至高の兄(骸骨)と究極の妹(小悪魔)   作:生コーヒー狸

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少し短めですが、きりが良いので投稿します。


純白の冒険譚(2)

「帝国主席魔導師フールーダ・パラダイン、偉大なるジルクニフ陛下に万代の忠誠を誓いますぞ。もっとも六代前より帝国に誠心誠意仕えてきた儂の忠誠心は、帝国の誰もが知る事ですがな。陛下の覇道に立ち塞がる敵は、我が魔法にて誅滅してみせましょう。」 

 

「栄光ある帝国四騎士の重爆レイナース・ロックブルズ。敬愛するジルクニフ陛下に永遠の忠誠を!我が剣にて陛下に仇名す者どもを尽く切り伏せて御覧に入れます。」

 

「……(それならとある墳墓を支配する邪悪なアンデッドを滅ぼして来て貰いたいのだがな)」

 

 ここは帝城の一室、バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスの前に平伏しているのは、皇帝が見ている前で掟破りのフリーエージェント宣言をブチかました挙句、移籍希望先から「チームの戦力構想に無い」という無慈悲な宣告を下された2名だった。

 

 掌大回転のフールーダとレイナースに対して、言いたい事は山ほどあるジルクニフだったが、それをぐっと堪えているのは、ジルクニフ自身もまた、あの超越者(オーバーロード)アインズ・ウール・ゴウンの掌の上で転がされるしかないからだ。アインズがどんな神算鬼謀を巡らせているのかは解らない。だが既にジェットコースターは発進してしまった。自らシートベルトを外すのは自殺するのと変わらない。

 

 ナザリック地下大墳墓で自爆テロ実行直前に拘束されたフールーダとレイナース。この2名に対してアインズが告げた言葉は無慈悲であり、2人を絶望の底へ突き落した。

 

「お前達はあれか?目の前にご馳走を出されたら、今食べている食事を床にブチまけて踏みにじるのか?そしてまた新しいご馳走を出されたら、同じ事を繰り返してそれに飛びつくのか?犬でも3日飼えば恩を忘れないと言うのに……見下げ果てた奴らだ。」

 

 2人ともアインズの言葉に思うところがあったのか、がっくりと項垂れていた。だが2人を絶望の底へ突き落したのがアインズなら、そこから救いあげるのもまたアインズだった。

 

「まあ他国の人間に私がどうこう言ったり、何かをする立場にはない。彼らの処遇は主君たるジルクニフに委ねるべき事だ。だが――」

 

 そういってアインズは幾つものアイテムをジルクニフに手渡した。多数の魔法のスクロール(第七位階魔法)、豪華な短杖(蘇生魔法)、清浄な気配を漂わせる指輪(呪いを軽減)……

 

「ジルクニフへのちょっとした贈り物だよ。どう使うかは好きにしてくれて構わない。(部下や他国の人間の前で顔を潰されたジルクニフが気の毒すぎる。俺なら立ち直れん)」

 

「か、感謝するよアインズ。(何だ!いったい何が目的だ)」

 

 アインズの機転によって、帝国を裏切りかけた2人はジルクニフにこれ以上ないと言うほどの忠誠を誓う事となった。なにせ2人はアインズに正面から拒絶されている。彼らが自分の願いを叶えるにはジルクニフが持つアインズが渡したアイテムに頼るしかない。そして彼らはアインズが語っていた「レベル上げ」なる物を目指してモンスター退治に明け暮れるようになった。

 

 2人が張り切り過ぎた影響で、モンスター駆除を担っていた軍や冒険者組合、ワーカー達からは「俺達の仕事が無くなりそうです」という報告があがってきている。特に非正規雇用の冒険者やワーカーには廃業を考える者さえ出てきているらしい。

 

 フールーダの居室がある「大魔法詠唱者の塔」からは夜な夜な奇怪な笑い声が響き渡り、四騎士の1人であるバジウッドからは「レイナース()()マジでヤバい。あれは重爆ではなく「超重爆」です」と語っていた。

 

「いったい帝国は…俺はどうなってしまうんだ。」

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

 トブの大森林の奥地から伝説の薬草を採取するという依頼を受けた漆黒の剣(白)は、森から最も近くにあるカルネ村へ向かっていた。さっちんに依頼の事を報告したらカルネ村へ立ち寄るように指示を受けたのだ。

 

「カルネ村も随分と変わったらしいぜ。あれからそんなに経ってないのによ。」

 

「そのカルネ村はお嬢様と何か関係があるのか?」

 

「直接の関係はありませんね。お嬢様のお兄様が色々と協力しているそうです。私達の知り合いもカルネ村でお世話になっているんですよ。」

 

「俺の弟子なんだけどな。ンフィーレアはエンリちゃんと仲良くやってんのかね?」

 

「お前に弟子?いったい何を教えてるんだ?」

 

 漆黒の剣(白)へ加入してから日の浅いブレインは詳しい事情が分からない。かなりヤバい橋を渡る覚悟が必要になるとは聞いているが、ブレイン自身も陽の当たる場所で生きてきた人間ではない。彼が漆黒の剣(白)へ加入したのも、彼が身を寄せていた傭兵団「死を撒く剣団」の討伐へやってきた彼らと戦いになったのが原因だったからだ。

 

 彼ら4人はブレインも驚くほどの強さで、死を撒く剣団は半数が倒される事になった。そして漆黒の剣(白)VS ブレイン1人の戦いは1時間以上に渡って続いた。4人同時に相手をして互角というブレインの強さも凄まじかったが、漆黒の剣(白)も抜群のチームワークと謎の回復力によって徐々にブレインを追い詰めて行った。そして唐突に現れた女騎士の「お嬢様がお呼びだぞ」の一声で戦いは中断した。

 

 水を差された形となったブレインの抗議にも「一撃だけ付き合ってやろう」と言い放ち、ブレインの最強武技であった秘剣虎落笛を、宣言通りに一撃――それも峰打ちで、ブレインごと纏めて叩き伏せたのだった。

 その後、さっちんとアインズから「有望そうな奴(死体)がいればスカウト(白くしろ)しておくように」と言われていた彼女に自ら志願(切腹)して使徒となり、漆黒の剣(白)の5人目のメンバーとなったのだ。

 

「ブレインの旦那は、お嬢様とは1度しか会った事がないからな。」

 

「まあエヌスリー様がお仕えするお嬢様だ。只者じゃあないんだろ?」

 

「ナザリックへ行ったら驚きますよ。あそこは何というか…あはははは」

 

 遠い目をして乾いた笑いをあげるペテル。他の者も頻りに頷いている。

 

「はあ!?そんなに凄いのか?俺はエヌスリー様の存在だけで一杯一杯だぞ。」

 

「知らないという事は恐ろしい事なのである。彼の地にはエヌスリー様と同格の姉妹がお二人。それ以上の力を持つ方々が両手で足りない程に居られるという話しである。」

 

「おいおいマジなのかよ…」

 

 ブレインが驚くのも無理は無いだろう。彼の剣技を片手だけで切り伏せたエヌスリー。それ以上の存在など想像すら出来ない。

 

「あれがカルネ村か?辺境の開拓村と聞いていたんだが…」

 

「村全体がしっかりとした塀で囲われていますね。下手したら砦並みですよ!」

 

 以前は獣避けの柵さえ無かったカルネ村が、高さだけならエ・ランテルの城壁に匹敵する様な塀に囲まれていた。門の脇には物見櫓が設置され、何者かがしっかりと周囲を監視している。漆黒の剣(白)の事にも気付いた様子で、少しだけ慌しい雰囲気だ。

 

「おいおい…あの門番めちゃくちゃヤバい雰囲気だぜ!」

 

 村の門番を務めているのはかなりの体躯を誇る全身鎧の戦士――中身はデスナイト――だった。当然だが喋る事は出来ないので櫓の上から声がかかる。

 

「冒険者の兄さん方、この村に用ですかい?」

 

「私達はエ・ランテルのオリハルコン級冒険者チーム漆黒の剣(白)です。私達の事は事前にお知らせがあったはずですが?」

 

 声を掛けてきたのは弓を背負ったゴブリンだ。彼らもれっきとしたカルネ村の住民だ。

 

「その真っ白い姿は間違いねえみたいですね。失礼しやした。おーい門を開けてくれー。」

 

 重厚な扉が門番によって開かれる。中から現れた仮面のマジックキャスターが彼らを出迎える。

 

「ようこそカルネ村へ。お待ちしておりましたぞ。私は皆様のサポートをさっちん様から仰せつかったカジッチャンと申します。いつぞやは大変なご迷惑を……」

 

「げっ…あの時の(ハゲ)!?」

 

「ハハハ…オッサンもお嬢様の世話になってたのかい?」

 

「儂のほうはアインズ様のお世話になったのですよ。今はバレアレ研究所で警備の仕事をしております。」

 

「きちんと更生して働いているとは感心であるな。カジッチャン殿も我らの様に?(こいつは白くなってもハゲてるから外見の変化が殆どないのは羨ましいかも)」

 

「儂は皆さんと違ってほれ…この通り。」

 

 仮面の中から現れたのは人間の顔ではなかった。それ自体は多少の驚きもあるが問題は無い。だがブレインを除いた4人は思った。俺達の担当がお嬢様で良かった!アインズ様に雇われていたら白ではなく骨にされていたのか?と身震いした。

 

「まさか…彼女も(骨になって)カルネ村に?」

 

「クレマンティーヌでしたら、今は竜王国で冒険者をしていると聞いております――到着しましたな。ここが研究所です。」

 

 案内されたのは周囲と全く溶け込んでいない、石造りの真っ黒な建物だった。建物の周囲は倍以上の高さの石壁に囲われて、周囲を複数の警備兵(デスナイト)が巡回している。中に入るとすぐに地下への階段があり、地上部分に比べて数倍のスペースが確保されている。

 

「先生!それに皆さん、お久しぶりです。」

 

「ンフィーレアも元気でやってるみたいで安心したぜ。」

 

「すっかり回復した様なのである。」※戦犯のお前が言うな

 

「お嬢様や皆さんにはとてもお世話になりました。僕のせいで大変な目に遭われたと聞きました。その御姿も…」

 

 すっかり白くなった彼らを見て気まずそうにするンフィーレアだが、気にしている者は誰もいない。

 

「お前が気にすることじゃねーよ。俺達もお嬢様に世話になりっぱなしだしな。」

 

「そう言ってもらえると気が楽になります。そちらの剣士の方は?」

 

「ブレイン・アングラウスだ。少し前から漆黒の剣(白)で世話になってる。」

 

「王国戦士長と互角に戦ったという、あのブレイン・アングラウスさんですか!凄い!」

 

 ()王国領の人間にとってブレインのネームバリューは結構なものがある。ンフィーレアも彼の名や噂を聞いたことが何度もあった。

 

「元気なお姿を見て安心しました。それにツアレ姉さんがお世話になっています。」

 

「ツアレさんは奥でお婆ちゃんと作業中です。さっそく挨拶に行きましょう。」

 

 ニニャの姉ツアレはバレアレ研究所で働いていた。ここなら婆さんとハゲ(骨)のカップル、それにヘタレ(彼女持ち)の他はアンデッドしかいないので、男性に対しての恐怖心が拭えていない彼女でも安心だからだ。ツアレとしては自分を助けてくれたナイスミドルの執事長と一緒に働きたいと希望していたのだが……

 

「特技は家庭料理とありますが?」

 

「はい。ジャガイモを蒸した料理が得意です。」

 

「…で、そのジャガイモ料理がナザリックで働くうえで何のメリットがあるとお考えですか?」

 

「難しいでしょうか?」

 

「そうですね…ナザリックには調理スキルを持ったメイドが多数在籍していますので、もう少しレベルが高くないと難しいです。」

 

「でも私…ここで断られたら、他に行くところがないんです。」

 

「ご安心ください(ニッコリ)。ナザリックでの採用は難しいですが、関連会社の()()でミンチを作る人を募集しています。そこならツアレさんのスキルを活かせると思いますよ。幸いな事に、私と懇意にしている者が牧場の責任者なので、私の紹介であれば採用されるでしょう。」

 

「そ、そうなんですか。じゃあ…お願いしてもいいでしょうか?」

 

 セバスから履歴書を渡されたデミウルゴスは「本当にいいのかい?本当の本当に??」と何度も念を押し、さすがに不審に思ったセバスが詳しく話しを聞いた事で、ツアレの精神は守られる事になった。そして牧場の実態を知ったアインズは……

 

「ふむ…最近、耳が遠くなった様だ。それに目の調子も良くない。困った事だ。(聞いてない。俺は何も聞いてないし見ていない!)」

 

「それでは牧場の運営はこのままで…(ニヤリ)」

 

「スクロール用の羊皮紙確保はナザリックにとって重要事項だ。ただし情報管理にはこれまで以上に注意せよ。絶対に絶対にさっちんには気付かれない様にな!(ナザリックの利益には替えられん)」

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

「それじゃ行って来るよ、お婆ちゃん。カジッチャンさんも宜しくお願いします。」

 

 オリハルコン級に昇格したといっても攻撃力特化チームである漆黒の剣(白)が、今回の任務に不安を抱いていたのも事実だ。そこでさっちんの提案によって、薬草採取には定評のあるンフィーレアが同行する事になっていた。

 

「あの薬草は30年前に、儂の師匠がアダマンタイト級チームに依頼して入手した物じゃ。かなりの効果が期待できるはずじゃ!」

 

「お任せ下さい。組合長とは話しが付いていますので、間違いなくリイジーさんにお渡ししますよ。それと回復ポーションをこんなに提供して頂きありがとうございます。」

 

 彼らにはバレアレ研究所で制作されたポーション(赤)がたっぷりと提供されている。末端価格で金貨数千枚の代物だ。既にリイジーとンフィーレアは、アインズから材料と器具の提供を受けてユグドラシル産ポーションの作成に成功している。

 

 研究所の目的はあくまでユグドラシルで制作不可能だったポーションの開発だったが、リイジーの懇願で「さっちん流ポーション作成術※第11話「野営(ナザリック基準)」参照」の指導を受けたのだ。ンフィーレアではまったく理解不能だった、()()()()()を理解したリイジーは、さすが周辺国家でも有数のポーション職人である。

 

「トブの大森林の奥地なんぞ、滅多に行けるもんじゃないからね。ンフィーレアや、他にも貴重な薬草があるはずだから、たっぷりと採ってきておくれ。ただしくれぐれも気をつけてな。」

 

「任せてお婆ちゃん。今回は漆黒の剣(白)の皆さん以外にも、凄い案内人がいるし大丈夫だよ!」

 

「森の賢王の案内と護衛付きなんて贅沢ですよね!」

 

「伝説の大魔獣まで手懐けているとはな…あのお嬢様はどれだけの力を持ってるっていうんだよ!?」

 

 

 さっちんの好意によってトブの大森林出身のハムスケも同行する事になっていた。この他に大森林の北部にあるリザードマン集落で宿泊・補給の手配までされている。手厚いバックアップに雇用主への感謝が尽きない。これなら組合長のアインザックが何の心配もしていなかったのも当然である。

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

「フハハハハハハハハ!ようやく新しい魔法の取得に成功したぞ!それも遂に第七位階魔法に達する事が出来たのだ!!(ビクンビクン)」

 

 フールーダ・パラダインが新たな魔法を身につけたのは、実に十数年ぶりの事だった。そして100年以上も昔に前人未到の第六位階に到達して以来、長く停滞していた魔法の位階がとうとう次の位階に昇る事となった歓喜の瞬間であった。

 

「思えば長く苦しい道程じゃった……導いてくれる師も居らず、ここ100年は自分以上の存在すら何処にも居ない。頼れるものなどない孤独で無頼な歳月……だがそれも既に過去の事――」

 

 自分を導いてくれる師を持たなかったフールーダ。彼は常に先頭を1人で進んできた。たった1人で魔法という荒野に苦労して道を拓き、後から続く者達の為に標を立て続けてきた。そして…そんな人生を誇りに思っていた。しかしその荒野にはしっかりと舗装された高速道路が敷設されていたのだ。

 

「足りない、足りないぞ!!フールーダ・パラダイン!お前に足りないもの、それは――魔法知識・前提魔法・アイテム・職業取得・職業構成!そして何よりも――レベルが足りない!!」

 

「wikiを見てからレベル上げるしかないでしょ。頑張ってねお爺さん♪」

 

 未だ神より賜わった言葉には理解出来ない事が多いが、今の自分に出来る事は「レベルアップ」だ。実際こうして得る物があったのだから間違ってはいないはずだ。レベルアップについて尋ねたが、神の言葉はあまりにも難解だった。

 

「テレレレッテッテー♪だな。」

 

「ペレレレッペッペー♪だね。」

 




今の帝国で一番充実しているのは、フールーダとレイナース
ジルクニフは胃痛と脱毛に苦しむ毎日

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