こっちへおいで~byカジッちゃん
※9/16改題
「騒がしいぞ。いったい何事だ!?」
帝国の俊英が集まっての会議中に部屋の外から聞こえて来た、ジルクニフの言葉を遮った悲鳴への疑問は、窓から中庭を確認した衛兵によって解決された。
「陛下!モンスターです!正体不明のモンスターが中庭に出現!数は10体以上!」
一瞬だけ呆気にとられるが、即座に全員が窓から中庭を確認する。
「何だあのモンスターは?なんと見苦しい…」
「見ているだけで気が滅入る。あれではまるで…」
「初めて見るモンスターですが、そうとうヤバそうな感じですぜ。フールーダ様は何かご存じですかい?」
ジルクニフを含む全員の視線がフールーダに集中する。だが当のフールーダの反応は……
「あ、ありえない…この巨大な力の奔流は…第七位階の証明だと…いうのか?」
その言葉の意味を理解出来ない者はこの場に居ない。帝国最高、否、人類最高とも云われるフールーダ・パラダインが使える最高の位階が第六位階魔法。つまりあのモンスターはフールーダより格上だという事。帝国全軍に匹敵するフールーダを超えるモンスターが10体以上――帝国終了のお知らせである。
「責任者出て来ーい!」
「金返せコラ!」
「客を舐めてんのか?」
「誠意を見せろ!誠意を!」
「テメーみたいな下っ端じゃ話にならねえんだよ!さっさと上に代われ!」
彼らの視線の先には揺らめく赤い霧のようなモンスターが存在した。霧の中に見苦しい無数の表情が浮かんでは消える。浮かぶのは様々な年代の顔だが、一つだけ共通しているのはどの顔も理不尽な要求を訴えるような表情を浮かべている事だ。
このモンスターの正体は「モンスタークレーマー」といい、プレイヤーに対して理不尽なクレームを浴びせ掛けてくるのと、微妙な特殊能力で知られたユグドラシルのモンスターだ。そのレベルは50、法国最強の漆黒聖典でさえ討伐が困難な強さだ。
周囲の者達から退避や、帝城の放棄すら進言されたジルクニフは、それらを全て撥ね退ける。ここで尻尾を巻いて逃げだし、さらに自らの居城を棄てたとなれば自分の名声は地に堕ちる。かといって正面から戦っても敗北は必至、手詰まりというやつだ。
ジルクニフが対応を拱いていると、突如クレームが止んだ。モンスターが発していた幾つもの声が混じって一つになる。それは先程までの理不尽なクレームとは違う、理路整然としたものだった。
「ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス陛下にアインズ・ウール・ゴウン様からの書状をお届に参りました。こちらに受け取りのサインをお願いします。」
あまりにも予想外の内容に全員が硬直する。さしものジルクニフであっても、のこのこと出て行く度胸は持ち合わせてはいなかった。
「それではこの場にいる人間にお願いして、陛下へ伝えて貰うとしましょう。」
その言葉と同時にクレームの嵐が再開するが、今回はそれだけでは済まなかった。
ジョバババーブリョリョリョリョ……中庭に集まっていた騎士や兵士達、中には帝国四騎士の「不動」も含まれていた――(自主規制)これがモンスタークレーマーの特殊能力《驚愕のオーラ》である。ユグドラシルでは抵抗の無い相手に、凄まじい恐怖と驚きを与えるという設定――実際は重めの恐怖効果だったが、この世界では人間の尊厳さえ破壊する恐ろしい効果に代わっていた。
「次はこの城にいる人間にお願いします。それでも陛下に伝わらなければ帝都中の人間にお願いするとしましょう。」
「余が皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスである!直ぐに書状を受け取ろう。サインとやらは何処にすればよいのだ?」
ジルクニフは大慌てでバルコニーから呼びかける。中庭で「見せられないよ」になっている部下をこのままにはしておけないし、何よりこの惨状が帝城、まかり間違っても帝都中で引き起こされた場合の被害は想像を絶する。
使者?はジルクニフへ書状を渡し、差し出した紙片にジルクニフが署名をすると空の彼方へと飛び去って行った。受け取った書状は非常に豪華な装飾が施されており、念の為にフールーダが魔法で調べてみても罠の類は仕掛けられていなかった。
本来であれば儀礼上の問題もあり、皇帝が自ら書状を受け取るなど有り得ないが、その事で皇帝を批判する者など1人も居ない。もし皇帝が即座に行動していなければ、あの惨事は自分達の身にも降りかかっていたのだから。全員がジルクニフの英断を讃えて感謝し、忠誠をあらたにしていた。
大惨事の現場となった中庭では、被害に遭った騎士や兵士が嗚咽を漏らしながら後始末をしていた。清掃など本来であればメイドの仕事であるが、もし命じれば明日から帝城で働くメイドは1人もいなくなるだろう。いかに鮮血帝の命令だろうとメイドだって人間だもの。それに彼らの尊厳を守る為にも知っている者が少ない方がいいだろう。
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「どうやって答えに辿りついたのだ。アインズ・ウール・ゴウン…いったい何者だ?」
書状には驚くべき事が記されていた。帝国貴族であるフェメール伯爵の依頼を受けたワーカーが、アインズ・ウール・ゴウンの居城であるナザリック地下大墳墓へ不法侵入。さらに窃盗行為を働き警備の従業員を殺害した。しかも墳墓内に於いて大変な侮辱的行為(性犯罪も含む)を働いた。
ついては実行犯のワーカーを裁判にかけるので、重要参考人として依頼主のフェメール伯爵と皇帝であるジルクニフに出席を求める、とあった。文章の最後には「今回の事件は甚だ遺憾であり、バハルス帝国には断固として抗議する」とあり「誠意ある対応が無ければ、バハルス帝国には無慈悲な鉄槌が下されるだろう」と記されていた。」
「ここまで言われて引きさがる事は出来ぬ。重要参考人という事は被疑者ではないという事だ。証言をお望みと言うならしてやろうじゃないかアインズ・ウール・ゴウン。お前の狙いは打ち砕いてみせるぞ!」
「フェメール伯爵についてはどういたしますか?本人はこちらの意図に気付いた様子は無い模様ですが。」
「死人に口無しだ。殺せ!どうせ向こうはお見通しだろうが、血迷って余計な事を話されては困る。裁判に出席するのは伯爵の首だけで十分だ。」
そうして矢継ぎ早に指示を出していくジルクニフ。ここからは時間との勝負だ。書状には「参考人の到着を待って裁判を開始する」と記されていた。こちらの対応を見て試すつもりなのだろう。到着が遅れた場合は「誠意が感じられない」とでも難癖をつける――とても分かり易い手法だ。だからその狙いを外してやるのだ。
あらゆる権限を行使して準備と対策を済ませたジルクニフは、臣下の中でも特に能力に優れて信頼できる者達を選りすぐって、3日後の昼過ぎには帝都を出立した。さらに移動中も休憩も殆ど取らず、食事は移動しながらで済ませる強行軍である。
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「んん……どうやら少し眠っていた様だが、ここはどの辺りだ?」
「出発前も含めれば、かなりの無理を押し通した訳ですからな。あと1時間もすれば目的地のナザリック地下大墳墓に到着いたします。既に先触れは到着済みとメッセージが入っております。」
そう答えたのは秘書官のロウネ・ヴァミリオン。優秀な官僚であり、今回の件ではジルクニフが最も期待して、頼りにしている男だ。これから相手をする事になるアインズ・ウール・ゴウンは信じられない様な力の持ち主である。
なにせ使者として遣わしたモンスターですら、第七位階魔法を使う化け物だ。これでは帝国主席魔導師であるフールーダ・パラダインや、帝国四騎士最強の「雷光」バジウッド・ペシュメルの武力も当てには出来ない。勿論2人ともジルクニフが深く信頼する者には違いないので、今回も同行させているし、現在も皇帝が乗る馬車に同席させている。しかし今回の戦いは知恵を駆使した舌戦となる事が濃厚な為、帝国の主戦力は皇帝である自分と秘書官のロウネであることは言うまでも無いだろう。
「陛下、先日はお見苦しいところをお見せしましたな。たしかにあのモンスターの魔力のオーラは私を上回っていました。しかしそれだけで私が敗北すると決まった訳ではありませんぞ。魔法を使うモンスターというのは、その殆どが多くても10程度の魔法しか使えないのです。確かに強力な魔法を使って来ると予想されますが、私は3系統100種以上の魔法を修めております。そう易々とは後れを取りませぬ。」
先日の狼狽が嘘の様に力強く語るフールーダ。彼は魔力・信仰・精神の3系統の魔法を修めた「三重魔法詠唱者」である。6代前200年以上も帝国に仕えた帝国の重鎮で英雄だ。その身から立ち上る英雄の覇気にジルクニフ達も安堵する。
「フールーダ様がそう言われるなら心配はありませんな。これで俺は陛下を守る事に専念出来そうだ。何かあっても命がけで時間を稼いでみせますぜ。」
そう言って笑うバジウッド。彼は貧民街出身でありながら実力でのし上がった豪傑だ。砕けた態度であるが皇帝への忠誠心は随一の騎士である。
「それなら私は邪魔にならない様に小さくなっておりますので、私の事は気にせず捨て置いて下さい。」
「何を言っているのだロウネ。お前は今回の裁判とやらで私の右腕になってもらうのだからな。それに現在の帝国は人財不足が著しいので早期退職は認めていないのだよ。そして爺、やっといつもの爺に戻ったな。これなら安心だ。」
笑って答えるジルクニフだが、頭の中では何十通りもの展開を予想し、それにどう対応するかをシミュレートし続けている。既に眠気は吹き飛び、どの様な相手であろうと帝国を守ってみせるとの決意を新たにしていた。
「失礼します陛下。レイナースです。」
馬車の外から声をかけたのは「重爆」レイナース・ロックブルズだ。四騎士の紅一点でもっとも攻撃に長けている。元は地方貴族の令嬢であった彼女は、騎士としての才能に恵まれ領地のモンスター退治などで活躍していたが、モンスターから受けた呪いのせいで家族・婚約者を含む全てを失った過去を持つ。
呪いの解呪と復讐への助力を条件に四騎士となった彼女の忠誠心は四騎士中で最も低いが、それをジルクニフに認めさせる実力の持ち主である。ちなみにジルクニフの協力で「ざまぁ」は実行済みである。
レイナースを見捨てた家族や使用人は、全員が顔面を酸の魔法で焼かれた上で奴隷階級に落とされた。彼女が生れた領地は「特別行政区」に指定され、周辺の倍以上の重税を課せられて、領地外への移動も禁止されている。
そして騎士であった婚約者も実家は改易され、自身は奴隷剣闘士の身分にされて、闘技場でレイナース自身の手によって徹底的に痛めつけられた。端正だった顔面を潰され、四肢を切断された彼はその場で死ぬことすら許されず、1年以上に渡りレイナースに飼われる事になった。
「レイナースか。中に入って報告してくれ。」
「それではお邪魔させていただきますわ。先触れからの報告では、既にナザリック地下大墳墓へ到着して陛下の到着予定時間を伝えた後、メイドから歓待を受けているとの事です。非常に見目麗しいメイド達だとの報告です。」
レイナースの口調は「非常に見目麗しい」の部分だけが、少しだけつっかえていた。そしてギギギギ…という歯軋りも聞こえたが、全員が気づかない振りをした。
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「ああぁ~♪心が安らぐ…こんな美味い飲み物は初めてだ。このお菓子も最高だ!少し色が変わっているが…もう、ゴールしてもいいよな…」
饗されたお菓子と飲み物の美味しさにすっかり魅了されたジルクニフ。ここまでリラックスしたのはいつ以来だったろうか?
「ジル…君は働き過ぎなんだよ。ゆっくりと休んで、そして至高の御方に全てを委ねればいいんだ。さあ、こっちへ来るんだ。ゴールは目前だ。」
頭上に光輪を浮かべ白い翼を生やしたジルクニフが両手を拡げて歓迎している。その後ろには豪華なローブを着た骸骨や眼鏡をかけた悪魔の幻影が見える様な気がする。
「ジル!諦めるなっ!お前にはまだやらなきゃいけない事があるじゃないか?それにお前はまだスタート地点に立ったばかりだろ!」
角と黒いコウモリの様な翼、そして尖った尻尾を生やしたジルクニフが拳を握りしめて叱咤激励してくる。その後ろには彼に忠誠を誓う臣下達、そして「あの人」の幻影が見える様な気がする。
「ハッ!?私はいったい何を…」
慌てて意識を覚醒させるジルクニフ。あまりにも美味な食事には幻惑の効果でもあるのか?と思いつつも常に身に着けている、精神攻撃を全て無効化するネックレスを握りしめて気持ちを落ち着かせる。そして墳墓に到着してからの事を思い起こす…
この墳墓へ到着してからは驚愕の連続だった。余りに驚愕し過ぎて感覚が麻痺してしまったかもしれない。まずは一行を出迎えた2名のメイドの美しさに驚愕した。帝国の誇る美姫達も彼女達の前では霞んでしまう。そしてメイド達に下男の如く使役されているアンデッド――魔法省の奥で封印されている、フールーダでさえ支配不能な伝説級アンデッド――デスナイト、それが5体である。デスナイトの姿を確認したフールーダの「げぇぇっ!!??」が全てを物語っていた。
その後も驚愕は終わらなかった。続いて現れた4人のメイド達…彼女達も同様の美しさだったが、その中の黒髪のメイドの前で跪くフールーダの姿に驚愕し、さらにそのメイドの靴に接吻をしたフールーダを、バジウッドとレイナースが2人がかりで引き離して、皇帝である自分が平身低頭で謝罪する羽目になってしまった。形振りかまっている場合ではなかった。裁判に臨むというのに被告人を増やす事になっては目も当てられない。
そしてフールーダの語った釈明という名の――あのメイドの女性は第九位階魔法を使える――驚愕の事実には、乾いた声しか出なかった。
「陛下にお尋ねしたい事があるのですがよろしいでしょうか?」
リーダー格の眼鏡をかけたメイドが話しかけて来る。当然だがジルクニフは動揺を殺してニッコリと微笑みながら答える。
「無論かまわないとも。貴女の様な美しい女性の願いを叶えられるのなら喜んで。遠慮なく聞いてくれ。」
ジルクニフのイケメンスマイルにも動じないメイドを見て、少し外したか?次はもっと気さくな雰囲気でいってみるか?等と考える。あくまで雰囲気の問題であって自分の容姿には絶対の自信を持っているジルクニフである。
「ありがとうございます。我が主人であるアインズ様が陛下を歓迎する際の参考にお聞きしたいとの事なのですが、陛下は「洋式」と「和式」のどちらがお好みでしょうか?」
来客の嗜好くらい事前に把握しておくものではないか?こっちの情報をかなり調べていたくせに!と訝しむジルクニフだが、そんな事は億尾にも出さずに応える。
「それは気を使わせて申し訳ない。しかし「洋式」と「和式」という言葉には馴染みがないのだが、どういった意味なのかな?」
「これは申し訳ございません。洋式というのはバハルス帝国やスレイン法国でみられる雰囲気の事です。和式というのは南方にあるという都市から齎された「刀」という武器や「着物」という衣服に見られる雰囲気の事でございます。」
ああ成程!と納得するジルクニフ。歓迎の宴に出す料理の事か…だが今から準備して間に合うのかよ?この墳墓は大丈夫なのか?俺は料理にはうるさい方だぞ!と思いつつもそんな事は億尾にも出さずに応える。そして最も近場であるというか地元である王国をスルーしているユリ・アルファである。
「それでは「和式」でお願いするとしよう。珍しい異国の風味を味わってみたくなってね☆アインズ・ウール・ゴウン殿にはお気づかい感謝すると伝えてくれ☆」
ここの食事は素晴しいからな♪あらゆる美食を味わってきたつもりだったが…世界にはまだまだ美食があるという事か。和風の料理か…期待できそうだ♪
「かしこまりました。主人に伝えさせていただきます。(風味?味わう?何を言っているのかしら?)」
「よろしくお願いするよ。とても期待していたと伝えておいてくれ☆」
どうやらジルクニフは精神攻撃の影響下にある様だ。飲み物や菓子に魅了されて正常な判断力を失っているのだろう。それともジルクニフ(天使ver)の誘惑に屈してしまったのだろうか?貴方は参考人として招致されているんですよ?賓客ではありませんよ!現実逃避している場合ではありません陛下!
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気が付けば……アルシェは荒野の只中……!何処かわからぬ……荒野の果て……異形のアンデッドやモンスターが犇めく強制労働施設にいたっ……!
ここに連れて来られて3日目だが、当然アルシェは諦めていない。自分には帰りを待つ妹達がいるのだ。このまま自分が帰らなければ、妹達を待っているのは悲惨の一言だろう。だが希望はある。自分達は朝食(美味い)を食べたら8:00~18:00まで鉱山で働かされているが昼食時(美味い)は1時間、午前と午後に1回ずつの休憩(オヤツ付)があるので、仕事はきつくない。
仕事が終われば入浴まで許可され夕食(美味い)もたっぷりと用意されている。与えられた部屋も男女別の相部屋だが清潔で過ごし易かった。さらに週1日だが休みがあるらしい。そして仕事の後に渡される1枚の金貨(見た事が無い装飾)。これを集める事が今のアルシェの目的だ。
アルシェ達が受けた説明は簡潔でそして無慈悲だった。自分達は罪を犯したので労役に就く。その期間は後日開かれる裁判で決められる。そして労働に応じて僅かだが賃金が支払われるが、それを貯める事で様々な恩恵が得られるのだ。
アルシェが求めているのは「1日外出券」だ。金貨100枚で入手出来る外出券を使って妹を迎えに行く。もうあの毒親の事など関係無い。妹だけを連れてここに戻ってくればいいのだ。ワーカーとして裏社会とも関わる事があったのだから、あの両親のもとに居たら妹達がどんな事をさせられるのかくらいは想像がつく。
一緒に連れてこられた他のチームのワーカーの話しでは「ここは天国だぞ」との事だった。帝国や王国の鉱山では考えられない待遇という事だ。説明では「ブラック企業は許されない。ナザリックはホワイトです!」と聞かされたが意味不明だった。
ここに居れば自由は制限されても、その他の事で心配する必要は無い。将来の事は分からないが、このまま自分が帰らなければ妹達に訪れる運命に比べてずっとマシだ。それに頼りになる仲間や理解者もいる。
「無理はいけないよ。適度に自分を許すのがコツなんだ。」
そう言ってビールを奢ってくれた「ハンチョウ」というモンスター。見た目からオーク系(エルフ達が怯えていた)と思われる彼は、アルシェに色々とアドバイスをしてくれた。妹の事を相談したら、ここに連れてくれば良いと言ったのもハンチョウだ。
「俺達の分はアルシェが使え。皆もそれでいいな?」
ヘッケランの言葉に反対するメンバーは誰も居なかった。皆の温かさに涙が止まらなかった。そして…
「私では使い道があまり無いんですよ。彼女達が色々としてくれますから。」
そう言ってエルヤーは毎日金貨をアルシェに放り投げて来る。何故?と聞けば苦笑いしながら答えてくれた。
「私達は生きてここから出る事はないでしょうからね。」
彼らはどんな事をやらかしたのだろうか?気になったが、恐らくは教えてくれないだろう。ただ竜狩りとヘビーマッシャーはメンバー間で険悪な雰囲気になっていた。
「あのジジイに付いて来たのが間違いだった。」
「あれほど禁煙しろと言ったのに!」
「グリンガムのクソ野郎のせいでこうなった!何で我慢できなかった?」
「俺は悪くねえ!皆やってる事じゃないか!」
どんな理由があるのか分からないが早く仲直りして欲しいと思う。見ていて気分がいいものではないから。裁判は近日中に開かれるとハンチョウが教えてくれた。
今日もアルシェはツルハシを振るう。今日のノルマまであと少しだ。ノルマを達成すればおかずを増やして貰えるのだ。だからもう少しだけ頑張ろう。そしてアルシェはツルハシを振るう。
「あれ?見た事無い鉱石だわ?七色に光っていてとても綺麗…」
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アルチェルは心の底から恐怖していた。そして必死に抵抗を試みる。このままでは自分はおろか、家族や一族の破滅が待っているのだから!どうして自分がこんな目に遭わなければならないのか?自分は王国の貴族で選ばれた人間だったはずだ――
国王の勅使として3人の騎士を連れてエ・ランテルへ到着したアルチェルは憤慨していた。自分の様な貴族は検問など関係なく最優先で案内されなければならないというのに、衛兵はまったく取り合わずに列の最後尾へ並ぶように命令して来た。
すぐに衛兵へ抗議して上役を呼び出せば、イグヴァと名乗るマジックキャスターが現れて問答無用で魔法を放って来た。命に別条は無いが全身が痺れて動けないアルチェル達は、罪人の様に扱われて謀反人のパソナレイに付きだされた。
アルチェルの抗議に一切耳を貸さずにパソナレイはせせら笑う。
「ゴミめが。」
「き、貴様ぁ~、こんな事が許されるとでも――」
「貴様の様な汚物にかまってやる暇はない。先生お願いします!」
現れたのは恐ろしい姿をした悪魔だった。
「《ドミネート/支配》――お前に命じる。お前の主人の前で、このように言うがいい。「お前がパソナレイの足元に平伏して、慈悲を願わないのであれば、これがお前の運命だ」その後、このナイフでお前の
そう言われた瞬間からアルチェル達の身体は自分の意思に関係なく、言われた事を実行するために動き続けている。悪魔がアルチェル達にかけた魔法の効果なのか、身体中から信じられない力が湧いてくる。エ・ランテルから飲まず食わずで、睡眠すら取らずに走り続けているのに、疲れて身体中が悲鳴をあげているのに止まらない。このまま主人の所へ行って悪魔の命令を実行に移せばどうなるのか……
後日リ・エスティーゼ王国で大事件が起こる。ある騎士が国王に暴言を吐いた後、隠し持っていたナイフで国王に切りかかったのだ。幸いにも側に控えていた王国戦士長が一刀に切り伏せた事で未遂となったが、どうして騎士がこのような凶行に及んだのか原因は不明である。
そして同じ日に、六大貴族の1人ボウロロープ侯が、交流のあった貴族とその配下の騎士2名にナイフで刺されるという事件が起こった。犯人の貴族と騎士はその場で拘束・殺害されたが、ボウロロープ侯は数か所を刺された。
鍛えられた体躯のボウロロープ侯は命に別条は無かったが、ナイフには特殊な毒が仕込んであった模様で、定期的に激痛に苛まれる症状に苦しむ事になった。主治医や神殿関係者の治療も効果が無く、スレイン法国へ治療を要請中であるが返答は一切無いという事である。
あまりのショックで現実逃避の疑いがある皇帝陛下。
そして元気に頑張るワーカー達でした。