青の少女のヒーローアカデミア   作:かたやん

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第2話

雄英高校 地下三千メートル 「青の少女」管理施設にて

 

 世界が青に飲まれた「青の世界」から十年が経過した。

 真相は政府により隠蔽された。

 事件は複数の(ヴィラン)による計画的犯行だとされている。

 危うく世界が滅びるかもしれなかった、この事件を解決したオールマイトの人気は、日本のみならず海外でも不動のものとなっている。

 そして、そのオールマイトの出身校である雄英は、倍率400倍を誇る超難関校だ。

 事件解決数史上最多の”エンデヴァー”。

 ベストジーニスト8年連続受賞”ベストジーニスト”。

 そしてナンバーワンヒーロー”オールマイト”。

 数々のスーパーヒーローを輩出してきたこの高校。

偉大な(グレイトフル)ヒーローには雄英卒業が絶対条件、とまで言われている始末だ。

 まあ実際にはそんなこと無いのだが。

 そんなヒーローを目指す者なら、誰もが羨む狭き椅子を

「ボクもそこに行くんですか?相澤さん」

 その少女は試験もなしに座ることが確定している。

 凄惨な事件「青の世界」を引き起こした彼女は十五歳となっていた。

 青い髪は腰まで伸び、体つきもやや女らしくなっていた。

 年頃の女の子に比べたら起伏は足りないだろう。

 が、そんなことは些細なほどに美しい少女に成長している。

 本人には間違ってもそんなこと言わないが。

 そして社会経験が絶望的に足りないためか(というか皆無)、どこか残念な印象が抜けない。

 まさに文字通りの箱入り娘だ。

「まぁそういう事だ、準備はしておけ」

「準備って言ってもボク何も持ってないよ?」

「心の準備をしておけ」

「なるほど……。わくわく。どきどき」

「……」

「あ、漫画は持って行っていいの?」

「駄目だ」

「えっ!? ぶーぶー!」

 相澤消太(あいざわ しょうた)は、これから待ち受けるであろう未来を想像してため息をついた。

 こんな大が百個は付くほどの問題児を、相澤は受け持たなくてはならない。一週間後、雄英高校ヒーロー科1-A組。その()()()()として。

 そして彼女の都合上「除籍」も出来ない。非常に厄介だ。

「ひとまずお前の名前は青石ヒカルだ。覚えておけ」

「わぁ、なんだか普通っぽい?名前だね」

「じゃないとクラスで浮くだろうが」

 相澤が一か月考えに考えた名前なのだが、彼女が知る由もない。

「ずっと”アズライト”って呼ばれてきてるから、なんだか変な気分」

「……そうだな」

(こんな形で名前を与えることになるとはな……)

 ”青の世界”の事件を引き起こした当時名もない少女は、雄英高校の地下深くに建造された施設へと移送された。

 より厳重に管理して、あわよくばその力を利用しよう。というのが政府の魂胆だろうと相澤は予想している。

 地下三千メートルというと大袈裟かと思うかもしれないが、この少女が起こした惨事を考えると当然の事かもしれない。

 当初の予定では五千メートルだったが、予算の関係上三千メートルに変更されたらしい。

 法月が言っていた事なので間違いないだろう。

 このとぼけた少女が十年前に引き起こした「青の世界」のきっかけや原因は、政府によって隠蔽されているので分からない。

 ろくでもない実験でもしようとして、失敗したのではないかと相澤は推測している。

(ったく……つくづく糞みたいな話だ)

「アズライトだが、それは本来お前の個性の名前だ。

 個性聞かれたらそれで通しておけ」

 彼女の個性はイメージが非常に重要になってくる。

 研究者によると彼女に名前を与えることは、非常に危険な行為だということだ。

 だから彼女に名は与えられなかった。

 どうしても呼ぶ必要がある時には、個性の名前の”アズライト(A z u r i t e)”と呼んだ。

 だが彼女の個性も年々強力になってきており、閉じ込めるにも限界が近づいてきている。

 早めに社会生活に慣れさせないと、冗談じゃなく世界の危機だ。

 だが名前が無いことには、社会生活を営むことは出来ない。

 だから今回名前を与えたのは、政府にとって苦肉の策という事になる。

「えっと、ボクの名前が青石ヒカル。そして”個性”がアズライト……だね」

「覚えたか」

「うん大丈夫」

 相澤には不安しかない。

「ボクの名前は青山ヒカリだよ」

「さっそく間違えてんじゃねえか!」

 スパーン!と気持ちいい突っ込みの音がヒカルの頭から響いた。

「ひっ、酷いや」

「復唱してみろほら」

「ひっ、酷いや」

「そっちじゃねぇ!」

 パシコーン! 景気のいい音が頭から響く。「うう……」と頭を押さえて彼女は口にする。

「ボクの名前は青石ヒカル。個性名はアズライト。個性で出来ることは……」

――なんでも。

「……個性の詳細については明かすな。困ったら分からないで通せ、いいな?」

「分かったよ。でも大丈夫かな?周りに迷惑かけないかな?ボク全然自信ないよ……」

「個性の制御に関しては、俺の教えられること全てを教えた。

 お前は()()()()で言えばプロのそれを遥かに上回る。自信を持て」

 実際相澤を含めてトップヒーロー達がこの少女の訓練には関わっている。

 個性は成長するもの。わずか五歳の少女は引き起こした事態の規模を考えたら

 個性の制御の訓練は最重要事項だった。

 そんな回りくどい事をせず、処分(ころ)してしまえという声も政府内には上がっていたようだが、

 法月が押さえ込んでいたらしい。

 とにもかくにも、相澤でさえ裸足で逃げ出すような苛烈な訓練を少女は課せられた。

 その結果ほぼ完璧な個性のコントロールに成功している。

 普通の子なら遊びや勉学に費やす時間をすべて、個性のコントロールに次ぎこんでいる。

 十年かけて仕上げたのだ。

 この完成度で駄目なら、プロヒーローは全員免許を返納すべきだろう。

 既に少女の能力は、オールマイトをも遥かに超えていると相澤は感じていた。

だが……。

 その訓練の過程は、あまりにも過酷かつ残酷な内容で。

 相澤はこの少女が歪んで育ってしまうのではないかと非常に危惧していた。

(実際歪んで育ってしまったわけだが)

「そんな……相澤さんが褒めるだなんて。……どうしたの相澤さんおかしいよ?

 熱でもあるんじゃないの?……!! まさか偽もnあいた!」

「黙っていろ。お前はいつも一言多いんだ。学校生活で苦労するぞ」

 彼女の頭頂部には、見事なたんこぶが出来ていた。

 ふうと相澤は一呼吸おく。

 ちょっと間をおいて、もう何度目になるか分からない質問をした。

 ほんの少しだけ希望を込めて。

「……その個性でオールマイトを治す気はないのか?」

「ないかな。だってボク」

 

――あの人の事、大っ嫌いだから。

 


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