新しい教え子は竜の騎士   作:緑茶わいん

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最強の敵、ミストバーン……!?

 死屍累々。

 大魔宮(バーンパレス)外苑正面、中央部入り口前には無数の骸が転がっていた。

 立っている姿はもはや少ない。

 戦士ヒュンケルの姿も数少ない中に含まれていたが、彼の鎧はあちこちが破損し、身体にも無数の傷が付けられている。立っていられるのがやっとの状態。気力だけで身体を動かしている有様であり、その闘志は驚嘆に値するが――。

 

「キィーーング・スキャン!」

 

 (キング)・マキシマムの瞳はヒュンケルの状態を正確に察知していた。

 一度の交錯毎に生命力は着実に減少しており、このままいけばどう見積もっても最後まで立っていることなどできはしない。

 数を大きく減らしたとはいえ、魔界の魔物は未だ二、三十体。

 オリハルコンの兵士も兵士(ポーン)騎士(ナイト)僧正(ビショップ)の三体が残っている。

 

 ――予想以上に大きく損耗したが、まあ良い。戦闘が落ち着けば修復は可能だからなぁ。

 

 ヒュンケルを殺した後は、ミストバーンが足止めしているアバンの使徒を背後から強襲。

 側近扱いされている気に食わない無口男にたっぷり恩を売った後、何処かに消えた女教師を始末すればいい。

 

「残念だが、キミの未来は死で確定したゾ」

「……どうかな」

「む?」

 

 マキシマムは、ヒュンケルが左手を持ち上げて何かを口に含むのを見た。

 小さな木の実のようなもの。

 保有しているデータの中にはそれらしきものが無いが、似たようなアイテムを勇者一行が口にしているのは目撃されている。おそらく体力回復アイテム。

 小癪な。苛立ちを感じ、兵達に命令する。

 

「殺れ。休ませるな、ジワジワとなぶり殺しだっ!」

 

 命令に従い動き出す三体の兵士達。

 少し遅れて魔界の魔物達も動いた。ヒュンケルがオリハルコン兵に反応した隙をついて攻撃を繰り出すあたり、狡猾というか抜け目がないが、役に立つのなら何でも構わない。

 肩口へ腕を突きさした僧正が十字の光を受けて倒れ、機能を停止。

 剣閃が数体の魔物を斬り落とすも、残った攻撃が連続して突き刺さり、戦士の身体がぐらりと揺れる。

 起き上がる暇は与えない。

 兵士が正面、騎士を背面に回し、拳で殴りつけては、よろめいたところを蹄で蹴りつける。

 渾身の一撃ならばオリハルコンすら砕くヒュンケルだが、不完全な技では魔物達を殺すのやっと。側面から襲い掛かる彼らが数を減らしていく間に、遂に生命力の数値が一桁を割った。

 

「どぉ~だ! これが真の王の実力!!」

 

 最後は自分の手で止めを刺してやろうか。

 勝利を確信したマキシマムは、配下の動きを止めないままヒュンケルに歩み寄り、太く大きな腕を振り上げる。自ら戦うことは稀で技術もないが、単純な質量だけで十分押しつぶせる。

 が。

 

「すみませんが」

「貴様如きにアバンの使徒を倒せはせん」

「悪ぃこと言わねえから沈んどけや三下ぁ!」

 

 絶妙のタイミングで割り込んできた者がいた。

 

 魔界の魔物達の間に滑り込んだ一体の『駒』が閃光を放ち、動きを止めると同時に全身を焼く。

 兵士と同様のフォルムに髪のようなパーツを持つ『駒』が、光の拳でマキシマムの兵士を砕く。

 そして、輝くオリハルコンの刃がマキシマムの胴体を縦に断ち切った。

 

「――は?」

「このまま見ていても貴様らの負けだろうが、せめてもの慈悲だ」

 

 何もわからぬままに死ね、と。

 告げた男は紛れもなく、死んだはずの超硬騎団長。

 かつては魔王とも、魔軍司令とも呼ばれていた男、裏切り者のハドラー。

 

 ――何故、ここにいるぅ!?

 

 驚愕。

 マキシマムは意識が急速に薄れるのを感じながら、最後に裏切り者の兵士(ヒム)の声を聞いた。

 

「てめぇともう一度戦いに蘇ってきたぜ、ヒュンケル。ハドラー様からも許可は貰った。まさか嫌だとは言わないよな?」

 

 だが、彼がその意味を理解することは、なかった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 バーン討伐に向かうダイ、ポップ、マァム、バラン。

 彼らの前に立ちふさがったのは最後の軍団長――ミストバーンだった。

 

「誰が来るかと思えば貴様一人とはな」

 

 ポップは、傍に立つバランの厳かな声を聞いた。

 

「今更一人で何ができる?」

 

 挑発だ。

 一見、余裕そうに見えるバランの態度をそう分析する。

 

 ――こいつの情報は殆どねえ。

 

 元軍団長であるクロコダイン、ヒュンケル、バランですら彼の戦いを殆ど見ていないのだ。

 強いて言えば、ヒュンケルに暗黒闘気の扱いを教えた師であるということ。そのため傀儡掌のような技は一通り使えるだろうが、それ以上のことはわからない。

 何をしてくるかわからない敵というのはそれだけで恐ろしい。

 事前の作戦会議でも『要注意』としてアティ、バランともに見解を一致させていた。

 

「……フッ。一人、か」

「何がおかしい?」

 

 そして、懸念は現実のものとなる。

 

「六大団長などバーン様の心のゆとりが生んだお遊びに過ぎん。本来、地上殲滅など私一人がいれば済むこと」

「……何?」

「ただ地上を破壊するのではなく、後々の世まで通用する軍団の編成を求めた――故の遠回りに過ぎん!」

 

 バランにとっては許容しがたい発言だ。

 竜の騎士である己も、誇りある戦士と認めているクロコダインやヒュンケルも、単なる遊びであったと切り捨てられたのだから。

 挑発には挑発を返された。

 だが、ミストバーンの言葉は単なるハッタリとは思えなかった。

 

 ――実際、魔王軍結成は十数年前のこと。

 

 魔軍司令ハドラーがバーンに救われたのがその頃で、ヒュンケルやバランが加わったのはその後だ。フレイザードに至ってはハドラーによって生みだされてから数年しか経っていなかった。

 ザボエラについては不明だが、このミストバーンに関しては。

 

「私は、幾千年も前からもともと一人だった」

「!?」

「そう、ずっと昔から、一人でバーン様を守り抜いてきたのだ!!」

 

 彼の言葉には、嘘と断じることを許さないだけの重みがあった。

 幾千年。

 途方も無さ過ぎて想像すらできないが――それが全て真実だとすれば、六大団長の中で彼、ミストバーンだけは格が違うことになる。

 下手をすればダイやバランよりも、強い。

 ポップだけではなく、ダイやマァムもそう思っただろう。

 

「それがどうした」

「……何?」

 

 だが、バランだけは違った。

 彼は、ミストバーンの重い言葉をどうでもいいと断じたのだ。

 

「なら聞くが、お前が退けてきた相手の中に竜の騎士はいたか?」

「―――」

 

 いるはずがない。

 いれば、バランの保有する記憶の中にミストバーンの情報があるはずだ。

 

「こちらには竜の騎士が()()いる」

 

 ダイと、バラン。

 竜の紋章が二つあること自体が前代未聞のこと。

 

「光の闘気と人の知恵、技術を使いこなす戦士がいる」

 

 ちらりと視線が向かったのはマァム。

 思わぬ褒められ方をした彼女が頬を染めるのが少し気に食わない。

 

「私が見てきた中でもトップクラスの呪文使いがいる」

 

 と、思ったら、物凄い賛辞が飛んできて息が詰まった。

 抗議の視線を送っても、当のバランは素知らぬ顔だったが。

 

「お前一人で十分というなら、やってみるがいい」

「――いいだろう」

 

 真魔剛竜剣を構えたバランを見据え、ミストバーンが答えた。

 苛立ったような声音は、こちらの挑発が幾分か効いている証だろう。

 同時に、ポップ達への激励もまた効果を発揮している。

 

「おっしゃ。いっちょ大魔王の前に白ローブ退治と行くか……!」

「言っておくが油断はするなよ。可能な限り私の指示に従え」

「……はぁ。気に食わねえけど、ここは言う通りにしておいてやるよっ」

 

 ポップと共にダイ、マァムも武器を構える。

 勇者が柄に手をかけると、ダイの剣は主の意に応えて封印を解いた。

 

 ――これまで剣が認めた相手は鬼岩城とハドラーのみ。

 

 この時点で、ミストバーンは最上位の強敵で確定したことになる。

 

「闘魔傀儡掌!!」

 

 ミストバーンの両手から暗黒闘気の糸が伸び――。

 

「アバン流槍殺法――虚空閃っ!」

 

 マァムの技が糸を断ち切る。

 それが、開戦の合図となった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「あらかた片付いてきましたね……」

 

 一方、地上でも勇士達と魔界の魔物達との戦いが続いていた。

 再現ボリクスが倒れた後も、ザボエラは懲りもせず魔軍司令配下の悪魔軍団を差し向けてきたものの――もはやその程度の敵などものの数ではない。

 数の面で苦労こそしたものの、僧侶レイラの参戦もあり、大きな犠牲もないままに大勢は決しつつあった。

 レオナと頷き合ったフローラはアバンに向けて指示を出す。

 

「アバン。あなたの判断で何名かを連れ、大魔宮に向かって頂戴」

「ウン、ワカッタ」

「な、なんでわざわざ化けなおしているのかしら……」

「ヨウシキビッテヤツダヨ」

 

 片言の返答を聞いたフローラが顔を引きつらせたのはまあ、ご愛嬌として。

 

『う、うううう……っ!! ええい、鬱陶しい奴らめ!!』

 

 魔軍司令ザボエラは、とうとう堪忍袋の緒を切らせたようだった。

 一体これで何度目か、大魔宮から何かが射出されてくる。

 

「全員、上空に警戒!」

 

 号令一下、勇士達が上を見上げたり、咄嗟にその場を飛びのくも。

 降ってきた『モノ』が着弾したのは人間達ではなく――無数に横たわる魔物達の死体だった。

 見れば、輝く宝珠のようなものが死体に埋め込まれている。

 

「……こいつは」

 

 じっと、宝珠を見つめたマトリフが目を見開く。

 

「やべえな。おい、この珠を手分けして壊――」

「おおっと、そうはいかん!」

 

 遂に、その声が直接一帯に響いた。

 宙に浮かぶ形で現れた魔軍司令ザボエラは、相も変わらず下卑た笑みを浮かべていた。

 逃げ隠れを好む男の登場に、誰もが一瞬言葉を忘れて。

 生じた隙を見逃さないのがザボエラという男だった。

 

「超魔合成!」

 

 合言葉と共に、珠を埋め込まれた死体がザボエラに引き寄せられる。

 マトリフが、アバンが、ノヴァが、クロコダインが、炎や冷気を浴びせようとするも、それらは全て妨げられ、ザボエラには届かない。

 そして。

 まるで部品(パーツ)のごとく集合した死体は完全にザボエラの姿を覆い隠し。

 禍々しい巨人の姿を作ると、ずん、と地面に降り立った。

 

「超魔生物研究第三の成果! 超魔ゾンビよ!」

 

 声は巨人の内部から聞こえてきた。

 仕組みとしてはキラーマシンⅡに近い。乗り込んで操作する機械、あるいは生体部品を使った鎧のようなものなのだろう。

 

「死肉の凝縮体で作り上げた無敵の存在! 身体はゴムのように衝撃を吸収し、熱も冷気も内部までは通さない! 体内の強力な毒素があらゆる刃物を壊し、中にいるワシは一切傷つかない!」

 

 チッ、と舌打ちしたマトリフが爆裂呪文(イオラ)を放つも、ザボエラは動じない。

 

「言い忘れておったが、呪文対策もばっちりじゃよ!」

 

 マホカンタ。

 呪文を弾く呪文の光が超魔ゾンビを覆い、イオラを跳ね返す。

 すかさずアバンが同じ呪文を唱え、相殺して事なきを得た。

 

「危ねえ。助かったぜアバン」

「いえいえ。……ですが、これはなかなか厄介そうですね」

 

 ビーストくんこと拳聖ブロキーナも沈黙している。

 彼は過剰回復呪文(マホイミ)と同様の効果を持つ閃華裂光拳の使い手だが、あれは生物にしか効果が無い。ザボエラ自身がゾンビと呼ぶ、死肉の鎧には全くの無力だ。

 もう一つの切り札であるメドローアもまた、中にいるザボエラのせいで切ることができない。

 むしろ、イオラでマホカンタを引き出したマトリフも中々の策士というべきだが。

 

「さあ、蹂躙じゃ!」

 

 超魔ゾンビの猛威が、激戦で疲労した勇士達に襲い掛かる。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 矢の罠(アロートラップ)に始まり落とし穴、警報、転がってくる鉄球に爆発する扉、無造作に置かれた宝箱に「魔法力を吸収して破壊力に変える」罠が仕掛けられていたり、ルーラの応用でかかったものを転送する使い切りの呪法まで。

 大魔宮地下は案の定、至れり尽くせり罠のオンパレードだった。

 ある罠は敢えて引っ掛かり、ある罠は予め解除し、ある罠はやり過ごして先を急ぐアティ。

 幸いにも魔物の妨害は一度も入らなかった。

 他の皆が活躍してくれているお陰で敵も手一杯なのだろう。むしろ少しくらいこちらで引き受けたいところだったが、さすがにそれは望みすぎだろう。

 

 果たして、無事に『柱』の格納庫へと辿り着く。

 人の身長の数倍の高さがある広い部屋に、十を超える『柱』が備えられていた。トベルーラを使って素早くチェックすれば、そのうち『黒の核晶』が内蔵されているのは二本だった。

 どうやら予備が一本あったらしい。

 数を保有するのが大変な代物だろうに。用意周到なバーンに感嘆しつつ、アティは『抜剣』によるブーストも利用して二つの爆弾をしっかりと氷漬けにした。

 柱ごと凍らせるレベルの念入り加減なので、ちょっとやそっとでは壊せないし投下することもできなくなったはずである。

 下手に火炎呪文で溶かせばドカンといく可能性があり、幾ら大魔王でも躊躇するだろう。

 

「……さて」

 

 急いでダイ達に合流しなければ。

 瞬間移動呪文(ルーラ)の一種にリリルーラという合流呪文があるが、生憎とアティは使えない。

 来た道を戻るか、それとも別ルートを潰しておくか数秒思案して。

 

「良い機転だ」

 

 老人の声が格納庫に響いた。

 

「!?」

「褒めて遣わす。褒美は其方の死で良いな?」

 

 こつん、と。

 靴音を立ててアティに一歩、近づいてきたのは、初めて見る顔。

 老獪な食わせ者と一目でわかる彼は、強い威圧感を放ちながら告げてくる。

 

「余が、大魔王バーンである」

 

 大魔王が、向こうからやってきた。

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