俺ガイル短編SS集   作:ケビンコスナー

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ご覧いただきありがとうございます。
とある雪の日の八雪のお話です。タイトルは雪合戦のことではないです。
以下本編です。


雪の日のたたかい

万物は流転していき、永遠に存在するものなんてないと言うことを、俺は雪に抱く感情を通じて知ったと思う。いやだってもう雪の日とかぜってえ大学行きたくないし…。なんなら基本的に空から何かが降る日は大体自主休講しちゃってるし…。

 

多くの大人にとってみれば雪なんて通勤、通学を妨げる災害でしかないし、俺ももうすでにその認識が身につきつつあるが、雪が降るたびに愚痴をこぼしていた両親にだって、雪を楽しみにしていた子供時代というのがあったのだろう。月日が経って環境や立場が変化すれば、あるいは時間そのものが経過すれば、きっと永遠に何かを同じように思い続けることは無理だ。人はそれができるやつのことを、狂気、だとか、天才、といった言葉で表すのだろう。

 

 

 

しかし、この事実だけはずっと変わらないと思うのだ。

 

 

 

 

 

男はスマブラが大好きだ。

 

 

 

 

 

「ちょっと待て雪ノ下天空で迫ってくんな…落ちてんじゃねえかお前」

 

「うるさいわね、このキャラが死にたがるのが悪いのよ、このっこのっ」

 

 

 

ア○クを使いこなせていない雪ノ下を見て、俺は爆笑してしまった。ドヘタクソめ、俺のリ○カの力を見せてやるよ!

 

 

 

「ははは、いけ、ピーケーサン…ああミスった!死ぬな死ぬな!」

 

「あなただって落ちてるじゃない」

 

「こいつがサイコキネシスを制御できねえのが悪いんだよ!」

 

 

 

雪ノ下もけらけらと笑う。くっそこいつ、PK○ンダーも操れないとかどうなってんだよ。

 

 

 

現在俺達は、3ライフノーアイテム終点というキングオブ王道設定でスマブラ大乱闘をしていた。

 

なんで雪の日にこいつとこんなことやってんだろうな…。

 

 

 

× × × × × × ×

 

 

 

7時間前。まるでどこぞのCGかよ、というほどに規則正しく降る雪を窓から眺めながら録りためたアニメを見ていると、突然雪ノ下から電話がかかってきた。怪訝に思いつつ、震えるスマホを耳に押し当てる。

 

 

 

「…もしもし」

 

『比企谷君?』

 

 

 

やっぱり雪ノ下だ。後ろからは賑やかな街の音がする。こいつ外にいんのか?こんな雪の日に?

 

 

 

「雪ノ下だよな?珍しいな電話なんて」

 

『ちょっと急ぎの連絡でね』

 

「なに」

 

『今日あなた暇?』

 

「アニメ見るので忙しいな」

 

『要するに暇なのね。ねえ、今日あなたの家に泊まって大丈夫かしら』

 

 

 

バカ言うな、アニメ見るのだって号泣したり爆笑したりで体力使うんだぞ、俺は決して暇ではない。

 

え、ていうかこいつ、今なんつった?

 

 

 

「え?泊まんの?」

 

『そう。空いていればでいいのだけれど』

 

「いやいやいやいや一人暮らしの男の家に泊まろうとすんなよ、なんで?」

 

『なんでもいいじゃない。だめ?』

 

「ダメに決まってんだろ、そんなホイホイ男の家に」

 

『どうしてもダメ?』

 

「いやだめだろ。大体、俺んちからお前んちって結構距離あるぞ、この天気で電車も止まってんだろ」

 

『私今、あなたの家の最寄り駅にいるのよ』

 

「…え?またなんでこんなとこにいんのよお前」

 

『あなたの言うとおり電車も止まってるし、泊まらせて欲しいわ、今日くらいは』

 

「…わーったよ、迎え行くから待ってろ」

 

『あまりプリンセスを待たせないようにね』

 

「俺のプリンセスは小町一択だ、異論は認めん」

 

『シスコン』

 

「ほっとけ、んじゃあな」

 

『ええ、ありがとう』

 

 

 

藪から棒なお願いに、あふれ出るめんどくささがやばい。なんてわがままプリンセスだ。まじっべーわー。だるいなあ…と思いつつ、俺はコートを羽織り、ブーツに足を通す。外はすでに一面の銀世界だった。

 

 

 

× × × × × × ×

 

 

 

回想終了。ただ俺が押しに弱いと言うことしか分からなかったな。

 

 

 

「あー疲れた…。久しぶりに全力でやったな…」

 

 

 

一旦スマブラを休止する。もう3時間以上ぶっ通しでやっているせいか、かなり疲れた。隣をみれば、雪ノ下の頬が紅潮しており、彼女も楽しんでいたようだ。先ほど男はスマブラが大好きだといったがあれは嘘だ。全人類大好きだ。

 

 

 

「はじめてやったけれど、結構楽しいわねこれ」

 

「マジで男が1度は通る道だからな。ちなみに友達がいるともっと楽しいらしいぞこれ」

 

「やっぱりあなた1人でやってたのね、これ。楽しいの?」

 

「お前これ1人でできるんだからな。しかもメインの話は1人でやる用だから、むしろこれは1人でやるのが正しいんだよ」

 

「見事すぎる屁理屈ね…」

 

 

 

いやだって本当に1人でできるし…。でも1人でこれやってるときの寂しさは、小学生だった俺でもなかなかにこらえたな。なんと言っても俺以外全員コンピューターの大乱闘が虚しすぎる。1人でブツブツ言いながらやってたら小町に「きもちわるい」と言われたこともあった。正直泣きそうだった。

 

 

 

「見て、外。もうこんなに暗くなってるわよ」

 

「雪がすげえな…」

 

「とても神秘的よね。明日雪合戦しましょう、私得意なの」

 

「まあいいけど。え、てか、お前、マジで泊まんの…?」

 

「こんな寒空の下美女を放り出そうというの?本当に失礼な男ね」

 

「…まあそうだから泊めるけどさ、今度から雪の日の外出は控えてくれよ」

 

「それは私の気分次第ね」

 

 

 

わがままプリンセスめ…。いやまあ仕方ない用事だってあるだろうしとやかく言えた話ではないけれど。

 

 

 

「つーかさ、マジで今日お前なんかあったの」

 

「なぜ?」

 

「こんな冬の日に外出なんて普通しないぞ」

 

「スマブラがやりたかったのよ、あれ面白いわね」

 

「だろ?今日俺が教えてやったもんな、それ目的なわけねえだろ」

 

「スマブラで思い出したわ、肩がこってるの。揉んでくれるかしら」

 

「露骨に話題逸らすなよ…。まあいいだろ、ほら」

 

「ん」

 

 

 

わりと外出理由、気になるんだけどな…。心でつぶやきながら、ソファの前でだらけている雪ノ下の後ろに回り込む。スマブラだったら絶好のチャンスなのだが、残念ながら今は大乱闘の時間ではない。

 

 

 

「うわーお客さんこれは凝ってますねえ」

 

「なぜ棒読みなのあなた」

 

「いやでも凝ってるのはマジ。俺でも分かるわ」

 

 

 

普段から小町の肩を揉んでやったりしてると、こういうことまで分かってくるのだ。やっぱりお兄ちゃんという立場は最強なのでは…?

 

 

 

「…最近忙しかったからかしらね」

 

「あーまあテストとかもあったしなあ」

 

「それよりも、それを口実にテスト勉強しようと誘ってくる男の対処の方が手を焼いたわ。下卑た目で近づかないで欲しいのだけれど」

 

「腐った目持ってる俺にはなんも言えねえなあ…」

 

「まだあなたの方がましよ」

 

「チャラウェイと比べられてもな」

 

 

 

けっ、という気分で肩のマッサージを続ける。なんだよあいつらすぐちゃん呼びしてでけえ声で騒いで「LINEやってる?笑」とか聞き出しやがって。笑じゃねえんだよもっと真剣に聞き出せ、LINEは遊びじゃねえんだよ。

 

と思ったけど、こいつそういや。

 

 

 

「…いやでもさ、お前テスト勉強っつってよく俺んち来てたじゃん」

 

「…あれはいいのよ、あれは」

 

「なんでだよ」

 

「…少しは察しなさいよ」

 

「何をだよ」

 

 

 

ふん、と言って不機嫌になってしまった雪ノ下がそっぽを向き、沈黙が場を支配する。ええ…今の察せる要素何もなかったでしょ…。じょしとのかいわって、むずかしいなあ。

 

 

 

× × × × × × ×

 

 

 

「すんません、疲れたんでやめてもいいっすか」

 

「だめよ、あと15分はやって欲しいわ」

 

「マジで死ぬって俺の手が」

 

 

 

15分はマッサージしているが、さすがにちょっと腕が疲れてきた。この調子でやっていると永遠にやらされそうで、本当に死んでしまう可能性があるので、俺は雪ノ下の許可を待たずにソファに寝そべった。

 

 

 

「…まだやめていいって言ってないのに」

 

「俺にも人権をくれ…。後でまたやってやるから」

 

「…私がやってあげましょうか?」

 

「いや、別に疲れてないから大丈夫だ」

 

「そう…」

 

 

 

残念そうに彼女が言う。残念がる要素1ミリでもあったか?もしかして雪ノ下は肩フェチだとか言うすごい重い性癖性癖(カルマ)でも抱えてんのか?

 

夕飯にはまだ少し速いな、と思い、本を取ろうと席を立つ。しばらくすると、リビングの方から雪ノ下が俺に問いかけた。

 

 

 

「そういえば比企谷君」

 

「あん?」

 

「夕食はどうするの?」

 

「特に決めてねえ」

 

「冷蔵庫、見させてもらうわよ」

 

「おう」

 

 

 

しばらくすると、雪ノ下の呆れ声が聞こえた。

 

 

 

「…中に何も入っていないのだけれど」

 

「あーそんな気はしてたわ」

 

「どうするのよ夕食」

 

「…我慢」

 

「却下」

 

「ですよねー…。仕方ねえ、目の前にスーパーあるから行くか」

 

「分かったわ、準備しておくわね」

 

「おう、雪どう?」

 

「まだ降ってるわよ」

 

「だりいな…」

 

 

 

行きたくねえ…。我慢じゃダメなの?痩せるし。まあでもあいつはこれ以上痩せたら死んじまいそうだけどな。

 

 

 

× × × ×  × × ×

 

 

 

無事スーパーでの買い物を終え、俺達は帰路についた。雪の降り方はさっきよりも大人しくはなっており、まあギリギリ外に出れるかなといった感じだが、まだまだ寒い。俺も雪ノ下も、マフラーに顔を埋めてとりとめのない会話をしていた。

 

 

 

「…さっきからなにしてんの、お前」

 

「…なんでもないわよ」

 

「…おう」

 

 

 

自分の左手をチラチラ見ては俺を見上げるという奇行を繰り返す雪ノ下に、俺は問いかける。おい雪ノ下ァ、お前さっき(自主規制)

 

止まった会話の後の沈黙の間を歩きながら、彼女の横顔をふと見る。赤のダッフルコートに身を包んだ彼女は、息を吐く姿すら神秘的で、とてもさっきまでスマブラに興じていた人と同一人物には思えない。肌も目も鼻も、その長い黒髪も、触れたら壊れてしまいそうなその雰囲気は、雪ノ下雪乃という名前にふさわしいと、心底思う。

 

 

 

「…なに?」

 

「…いや、なんでも」

 

「…そう」

 

 

 

横顔を眺めているのがバレてしまったらしい。やだ、なんだか恥ずかしい…。

 

 

 

俺は雪がそこまで好きではない。交通機関が麻痺してしまうとかそういう理由もあるけれど、一番の理由は、素手で触れたらすぐに溶けてしまうからだ。永遠という概念をあざわらうかのように一瞬で溶けて、あたかも存在しなかったかのように振る舞う、そのことがなんだか俺を裏切ったような気がしてしまうのだ。一瞬で消えてしまうのなんて人間関係で十分だろ。そんなことを考えていると、まさに雪を体現したかのような彼女が、一瞬で消えてしまうのではないかなんていう馬鹿げた不安が頭をもたげて、俺は苦笑する。

 

 

 

「…なあ」

 

「…なにかしら」

 

 

 

馬鹿げた不安なんてことは分かってる。それでも、それでもだ。

 

 

 

「お前、消えたりすんなよ。」

 

 

 

そして。

 

 

 

「幸せになれよ、ちゃんと」

 

 

 

万物は流転し、永遠に存在するものなんて存在しない。それは雪そのものも、雪に向けられる感情もそうだ。

 

だからきっと、雪ノ下に向けているこの感情だってすぐに変わってしまって、もっと醜いものになってしまうかもしれない。それがひたすらに怖かった。

 

出会ってまだ3年弱しか経っていない関係だけど、出会い方も最悪だったし今だって不思議な関係だけど、俺は今多分、誰よりもお前が幸せになって欲しいと願ってるよ。今日だってなんでか知らないけどこんな大雪の中外に出るわ、俺んちに泊まるとか言うわで、こんなこと他の男にやったら一発でアウトだぞ、多分。

 

ただの嫉妬かもしれない。でも、これがどんな感情かなんて関係なく、お前はこれからも雪ノ下雪乃でいて、幸せになってくれよ。

 

そんな感情を持っていた比企谷八幡なんていうバカみたいな人間を、頭の片隅にとどめておいてくれよ。

 

…急にこんなことを考え出したのは、雪が降ってセンチメンタルになっているからだろうか。俺らしくないな、本当に。

 

 

 

「…急にどうしたの」

 

「いや、なんとなくな。すげえ恥ずかしいこと言ってんのは分かってるから、ツッコまないでくれ」

 

「…ううん、嬉しいわ。だから、」

 

 

 

俺の目を見てはっきりと呟く。

 

 

 

「あなたも、幸せになりましょうね」

 

 

 

そう微笑み、雪ノ下は俺の手をとる。

 

 

 

「…ちょっと恥ずかしいんだけど」

 

「私に消えて欲しくないんでしょ?家まで、こうやって連れて行って欲しいわ」

 

「…わかりましたよ、わがままプリンセス」

 

 

 

俺は嘆息する。もうすでに小町の下僕をやっているような身分だし、これが彼女の幸せだというのなら、甘んじて受け入れるだけだ。

 

彼女の手が発する温もりと、少し照れたような彼女の横顔と、冬の都会の匂いと。

 

 

 

「そういや夕飯なんなの?」

 

「ハンバーグにしようかと考えているわ」

 

「おっけ、俺もなんかするわ」

 

「別に大丈夫よ、あなた料理うまくなさそうだし」

 

「いやすげえうまいから俺。8年前なんかな…」

 

 

 

静かな夜の街に、2人の声が響いた。

 

 

 

× × × × × × ×

 

 

 

「♪~」

 

比企谷くんの家で、お風呂を借りていた。寒い日のお風呂はやっぱり素晴らしいわね、と1人呟く。今日、いろいろと達成することのできた私は、鼻歌をするほどには上機嫌なのだ。

 

 

 

…それにしても、あの男の鈍感さには本当に辟易する。「あんま男の家にほいほい泊まんなよ」と、彼は多分優しさで言ってくれたのだろうけれど、私がそんなに分別のない女に見えると言うことなのだろうか。私がここまで泊まりたがった理由をもうちょっと考えなさいよ、鈍感。きっと彼は勘違いだと結論づけたのだろうけど、手まで繋いだのにまだそのスタンスを変えないつもりなのかしら。

 

…そう、手まで繋いだのだから、あと一歩よ、私。

 

 

 

「今夜が勝負ね…。」

 

 

 

彼女は1人ごちた。夜の2人の駆け引きの内容は、神様にしかわからない。

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