ギリギリ間に合った…
そういえば、前回の七話から三人称視点を使い始めてみたのですが、どうでしょう?
シーンがちょこちょこ変わると、一人称視点より三人称視点でやった方が書きやすかったり読みやすかったりするんですよね。
もうすっかり冬も本番。
今日も一日仕事を終え、就寝に入ろうとカズマ達は馬小屋で隣り合って寝転んでいた。
「もうそろそろ馬小屋暮らしもどうにかしないとなー、このままじゃ本当に凍え死ぬぞ」
「まったくその通りよ、この私を馬小屋で寝かせ続けるなんてどういう神経してんのよカズマさんの甲斐性なし!」
「何言ってんだ、アクアがベルディア戦で街ぶっ壊して借金背負ってなきゃ今頃ちゃんとした宿で泊まれてたはずなんだよ!」
「カズマ、そのくらいにしておいてやらないか。パーティというのは苦難を分かち合ってこそだろう?」
「そうですよ、こんな可愛らしい女の子三人とパーティ組めてるだけありがたいと思いませんか?」
「…このパーティ抜けてライとでも組んだらもっと稼げるだろうな…」
「「「なっ!?」」」
ギャアギャア騒ぎ出す女性陣。いつもと変わらない、平和な夜。
暫くして落ち着くと、カズマが天井を見ながらアクアに呟いた。
「日本じゃそろそろクリスマスだっけか?」
「そうねー、こっちの世界にもサンタさん来てくれたりしないかしら」
「クリス?」
「サンタさん?」
そんな話題に、めぐみんとダクネスも興味を持ったようだ。
カズマとアクアが二人に話してやることに。
「俺のいた国にはな、このくらいの時期になると独り身の人達に絶望を届けていく、サンタクロースって存在がいたんだよ」
「そうそう。子供たちにはささやかなプレゼントを贈り、代わりに大人たちからは容赦なくお金を巻き上げていく厄介なモンスターよ」
「サタンクロース…そんな恐ろしいものが存在したというのですか…!」
「サタン…まあいいか。あ、でもめぐみんならまだプレゼント貰えるかもしれないぞ?」
「それは私が子供だという解釈で間違いないでしょうか?上等です、表へ出なさい」
「やだよ、寒いだろ」
「なにおう!」
「落ち着けめぐみん!あんまり興奮するとなかなか寝れなくなるぞ!」
「みなさん、大変です!」
また暴れだそうとするめぐみんを皆で抑えていると、突然入口の方から声がした。
声のぬしはウィズ。急いで来たようで、青白い顔を更に青くさせて息を切らしている。
「どうしたんだウィズ?こんな遅くに」
「カズマさん、助けて…!ライさんが…乗っ取られ…」
「ライがどうしたというのだ?」
「サ、サタンクロースが現れたんです!」
遡ること数刻前。
ライとウィズは私と閉店したウィズ魔道具店の前を掃除していた。
「もうすっかり冬ですね、雪でも降りそうです」
「ははっ、掃除したそばから雪なんて降られちゃたまんねえな」
そこに、相変わらず寒そうな格好をしていたゆんゆんがやってくる。
「あの、ライさんいらっしゃいますか?」
「目の前にいるだろ」
「あっウィズさんしか見えてなかったです」
「やめてくれよ、俺はゆんゆん程影薄くないだろ?」
「影薄くてごめんなさい…」
「ライさん酷い…」
泣き出してしまうゆんゆんを慰めながら、ウィズがライを糾弾する。
「ごめん、悪気があったわけじゃなくて」
「悪気なしにそんなこと言えるとかもっと酷くないですか?」
八方塞がりとはこのことか。
「いえっ大丈夫ですいつものことなので」
「ほんとごめん」
「それより、どうしたんですか?こんな時間に」
「あっそうそう、これを届けに来たんです。道に落ちてたんですけど」
ウィズに指摘され、ゆんゆんが出したもの。赤い色をした、見たことの無い眼魂だった。
「もしかしてライさんのじゃないかって」
ライは眼魂を受け取り、それをまじまじと見つめる。
「見たことない眼魂だな…」
その時眼魂が揺れ動き、ひとりでに浮遊したかと思うと、勝手に召喚されたライのゴーストドライバーに入り込んだ。
「え?ちょー」
『開眼!サンタクロース!ジングルベル!星降る!聖なる夜!』
調子の良い音声と共に、ライは仮面ライダーに変身する。
赤と白ベースのパーカーで、ところどころモコモコした普段より少し暖かそうな新形態。
顔にはモミの木の意匠が施されていた。
紛うことなきサンタクロース。これで街を歩き回れば、子供たちを喜ばせられることはまず間違いないだろう。
「サンタ…クローズ?」
ただ、惜しいことにこの世界にクリスマスの文化などあるはずもなかった。
ライはといえば、サンタ魂に変身してから突然一切の動作をやめてしまい、その場で硬直している。
「……」
「ライさん?どうしたんですか?」
「……」
「ライさー」
『HoーHoーHoー!』
「ふぇっ!?」
暫く止まっていたかと思えば突然叫び出したゴーストに、二人はビクッと身体を震わせる。そんな二人に、ゴーストは背負っていた大きな袋から綺麗に梱包された箱を手渡した。
「なんですかこれ?」
「くれるんですか、私たちに?え?開けてみろ?」
疑いながらもウィズが箱を開ける。覗いてみると、中には上質なチキンが入っていた。
「これ貰っちゃってほんとにいいんですか!やりました、お肉です!久しぶりの固形物です!ちょうど鶏が食べたいと思っていたんですよ!ありがとうございます、ありがとうございます!」
「あのウィズさん、よかったら今度何か奢りましょうか…?」
大きなチキンに飛び上がって喜ぶウィズ。それを見て困惑した様子のゆんゆんだったが、それはそれとして自らも期待しながら貰った箱を開けると…
中には特に何も入っていなかったという。
「何よこれ!なんで私には箱だけなの!?何がしたいのあなた!」
ゆんゆんは怒り心頭だ。
ちなみにサンタ魂のプレゼントは箱を開けた本人がその時一番欲しいものが入っているものだが、ゆんゆんの場合それが物ではなく『友達』だったため、あげることが出来なかったことに起因している。
『Hoー!』
しかし、形だけでもプレゼントをあげたゴーストは満足したのか、浮遊して何処かに行こうとしていた。
「いくら私でも許すことと許さないことがあるのよ!逃げるな!」
「ゆんゆんさん、おそらくライさんはさっきの眼魂に身体を乗っ取られています!眼魂をライさんから引き離せば元に戻るはずです!」
ウィズの声に頷きながら、ゆんゆんはゴーストを追いかけて行った。
~~~~~~~~~~~
「と、いうことがあって…」
ウィズがここに来た経緯を話し終えると、珍しく静かに話しを聞いていたアクアが口を開いた。
「なるほどねー。大丈夫よウィズ、そんなに慌てることじゃないわ。元々サンタクロースっていうのは、クリスマスに子供たちにプレゼントを配るとてもいい存在なのよ!今晩一通りプレゼントを配り終えたら満足してライを解放してくれるんじゃないかしら?」
「そうですか、それなら安心していいですね」
ウィズはそう聞いていくらかほっとした様子だった。息を切らしていたし、相当心配して急いで来たんだろう。
「あの、そのサンダークロスとやらは無償で子供たちにプレゼントを配っているのか?私たちのところには来てくれないだろうか…」
ふと横を見ると、ダクネスが目をキラキラさせてそんなことを言っていた。
「なんだ、期待してんのか?たまには可愛いとこもあるじゃないかダクネス」
「まったく、可愛らしいのか子供っぽいのか」
「二人ともやめてあげてよ!ダクネスにだって可愛いところはいっぱいあるんだから!」
「みんなして可愛い可愛いと言うなぁ!」
可愛いを連呼され、真っ赤になって藁の上の枕に顔をうずめるダクネス。だが、直後に聞こえてきた控えめな鈴の音がダクネスの意識を引き寄せた。
「この鈴の音は…」
『Hoー!』
夜だからか、控えめにシャンシャン言わせながら窓から入ってきたのは、サンタに憑依されたゴーストだった。
「さてはあなたがサザンクロスですね!今すぐライから離れるのです!これは警告です!従わないというのなら私の爆裂魔法が…なんですかこれ、くれるんですか?」
ライごと爆裂魔法とか言い出しためぐみんにサンタ魂がプレゼントを渡す。続けてダクネス、俺やアクアにまで箱を手渡してきた。
「これってプレゼントよ!やったわ!中身はなにかしら?」
嬉嬉として受け取るアクアを見て、めぐみんが半信半疑で箱を開けた。
「あっ!!!」
「なになに?なに貰ったの?」
めぐみんの叫び声を聞き、皆の注目がめぐみんの箱に。めぐみんが取り出した物は…
「やりました!小型魔力清浄機です!魔力回復効果が向上すると言われてるんです!ずっと欲しかったんですけど、こんな高価なもの貰っちゃっていいんでしょうか…」
「いいのいいの!それがクリスマス、サンタクロースなのよ!じゃあ私は楽しみを最後に取っておくから、みんなも開けてちょうだいな!」
アクアがそう言うと、箱を物珍しそうに見ていたダクネスが箱を開け…
「おおっ!ポーションだ!これは服用した者の神経を刺激し、一時的に痛みを倍増させるポーションだ!!まさに私にうってつけではないか!!」
「「「あ、あー…」」」
ダクネスらしさ全開のプレゼントに、一同かける言葉が見つからないようだ。唯一ウィズだけは『痛みを倍増させる』ポーションをダクネスが欲する理由が分からないようで、首をかしげている。
「と、とりあえず次はカズマね!」
勝手に順番を決められるのにはちょっとイラッとくるものがあるが、俺とて開けたくてうずうずしてることに違いはないので開けることにした。結果は…
「なんだこれ」
箱の中には「スカ」と書かれた紙切れ一枚が入っていた。
「なんで俺だけくれないんだ!?俺何か悪いことしたか?」
この一年特に悪いことなんて…悪いことなんて…
どうしよう、思い当たる節がいくつかあって困る。
「プークスクス!カズマさんったらセクハラばっかしてるからサンタさんに見放されたのね!可愛そう!それじゃあ、私もそろそろ中の高級酒を拝むとしようかしら!」
アクアがそう言って箱を開ける。
と、同時に箱が爆発し、アクアが黒焦げになった。
悪い子にサンタは来ないかー、なるほど。
さっきの挑発で一発引っぱたいてやろうかと思ってたが、なんか気分が晴れたわ。
「なんでよーー!」
アクアの泣き声を聞いたサンタ魂は、満足したとでも言いたげに足早に馬小屋を飛び出した。
「アクア様をコケにした罪は重いわよ!あのサンタ、絶対ライから引きずり出して眼魂からも引きずり出してボコボコにしてやるんだから!」
そう言ってアクアも立ち上がり、サンタ魂を追いかけていく。
と、入れ替わりにゆんゆんが飛び込んできた。
「この辺でサタンが憑依したライさんが変身した仮面ライダー見ませんでしたか!?」
「もうこれわけわかんねえな」
サンタ魂が行った方向を教えると、ゆんゆんは凄い剣幕で飛んで行った。
~~~~~~~~~~~
『HoーHoーHoー!』
「待ちなさい!」
浮遊して夜の街を駆け抜けるサンタ魂と、それを追うアクアとゆんゆん。
『ターンアンデッド!』
アクアの攻撃をサンタ魂は避けることもなく、背中で受ける。しかし眼魂化しているゴーストには勿論効果はなく、何事も無かったかのように走り去っていく。
『ボトムレス・スワンプ!』
突然目の前に出来た沼を意にも介さず、ぴょんと跳んで躱した。
その間にもサンタ魂は子供たちが住む家の窓からプレゼント箱を投げ入れていく。
『ファイアボール!』
サンタ魂が迫り来る火の玉を華麗に避ける。が、その先にはいつの間にかアクアが先行していた。
「ここまでよサンタもどき!『ゴッドブロー!』」
しかしアクアの頭上を脅威の跳躍力で飛び越し、プレゼント箱をこぼしながら民家の壁を蹴って屋根へと登って行った。
「抜かったわねクソサンタ!プレゼントを落としてるわ!三つもプレゼントゲットよ!」
ゆんゆんが止めようとするのを気にもとめず、ホクホク顔なアクア。直後、アクアの持っていた箱が大破した。
「なんでよー!」
その後、子供たちにプレゼントを配り終えて満足したサンタ魂はライから抜けて消えていったという。
~~~~~~~~~~~
「酷くないですか!?私なにも悪いことした覚えないのに!!」
サンタの暴走から翌日。プレゼントをなにも貰えなかったゆんゆんはウィズ魔道具店でウィズ相手に愚痴っていた。
普段ならこういうことをする子ではないのだが、よほどショックだったのだろう。
「さあ、どうしてでしょうね…?ところで、何が欲しかったんですか?」
ウィズのその問いに、ゆんゆんはビクリと身体を震わせ。
「と、友達が…欲しくて…」
心底恥ずかしそうに、消え入りそうな声でそう言った。
「そうだったんですか。それなら言ってくれれば、私たちでよければいくらでもお友達になったのに」
ウィズのその言葉に、期待に満ちた目でゆんゆんが二人を見る。
「え…いいんですか?ご迷惑では…」
「どうして迷惑だなんて思うんですか?大歓迎ですよ!ね、ライさん?」
「もちろんだよ」
店の奥から出てきたライも、優しい顔をしてそう言った。
「えっと…ふ、不束者ですが、よろしくお願いします!」
「ゆんゆん!?そんなに気張らないでいいんだぞ!?」
「そうですよ、いつでも遊びに来てくださいね?」
どうやらサンタクロースは、ゆんゆんにもちゃんとプレゼントを置いていってくれたようだ。
二人の言葉に、ゆんゆんは幸せそうな笑顔を見せた。
そして、サンタクロースが置いていったプレゼントがもうひとつ。
サンタクロースが子供たちのために用意したプレゼント。サンタ魂に無からプレゼントを生成する能力はない。よって、その分の代金はどこかで用意されなければならないのだった。
膨大な量の借金が待ち受けていることを、魔道具店の二人はまだ知る由もなかった。
メリークリスマスです。私にはもちろん、特にイベントはありませんでした。
生クリームも食べられないのでケーキもないです。(聞かれてない)