最低最悪の魔王
「さぁさぁさぁ!ズボ!っと手を入れてカバ!っと一枚引きたまえ!キミの第二の生き方ね!!」
やたらとハイテンションで穴の開いた箱を進めて来るこのイケメン。信じられないがカミサマらしい。
なんでもよくある神のうっかりミスで死んでしまったこの自分。360°真っ白空間に居たと思ったら良くあるテンプレで転生させてくれるらしい。
そして顔の近くまでズイズイと持ってこされた白い箱。何でも中にある紙に書かれたキャラクター。漫画、アニメ、ゲーム、ラノベ、映画、特撮などに出て来たキャラにさせるだけでなく、技能もアイテムもそのままそっくりで第二の人生を歩ませてくれるとか。
「さぁほら速く引きたまえ!こう見えて時間が押してるから!!チャンスはきっちり一回!アタリもあればハズレもある運命の瞬間だよ!!」
さっきからずっとコレである。いい加減こっちもこのハイテンションに付き合うのが嫌になってきたのでなし崩しに手を入れて、適当に紙を引き、その一枚を開いた。
とにかく主人公はヤダな。自然と面倒事に巻き込まれそうだから。出来ればモブキャラとかそういう立ち位置の…。
【逢魔時王】
「…………ファ!?」( ゚Д゚)
「オォ!!大当たりィ!!キミィ、パッとしないカンジなのに中々の強運じゃないの!!」
なんか神が言ってきてるが全く耳に入ってこない。だって紙に書かれたキャラの名前がアレ過ぎるもの。
逢魔時王ってあのオーマジオウ?平成ライダー20作品目の仮面ライダージオウに出て来るアノ?最低最悪の魔王と言われたアノ?平気で時間操ったりライダーの力ポンポンと使えたり、時空を破壊出来ちゃったりする、アノ?
「お、詳しいねぇ。さてはオメー、特撮オタだな?」
もう神の言う事など一切頭に入ってこない。何なのコレ?どうしろって?こんなバグ的な存在になってどうしろっての?こんなんじゃ主人公どころじゃねえ、もっと最悪な運命に巻き込まれる気がする…!
「じゃ、転生させるね!あ、そうそう。キミが向かう世界は他の転生者もいっぱいいるから!ではでは良き転生を~~。」
オイこら待て!!まだ心の準備が!!ていうか重要な事サラッと言ってたけどマジ大丈夫なの!?ねぇちょっと!!
─────
──
─
(───んん?…眠ってしまってたか。)
陽射しの心地良さで眠ったお陰か、また懐かしい夢を見た。この世界に来る前の、本来の姿をしていた自分の。
古き武家屋敷の縁側に腰を掛けた自身の手を広げてよく見る。
依然と比べ見違える程細くなりシワが目立つ己の手を。今では黒かった髪も色素が抜け真っ白な白髪。そう、今の自分は誰がどうみても縁側で日向ぼっこをしているお爺ちゃんなのだ。
転生を果たし長い時間が経ってこの姿になったわけではない。この世界に来て最初からこの姿なのだ。確かに今の自分は常磐 ソウゴだが、まさか本編の約50年後であるお爺ちゃん状態で第二の人生スタートとは、誰が想像できたか。
『我が魔王。お茶をお淹れしました。』
「おぉ。すまんな、カンテーンよ。」
『勿体なきお言葉…後、私の名前はカッシーンでございます。』
「おぉ、すまんすまん。いやぁ最近物忘れが激しくなったのぉ、カッペリーニや。」
『恐れながら我が魔王。その物忘れは老年期によるボケと言うには、度を越しているかと。』
「ホッホッホッホ。」
忠実な僕である金ピカのロボットのカ……カッチャーンの淹れた緑茶を啜る。
最初の内はそら酷く困惑してしまったが、よくよくみて立派なお家に余裕ある資金。それと一切の不満も言わず生活を支えてくれるヘルパー…ではなく忠実な僕付きの生活。姿だけでなく中身も、趣味趣向も完全に年寄り染みた自分からしたら、悪くない第二の人生を歩んでる。
そう、今この瞬間を…。
『……我が魔王。』
「んん?……なんじゃい。」
傍で正座していたカ…カンパーンが突然立ったと思ったら、庭に降りて私の前に跪く。
普段私の世話している時とは違い、えらい緊張感ある空気を纏っている様子を見て、私はカッシーンが何を言いだすか全て察した。
『我が王よ。僭越ながら、王への進言を。』
「…良い。申せ。」
『恐縮であります…我が魔王。貴方様がこの無人の島に居住を構え2年…我が魔王がこの世界にその威光を示されてから、2年の年月が経ちました。』
「……。」
2年前、そう。この私がこの世界の歴史にその名を刻ませたあの日。
世に、逢魔の日と言われた大虐殺の日から…。
自身の転生させる直前に神はこう言っていた。”他の転生者もいっぱいいる”と。
その転生者達は大きく分けて二つの派閥に分かれて対立しあっていた。
授かった力を自身の欲のままに振るい、世界を破壊と混沌を広げる悪の集団。
授かった力と己の良心を用いて、世界の秩序と安定を齎す善の集団。
彼等が対立を始めてから僅か一年。日を増すごとに激化していく抗争の争いは遂に世界を巻き込む程の争い、すなわち戦争が勃発するまでに勢いを増した。
今、全世界は善と悪の繰り出す戦争によって混乱の時代と化していたのだ。
あの日までは…。
<< 祝福の刻! >>
<< 最高!最善!最大!最強王! >>
二つの軍勢の間から突如として鳴り響く威厳ある声。マグマが奔る大地の中に佇む一人の人間を中心に包み込む黄金の光。やがて光が晴れると、その姿が明確に見えるようになる。
黄金の装飾に身を包み背中に翼の如く取り付けられた時計の針。そして自身の存在を大いに主張するかのような頭部に目元に収められた燃えているかのように赤いライダーの文字。
たった一人、二つの軍勢のど真ん中に突如現れた仮面の戦士、否、時空を司る時の王者。
<< 逢魔時王! >>
『……。』
王が俯いた顔を上げ、周囲の者達にその姿を見せる。
たったそれだけで、逢魔時王を囲っている者達は固唾を呑んだ。その存在感に、放たれているプレッシャーとでも言うべき圧力に、それこそ時間が止まったかのような空気となった。
『……。』
逢魔時王は何も言わず両手を翳す。丁度、善と悪の軍勢に向けて。
次の瞬間。両軍に爆撃を降らしたかのような大爆発が起きた。地響きと巨大な火柱によって辺り一帯を焦土と化し、爆発音に紛れ数多くの悲鳴を散らし、灰燼と化した。
一度の攻撃で半数近くを消し炭とされた両軍は、イヤでも目の前の存在が桁違いの化け物だと知らされた。だから両軍はたった一人を相手に形振り構わず向かって行った。
ある者は、人類史に残された英雄と武具を用いて、空から魔法や魔導、科学の力を以て、中には逢魔時王と同じ仮面の戦士も。
『……フン。』
逢魔時王は、迫り来る圧倒的な数を前に鼻で一蹴すると、ありとあらゆる力を振るった。
逢魔時王に向けられて放たれ攻撃は全て塵と化して全く寄せ付けず。
手を翳すだけで相手は体の内側から炎に包まれ灰と化し。
自身の頭上に四つの巨体な魔法陣を出現させ、炎、吹雪、雷、重力を呼び起こし、または様々なタイヤやパーカーのゴースト達が空からの敵を寄せ付けず撃退していく。
または上空にブラックホールを出現させ、底なしの黒い渦に多くの転生者達を吸い込ませたり。
そして自身を中心に辺り一帯の時間の流れを加速させ、周囲の者達を崩壊させた。
逢魔時王はその場から一歩も動かず、誰にも触れず、次々と作業の如く命を散らしていく。
その作業の時間は、約10分。たったそれだけの時間で万を超える軍勢達を散らしてしまったのだ。
『──祝えッ!この世の歴史に刻まれし、王の誕生をッ!』
大手を振るい、その威厳ある声と姿を何処に向けているのか、世界に向けているのか、それとも…。
『我こそは、逢魔時王!我こそが、時の王者にして──
──最低、最悪の魔王だ!』
『──その日が”逢魔の日”と名付けられてから、貴方様は身を隠すようにこの島へ移られた。
もし、あのまま我が魔王がそのお力を振るわれてたら、この世の全ては我が魔王の意思のままに出来た筈。
貴方様のお考えを未だ理解出来ないこの不敬な僕に、どうかその真意を。』
「……カッシーン。私は、夢を見たのだ。」
『夢、でございますか?』
「あぁ。荒れ果てた荒野に、ただ一人、私だけが立っていた夢だ。ソレだけではない。もっと他にも…私はそれを、現実にしたくなかった。
…王としての力を持ってはいるが、私は、王としての器など無いに等しい。」
『ッ!何を仰られますか!貴方様に限ってそのような事は…!』
「すまないがカッシーン。それは、事実なのだ…。」
何度も何度も夢を見た。善と悪の戦いの余波によって巻き込まれた人々の苦しむ姿や、傷つく姿。毎晩毎晩これから起こる出来事が分かってるのに私は何もしなかった。
理由は単純。この力が強大過ぎるからだ。今の私は常磐 ソウゴなのだが、王になりたいとも思わない。
それでも動いてしまったのは偶々散歩をしていた時、道の真ん中で泣きじゃくる子供に思わず声を掛けてしまった時だ。
周りに親らしき者がいる様子が見られないから、てっきり迷子かと思っていた私は軽い気持ちで声を掛けた事を後悔する羽目になった。
その子の親は、この前置きた善と悪の抗争に巻き込まれ目の前で両親を失ったのだ。そして今いるこの場所が両親の死んだ場所。道端に置かれた花束を見る限り、泣いていたのはその時の場面を思いだしたからだろう。
声を上げて泣きじゃくるその子に、私はどう声を掛けていいのか分からなかった。
「たったそれだけだ。私が逢魔の日を起こした切っ掛けは。
只一人の、親を失った少年の泣く姿を見て力を振るったのだ…あの子の親が死ぬよりも前から数多くの被害者が居たの知ってるのに関わらずだ。」
『…だから貴方様は、ご自身を最低最悪の魔王と仰ったのですか。』
「私の知る最高最善の魔王は、もっと早く動いていただろうからな。
…カッシーン。お前の仕える王が、この不甲斐ない王で、すまぬな。」
『ッ!…その様な事を仰らないでください!!
私の存在意義は、逢魔時王に忠誠を捧げる為だけに在り!貴方様が最低最悪の魔王でも、この命、我が魔王の意のままに!』
「…そうか。ならば一つ、お前に命を出す。」
『ハッ、何なりと!』
「…今日の夕飯は、魚が食べたい。新鮮な刺身でな。」
『…は?……ッ!ぎょ、御意に!直ちに獲ってまいります!!』
私の出した命令に一瞬固まるも大きく跳んで塀の先の向こうの海に向かって跳び込んでったカッシーンを見送りつつ、私は手元に一つの画面を浮かび上がらせる。
逢魔時王の本当の力は、”時空を破壊する力”。
何かを創造するにはそれまであったもの破壊しなければならない。だから私はあの場に居た全ての転生者達を破壊した。
だが、私には破壊する事でしか出来ない。その先の未来を創造するには、時間も、共に歩んでくれる仲間もいないからだ。
だから私は見守る事にした。写し出した画面には、黄色が特徴的の仮面の戦士が異形の存在と戦っている映像が流れている。
「時代は常に、時計の針の如く進んでいく。
これからの未来をどう創造するか、時間が許される限り見させて貰うぞ、新たな世代よ。」