の件に付いてだが、法国全体の考えとして我々と友好関係というのは早いだろう。それまでは一部の交流に留めておくべきだと考えるがどうだ?」
「ははっ。確かに仰る通りでございます。ですので私が代表を務める組織ダブルピースが窓口になるという事で如何でしょうか?」
「お前の組織か……民間交流というやつになるのか?まあ、いいだろう。こちらはデミウルゴスを担当としよう。任せても問題は無いか?」
「お任せ下さいアインズ様(ニッコリ)。レイモン殿には
とてもイイ笑顔でデミウルゴスが答える。頭の中では「人間とビーストマンで交配可能なら、オークはどうだ?異形種でも大丈夫という勇者がいるなら、もっと醜悪なモンスターでもいけるか?フフフ…夢が広がるな。これだから人間というのは素晴しい(道具だ)!」と、よからぬ事を考えている。
そしてレイモンも心の中で喝采をあげる。ぷれいやーとの窓口になれば、頭の固い法国上層部も譲歩せざるを得ない。あとは全力で一般国民や神殿関係者の意識を改革していけば、いずれ我らの理想が実現する!
「それと…このナザリック地下大墳墓がある土地を領土としているリ・エスティーゼ王国についてですが…」
「我がナザリックを領土にだと?そんな不快な事を言っている愚か者がいるのか?」
「そ、そういった意味で申し上げたのではありません。あくまでナザリック地下大墳墓が転移したのが王国の土地であったという意味でして…」
「この地の周囲には町も無いし、人だって住んではいないぞ。特に開発されている様子も見られ無いが、それを領土と主張するのはおかしい話ではないか?」
「正にアインズ様の仰るとおりでございます。」
アインズとしてはナザリックがリ・エスティーゼ王国などという国家の下に置かれる事を許すわけにはいかない。調べた限り近隣でも最低の国だ。断じて否だ。近所という事で多少のお付き合いは考えていたが、知れば知るほど、それさえも考え直したくなる。
もしこれが他の大国であったとしても同様だ。自分達が攻略して以来、ナザリックは只の1度たりとも敗北を許していない。これは自分達アインズ・ウール・ゴウンの誇りだ。それを自ら踏みにじる事など出来る筈が無い。同時に何時の日か強大な敵が現れて敗北する事があれば、いさぎよく受け入れる覚悟もある。何があろうと家族だけは守り通して見せるが……
「まあよい。何か言って来る様なら私が話しをつけてやる事としよう。」
「その様な細事にアインズ様の手を煩わせるまでもありんせん。わらわに命じて戴ければ王国など即座に滅ぼして御覧にいれるでありんす。」
「それなら私の魔獣達に命じて王国の都市を襲わせます。人間達はエサにしてやればいいんです!」
「そ、それなら僕の魔法で王国を更地にするのはどうでしょう?す、少し大変ですが1ヶ月もあれば終わると思います。」
「お、お、お待ち下さいぃぃっー!!」
アインズとしては組織のトップとして交渉に当たるのは義務だと考えている。シャルティア達の様な過激な方法を取るつもりはないが、軍事的なオプションは当然、選択肢に入っている。
一方の法国としてはそんな事になっては堪らない。帝国との計画もあるが、アインズやその配下達がいたずらに力を振るえばどうなるかなどあきらかだ。周辺国家にもどんなとばっちりがくるか分からない。
「王国については我が国とバハルス帝国が責任を持って対処いたします!やはり人間の問題は人間の手で解決するのが一番です!ですのでっ、どうかっ、今しばらくのお時間を頂けないでしょうか?」
「そういえば帝国も関係していたのだったな…そういう事なら任せるとしよう。ただしエ・ランテルと周辺の村に付いては、多少だが私と関係があるので考慮するように。」
「エ・ランテルでございますか?(既にエ・ランテルに手を出していたというのか?どこまで動きが早いというのだ!)」
「それに付いてはデミウルゴスに任せてあるので、後から話しあってくれ。では最後に提案がある。法国にとってもメリットのある話しだ。」
「法国にとってもメリットのある話しでございますか?」
アインズの話にレイモン達は俄然興味を持つ。これまでの内容は想定の範囲内とはいえ、法国にとってかなりの痛手である。
「このナザリック地下大墳墓は、ユグドラシルにおいても難攻不落のダンジョンとして名を馳せていた。我が友人達と共に知恵と力と財を投じて築き上げてきたのだ。」
「はい、我々はその一部しか拝見しておりませんが、それでもナザリック地下大墳墓は仰る通りの所であるというのは理解できます。」
「そこでだ――我がナザリックは「挑戦者」を求めている。お前達の様に武と勇を持った勇者達をな……但し、ナザリックは我らの神聖な居城でもあるので礼の無い者には相応の対処をさせて貰う事になるが。」
定期的にボコられに来いというのか?いじめカッコ悪い――それがレイモン達が思った事だ。
「当然だが勇者達には褒美が用意されている。パンドラズ・アクターよ例の物を用意してくれ。」
「畏まりました。アインズ様!」
パンドラズ・アクターが持ち出したのは様々なアイテム――全てがユグドラシル産のアイテム――法国に遺されたアイテムに匹敵する物だ。
「ナザリックに配置された宝箱にはこういったアイテムが入っている(事もある)。より深い階層ならこれ以上のレア物が入手出来る可能性だってある(かもしれない)ぞ。」
「こ、これはっ……ゴクリ。」
示された宝物を前にして、思わず唾を呑むレイモン達。確かにこれだけの逸品を入手出来る可能性があれば、幾らでも命知らずの勇者が集まるだろう。法国だって例外ではない。自分達がかっぱがれた装備の代替えにもなる。
「さらにサプライズだ!お前達を案内した彼女――シャルティア・ブラッドフォールンは
「ま、真でございますかっ?」
レイモンは法国最強の彼女の事を思い浮かべる。シャルティアの力(レベル)は占星千里の判断では彼女より上……しかしレベルだけが絶対ではないとも聞く。それに加えて漆黒聖典隊長と同時でなら?と頭の中でシミュレートする。彼女を出撃させるには様々な問題があるが、挑戦する価値は充分にある。それに「最初のボス」という事は最も弱い(いいえ階層守護者最強です)はずだ。可能性はゼロではない。
漆黒聖典隊長も同じ事を考える。自分達が手も足も出なかったコキュートスは第五階層守護者と言っていた。つまり第一から第三階層の守護者というシャルティアは、彼に比べて強さが劣っているはずだ。こういったダンジョンでは奥へ行くほど敵が強くなっていくのがお約束というものだ。それに憧れの彼女と力を併せて強大な敵に挑むというのは、男であれば燃えないはずはないシチュエーションだ!
ちなみに憧れの彼女に完膚無きまでにボロクソに敗れた彼にとって「普通は憧れの彼女を守るものなんじゃないの?」という突っ込みは通用しない。
当然だが、これはアインズの悪質なミスリードである。わざわざシャルティアの「第一から第三階層の守護者」「最初のボス」という点を強調(ウソは言っていない)して、彼らの意識を誘導したのだ。そして戦う場所は彼女のフィールドである第三階層にする。あそこで戦うシャルティアはバフ効果でレベル120という強さになる。これで万が一にもシャルティアが後れをとる事は無い。
ここまでするのは法国の最高戦力を徹底的に分析する為だ。そのうえで装備を頂いて、さらに勧誘まで考えているという悪辣さである。ちなみに最初に提示した宝箱についても課金ガチャ並みの輩出率を設定する予定でいる。さらに半分はトラップになっているという極悪さだ。
「それとスレイン法国とナザリックで交易をしても良いと考えている。代価によっては先程の様なアイテムを販売する事も可能だ。」
「そ、それは大変に魅力的ですな。こちらとしては大歓迎です。」
「但し高品質なアイテムの取引は「ユグドラシル金貨」による支払でしか認めない。」
アインズの心に「スレイン銀行」という言葉が思い浮かぶ。アインズはスレイン法国に溜めこまれているであろうユグドラシル金貨をボッタクリの取引で根こそぎ巻き上げるつもりでいる。聖遺物級までのダブついた在庫品をエクスチェンジ・ボックスの査定額の3倍~5倍くらいの値を付けて売りつける予定だ。かなり阿漕だと自覚しているが、こちらにとっては微妙なアイテムでも、この世界では独占販売のプレミア品というのも事実だ。
ナザリックにあるユグドラシル金貨の残高は天文学的数字ではあるが、あり過ぎて困るという事は無い。この世界で入手方法が限られているユグドラシル金貨にはNPCの復活や召喚、ナザリックの維持費といった使途が幾らでもあるのだ。
さらに現地通貨獲得の為に制作部門に発破をかけて、オリハルコンやアダマンタイトといった現地では超希少金属扱いでも、ナザリックでなら一山いくらの金属で武具を生産させて、エ・ランテルで販売する計画を進めている。冒険者達の反応で、その程度のアイテムでもかなりの金額になる事が証明されたからだ。
「ユグドラシル金貨でございますか……?我々の一存では決められませんので本国で検討させて頂きます。(あれは全て黄金で鋳造されている以外に、特別な価値は見当たらないという研究結果があったはずだが何かあるのか?)」
「今日のところはこれ位だな。他に何か話しはあるか?」
「はい大丈夫です。いろいろと有意義なお話しができて感謝しております。」
こうしてスレイン法国からの来訪者達との会談は、アインズが満足する形で終了した。
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今回の会談でアインズはかなりの情報を相手に与えているうえに、アイテムの供与などの相手に余計な力を与えかねない提案まで行ったが、これほど大胆に話を進めているのは、部下達に行わせていた現地人の調査で興味深い事実が判明したからである。人間だけでなく亜人種や異形種、魔獣などのモンスターを対象にした調査で「レベルキャップ」の存在が判明したからだ。
ユグドラシルには「モンスターの個体差」というシステムが存在していた。同種のモンスターでも個々のパラメーターに差異が存在していたのだ。デスナイトを例に挙げれば基本レベルは35だが、33~37レベルの範囲でバラつきがあった。スキルやアイテム、魔法などでパラメータを確認すると「レベル35/37」と表示されて、そのモンスターのレベル上限が確認出来る。
この方法で現地の生物を1万体以上に渡って調査した結果、現地の生物の約80%はレベル30が上限であり、残りの20%がレベル50が上限、約1%の確率でレベル70という存在もいた。今回ナザリックにやってきた漆黒聖典の隊長以外のメンバーはクレマンティーヌを含めてレベル50が上限である。例外である隊長のレベル上限が75というのは驚異的な数値である。
これらはあくまでもレベル上限なので、実際に限界までレベルを上げる、いわゆるカンストさせるのは非常に困難であるのは言うまでも無い。人間ならほとんどがレベル10以下で生涯を終えているし、法国最強の漆黒聖典の人間でさえ、神人といわれる番外席次と隊長を除いてレベル40を超える物はいないのだ。
ちなみにバハルス帝国主席魔導師のフールーダー・パラダインが調査対象の中で唯一レベル42という高さであった。「逸脱者」の異名は伊達ではないといった所でアインズも感心していたが、とある理由から「こいつ馬鹿だ…」というコメントを発していた。
この事から極一部を除いて、現地で脅威に成り得る存在は皆無と判断したアインズは一気に攻め立てる事にしたのだ。勿論ある程度の情報を開示しなければナザリックの営業が立ちゆかなくなるし、レベルキャップの存在で自分達以上の強者が出現する脅威も無くなった。そしてナザリックにはレベルキャップを開放させる手段さえ存在する。
漆黒の剣(白)に施されたエインヘリヤル・ハイアルの効果で彼らは元々のレベル上限30に15レベル分が加算されている。仮に限界まで成長させれば漆黒聖典クラスさえ凌駕する存在に成り得るのだ。他にもカジットの様に異形種に転生させる事でレベル上限を上げる事が可能であると判明している。
「さて…法国からの客人は満足して帰ってくれた様だが、会談の内容に不備は無かったか?それと彼らはこの後にどういった行動をとると思う?」
アインズは会談の終了後に、パンドラズ・アクターとデミウルゴスを執務室へ呼び出して問いかけた。
「こちらが未確認であった情報も確認出来ましたし、何と言ってもワールドアイテムである傾城傾国を始めとしたレアアイテムを入手しました。今回は大成功といっても良いでしょう!そして彼らはアインズ様の持つアイテムを欲してナザリックへと挑み、溜めこんでいる財を費やすだろう事は確実と思われます。叡者の額冠などという欠陥品を改良せよとの命を受けた時は何故?と混乱しましたが、このような結果を予想されていたとはさすが我が創造主であるアインズ様!」
「私としましてはスレイン法国の「組織」にとても興味を持ちました。彼らをうまく使えば法国もこちらに余計な真似をする余裕は無くなるでしょう。バハルス帝国と併せて利用すれば、ナザリックの周辺は尽くアインズ様に平伏して、ナザリックに利益を齎す事になるでしょう!世界征服などせずとも現地の事は現地の者達に働かせてこちらはその上前だけをはねる……正に端倪すべからずというべき知某かと。例の第五席次の男だけを直々にお相手なさると聞いた時には、愚昧なる我が身ではアインズ様の真の意図を察する事は出来ませんでした。さすがは我が主であるアインズ様!」
予想以上の高評価にアインズは戸惑う。叡者の額冠についてはちょっとした思いつきで言ってみただけだったし、クワイエッセについては同じ兄というよしみでお節介をやいてやっただけだ。上前をはねるというのは外聞が良くないので「顧問料」か「協力費」と言って欲しいところだ。ただ実際に集られる相手にしてみれば好意的にいっても「友達料」といったところだが…
「そこまで褒められると照れてしまうな。まあこれでスレイン法国については一段落だ。次はバハルス帝国だが、ワーカーという奴らを送り込んで来るつもりらしいので精々歓迎してやる事にしよう。」
ちなみに如何に周辺国家でも屈指の情報収集能力を誇るバハルス帝国の皇帝陛下でも、大国であるスレイン法国の方針が「土下座外交」である事は知る由も無かった。
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帝都アーウィンタールでは執務の合間に、皇帝ジルクニフが側近達とティータイムと洒落こんでいた。
「そういえばロウネよ、例の遺跡へワーカーを送り込んだ件はどうなった?」
「はい、フェメール伯爵を誘導して複数のワーカーチームを派遣させました。エ・ランテルの上位冒険者に引けを取らない実力者ですので、かなりの成果が見込めるかと思われます。」
既にワーカーチームが帝都を出立して二日が経過している。今頃は例の遺跡に到着しているはずだ。
「ほう!どの様なチームを派遣したのだ?」
ジルクニフにとって本命は漆黒の剣(白)と、そのバックにいるアインズ・ウール・ゴウンである。遺跡についてはそこまで興味を持っていなかったので、ワーカーチームについては秘書官のロウネに一任していた。
「派遣したのは「竜狩り」「ヘビーマッシャー」「フォーサイト」「天武」の4チームです。実力は冒険者で言うミスリル~オリハルコン級です。エ・ランテルの最高位冒険者がミスリル級でしたので、彼ら以上の成果が期待できるでしょう。」
「そいつは期待できそうだ!ねえ陛下、もしよさそうな武具が入手出来た場合は、こっちにも回しちゃ頂けませんかねえ?」
帝国最強の四騎士の1人である「雷光」バジウッド・ペシュメルがジルクニフに問いかける。非常に気さく…というか不敬ともとられない話し方だが、そんな態度を許されるだけの実力を有しており、それを認める度量を持つのがジルクニフである。
「まあ無事に彼らが帰還してからの話だな。それでは書類の決裁を再開するとしよう。」
次からは帝国編になります。