「今よ!」
「うおおおおおぉぉぉっ!!」
檻の内側にいたマァム達も手立てを講じていたのだろう。
メラゾーマで檻が溶けた直後、声と共に力自慢達が突貫、強度の低くなったところを広げて次々と飛び出してくる。
マァムも、ゴースト君も、他の面々にも目立った傷はみられない。
良かった、と、安堵した直後。
「おのれえええっ!」
ザムザの怒声。
選手達が飛びのいた後の地面を挟が抉り、窪みを作る。
「こうなればアバンの使徒の抹殺を優先する! 素材の回収は後回しでも問題はない!」
「どうやら、外も大変なことになっていたみたいだね」
ゴースト君が呟くのが聞こえた。
「なんだよ、あのデカブツは!」
「見たところ滅茶苦茶な馬鹿力だぞ!」
「迂闊に近寄らないでください! あれは、みなさんを閉じ込めていた檻と同じ性質の生き物です!」
アティが警告の声を上げれば、一同の顔がさっと曇った。
「くそっ。マァム達を助けたはいいけど、魔法力を殆ど使っちまった」
「ポップ君は少し休んでいてください」
大技の反動もあるだろう、がっくりと膝をつくポップ。
アティは懐から小さな包みを一つ取り出すと彼に渡した。
「すまねえ、先生。でも、あいつを止めねえと……」
「大丈夫。しばらくは私が食い止めます」
「でもよ」
「今はポップ君がリーダーなんですから、使えるものは使ってください」
こくん、と、少年が頷くのと、アティが飛び出すのは同時だった。
――少年に渡したのは一種の薬だ。
見た目も味もイチゴ味のキャンディだが、魔力を回復させる効能がある。
馴染むのに多少時間がかかるので過信はできないが、ないよりはずっとマシだ。
「ザムザ! 私が相手です!」
「貴様……! 制限時間はどうした!?」
憎々しげな視線に対し、アティはふっと笑って答えた。
「ある人のお陰で克服した、とだけ言っておきます」
今のアティに『抜剣』の制限時間はない。
リィンバウムに戻った際、アリーゼから借り受けた『不滅の炎』のお陰だ。
アティと共に在る『果てしなき蒼』と違い、『不滅の炎』は所有者であるアリーゼと別の世界に存在している。この状態でも両者の繋がりは切れておらず、魔力的なラインが微弱ながら存在する。
このラインを通すことで共界線から魔力を受けることができた。
もちろん、リィンバウムにいる時のように自由自在とはいかないが。
出力をある程度絞っていれば永続的に『抜剣』していられる。
「だが、だからといって勝てるわけではあるまいっ!」
「くっ!」
ザムザの言はまたも正しい。
魔獣の拳が、鋏が、蹴りが幾度なくアティを襲い、『果てしなき蒼』に斬り裂かれては再生していく。
アバンストラッシュの傷すら少しずつ治っていっている始末。
――短時間で倒さなければ振りだしに戻る。
だが、瞬間的に爆発させるだけの魔力はもうない。
「先生!」
「マァム、手伝ってください!」
「はいっ!」
駆け寄ってきたマァムがハンマースピアを手に力強く頷く。
「無駄だあ!」
「無駄かどうか、試してみなさいっ!」
これまで共に戦ってきた二人の息はぴったりだった。
ザムザがアティを狙えば、マァムが槍殺法や斧殺法、クルスを用いて攻撃。
マァムが狙われれば、自由になったアティが腕や脚を斬りつける。
守りに徹したところで二人分の攻撃を防ぎきるのは難しく、ザムザの身体には小さな傷が増えていく。
――無限に再生できるとは限りません。
戦いを続けながらも、アティは思考を巡らせていた。
再生能力で傷が癒えるのは厄介だが、見えないところで何かが消耗している可能性は十分にある。話を聞く限り魔法力は関係していないようなので、ありえるとしたら生命力。
小さな傷でも積み重ねていけば限界が来るかもしれない。
「よしっ、助太刀するぜ……っ!」
やがて、魔法力を回復したポップがギラを収束させて攻撃に加わる。
散発的な攻撃ではあったが、手数が増えるのは大きい。
「おいっ! 呪文や矢が使える奴は手伝ってやれ! 剣や拳じゃ迂闊に近寄れねえが、遠くからなら大丈夫だろ!」
「わ、わかった……!」
そこへ選手達の一部――狩人や魔法使いが加われば、勝てる可能性が見えてくる。
が。
「は、ははははははっ! 最高だ、超魔生物は! 強者達が束になってかかっても、俺を
終わりは、なかなかやってこなかった。
何度斬っても、叩いても、ギラやメラを喰らっても、矢を何本も身に受けても。
ザムザは高笑いを上げて動き続けた。
「そらっ! これで終わりだあっ!」
「くううううっ!?」
「先生っ!?」
拳の一撃を防御しきれず、アティは大きく弾き飛ばされる。
受け身を取って立ち上がるも、戦線が崩壊するには十分な間が開いてしまった。
「さあ、次に殴られたいのはどいつだっ!?」
超魔生物は強い。
ザボエラがいつからこの研究をしていたのかはわからないが、この力があれば魔王軍はこの世界を征服することができるだろう。
もしかしたら、再生に限界などないのかもしれない。
せめて。
ザムザをここで倒さなければ、ロモスは大きな被害を受けてしまう。
だが、どうすれば?
重い攻撃にマァム達が悲鳴を上げる中、アティは剣を握ったまま迷う。
そこへ、静かな声が聞こえた。
「諦めたら終わりだよ」
「……あなたは」
謎のモンスター(?)、ゴースト君が立っていた。
まるで本物の亡霊のように気配を感じさせない立ち姿に目を瞬く。
「まだ何か手があるんじゃないかな? キミはまだ、諦めたくないと思っている」
「それは……」
数秒のうちに思考を巡らせる。
確かに、まだ頭のどこかで何かが引っかかっていた。
再生能力。
傷をつけてもすぐ元通りに治ってしまう生物。
元通りに?
「……あ」
一つの閃きへと行き着く。
ゴースト君は身動き一つせずにアティの思考を肯定した。
「多分、それが正解だよ。試してみるといい」
「でも、この方法は」
「
「………」
こくん、と、アティは頷いた。
呪文というフレーズから、互いの認識が間違っていないこともわかった。
「ありがとうございます。あの、あなたのお名前は?」
「謎のモンスター、ゴースト君」
なおも素性を隠そうとする彼にくすりと笑みをこぼし、アティは今度こそ地面を蹴った。
「ポップ君、マァム、皆さん! 力を貸してください!」
☆ ☆ ☆
「わかった! 先生、何をすればいい!?」
「私とマァムでザムザを倒します! しばらく準備が必要なので、その間、なんとか持ちこたえてください!」
「無茶言ってくれるぜ……だけど、仕方ねえ、てめえら、力を貸してくれ!」
アティの頼みにポップは目を丸くするも、すぐに表情を引き締めた。
大きな声での呼びかけに準決勝出場者達は迷いを振り切り、それぞれに頷いてくれる。
「足止めすりゃあいいんだな!」
「ふむ……倒さなくてよいのであれば、方法はあるか」
「視覚に頼っている以上、目くらましも有効だろうな」
短時間で作戦会議が進む中、ゴースト君がふらふらとザムザに向かっていく。
制止の声すら無視した彼だったが――剛腕から繰り出される一撃をまるで木の葉のごとくひらひらとかわしてみせた。
神業だが、ザムザの攻撃が単調だというのも影響している。
それを見た猛者達は士気をあげ、交代でザムザを挑発しながら時間稼ぎを始めた。
決して深追いせず、死角から一撃入れては逃げる。
ポップや狩人、魔法使いは遠間から顔を狙って呪文をぶつけて翻弄する。
痛みがなくともちょろちょろとしつこく動かれれば苛立つもので、ザムザの攻撃は次第に大振りになり、動作さえしっかりと見ていれば避けやすいものになっていった。
肉体がいかに強靭であろうと、中身の経験が不足しているのだ。
「先生、それで私達は何を?」
ハンマースピアを下ろしたマァムが、戦闘を心配そうに見ながら尋ねてくる。
「簡単です。二人で、ザムザに一つの呪文を与えましょう」
「呪文……でも、私、攻撃呪文は」
「大丈夫。唱える呪文は
「え……?」
目を丸くするマァム。
アティは微笑んで彼女に説明する。
「アバンの書には呪文の項目もあります。その中には、名前と簡単な効果だけ――契約方法すら書かれていない呪文が幾つかありました」
「危険だから、ですか?」
「はい」
頷く。
「私達が狙う呪文――マホイミもその一つです」
「……マホイミ」
名前からもわかる通り、マホイミはホイミ系の呪文だ。
効果は肉体の治癒能力の促進。
ただし、ただ単に促進するのではなく、
「自己再生はとても高度で危うい能力です。強力ですがその分、逆に身を滅ぼす危険を伴っている」
肉体を元の状態まで戻すのが再生。
では、再生能力に異常が起こり、元の状態
身体の増大、小さな切り傷から腕や脚が生えるような事態すら起こりうる。
最終的には肉体が耐えきれなくなって全身が崩壊するだろう。
「マホイミはそういう状態を強制的に起こす呪文なんです」
「……そんな」
青ざめたマァムの表情は、先程のアティと全く同じだった。
だから、アティは少女の手をぎゅっと握った。
「マホイミ自体を契約している時間はありません。だから私と一緒にやりましょう、マァム」
「……先生」
「みんなを守るために。二人で幻の呪文を使うんです」
習得する必要はない。
たった一度、二人で力を合わせてみんなの窮地を救うだけ。
「わかりました」
マァムはしばしの時間をかけて、しっかりとした頷きを返してくれた。
ハンマースピアを地面に置いたマァムの身体に後ろから手を回す。
胸が潰れるほど強く抱きしめると、少女がうっすらと頬を染めた。
「先生、必要なのはわかりますけど、その」
「落ち着いて。私の体温と鼓動を感じてください」
「……はい」
深呼吸を繰り返すマァム。
しばらくすると気持ちが整ったのか、その表情は引き締まった。
「行きます……!」
「はいっ!」
トベルーラにより、二人の身体がふわりと浮き上がる。
アティに抱えられたマァムは全身の魔法力を高め、両手へと伝えていく。
――ひとつの弾丸となった二人は一直線にザムザへと飛んだ。
ぎょっとしたザムザが顔を上げ、迎撃しようと拳を振るうも、軌道を僅かに変えるだけでかわした。
極限まで高められたマァムの魔法力を、アティの魔法力が上乗せ。
「マァム……!」
少女達とザムザの距離が最も近づいた一瞬。
「――マホイミ!」
強烈な輝きが生まれ、そして消える。
上空へと遠ざかりながら、アティはマァムと共にザムザの姿を見下ろして。
「……な、なんだ。驚かすな。何とも――」
ないじゃないか、と言おうとした妖魔学士が止まった。
みし。
「あ?」
ザムザの身体から軋むような音が響いた。
初めは小さかったその音はやがて大きく、たて続けに響くようになり。
「あ、ああああ……っ!?」
全身の表面に罅が入ったかと思うと腕が脚が、胴体が砕ける。
「俺の身体が、馬鹿な……っ!?」
立っていられなくなった彼は大きな音と共に地面へ倒れた。
ぼろぼろと身体が崩れていく中、大きかったフォルムは徐々に小さくなり、元の魔族のものへと戻っていく。
ごろん、と。
仰向けになったザムザはぼんやりとした顔で上を見上げた。
「敗因は、何だった……?」
彼に歩み寄ったポップがぽつりと答えた。
「……人間の知識と、結束の力を侮ったことだろうよ」
「……そうか」
ザムザは満足そうに笑った。
戦いの終わりを見たアティはマァムと共に地面へと降り、
「ならば、我が父はもっと上手くやってくれるだろう……!」
妖魔学士の額が輝き、そこにあった飾りが素早く空へと舞い上がった。
「え……!?」
「ヒヒッ……我が知識の全てを父に送った。今回の戦いのデータを参考に、より完璧な超魔生物が作られるだろうさ」
慌てて目で追った時にはもう遅かった。
飾りはどこへとも知れない遠くへ向かった後で、トベルーラで追いかけたとしても小さすぎて見失う可能性が高かった。
「ザムザ、あなたは……?」
「………」
彼は何も語らなかった。
ただ、しばし黙した後にぽつりと告げる。
「もう一つ教えておいてやる。大会の賞品――覇者の剣は偽物だ」
「ど、どういうことだよっ?」
「すり替えたのさ。今頃は父、ザボエラの手に渡っている」
何もかもが仕組まれていた。
軍団長を半数以上下してなお、魔王軍はその機能を失っていない。
むしろ、ある意味ではより厄介な形で再編されたのかもしれない。
ザムザの死体は細かな塵だけだった。
超魔生物は骸にならないのか、塵もまた風に吹かれて散り――後にはボロボロになった闘技場だけが残っていた。
きっと、彼は彼なりに父親のことが好きだったのだろう。
彼とザボエラの関係がどういうものだったのか、最後にザムザが何を思ったのか。
それはもう、誰にも知ることはできなかった。
特定のキャラ同士をツインユニットにすると合体技が使えるぞ!
(例:ダイとポップで大・火炎大地斬)
みたいなノリになりました。
ちなみに先生はたいていのキャラと合体技があります。