新しい教え子は竜の騎士   作:緑茶わいん

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決戦、超硬騎団(後編)

「化け物か何かですか、あなたは」

「……どうしてですか?」

 

 無数の打撃を受けてなお、アティは立っていた。

 脚はふらつき、全身にも無数の傷跡が残っているが、それでも気力は衰えていない。

 

「いくら魔剣の加護を受け、全身を癒していても、限界はあるはずです。なのに立っている」

「それは、あなたの攻撃が軽いからです」

 

 延々連撃を続ける限り、アルビナスは動きを止められない。

 腰を据えた一撃を放てない以上、一発一発の攻撃力はどうしても抑えめにならざるを得ない。見た目は軽装だが、パプニカの服や『抜剣』、治癒の闘気を重ねているアティの耐久力は十分に高いのだ。

 だが、アルビナスは納得できないというように声を荒げる。

 

「馬鹿なっ! 渾身の一撃ではないにせよ、オリハルコンのボディで殴られれば人は死にます! あれだけ殴られて死なないなど、化け物でなければ何だというのです!?」

「きっと、私が負けられないからです」

「―――っ!?」

 

 幾度も攻撃を受けたことで、少しずつ軌道が読めてきている。

 確かにアルビナスは速いが、何度も見ていれば目が慣れてくるのは自然なこと。

 

 ――パターンを掴めば対応できます。

 

 実際、反応スピードも上がってきている。

 背中から打たれることが少なくなればダメージを減らすこともでき、反撃のチャンスも増えてくる。

 

「私は一人で戦っているわけじゃありません。皆のためにも、私は負けられません」

「偉そうな口をっ!」

 

 再びアルビナスの姿が消える。

 

「そんなものは――!」

「誰だって同じ。その通りです」

「何……っ!?」

 

 アルビナスの拳と『果てしなき蒼』が衝突しかけた。

 驚愕に目を見開いた女王はすんでのところで拳を引き、後退を選択。

 迎撃が間に合ったのは初めてのことだった。

 

「アルビナス。あなたも、ハドラーのために戦っているんですよね?」

「……何を言うかと思えば、当然のことを」

 

 先の反応が偶然か否か。

 計りかねているように、アルビナスは足を止めて答えた。

 

「私を含めた超硬騎団は全員、ハドラー様の忠実な部下。あの方のために生き、死ぬのが役割」

「本当に、それだけですか?」

「何?」

「あなたの、あなた達の気持ちは創造主への忠誠だけでしょうか? もっと別の、尊い気持ちがあるんじゃないですか?」

「………」

 

 アルビナスの顔から表情が消えた。

 

「何かと思えば時間稼ぎですか」

 

 再び女王の姿が消える。

 反射的に振り返ろうとしたアティは正面からの一撃を食らい、数歩分の距離を吹き飛んだ。

 咳き込みながら姿勢を整え、苦し紛れに爆裂呪文(イオ)を放つも、避けようともせずに肉薄してきたアルビナスに顎を蹴り上げられた。

 

「聞いてください、アルビナス」

「聞いてどうなるというのです。あなたと私は――」

「ハドラーは、このままなら死にます」

 

 ぴたり、と。

 猛攻が止み、超硬の女王が至近からアティを睨む。

 

「あなたの教え子達が殺す、という話をしたいなら結構です」

「いいえ。ハドラーを殺すのは大魔王です」

 

 一瞬、空気が凍った。

 しかし、次の瞬間には、アルビナスは高笑いを上げていた。

 

「フフ……ハハハッ! 馬鹿なことを! 大魔王様がハドラー様を殺すわけが!」

「大魔王バーンにとって、ハドラーは駒の一つです」

「―――」

 

 それは、アルビナスにとって無視できない理屈だった。

 己を駒と断じ、主のために死ぬことを厭わぬというのなら、他ならぬ主が更に上位の者に対し、同じことをしないなどとは到底言えない。

 故に、聞かざるをえない。

 

「不要になった駒は処分するでしょう。それが例え、元魔軍司令であっても」

 

 だらん、と、女王の腕が垂れ下がった。

 アルビナスはアティの言葉に理を見出した。

 

「だから、アルビナス。話を――!」

「必要ありません!」

 

 至近からのサウザンドボール。

 咄嗟に『果てしなき蒼』で切り払い、後ろに跳べば、アルビナスは怒りの表情で立っていた。

 彼女が人であれば唇が震えていただろう。

 

「ならば、あなた方を倒してハドラー様の功績を作るまでのこと!」

 

 説得は失敗。

 女王のハドラーを思う気持ちは強く、超硬騎団のサブリーダーという自負は個人的に別の道を選ぶことを妨げている。

 それでも、否定とはいえ、答えを返してくれたのはせめてもの礼儀か。

 もうアルビナスは止まらない。

 

 無駄な問答を捨て、アティを殺すまで殴り続けるだろう。

 オリハルコンの輝きが光の線を描く。

 

 ありとあらゆる場所に襲い来る痛みを堪えながら、アティは唱えた。

 

真空呪文(バギマ)

 

 過剰な魔力供給によりバギクロス級の威力が生まれ、跳び回るアルビナスごと大気を制動。

 真空の刃自体はオリハルコンのボディにダメージを与えないが、四肢を滅茶苦茶な方向に捻じ曲げられたアルビナスは初めて悲鳴を上げた。

 即席の竜巻の中、自由に動けるのはアティだけで。

 風が止み、舞い上がった女王の身体に、闘気の籠った必殺技が繰り出される。

 

「――アバンストラッシュ!」

 

 超硬騎団最強の駒は、たった一撃をもってその身を両断された。

 成すすべもなく地に落ちたアルビナスは意識こそ保っていたが、もう先程までのような高速軌道を演じることはできない。

 どころか動くことすらままならぬようで、呆然とアティに尋ねてくる。

 

「……この戦い自体が茶番だったのですか?」

「……いいえ」

 

 アティは首を横に振った。

 

「確かに、強力な真空呪文が鍵だと思ったのは最初の頃です」

 

 アルビナスが普段、真の姿を現さないのは力をセーブしているからだけではない。

 あまり高速で移動するとヒムやシグマと衝突してしまいかねないから、そして、フェンブレンの真空呪文に巻き込まれかねないからだ。

 マント状のパーツを後方に排して手足を伸ばしたフォルムは風を受けやすく、ダメージ自体はなくとも機動を制限されてしまう。

 

「でも、一度で決めなければやられると思いました」

 

 故に、サウザンドボールを無力化して肉弾戦を誘った。

 無数の攻撃に耐えて隙を窺ったのも、こちらにそれ以上の策がないと思わせたかったのが一つ。説得については動揺を誘う意図はなかったが、結果的にそういう風にも働いた。

 だから、全ては必要な手順。

 

「……そう、ですか」

「……ごめんなさい。私にも、譲れないものがあるんです」

「謝らないで」

 

 きっ、と、アルビナスは瞳だけでアティを睨んでくる。

 

「殺しなさい。もう勝負はつきました」

「………」

 

 アティは一瞬だけ躊躇してから「いいえ」と答えた。

 

「何故です」

「私には、やるべきことがあるからです」

 

 膝を折り、アルビナスの耳に唇を近づける。

 敵地である以上、誰かに聞かれることを考慮しなければ伝えられない――そうしなければ、逆にみんなが危機に陥ってしまう。

 話を聞いた女王は驚き、アティが声を潜めた意味を察して極力表情を殺した。

 疲れたような表情を浮かべて呟く。

 

「行きなさい」

「……アルビナス」

「行って、あなたのしたいことをしてきなさい。それは勝者の権利です」

「……はい」

 

 こくんと頷き、アティは立ち上がった。

 走り去る背中に小さな声がかけられた気がしたが、もう振り返らない。

 

「ハドラー様をお願いします。優しい賢者さん」

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 竜の騎士親子とハドラーの戦いは苛烈を極めていた。

 ネックはやはり超魔生物の再生能力。疑似抜剣による強化と合わさることで半端な攻撃を許さず、必殺技同士の激突という、ハドラーの得意な形に持ち込んでくる。

 加えて、尽きぬ闘気と魔法力。

 如何に竜の騎士といえど戦えば消耗する。機も窺わず必殺剣を連発すれば敗北は必至。

 しかし、ダイやバランとて並の戦士ではない。

 

「魔炎気の勢いが鈍いのではないか、ハドラー」

「抜かせ。この程度の寒さで我が闘志は衰えん」

 

 疑似抜剣を全開にし、天下無双の勢いを見せるハドラー。

 全身から炎を立ち昇らせる彼に対し、バランは手を突き出して呪文を見舞った。

 

「ヒャダイン」

「……炎には冷気、か」

 

 凍えるような冷気が殺到し、

 

「道理だが、威力が足り――む」

 

 直撃寸前で全て蒸気と化していくも、ハドラーは何かに気づいたように唸った。

 予想よりも冷気が強かったのだろう。

 事実、バランの呪文は平時より強さを増している。ロン・ベルクから貰い受けた竜牙甲――その表面に嵌め込まれた小さな石だ。

 『輝石』と呼ばれるそれは、ダイやマァムが用いている『聖石』と対をなすもの。

 魔法力を蓄えるのではなく、呪文の威力を増幅する効果を持っている。

 

「なるほど、だが――」

「ハドラー、ここにはおれもいるんだぞっ!」

 

 それでもなお焼け石に水だったが、更に、ダイからもヒャダインが飛ぶ。

 まともに受け続ければ、さすがに分が悪い。

 

「だが、ぬるい!」

 

 魔炎気を強く放出したハドラーは冷気から逃れ、ダイへ向かう。

 一対多では弱い方から潰すのがセオリー、となれば、さすがに父よりは子が狙われる。

 

「ダイ!」

「大丈夫! おれの事は気に――」

「遅いっ!」

「っ!?」

 

 剣を構えたダイが叫ぶも、そこへハドラーの左手から長く鋭いものが飛んだ。

 鏃のような形状が幾つも連なってできた鎖――超魔生物となる前からのハドラーの武器が、ダイの利き手を捕まえた。

 息を呑むダイ。

 親子で挟み撃ちを取っていたため、バランの位置からでは救援が間に合わない。

 

「喰ら――」

 

 きっ、と、ダイが決意の表情を浮かべ、

 超魔爆炎覇の体勢に入ったまま、ハドラーが目を見開いた。

 

「だああああっ!」

「おおおっ!?」

 

 敵の必殺剣が炸裂する刹那、ダイは腕に巻き付いた鎖を振り回した。

 姿勢を乱されたハドラーは不完全な技をダイに叩きつける。竜闘気の上から少年の胴に浅くない傷を残すも、致命傷には至らない。

 そこへ、二筋の雷鳴が閃いた。

 ライデイン。そして――ギガデイン。

 

「ぐ、あああああああっ!?」

 

 狙われたのはダイとハドラーを繋ぐ鎖だった。

 竜闘気に守られる竜の騎士は呪文のダメージを大幅に軽減できる。それは自分達の呪文であろうと同じことで、つまり、これは自爆にはならない。

 

「ならば!」

 

 鎖を解いたハドラーは覇者の剣を一閃。

 反射的に身を硬くしたダイは、剣が自身ではなく、足元の地面を斬ったことに気づく。

 ぐらりと揺れる足場に、少年は後方へ跳ぶことを余儀なくされる。

 数歩分、しかし、この場においては致命的な離脱となったダイを放置し、ハドラーは一転、バランへと直進する。

 超魔生物の武骨な手のひらからイオラが生まれ、立て続けに炸裂。

 慌てず、バギで爆風を散らしたバランは、ハドラーの鎖が自らの左手に巻き付くのを見た。

 

 真魔剛竜剣は大ぶりで重い。

 ギガブレイクを放つには両手が必要だが、鎖を断ち切っている時間はない。

 

「だからどうした」

 

 迫るハドラーを前に、バランは低く腰を落とした。

 

 ――愛剣の持ち方を逆に。

 

 刹那で籠められるありったけの竜闘気を放出し、

 

「アバンストラッシュ、だと……!?」

「別に――」

 

 激突。

 両者共に少なくないダメージを負い、衝撃で吹き飛ばされる。

 

「――敢えてその名を冠するつもりはない」

 

 ギガブレイクは竜の騎士の必殺技。

 ハドラーの超魔爆炎覇が似たようなフォルムを持っているように、人型生物が剣を手に繰り出す突進技としてはあれ以上のものは存在しない。

 だが、一方で、蓄積された知識と経験はアバンの必殺剣にも利点を見出している。

 あれは、魔法力も闘気量も少ない人間が、効率よく闘気剣を扱うためのフォルム。敵に近づかずとも闘気を打ち出すことも可能な上、片手剣でも威力が落ちない。

 

 アティやダイとの訓練で幾度も受けたバランには真似する程度、造作もなかった。

 

「やはり、貴様ら親子は我が宿敵よ」

 

 さすがにダメージが大きいのか、ハドラーも息を荒げている。

 それでも彼は笑みを浮かべ、闘気を膨れ上がらせる。

 

「貴様らを打ち破るために、オレは魔族の身体を捨てたのだ!」

「……そうだ。それでいい、ハドラー」

 

 バランは体勢を立て直しながら低く呟いた。

 片手を持ち上げ、一方を指す。

 

「もっと力を出し尽くせ。闘気と魔法力を燃やしてみせろ」

「――む」

 

 指の向く先に気づいたハドラーが剣を持ち上げる。

 雷鳴が轟く。

 バランの唱えたギガデインを纏い、ダイとその剣が迫る。

 

「おさらいは済ませた。ダイよ、見せてみろ」

 

 勇者の少年が取ったフォームはギガブレイク。

 竜の騎士の正統必殺技が、ギガデインを纏ったオリハルコンの剣により、今放たれる。

 迎え撃つは超魔爆炎覇。

 超硬騎団長ハドラーが誇る絶技が、抜剣という奇跡のギミックを受けて唸る。

 

 だが。

 

 ダイは激突の直前になって姿勢を切り替える。

 アバンストラッシュ。

 闘気剣や魔法剣にとって最も理想的なフォームが、最高の突進力をもって――。

 

「ギガストラッシュ!」

 

 生まれた輝きは目が眩むほどに眩く。

 衝撃がビリビリと、周囲の空気までも大きく震わせた。

 

 どう、と。

 

 倒れたのは大きい方。

 ダイとて力の殆どを使い切り満身創痍ではあったが、それでも、必殺技同士の戦いを制したのは勇者だった。

 

「ここ、か」

「まだだっ!」

 

 呟いたバランが動きだすのと、ハドラーが大地に腕を突き立てるのが同時。

 目を丸くしたダイは一瞬、剣を構えようとして――すぐにはっとしてその場を飛びのいた。

 宿敵が離れたのを見たハドラーは舌打ちし、向かってくるバランに対して覇者の剣を突き出す。

 

 バランは、避けなかった。

 

 オリハルコンの刃がするり、と、竜騎将の肩を貫く。

 

「な、に……!?」

「悪いが、付き合っている暇はない」

 

 貫手が、先のストラッシュで生まれた傷口――ハドラーの胴体へ潜り込み、

 小さな塊を掴んで引き抜かれた。

 

「こいつは使わせんぞ――大魔王」

 

 残る竜闘気全てがバランの両手に集められる。

 竜騎将の手の中に在る塊――内側に妖しげな紋の浮かぶ黒い結晶は、溜めこまれた()()()を全て解放しようと暴れるも、端から抑え込まれていく。

 竜牙甲。

 竜闘気を集中することの多い手を守るため頑丈に作られた防具がミシミシと悲鳴を上げる。

 が、この一瞬だけ保ってくれれば問題ない。

 

 ぱきん、と。

 

 軽い音を立てて結晶が弾け、内側の魔力もまた、バランのそれを対消滅。

 後に残ったのは静寂だけだった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「……バランめ。やってくれおったな」

「キィーヒッヒッヒ! ではバーン様、手筈通りに」

「うむ。勇者達が最も気を抜いた一瞬、疲弊しきった奴らが何もできないタイミングに――大魔宮(バーンパレス)を起動する」

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