俺ガイル短編SS集   作:ケビンコスナー

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今回は星を眺める八雪のお話です。
以下本編です。


Stargazers

大学生ともなると毎日暇なのかと思っていたが、わりと真面目に授業を取ってしまった俺の日常は、そこまで暇と言えるものではなかった。今日も今日とて面倒臭いレポートを片付けようと、マッ缶片手に4:00くらいから格闘を続けている。

「もう冬だなあ…」

カレンダーに刻字された12という文字を見つめながら、1人嘆息する。結構寒くて今も毛布を被っているのだが、一人暮らしだと意外と光熱費がバカにならないから暖房とか付けたくないんだよなあ…。

一休みつこうと、スマホをつける。すると、雪ノ下からLINEが来ていた。

 

『今日、天体観測するわよ。』

 

…は?

 

× × × × × × × × ×

 

 

「お前マジで当日予約はないわ」

「だってあなたどうせ暇でしょ?」

「いやそうなんだけどさ」

 

おかしい。俺は今日3つくらいレポートを終わらせようと心に決めていたのに、なぜ雪ノ下を家にあげてあまつさえ宅飲みを実施しようとしてしまっているのか。

 

「つーかお前が飲みたいだけだろこれ」

「そうとも言うわね。でも、今日は星が綺麗に見える日らしいのは本当よ?」

「どうせそれも酒飲む口実なんだろ」

「当たり」

 

ふふふと、愉快そうに笑う雪ノ下。大学で数多の男を魅了する才女とは思えないだらけぶりに、筋違いな不安を抱く。

 

「お前が酒飲んでる姿見たら世の男は全員失神しそうだな」

「大丈夫よ。人前ではおさえてるもの」

「さりげなく俺を人から除外するのはやめろ。傷つくだろ」

「そういう意味で言ったわけじゃないわよ」

 

また雪ノ下はころころと笑う。ほんとにこいつ、よく笑うようになったな。高校のころの雪ノ下に見せてやりたいもんだ。

 

「それにしても寒いわね、この部屋」

「光熱費がもったいないんでな」

「私が来たときくらいつけなさいよ。はい比企谷君、ビール」

「どうせ酒飲んだら暖まるだろ。サンキュ。お前は?」

「スト○ングゼロ一本もらえるかしら」

「これ結構強いんだからな、気をつけろよ」

「いざとなったらあなたに介抱してもらうから大丈夫よ」

「大丈夫なのお前だけなんだよなあ……乾杯」

「乾杯」

 

チン、と音が鳴る。まあ俺も酒は嫌いじゃないし、どちらかというと酔い潰れた後のこいつの対処が苦手なだけだ。やっぱビールおいしい。うめー悪魔的だ!

 

「やっぱり大学終わりのお酒って最高ね」

「大学生が言うセリフとは思えねえな」

「そういえば今日何してたの?」

「溜めてたレポートの処理。年内で5つ終わらせなきゃいけなくてな」

「あなた結構いそがしいものね、授業」

「なんでよりによって今日酒盛りしようって持ちかけてきたんだよ」

「あくまで天体観測よ、天体観測。それにわたし、来週から年始まで海外にいるから」

「マジで?」

「家の付き合いでね…。今週だと予定の空いている日が今日くらいしかなかったの。」

「じゃあ今日が年内最後って訳か」

「そうなるわね、年末もあなたの家で飲みたかったのだけれど」

「俺も年末は帰省してるよ」

 

そりゃあそうでしょう、という感じで微笑む雪ノ下が、2本目の酒を開けた。速い速い、また吐くぞバカ。

しかし年末に海外なんてやっぱこいつんち金持ちだなあ…。なのになんでバーとか行かずわざわざ俺んち来て安い酒飲んでんだろうなあ…。

 

「そういえばあなた彼女とかいないの?」

「なんだよ藪から棒に。いねえよ」

「いないのね。いたらこんなことしてるって知られたら大目玉よ、多分」

「そうなのか?お前は怒るの?」

「恐らくね」

 

ほーん。まあ、彼女はおろか友達すらいない俺にとってはどうでもいい話だけどな。

 

「彼女作ろうとか思わないの?」

「作らないんじゃなくて作れねえんだよ。その仮定に意味がすでにない」

「じゃあ例えば、あなたのことを好きな変人がいたらどうする?」

「人に進歩しただけ大きい成果だな」

 

今日のこいつ結構しつこいな…。もうすでに酔ってきているのかもしれない。なにが天体観測じゃ。

まあしかし、俺のことを好きな人ねえ。いたとしても、俺は多分その好意を信用できないだろうしな。雪ノ下とかのような虚言を吐かない系の方の言動なら多少は信じられるくらいには成長したが、まだまだ俺は人のプラスの感情を信じ切れないままだ。

「そんな奴がいたとして、」と話を続ける。

 

「めんどくさくてつきあわねえんじゃねえの」

「…じゃあ私が好きだって言ったら?」

「…お前今日やっぱ結構酔ってるだろ。水飲め水」

「答えなさいよお」

 

からかうようにけらけらと彼女は笑う。やめろやめろ、わりとどきっとしたんだよ。自分の単純さがいやになるが、あいつは絶対に嘘をつかないからな。

 

「ほら」

「…ん。ありがとう」

「そういうお前は彼氏とかつくんないのかよ」

「いやよ。妥協とか嫌いなのよ私」

「でもお前レベルの男なんて、それこそ海外とか探さないといないんじゃねえか」

「妥協ってそういう意味じゃないわよ」

「いやじゃあどういう意味なんだ…」

「好きになった人と付き合いたいのよ、私は」

「はあん」

 

意外と乙女なんだな、こいつ…。

まあしかしそれこそこいつが好きになるやつなんてハイスペックだろう、どこかで妥協した方がいい気もするんだが。人の趣味にケチ付けたいわけじゃないんだけどな。

 

「あんま理想追い求めてると、平塚先生になっちまうぞ」

「それは大丈夫よ、きっと」

 

いやーもうなんで平塚先生結婚できないんだ。早く結婚しないともはや俺がもらうまである。

 

× × × × × × × × ×

 

「あーもうほら飲みすぎんなよ」

「酔ってないから大丈夫よ」

 

そんなトロンとした目で言われても説得力がねえんだよ。

 

「ほら夜風当たって天体観測するぞ。今日のメインイベントなんだろ」

「いいわねそれ、あなたにしてはまともなアイディアよ」

「元ネタお前なんだよなあ…」

 

やっぱりこいつ、今日は酒盛りのつもりで来たんじゃねえか。なにが天体観測じゃ。

 

「おお、寒…」

 

窓を空けると、肌を刺す寒さが俺を襲った。吐く息も白くなり、鼻から入ってくる空気はもうすっかり冬の匂いだ。

 

「気持ちいいわね…。ここで飲むチューハイって最高だと思わない?」

「思わねえよ。ほらさっさと酔いを覚ませ」

「…寒い」

「毛布使うか?」

「…ん、ありがとう」

 

毛布を使って気持ちよさそうにするぬくの下さんを傍目に見ながら、空を眺めた。

 

「うおお…」

「圧巻ね…」

 

東京の夜空でも、澄んだ空気のおかげかそこには満天の星空が光っていて、まさに絶景といった感じだった。

これが夏だったらあれがデネブアルタイルベガみたいなこともできたのだろうが残念ながら今は冬だ。星座に疎い俺だが、それでもオリオン座だとかこいぬ座といった星座を見つけることができる。流れ星も、浮かんでは消えてを繰り返していて、ふっと俺の気持ちをもの悲しくさせる。

 

「…いつか山のてっぺんとかでまた星を見たいわね」

「お前の体力じゃ難しいだろ」

「これでも体力はついてきたのよ。春休みにどこか行きましょう、約束」

「…まあ、そのうちにな」

 

雪ノ下が肩にもたれかかりながら、「約束よ」と念を押すようにつぶやいた。まだ叶えてない約束も多いのに、約束ばっか増えていくなあ…。

 

「…宇宙ってたしか137億年だかの歴史を持ってるんだっけか?」

「ええ、そうね。地球が生まれたのが46億年前で」

「俺らが生まれて20年か…。小せえなあ、人間…」

「よかったわね、この20年でこんな美女と知り合えて」

「自分で言うなよ…」

 

まあその通りなのがどうしようもないんだけどな。本当に、こいつとこんな関係になれたのなんて、こんな陳腐な言葉で表したくはないけれど、奇跡みたいなものだ。

 

「…来年も」

「ん?」

「再来年も、そのまた先も、宇宙があり続ける限り、また天体観測したいわね」

 

雪ノ下が、優しげに俺に語りかける。その言葉は、祈りのように、流れ星のように、宙に浮かんで消えていく。

 

「…どうだかな」

「なによそれ。私と飲みたくないの?」

「セリフがパワハラ上司みたいだぞお前…。そうじゃなくて、色々あったらもうこんなこともできないかもしれないだろ」

 

元来人間の関係性なんて人以上に儚いんだし、宇宙からみたらゴミだぞゴミ。

 

「色々ってなによ」

「俺がニートになるとか」

「私が養うわよ」

「…お前が結婚するとか」

「あなたと結婚すればいいじゃない」

「…いやもうその、勘弁して…」

「何照れてるのよ、もう」

 

ええいうるさいうるさい。頬をすり寄せるな腕を組むな俺をからかうんじゃないやめろ。もう正直俺のハートがいろいろマックスレボリューションだ、これ以上なんか言われたりしたら爆発してしまう。

 

「だから、問題なくできるでしょう?天体観測」

「俺のハートに問題があるわ。俺じゃなかったら襲われてるぞお前」

「いいわよ、どうせあなた以外にこんなことする相手いないもの」

「…さいで。風呂入るか?」

「そうね、寒くなってきたし、お借りしようかしら」

「もう湧いてるはずだから、入ってきていいぞ」

「ありがとう。…一緒に入る?」

「入んねえよばか」

 

楽しそうに笑いながら、彼女は部屋に入っていった。ほんとにもうあいつは…。からかい上手の高木さんばりのからかいに、西片君な俺はずっとタジタジだ。高校時代散々困らせていた雪ノ下に今となっては毎回困らされているのはもう本当に驚きとしか言いようがないな。高校時代の俺達が今の会話聞いたらどう思うのだろうか。

残っているビールをちまちま飲み、夜空を眺めながら、俺はふっと息をつく。そろそろお開きになりそうなこの飲み会を、ふっと思い返す。雪ノ下との宅飲みはいつも突然だし、すぐ酔うし、たまにゲロったりするし、掃除はめんどいし、からかってきてメンタルは持たないしでもうロイヤルストレートフラッシュと言った感じだ。それでもあいつと出会うたび、こう思うのだ。

また来年、再来年も、宇宙があり続ける限り、あいつとまた出会えますように、と。

 

ビールを流し込み、俺もベランダを後にする。飲み会の片付けは、風呂に入っている雪ノ下が上がってからにしよう。どうせ今日も泊まっていくだろうあいつのために、俺は布団を敷き始めた。

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