新しい教え子は竜の騎士   作:緑茶わいん

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発動! ミナカトール!(後編)

「これは……!」

 

 精悍な体つきに厳めしい武器を携えたもの、大型の角や牙を備えたもの、見るからに残忍な顔付きをした悪魔――等々。

 数にして百以上――数百に上ろうかという魔物達が平原に並び、人類の精鋭を取り囲んでいた。

 

『こいつらは全て魔界の怪物達! 地上の貧弱なモンスター共とは質が違うぞい!』

 

 魔界。

 力のみが唯一絶対の法則として存在し、大魔王バーンや冥竜王ヴェルザーが覇権を争う闘争の世界。

 かの地に生きる魔物が弱いわけはない。

 チウの傍にいる獣王遊撃隊の面々の殆ど――ジュニア君ことアバンや、拳聖ブロキーナことビーストくんは除く――が怯えた様子を見せていることからも明らかだ。

 

 だが。

 じりじりと迫ってくる魔王軍の手勢に対し、前に進み出る者もいた。

 

「先の機械共では肩慣らしにもならなかったところだ」

「お前達! 強敵が出てくる事くらい予想していただろう! 怯むな!」

 

 ラーハルトの落ち着いた声と、ホルキンスの叱咤。

 ボラホーンとガルダンディー、それからカールの精鋭達が続けば、他の者達も戦う意思を取り戻していく。一人の声が二人の声を、二人の声が四人の声を呼び、大きな流れが生まれる。

 クロコダインが斧を持ち上げて笑みを作った。

 

「全く、頼もしい味方が多いものよ」

 

 先代の呟きに二代目が応える。

 

「もちろん! ボク達、獣王遊撃隊も負けていませんよ!」

 

 ねえみんな、と、呼びかけられた仲間達は皆逃げ腰だったが。

 

「そんなことでどうするというのか! さあ行くぞ! てええーい!」

「………」

 

 無駄に威勢よく突っ込んでいく隊長、そして、ふらふらと後に続くビーストくんの姿を見ると、おずおずと顔を見合わせた後、ゆっくりと後に続いていった。

 

 

 

 円陣の外周で戦いが開始された頃。

 アティとアバンの使徒はまだ中央付近に立っていた。

 

「……僕達も行ってきます。アティさん達はどうかこのまま」

 

 剣を握り、振り返ったノヴァが告げる。

 

「でも」

「大丈夫です」

 

 彼我の戦力も考慮した抗議は出だしで遮られた。

 

「ホルキンスさん達、カールの騎士がいる。あの竜騎衆という人達も凄い実力者だ。クロコダインさんや、ロモスから来た皆も強い。それに、僕だって『北の勇者』だ」

「ノヴァ君」

「できることをやります。だから、あなた達もできることをしてください」

 

 ふっと笑ったノヴァがダイを見る。

 

「ダイ、僕は君が妬ましかった」

「……ノヴァ」

 

 目を見開く少年に、ノヴァは首を横に振る。

 

「君が勇者と呼ばれ、魔王軍の強敵を次々に打ち破っていったからだ。あのホルキンスさんでさえ、君のことを評価していたからだ」

「………」

「だけど、本当はわかっていた。僕は称賛を得ることに拘り過ぎていたんだ」

 

 父からもよく言われました、と彼はこぼした。

 

「本当に大切なことはそんなことじゃない。皆で力を合わせること――そして、一つでも多くの命を守ることだ」

 

 そして、青年はアティを見る。

 

「昨夜の『ショウギ』、勉強になりました」

「え?」

「駒を取って終わりじゃなく、取った駒を使える遊び。昨日戦った敵が今日の友となる。……そういう戦いを、僕もしたいと思いました」

「……ノヴァ君」

 

 アティには、そこまで深い意図はなかった。

 恩師から教わった『ショウギ』――チェスとは異なる特徴を持つ盤上遊戯を彼女は好んでいたし、その理由はノヴァが言った通りだったが。

 彼女の駒運びから何かを感じ取ったというノヴァは晴れやかな顔をしていた。

 彼はくるりと背を向け、剣を持ち上げて言う。

 

「あまり遅くなっては申し訳ないので、もう行きます。また後で会いましょう」

「ありがとう、ノヴァ君」

 

 アティがかけられる言葉はそれだけだった。

 ダイは歩いていく『北の勇者』の背中をしばし見つめていたが、やがて大きな声で言った。

 

「ノヴァ! その……死んじゃ駄目だぞ!」

 

 不器用な言葉への返答はなく。

 代わりに、ノヴァは勢いよく戦場に向けて駆け出していった。

 

 

 

 中央部からは更に人が減り、凪のごとき静寂が生まれていた。

 

「……では、私達も行くとしましょうか?」

「そうだな」

 

 軽い口調で振り返ったのはアバン。

 重々しく答えたのはバランだった。

 

「って、ちょっと待てよ先生。俺達に何も言わず行く気か!?」

 

 と、ポップが食って掛かったのも無理はない。

 アバンは困ったような笑みを作って答える。

 

「ポップ。すみませんが、事情の説明は次の機会に――」

「事情は別にいいんだよ」

「へ?」

 

 丸眼鏡の向こうの瞳が間抜けな感じに歪む。

 この微妙にしまらない感じにアティが懐かしさを覚えていると、ポップは続けて、

 

「どうせ、アティ先生と話し合ったか何かで別行動してたんだろ? フローラ様と先生、あとヒュンケルはなんか知ってたっぽいし――ダイとマァムともその辺話し合ったぜ」

「うん」

「先生。私達は、先生が生きていてくれただけで十分嬉しいんです」

 

 師から一本取った形のポップは照れくさそうに頬をかいており、

 頷いたダイは瞳を潤ませ、

 笑顔で告げたマァムは我慢することなく涙を流していた。

 

 助けを求めるようにアバンが視線を向けて来るも、アティは笑顔で首を振った。

 ここは逃げちゃいけない場面だ、と。

 

「だからさ。一言でいいから言ってってくれよ。どうして会いに来てくれたのか……さ」

「………」

 

 アバンが、表情からおどけたものを消す。

 足を動かし、しっかりと弟子達に向き直った彼はまず、深く頭を下げた。

 

「謝罪します。貴方達の成長と、想いを、私は軽く見ていました」

 

 その上で、顔を上げて告げる。

 

「どうか――貴方達の仲間として、もう一度戦わせていただきたい。その為に、私は今日まで戦う力を蓄えてきました」

 

 ダイが、ポップが、マァムが息を呑む。

 ヒュンケルは背を向けて表情を見せなかったが、肩がぴくりと動いていた。

 

「……駄目でしょうか?」

 

 親の機嫌を窺う少年のような声と表情だった。

 それに、涙ぐんだ様子で答えたのはポップだ。

 

「だ、駄目なわけないじゃないっすか……! アバン先生がいてくれれば百人力ですって!」

「そ、そうだよ先生」

「私達からもお願いします。先生、一緒に戦ってください」

 

 三人の声に、アバンがかすかに顔を俯かせる。

 感極まった表情をギリギリまで隠した演技力にアティは感嘆する。

 

「身に余る光栄です」

 

 にかっ、と、いつもの笑顔を浮かべたアバンは腰に着けていたポーチの一つを外した。

 ぎっしりと『何か』が入ったそれをアティは受け取り、軽く中を確認して――息を呑む。

 

「使い方はわかりますね?」

「はい」

 

 手持ちが心もとなくて困っていたところだ。

 渡りに船、と、アバンの腰に他にもポーチがあるのを見て頷いた。

 よろしい、と、アバンは満足そうに頷く。

 

「では、私は皆さんのために露払いをしてくるとしましょう」

「せ、先生……っ!?」

 

 ポップの唇に人差し指が添えられる。

 

「さっきの彼――ノヴァと同じです。私達も今代の『勇者』ダイ君のために力を尽くします」

「アバンさん」

「もちろん、死ぬような真似はしませんよ」

 

 約束してしまいましたからね、と。

 相手も、その約束を「いつ」したのかも明言はせず、今度こそアバンは踵を返した。

 目配せをされたバランもそれに続く。

 

「後は任せる」

「はい」

 

 答えたアティは、ダイ達と共に静かに彼らを見送った。

 戦況は悪くない。

 精鋭揃いということもあって、いかに魔界の魔物といえど一歩も引いていない。特に竜騎衆にホルキンス、クロコダイン、ノヴァらの活躍は目覚ましいものがある。

 レオナやエイミらが後方から呪文で支援し、総指揮を執るのはフローラ。

 このままならいずれ、魔王軍側が疲弊し敗北するだろう。

 

 ――空の向こうを見る。

 

 大魔宮の姿がだんだんと大きくなり始めていた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「『柱』投下準備」

 

 命令と共に大魔宮の中央部、鳥の腹にあたる部分へ『柱』が装填される。

 大魔王バーンは玉座から動かぬまま、魔王軍と人類との戦いを俯瞰していた。

 

「……さて、どう出るか」

「恐れながら大魔王様。奴らは我々の想像を超える相手です」

「わかっておる」

 

 ザボエラの策を完全に凌いだのは予想以上だった。

 原因となったのがアバン生存というジョーカーによるものだとしても、厄介な札が早々に晒されたことに思わず快哉を叫んだとしても、見事という他ない。

 だが、だからこそ、バーンは予定通りを選択する。

 

 ――打ち破られるならまた一興。

 

 バーンとて、人類が何かを用意していることには気づいている。

 問題は、それが何なのか、どうやって成立させるつもりなのか、である。

 

「油断は死を招くぞ」

 

 こちらの一手は『柱』の投下。

 投下場所の指定は大まかなもので、座標単位で示してはいない。

 世界規模の魔法陣において多少のズレは許容範囲であり、故に、馬鹿正直に勇者ダイやアティのいる戦端の中心へと落とす必要はない。

 多少離れたところへ落そうとも余波で大打撃を与えられるし、追撃として『アレ』もある。

 果たして、相手の出方は。

 

「……メドローア、か」

 

 魔法使いの少年が弓矢のような形状の大呪文を準備している。

 あの呪文については超硬騎団との戦いの際に確認している。確かに恐ろしい威力であり、直撃すれば大魔宮とて無傷では済まないだろう。

 だが、地上から一発や二発撃っただけではどうにもならない。

 失望からため息をつき、

 

「投下せよ」

 

 冷えた声で命じた直後、バーンは見た。

 アティの瞬間移動呪文(ルーラ)によって()()へ移動してくるアバンの使徒を。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「っくぜえ……! 喰らいやがれ、大魔王――極大消滅呪文(メドローア)!」

 

 閃光が放たれる。

 ポップが撃ちだしたメドローアと、大魔宮が産み落とした『柱』は空中で衝突。

 一瞬、拮抗したかに見えた両者だが、すぐにメドローアが押し勝った。

 

 ――『柱』が、内蔵した『あのアイテム』ごと消滅する。

 

 生憎、それでエネルギーを消費したせいか、大魔宮自体には殆ど被害を与えられなかったが。

 アティ達は最初からそこまでを織り込んで計画を立てていた。

 

「行きます!」

 

 大魔宮とて慣性には逆らえない。

 故に『柱』を投下する一時だけは移動を止めなければならず――それが一種の隙となる。

 

 ――無論『柱』自体をどうにかする手立てがあってこそのものだが。

 

 策は成った。

 アティは胸元から『アバンのしるし』を取り出すと心を高める。

 ドン、と。

 大きく立ち昇った光の柱は眩い蒼色をしていた。

 『抜剣』時に放たれる『果てしなき蒼』の光と同じ色。当然である。あの剣の輝きこそがアティの魂の色に他ならないのだから。

 

「ダイ君」

「うんっ」

 

 アティが差し出した手をダイが取る。

 頭をからっぽにして、余計なことを考えないように。

 前もって伝えておいたコツが生きたか――ダイの足元からも光の柱が生まれる。

 次いでヒュンケル、マァムへ。

 一人一人、色こそ異なるものの、次々に光の柱が形成されて。

 

「……さあ、ポップ」

「……ああ」

 

 少し気恥ずかしそうに、少女が微笑んで手を差し伸べる。

 少年は深く息を吐き、覚悟を決めたように手を取った。

 

 ――最後の柱が無事に上がった。

 

 五つの輝聖石と、五人の善なる者。

 気高く純粋な魂が、今ここに、究極の破邪呪文を完成させる。

 

「ミナカトール!」

 

 五つの光が一つの大いなる力となり、大魔宮を直撃。

 バーンの張った結界にぶつかり、それを打ち消していく。

 

 やがて。

 大魔宮は機能を停止し、再び動き出すことはなかった。

 

「……成功です」

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「ミナカトールとは、面白いものを引っ張り出してきたものよ……!」

 

 バーンは少々の苛立ちを覚えながら称賛の声を上げた。

 一体誰の入れ知恵か――どこまでが策だったのか、大破邪呪文を終えてなお蒼く輝き続けるアティを見て、思う。

 悉くこちらの思惑を潰されている。

 大魔宮は停止。バーンの戦闘力には影響がないものの、これで別の場所へ『柱』を落としにいくことはできない。

 飛行可能な者なら誰でも侵入可能となった。

 

「……まあよい」

 

 バーンは魔軍司令に指示を出す。

 

「ザボエラよ。貴様の最高傑作をもって勇者達を駆逐せよ」

『ははっ!』

 

 恭しい返事がすぐに返ってきた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 そして、人類は目にすることになる。

 

「最高傑作だあ? まだ隠し玉があるってのか……!?」

『キィーヒッヒッヒ! 当然よ!』

 

 キラーマシンⅡ、そして魔界の魔物達は前座。

 大魔宮が『柱』を落とす前に出して巻き添えにしたくなかった、とっておきが存在する。

 それはやはりザボエラの研究成果。

 

『超魔生物は確かに強い! じゃが完璧を目指すあまり、能力を防御に寄せすぎてしまった!』

 

 怪力。再生。

 時間さえあれば単独で全人類を殲滅できるかもしれないが、呪文が使えなくなるというリスクも痛い。

 永遠に超魔生物化する気になる者は多くないし、疑似抜剣も使いどころが難しい。

 ならば、もっと単純な発想。

 

『お前達を蹴散らすには力! 圧倒的な暴力! それこそが必要!』

 

 ()()がバーンパレスから舞い降りてくる。

 一目見てわかる巨体。

 咆哮が空気を震わせ、聞く者すべてに恐れを抱かせる。

 

『千近い魔物のエッセンスを集め、伝説の存在を再現する! 超魔生物研究の別アプローチ!』

 

 それは黄金の身体を持っていた。

 それは巨大な顎と角、鍵爪、尻尾を備えていた。

 それの身体はバチバチと帯電していた。

 

『邪配合、とでも名付けようか!』

 

 それの名は、地上にも朧気ながら伝わっている。

 バランが封印した冥竜王が、まだ王ではなかった頃――彼と王の座を争った一匹の竜がいた。

 実力はヴェルザーと互角。

 後に『真竜の闘い』と称されることとなる激戦の末、僅かな綻びによって倒れた者。

 

 デイン系呪文――雷を操る力が竜の騎士専用であるこの世界において、雷を自在に扱うかの者こそが竜の中の竜といっても過言ではない。

 ずしん、と、大きな音を響かせて。

 着地したそれは、唸り声と共に強烈な雷を周囲に放ってくる。

 

 雷竜ボリクス。

 伝説が真であり、ザボエラの研究が完成していれば――かの竜は、大魔王バーンに匹敵する力を持っている。




先生の魂の色を蒼にする都合上、各キャラの色が変わっております。
何卒ご了承くださいませ。

最後のアレは別のドラクエ漫画のネタが含まれております。
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