繋がるイルミネーション   作:赤川3546

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・北村想楽、桑山千雪のお話となっています。

・ゲーム寄りのため、315Pは台詞なしとなっています。

・北村想楽がアイドルになった経緯に関してはエムステ準拠にしています。



まっすぐな人

「雑貨屋のお仕事?」

 

 北村想楽は渡された資料に目を通すと、プロデューサーへ尋ねた。

 本当に自分への仕事なのか、恐らく確認のためだろう。

 プロデューサーもそれを分かっているのか経歴を踏まえてのオファーであると想楽に伝えた。

 

「なるほど、たしかにアルバイトでも関わりがあった人の方が望ましいよねー」

 

 嫌がっている様子ではないことを確認して安堵したプロデューサーは仕事の内容についての補足を始めた。

 雑貨屋のPRを目的とした雑誌掲載用の写真の撮影や、想楽がアルバイトをしていたという経験を活かす宣伝になるようなポップの作成等々。

 そして、もう一ついつもとは違う条件があるのでその説明をプロデューサーは加える。

 

「違う事務所のアイドルも一緒……もしかして、その人も経歴を踏まえてのオファーなのかなー?」

 

 想楽の問いにプロデューサーは少し考えてから首を左右に振った、どうも違うらしい。

 彼と同様の経歴というわけではないらしく、想楽はそこが気になったようでプロデューサーに質問をする。

 

「元雑貨屋というわけではないってこと?」

 

 今度は迷いなく頷き、プロデューサーはもう一つの資料を手渡した。

 それは一緒に仕事をすることになっている相手のアイドルの資料だった、あちらから送られたものだろうか。

 だとするとどうやら相手の方が先に出演が決まっていたようである。

 

「名前は桑山千雪さん、雑貨作りが趣味で特技が裁縫……なるほどー。たしかに違うけど、趣味で作ってるってことなんだねー」

 

 プロデューサーも同意するように頷いている。

 その他のプロフィールも想楽は眺めていく。

 彼同様に三人ユニットを組んで少し前にデビューをしたらしい。

 年齢は二三歳とのことだが前職は特に記載されていない。大学院に進んでいるのか、あるいは働いていた会社に迷惑をかけないよう詳細を書いていないのか。

 これ以上は特に目を引くものはなかったのか、想楽は視線を上げた。

 しかし、何かに納得がいかなかったのか彼は首を傾げている。

 

「それにしても、趣味が雑貨作りっていう人は探せば他にもいるような気もするのに、どうしてこの人なんだろうねー」

 

 想楽の疑問に対して、プロデューサーは少し考えてから言葉を返した。

 

「もしかしたら向こうの場合は、オファーではなくてプロデューサーから営業をかけたのかもしれないって? なるほど、こういう企画を考えてるって話を聞いて営業をかけたなら納得できるかなー。腑に落ちたよー、ありがとうプロデューサーさん」

 

 気が晴れたのか爽やかな笑顔を浮かべる想楽。

 たしかに数多のアイドルが活躍している昨今、雑貨作りという趣味を武器に活躍の場を広げるのはプロデュース方針として正しいと思われる。

 想楽自身が元雑貨屋という経歴から今回のオファーに繋がっていることも踏まえると、更に説得力が増す。

 

「行く先は、巡り巡って、最初の地。……プロデューサーさん、覚えてるかな? 僕がアイドルになったきっかけは、働いていた雑貨屋でプロデューサーさんに出会ったこと。といっても、今回お仕事で行く雑貨屋は僕の働いていた場所ではないけどねー」

 

 想楽に問われると、プロデューサーはそのときのことを思い返すようにゆっくりと、しっかりと頷いた。

 それを見て、彼は嬉しそうに笑った。

 

「安心したよー、まだそんなに時間が過ぎていないのに忘れられていたら困るからねー」

 

 想楽は笑顔ではあるもののどこか真剣な声色だと感じさせる。

 それだけ忘れないでいてほしい、彼の原点であるということなのだろう。

 

「さてと、今の内にポップのデザインを少し考えておこうかなー。店内の雰囲気が分かるような写真なんかあると嬉しいんだけど」

 

 十分話し合えたと感じたのか、想楽は雑貨屋での仕事が始まる前に準備を進めるつもりのようだ。

 プロデューサーも良い判断だと考えたのか、満足そうに頷きながら雑貨屋の資料を渡した。

 

「ありがとう、プロデューサーさんもなにか面白いデザインが浮かんだら教えてねー」

 

 あまり思いつきそうにないという表情ながらも、プロデューサーは想楽の提案に対してサムズアップで答えた。

 

「よろしくー」

 

 期待しているのかしていないのか、表情からは読み取れないが微かにはみかみながら想楽は部屋を後にした。

 部屋を出てからもどこか想楽の歩みは軽やかである、久しぶりに雑貨屋へ訪れることになったからだろうか。

 なんにせよ、別事務所のアイドルと仕事をするということは新たな刺激を受ける機会にもなる。

 その刺激が良い変化に繋がるきっかけになればとプロデューサーも想楽も考えていることだろう。

 

 

 

 

 

 仕事の当日、早めに店長との挨拶を済ませた想楽とプロデューサーは雑貨屋の中を見て回っていた。

 ポップを作る為に店内の雰囲気を感じ取っているのだろう、写真だけでは分からない部分の確認といったところか。

 だが、想楽の表情はどこか懐かしんでいるようでもある。

 雑貨屋で働いていたときのことを思い出しているのだろう。

 

「楽しそう? うーん、働いていたときとはまた違った見方ができて新鮮だからかもしれないねー」

 

 プロデューサーの質問に対して、想楽は楽しそうに笑いながら答えた。

 視点が変われば新たな発見も色々と出てくるということ、それを楽しむことができるのは良いことだ。

 そして、二人が会話をしていると三人の人物が店内へと移動をしてきた。

 一人はこの雑貨屋の店長、一人はスーツを着た恐らくプロデューサーと思わしき人物。

 そして、最後の一人は落ち着いた雰囲気の美しい女性だった、長い髪を一つの三つ編みに結び左肩から垂らしている。

 想楽たちの視線に気づいたのか、スーツの人物と女性は二人に近づき一礼してから笑顔を浮かべた。

 

「初めまして、283プロの桑山千雪です。今日はよろしくお願いします」

 

 千雪は彼女のプロデューサーに促され優しく微笑みながら挨拶をする。

 すると、想楽もプロデューサーに背中を押されて挨拶を返す。

 

「315プロの北村想楽です、こちらこそよろしくお願いしますねー」

「あら、ということはあなたが以前に雑貨屋で働いていたっていう」

 

 千雪も想楽のプロフィールを見て知っていたのか、なにやら嬉しそうな表情へと変わっていく。

 

「そうですねー、バイトではありますけど元雑貨屋ですよー」

「ふふっ、働いていたときのお話なんかも聞けたら嬉しいですね」

「……? まあ、雑談程度ならですかねー」

 

 言葉を交わしている最中、想楽は一瞬だけきょとんとした表情に変化した。

 すぐに柔らかい表情に戻ったものの先ほどの千雪の言葉の中に違和感を抱く部分があったようだ。

 雑貨作りが趣味というだけなのに、雑貨屋でバイトをしていた人物の話を聞きたいというのがどことなく不思議に感じたのだろうか。

 好きであるなら雑貨そのものに関しての話となりそうなところを、働いていたときの話が知りたいということが引っかかるのかもしれない。

 就職活動に悩む学生ならともかく、彼女はアイドルとして働いているのだ。

 

「ん? プロデューサーさん、どうかしたのかなー?」

 

 二人の会話が一段落したところで、プロデューサーが想楽に声をかけた。

 どうやら、こちらも先ほどまで店長や千雪のプロデューサーと話をしていたようだが。

 

「なるほど、これから打ち合わせになるんだねー。今日のスケジュールに関してなら僕は……ここで待って店内を見学しながらデザインを考えてほしい? 分かったよー、プロデューサーさんがそう言うのならー」

 

 想楽が微笑むとプロデューサーも笑い返した、そして店長や千雪のプロデューサーと共にこの場を離れていった。

 同じ状況である千雪の方に目をやると、彼女は困ったような笑顔を浮かべる。

 

「困りましたね……。そうだ、せっかくだし一緒に店内を見て回りませんか?」

 

 突然の千雪の提案に想楽は少し戸惑っている様子ではあるが、提案自体は悪いものではないはず。

 そう感じたのか、彼は提案を受け入れることにしたようだ。

 

「そうですねー、ポップ作りの準備にもなりますし行きましょうかー」

「お店の雰囲気に合ったものを作りたいですからね」

 

 歩き出した二人はそんなことを話しながら商品であったり配置のデザインなんかを眺めている。

 そして、お互いに違う事務所のライバルという関係ではあるものの意見を交換したりコミュニケーションを取っている。

 より良い仕事を、という意識だろう。

 

「僕は雑貨屋時代のように色粘土を使おうと思っているんですけど、桑山さんはどんな材料を使うつもりなんですかー?」

「色粘土……カラフルで立体的なものが作れそうですね。ええと、私は刺繍……はもう作って……じゃなくて、フェルトを使うつもりです。これも色合いを考えたりするのが楽しそうですからね」

「……なるほど、フェルトですかー。お店の雰囲気に合った色合いとかデザインを考えるためにもう少し見て回った方がいいかもしれませんねー」

「そうですね、もう少し見て回りたいです」

「断られなくて安心しました、僕もまだ明確なイメージが作れてないんでー」

 

 笑顔を浮かべながらやり取りしている想楽だが、会話が終わると少し考え込んでから再度視線を千雪へと戻した。

 その表情はどこか神妙であり、なにか気になる点があったのかもしれない。

 特技は裁縫であるという話なのに刺繍ではなくフェルトを使ったデザインにしようと考えていることが引っかかっているのだろうか。

 裁縫ができるからといって刺繍もできるとは限らないのだが、なにかを隠し偽っているかもしれないというのは想楽からするとどうしても気になってしまうのだろう。

 

「北村くん、この棚を見てください」

「どうしました? ……おお、なるほどー」

 

 千雪に呼ばれ棚を見てみると、想楽は感心の声を上げた。

 棚ということは商品の陳列、あるいはデザインが優れているのだろうか。

 

「商品の色や種類で綺麗にまとめられています、視覚ではっきりと分かる陣列だから思わず目を奪われてしまいますね」

「ごちゃごちゃとしすぎず、奥にある商品も見やすく手に取りやすい配慮。この棚に限らず、このお店は見て楽しめることに重きを置いているみたいですねー」

「お客さんが楽しんで買い物をできるなら、それが一番ですから。でも、少しポップのデザインが見えてきた気がします」

「……そうですねー、この陳列は参考になると思います。それにしても、面白い視点で見ているんですねー。まるで店員ですよー」

 

 興味深いといった様子で棚を眺めている千雪に対して、想楽は思ったことを素直に言葉にした。

 彼がずっと感じていた違和感は、千雪が客視点ではなく店員視点で話をしているということだったのだろう。

 

「ええと、その……やっぱり雑貨屋さんで働いていた経験があると分かっちゃいますか?」

「話を聞いているとお客さんに楽しんでもらえるようにって色々と考えているのが伝わってきますからねー、店員ならではの視点ですからさすがに違和感がありますよー」

「そうですか、少し気をつけた方がいいみたいですね。無理を言って兼業をさせてもらっている以上、どちらにも迷惑をかけたくありませんから」

 

 想楽の意見を聞くと、千雪は困ったように笑顔を浮かべた。

 雑貨屋として働いてもいる彼女の裏表のない純粋な表情を見て、想楽は少し驚いているようだ。

 何かしらの損得勘定で動いているという予想の方が強いのだろう。

 

「でも、兼業をしている時点で多少の迷惑はかけてしまっているんじゃないですかー?」

 

 想楽はそんなことを尋ねた、感じたことを素直に言葉にしたようだが……。

 仮に失礼であると受け取られても聞きたかったことなのだろうか。

 

「そうですね、わがままでどっちつかずだって分かってるんです。それでも……」

「……すみません、野暮なことを聞いてしまいましたね」

 

 想楽は千雪の話を遮るように謝罪の言葉を口にした。

 彼女が苦しそうな表情を浮かべていることから、どちらも大切だからこそ兼業という無茶な選択をしているのだと理解したようだ。

 真意を知りたかっただけなのだから、これ以上は悪意を持った責めになりかねない。

 

「いえ、別にそんなことは……」

「どちらにも嘘をついているとか損得勘定で動いているとかではなくて、優柔不断なだけで安心しましたよー」

「ゆ、優柔不断……でも、たしかにそうですね。大切だからって選べないでいるわけですから」

「あっ、すみません……悪く言うつもりはなくて……ええと……うん、整いましたー」

「え?」

「迷うのは、想う心が、強いから。アイドルも雑貨屋も大切にしているんだと、桑山さんの言葉からきちんと伝わりましたよー」

 

 本当に悪い意味で言っているのではないらしく、想楽は慌てて嘘偽りのない句を作り笑ってみせた。

 誤解を恐れての迅速な行動だろう。

 

「ふふっ、いい句ですね」

 

 千雪はそんな感想を伝えながら優しく微笑んだ。

 これは句として良いという意味以上に、傷つけるつもりがないという気持ちが伝わったという意味合いの方が強いと思われる。

 

「きちんと届いたようで安心しました。……それにしても、兼業していることを僕に話してしまって良かったんですかー?」

「既になんとなく気づいていたみたいですから、逆に隠そうとした方がおかしくなってしまうと思ったんです。だから、内緒にしていてもらえますか。私が……決断をするまで」

 

 真剣な表情でそう語った千雪は話が終わるといたずらっぽく笑いながら人差し指を唇にそっと当てる。

 笑顔を作ってはいるものの、いずれどちらかを選ばなければいけない時が来るということは覚悟しているようだ。

 そのことを感じ取ったのか、想楽は笑い返すことをしたりせず千雪の言葉に耳を傾けている。

 

「……難しいということは理解はしているんですねー」

「さっきの北村くんの指摘通り、影響が少しずつ出てきてしまっていますから。このままではダメだって分かってはいるんです」

 

 千雪は寂しそうに笑っている、どちらも彼女にとって本当に大切なのだろう。

 しかし、片方しか選べないと理解してしまった瞬間が恐らくあったのだ。

 

「僕には今の桑山さんのような状況の経験がないので毒にも薬にもならない言葉しか伝えることができませんが、最善の選択ができるようにと願っていますよー」

「ありがとうございます。……ふふっ、なんだか不思議ですね」

「不思議?」

「ライバルのはずの違う事務所のアイドルの人から応援されるだなんて」

 

 真面目に考えるほどおかしくなってきてしまったのか、千雪は笑いながらそんなことを口にした。

 微かにあどけなさも感じる明るい笑顔だ、そして彼女につられたのか想楽の顔も柔らかく綻んでいく。

 

「確かに不思議ですねー。元とはいえ僕も雑貨屋で働いていましたから、きっとそのちょっとした縁が理由でしょう」

「こういった縁は大事にしたいですね」

「桑山さんは両方現在進行形ですけど前も同業今も同業なんてそうそうないでしょうから、この縁はたしかに大事にしたいかもしれませんねー」

「さてと、そろそろ見学も終わりにしてポップ作成の準備に入りますか?」

「そうですねー、僕もデザインは決まったんで大丈夫ですよー」

 

 そうして二人はポップの作成をする場所へと移動を始めた。

 初対面からくるよそよそしさは既に消えており、共通点からくる仲間意識に近いものが生まれているのかもしれない。

 

 

 

「いえー、こちらこそ今日はありがとうございましたー」

 

 そう言って想楽は雑貨屋の店長に笑顔で頭を下げた。

 互いの表情を見れば分かるように、どうやらポップは喜んでもらえるものを作ることができたようだ。

 店長は挨拶が終わると今度は千雪たちの方へと向かっていった。

 

「気に入ってもらえたみたいで良かったねー」

 

 想楽がプロデューサーに声をかけると、同じ感想を抱いたのか満足そうに頷いた。

 プロデューサー的にも二人の作成したポップは良いものだと感じているらしい。

 

「これでお仕事は全て終わりかな? ……店長さんに少し話があるから待っててほしい? なら、もう少しだけお店の雰囲気を楽しんでるねー」

 

 店長に声をかけ移動するプロデューサーを眺めていると、同じく自分のプロデューサーを見送っている千雪が想楽の視界に入った。

 何かしらの問題を抱えているとは思えない穏やかな表情をしている。

 プロデューサーの姿が見えなくなると彼女はすぐに想楽の視線に気づいた。

 

「お疲れ様でした、お互いにいいものが作れたみたいですね」

「店長さんに喜んでもらえてほっとしましたよー、バイト時代に作っていたときとは違いますからねー」

 

 想楽は安堵の表情を浮かべている、店長の反応を見るまで緊張していたのだろう。

 身内で作るものと、客から依頼された品では意味合いが違うので当然だ。

 アイドルが作ったという宣伝効果が大切なのだとしても、元雑貨屋だからという理由の仕事である以上しっかりと喜んでもらえるものを作りたいという感情があるのだ。

 

「そうですね、やっぱり喜んでもらえるものを作りたいですから」

 

 千雪も安心したような表情をしている、やはり彼女も緊張していたのだろう。

 

「ポップを作る前に宣伝用の写真も撮りましたし、僕たちのお仕事はこれで終わりですねー」

「もう少しでお別れですね、雑貨屋で働いていたときの話を聞いてみたかったですけど」

「……そうですねー」

 

 想楽は仕事でまた会えるとは口にしなかった。

 千雪がアイドルと雑貨屋どちらを選ぶかはまだ分からない、ここで再会を約束すれば彼女の迷いを強くしてしまう可能性があると感じたのだろう。

 そういったことでも悩むまっすぐな人、想楽は千雪をそう評価しているようだ。

 

「今日初めて会ったことを考えると、なんだか寂しいって感じるのはどこか不思議ですね」

「雑貨屋っていうちょっとした縁のおかげですかねー」

「そうですね」

「……お別れの前に一句送らせてください。蒼穹に、連なる四羽、往く旅路」

「…………」

「桑山さんも三人ユニットと聞いたので、あまり一人で抱え込むとかえって迷惑をかけてしまうかもしれませんよー」

「……ありがとうございます、北村くん」

 

 四羽という表現を指摘しないのは、千雪も誰にユニットが支えられているのか理解しているということ。

 一蓮托生、ユニットとして活動していく以上は色々なことを共有していくことになる。

 自分だけの問題だと抱え込んでしまうより、僅かでも問題を打ち明けた方が解決に向かうこともあるだろう。

 近しい人物に話を聞いてもらったというだけでも、何かを変えるきっかけにはなり得るのだ。

 

「桑山さんがどちらを選ぶにせよ、このちょっとした縁が続いていてまたどこかで会えるといいですねー」

 

 プロデューサーたちが戻ってきたのを見て、想楽はそんなことを言った。

 きっと縁はまだ続いていて今度は雑貨屋の話なんかもできるだろうという期待も込められているようだ。

 

「はい、楽しみにしていますね」

 

 千雪も再会できると願うようにと優しく笑うと自分のプロデューサーの元へと向かった。

 そんな彼女を目で追っていると、視線の先から彼のプロデューサーが手を振りながら歩いてきている。

 なにやら楽しそうな表情である。

 

「え? 仲良くなったって……それはまあ、一緒にお仕事したからねー。悪い人じゃなかったら普通じゃないかなー?」

 

 どうやら店長と打ち合わせ等をしている間に千雪と仲良くなっていたことを面白いと感じているようだ。

 千雪が雑貨屋を兼業していることを知らないプロデューサーからすると、共通点が少なく会話の取っ掛かりがないと思うのは当然である。

 年齢も同世代とはいえないのでなおのこと不思議なのだろう。

 

「なんというか、とてもまっすぐな人だった」

 

 想楽はどこか羨むような目で再度千雪を見ている。

 それを感じ取ったのか、プロデューサーに茶化すような態度はもうなく真剣に彼の言葉に耳を傾けている。

 

「良いことだけじゃないのは分かるけど……僕もあんな風にまっすぐに生きることができるのかな」

 

 そんなことを想楽が呟くと、プロデューサーは彼の頭をポンと優しく叩いた。

 

「……そうだったねー、その為に僕はアイドルになったんだ」

 

 想楽の目からは羨む気持ちは薄れ、強い意志を感じさせる。

 プロデューサーはそれを見ると嬉しそうに笑って頷いた。

 

「我が心、偽ることなく、あるがまま。僕らしくまっすぐに生きていくために……これからもよろしくねー、プロデューサーさん」

 

 二人はお互いを見合って笑い合い、再び歩き出した。




千雪さんがアイドルに専念するのはシーズン3の途中からなので、時期的にはシーズン2から3の間くらいの話の想定です。
Legendersはシャニマスでいうとシーズン2くらいからのデビューとかになるのでしょうか。

書きながら、千雪さんの兼業期間は半年手前くらいのはず、そうなるとさすがにシーズン2辺りからファンの中では気づく人とか出ていたのではとか考えていました。

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