・シンデレラ側のプロダクション名は明記していません。
休日の公園は日中だというのにそこまで人が多くない。
近くに多目的の娯楽施設でもあるのか、少数の人々が散歩をしているくらいである。
そんな散歩をしている人々の中で最も目を引くのは、一人の少女だ。
大人しそうな顔つきや透明感のある薄い茶色の髪、白い肌に細い手足、遠巻きに見るとどこか儚げな少女という印象を抱く。
ただ、そういった外見も目立つのだが、それ以上に視線を奪うのは少女が抱えているかごに静かに佇んでいるシロバトだ。
鳥かごではなくごく普通のかごに収まっているので人形なのかと思いきや、通り過ぎる人を鳥類特有の稼動範囲でほぼ真後ろまで眺めたりしている。
飛んでいったりしないので飼われているのだろうが、それでも異様に人に慣れている。
「今日は久しぶりのお休みだからゆっくりしようね、ピーちゃん」
少女に話しかけられるとピーちゃんは後ろに向けていた顔を少女へと静かに向ける。
肯定をしているのか小さく鳴くと少女は明るく笑った。
「ほわっ、ど、どうしよう……」
少し歩くと、突然少女は動揺し始めた。
なにやら視線の先で誰かがハトにパンをあげているようだ。
この反応から察するに、普段は少女がハトたちと仲良くしているのだろう。
しかし、今日は先客がいるようなのでいつも通りという訳にはいかない。
「……残念だけど、邪魔にならないようにあっちに行った方がいいよね」
少女は寂しそうな表情でピーちゃんに話しかけた。
楽しみにしていたのだろうということが伝わってくる表情だ。
そんな思いを汲んだのか、ピーちゃんはかごから飛び立ちパンを与えている誰かの肩へと降り立った。
あっという間の出来事だったので、少女も驚いてすぐには動けないでいる。
普段はこういった行動をしないのだろう。
「ピ、ピーちゃん、ダメだよ……」
遅れて少女が追いかけて近づくと、誰かは顔を上げて少女と目が合った。
その誰かは褐色の肌に長いブロンドというとても異国情緒の強い少女だった。
この褐色の少女、容姿も美しいのだがそれと同等以上に瞳がターコイズのように美しい。
ピーちゃんの飼い主である少女も瞳に視線を奪われている。
「このハトさんはピーちゃんと言うのですね。もしかして、ピーちゃんさんもパンが食べたかったのでございますか?」
褐色の少女がパンを差し出すとピーちゃんは嬉しそうにつつき始める。
単純に空腹だっただけ……なのだろうか。
そんなピーちゃんの反応を見てニコリと笑うと、褐色の少女は立ち上がった。
ピーちゃんの飼い主である少女よりやや背が低いだろうか。
「ご、ごめんなさい……」
「大丈夫なのですよー。この公園のハトさんともお友達になれたみたいですし、ピーちゃんさんともお友達になれたなら嬉しいのでございますです」
褐色の少女の言葉遣いはやや独特なようで、そこも加わり異国情緒が更に強くなる。
ただ、生まれや育ちが日本でないのならば十分にバイリンガルと言える。
「それなら良かったです。ええと……」
パンを食べて満足したのかピーちゃんはかごへと戻ってきた。
それを見て、少女はこの後どうしようと悩んでいるのかやや挙動不審気味に周囲を見回している。
「もしお暇なら少しお話しませんか?」
「え?」
「わたくし、公園で知らない人とおしゃべりをするのが好きなのでございますよー」
そう言って褐色の少女は無垢な笑顔を浮かべる、実に抗いがたい表情だ。
しかし、知らない人との会話が好きというのはやや無防備すぎる。
赤の他人とはいえ、大丈夫かどうかを見てはいるのだろうか。
「ほわ……あの、わ、私でいいんですか?」
「もちろんでございますよー、こういった出会いもあったら嬉しいなと思っていつもと違う公園にやって来たのでございますから」
「そういうことなら喜んで……。あの、お弁当作ってきてるんですけど、良かったら一緒にどうですか?」
「良いのでございますか?」
突然の提案に褐色の少女は目を輝かせる。
彼女にとってとても魅力的な提案のようだ。
「はい、ピーちゃんがパンをいただいたお返しということで」
「なるほど、ライラさんはピーちゃんさんと仲良くなれました。つまり、お友達のお友達はお友達ということでございますですねー」
「ほわ……ライラさん?」
「ライラさんはライラさんでございますよー」
ライラは優しく微笑んだ。
ただ、最初にわたくしという一人称を使った影響か、少女はやや戸惑っている様子。
そしてようやく気づいたのか、腕をポンと叩いてから彼女も自己紹介を始めた。
「私は櫻木真乃っていいます、よろしくお願いしますね」
「マノさんでございますか、よろしくお願いしますです」
二人とも揃ってお辞儀をして、顔を上げると二人して笑った。
客観的に見れば非常に絵になるはずなのだが、二人を公園のハトが取り囲んでいるのでシュールな光景となってしまっている。
「アメージングです!」
そんなハトたちに囲まれた二人を見て何かを感じ取ったのか、通りかかった少女が突然叫んだ。
もちろん、声に驚いたハトたちは飛び去ってしまった。
「あ……」
ピーちゃんを除いていなくなったハトを見て、少女は落ち込んでいるようだ。
フワフワの長い髪を二つ結びにしていたり、黄色のヘッドホンを首にかけていたりと彼女も色々と特徴的である。
そして、興奮したり落ち込んだりと表情がコロコロ変わっていることで気づきにくいが、当然のように整った顔立ちの美少女だ。
この公園、実はアイドルやモデルのスカウトマンにとって有名なスカウトスポットだったりするのだろうか。
「ソーリーです、さっきのコンポジションを見てインスピレーションがわいてしまったので……」
二人はポカンとしながら少女の言葉を聞いている。
彼女もまた英語交じりという独特な言葉遣いなので理解が追いつくまで時間がかかるのだろう。
「コン……ピレーション?」
「つまり、あなたもハトさんが好きだということでございますね」
「ほわっ、そうだったんですね」
理解したとばかりに手をポンと叩くライラ、そしてハト好きということに嬉しそうな真乃。
ライクもラブも使われていなかったことを誰かが指摘すべきなのだが……。
「よく分かりましたね、ハトはロコの友達なんですよ!」
ズレた推理と思いきや本質を突いていたのか、自分のことをロコと呼ぶ少女は満面の笑みを浮かべている。
当てられたことが嬉しいのか、あるいは二人ともハトが好きだと思われるので同好の士に会えたことが嬉しいのか。
「ロコはハトの持つポテンシャルをリスペクトしているんです。そんなハトの魅力をエクスプレッションしたアートを作るために色々と考えてはいるんですが、本物のハトには中々敵わなくて……ディフィカルトです」
興奮しているのか、まくし立てるように早口で語るロコを二人はただただリアクションもできずに聞いている。
日本語も英語も中途半端に分かる方が余計に混乱するのかもしれない。
「……あ……ぅ……」
先ほどまでの様子とは一転し、ロコの言葉は消えていき視線も下がっていく。
二人の反応を見て引かれたと感じたらしい。
自分と同じハトが好きな人と会えて嬉しかったとはいえ、やってしまったという心境だろうか。
「ハトさんとお友達ならライラさんともお友達でございますねー、ロコさんともおしゃべりができれば嬉しいのでございますです」
ゆっくりとロコに近づくと、ライラは優しく笑ってそう語りかけた。
身長はライラの方が若干低いのだが、不思議と大きく見える。
そして、ライラの言葉に何かしら共感したのか、ピーちゃんも再びかごから飛び立ってロコへと近づいていく。
彼女がおずおずと手を差し出すとその手にゆっくりと降りた。
ロコは少し驚いた表情でピーちゃんを見つめている。
「ピーちゃんもロコさんとお話したいみたいですね、私も……ですけど。……あっ、私は櫻木真乃って言います」
真乃も近づき声をかけた。
すると、ロコの表情も晴れやかな笑顔に変わっていく。
「ロコはロコです! よろしくお願いします! このシロバトはピーちゃんというんですね、グッドなネーミングセンスです!」
どうやらロコは大人しく手に収まっているピーちゃんを気に入ったようで、目を輝かせている。
人に懐いているハトと触れ合えることが本当に嬉しいのだろう。
今、高揚している感情が芸術的な発想へ繋がるのではないかという期待感もあるかもしれない。
「ロコさんはいつもこの公園に来ているのでございますか?」
「いえ、今日はセレンディピティに期待してフィーリングに従っただけです。ライラとマノとピーちゃんに会えたから、ロコのチョイスはナイスでしたね!」
「そうですね、私はよくこの公園に来ているんですけど、今日はライラさんとロコさんに会えてとっても嬉しいです」
「ライラさんも偶然この公園に来ただけでございますから、まさしくセレンディピティでございますね」
三人はお互いを見る、今日このタイミングでなければ出会えなかったかもしれない縁だ。
自然と笑顔になっているのは、初対面同士とはいえやはり共通の好きなものがあるのが大きいだろう。
「あの、レジャーシート持ってきてるんで場所を変えてご飯にしませんか?」
「そうでございますね、楽しみでございますよー」
「良かったらロコさんもどうですか?」
「一人分を三人でシェアすることになるけど、いいんですか?」
「た、たしかに一人当たりは少なくなっちゃいますけど、みんなで食べられることの方が嬉しいです」
「そういうことなら、喜んでシェアさせてもらいます!」
本当にいいのかと心配していた様子のロコだが、真乃の言葉を聞いて快く頷いた。
そして、さすがに散歩道で昼食にするわけにもいかないので三人は移動を始めた。
設置されている椅子を選ばず少し散歩道から離れた芝生の上という辺り、目立つのを知ってか人目を避けているようだ。
「もう少し作ってくれば良かったですね」
そう言って真乃が蓋を開けると、容器の中には彩り豊かな料理が敷き詰められている。
その上、もう一つの容器には入るように小さく作られたサンドイッチまである。
しっかりとした量があるように見えるが、もしかすると真乃はやや遠出をしてこの公園に来ているのだろうか。
「マーベラスです! ランチボックス内の配置や配色が食欲をそそる……実にアーティスティックなランチですよ!」
真乃のおかずの並べ方に芸術性を見出したのか、ロコは大喜びである。
たしかに、食欲をそそる外観というのは追求しがいのあるアートともいえるかもしれない。
「ほわっ、そ、そうですか? あんまり色が被らないにしただけなんですけど」
「ロコさんの言うようにきれいで美味しそうでございますね」
「ありがとうございます。ええと……二人とも、どうぞ」
「いただきますです」
「いただきます!」
両手を合わせると、二人とも嬉しそうに弁当を食べ始める。
真乃も自分が作った料理を二人も喜んで食べてくれているからか、頬を少し赤くしてニコニコと笑っている。
ちなみに、除菌シートも置かれているようなのでハトを触った後でも心配はいらないようだ。
「美味しいです、マノさんは料理が上手でございますねー」
ライラはそんなことを言いながら、満足そうにおかずを頬張っている。
真乃の料理が美味しいのだということは表情を見れば言わずとも伝わるほどだ。
絶賛されている本人は照れくさそうにピーちゃんを抱いている。
「うん、デリシャスです! いつもランチを用意して来ているんですか?」
「そうですね、いつもこんな風に木陰にシートを引いてお昼にしてます」
「ハトさんたちが寄ってきてしまいそうでございますね」
「ハトさんだけじゃなくていろんな鳥さんもやって来たりしますけど、いつも楽しいお昼になりますよ」
「マノはタフですね。でも、そのランチタイムは見てみたいです。ハトをエクスプレッションするヒントが掴めるかもしれません」
ハトや色々な鳥に囲まれながら楽しそうにお昼を食べる少女、映える光景かもしれない。
しかし彼らが大人しくしてくれる理由がないので、絵に収めるのは難しいと思われる。
「ロコさんはもしかして絵描きさんなのでございますか?」
「ノーです、ロコはアィ……アーティストとして、ニュージェネレーションのインスタレーションをアクチュアライズしたいと思ってるんです!」
「ほわ……ええと、つまり……絵だけじゃなくて色々なもので表現したい……てことですか?」
「その通りです! オーディエンスのココロに届くロコアートをエクスプレッションしたいんです! あっ、ソーリーです。少しヒートアップしてしまいました」
ロコは反省するように縮こまる、どうにもアートについて語ると熱くなってしまいがちらしい。
そんな様子を見て、真乃はニコリと笑い話しかけた。
「そ、そんなに気にしないでください。専門的な話は分かりませんけど、ロコさんの熱い思いが伝わってきましたよ。それってとても素敵なことだと思います!」
珍しく真乃の語気が強い、落ち込む必要なんてないのだと伝えたいのだろう。
ニコニコしながらサンドイッチを頬張っていたライラも、真乃の言葉を聞くと優しく頷いた。
「マノさんの言うとおりでございますよー。夢中になれることがあるというのはとても素敵なことだと思いますです」
「マノ、ライラ……サンクスです」
「いえ、わたくしも良い刺激をもらえたのですよ。二人からいただいた恩はステージの上でありがとうに変えて返せたらよいですねー」
ぽつりと呟くようなライラの言葉に、ロコと真乃は驚いたような表情で反応している。
なにか気になる言葉があったのだろうか。
「あの、ライラさん今……ステージって……」
「はい、言いましたね。ライラさんはアイドルをさせてもらっているのですよ」
「「え!?」」
ライラの告白に驚く二人であるが、偶然出会った人物がアイドルだと知ったら当然の反応である。
といっても、ロコも真乃も特になにかしら行動に出る様子はない。
サインをもらったり写真を撮ったり、そういったことをしないのは事務所的には助かるのだろうが。
「あ、あの、実は私もアイドルなんです。283プロでデビューしたばかりですけど……」
「マノもですか!? ええと、ロコも765プロのアイドルなんです、まさかこんなセレンディピティがあるとは……」
「ほわっ、ロコさんも!?」
「おー、ハトさん以外にも共通することがあったのでございますねー」
予想だにしなかったことに呆然としている二人だが、ライラだけは嬉しそうに笑っている。
この天文学的な確率の偶然を前にして素直に喜んでいる彼女は実に大物である。
「今までアイドルの仕事でバッティングして出会ってなかったのは、単にルーキーだからですかね」
「そうかもしれませんね、ということはこのままお仕事が増えていけば……」
「いずれお仕事のときにまたお会いできるかもしれませんねー」
三人はお互いの顔を見合す。
次に会うとしたらそのときはライバルとなる以上複雑な感情もあるのだろう。
「…………」
「ライラさんは安心したのでございますよ、ライブのときに会えたら二人にも届くようにと歌えますですね」
「じゃあ、もしオーディションのときに会えたら……」
「二人に負けない演技を見せます!」
「お仕事のときの楽しみが増えたでございますねー」
もう一度三人は顔を見合わせる、みんな良い顔をしている。
いいライバルに会えたというところだろう。
「そういえば、二人もW.I.N.G.を目標に活動しているんですか?」
「オフコースですよ」
「ライラさんもですねー」
真乃がたずねると二人とも肯定した。
W.I.N.G.――正式名称ワンダーアイドルノヴァ・グランプリは、新人アイドルの祭典とも呼ばれているいわば登竜門である。
優勝したアイドルの中にはアイドルアワード受賞者も出ていることからして、トップアイドルを目指すのであれば絶対に手に入れたい栄誉だと言えよう。
「ロコナイズされたステージでアーティストなアイドルとしてのロコをオーディエンスに届けたいです!」
「ライラさんも、応援してくる人たちへの恩返しを込めてありがとうをステージの上から伝えたいでございますね」
「私も、輝きをみんなに届けたい。見てくれる人みんなに」
「マーベラスです! できればW.I.N.G.の決勝でライラとマノに会いたいものですね」
「ほわわ、決勝……が、がんばらないと」
「でも、決勝で会えたらとっても嬉しいですねー。ライラさんもがんばりますですよ」
「帰ったらこの思いをロコアートでエクスプレッションです! でもその前にサンドイッチをイートです!」
「ライラさんもいただきますねー」
「ほわ、私も食べないと」
その後、三人は取り留めのない雑談で盛り上がったりしつつも弁当を完食したのであった。
しかし昼食も終わり、レジャーシートを片付ければ早くも別れの時間がやってくる。
「それでは、ここでお別れでございますね。お弁当ごちそうさまです」
「ごちそうさまでした、いつかマノにはハトのロコアートを寄贈してお返ししたいですね」
「二人とも……じゃなくて、あの……ライラちゃん、ロコちゃん、今日はありがとう。すごく楽しかったよ」
真乃はあえて、二人の呼び方や言葉遣いを改めた。
友達でありライバルでもある、そういった意味も込めているのだろうか。
「ロコもエンジョイできました、サンクスです」
「また会えると良いですねー」
名残惜しくはあるだろうが、三人は手を振り再会を約束してそれぞれの帰る場所を目指す。
少しだけ歩いてから真乃は一度振り返る、しかしもうライラとロコの姿は見えない。
「W.I.N.G.でまた会いたいね、ピーちゃん」
寂しさを感じたのか、真乃はピーちゃんに話しかけた。
肯定をしているのか小さく鳴くと真乃は笑顔になり前を向いてまた歩き出した。
「行くんだ、灯織ちゃんとめぐるちゃんと一緒に……むんっ!」
気合を入れているのか、拳をグッと握り声を出す真乃。
彼女のユニット仲間は次に会ったとき、目標が増えて少しだけ変わった真乃にちょっと驚くかもしれない。
ハト好きでもある三人のお話でした。
共通点があるアイドルたちはいつか公式で絡みが見られたらいいのですが。