「やはり竜の騎士の力は大きいようだ。……バランよ、もう一度余の部下となる気はないか?」
「くどいぞ、大魔王。私は二度と迷いはせぬ」
バーンの誘いにバランはきっぱりと答えた。
真魔剛竜剣を抜き、構えて。
「貴様は三界のバランスを乱す悪。竜の騎士として見過ごすわけにはいかぬ」
「冥竜王ヴェルザーを討ったように、か?」
「その通りだ」
竜の騎士と大魔王の会話はそれで終わりだった。
剣を構えたバランは機を窺うように動かず、バーンもまた笑みを浮かべたままで立つ。
刹那の静寂。
気味の悪くなるような沈黙を打ち破ったのは、ハドラーだった。
「呑気にお喋りをしている場合かっ!!」
既に消耗しているであろうに。
疲れを感じさせない突進でバーンへ迫り、必殺の超魔爆炎覇の体勢を取る。
「先程とどう変わったか、見極めさせてもらおう!」
「ハドラー様!」
「奴に加勢するのは業腹だが、この機を逃すわけにはいかん……!」
ハドラーの大きな背中に続いた者が二人いた。
ヒムとラーハルト。
タイプこそ違えど生粋の戦士である二人は、勘だけでタイミングを合わせ大魔王へと向かう。
床にできた大きな亀裂は一飛びでかわし。
時間差で飛び込んでくる三人の戦士を――バーンは、構えを取って待ち受けた。
左腕を上に、右腕を下に。
天と地を示すかのような体勢と共に、闘気と魔力が膨れ上がり。
「あ……ああ……っ!」
「天地魔闘!!」
一瞬。
一瞬にして、三人が吹き飛ばされた。
ハドラー、ヒム、ラーハルト。
床の亀裂すれすれで止まった三人はいずれも大きな傷を受けていた。ヒムの左腕は綺麗に切断され、他の二人は劫火に焼かれて全身を焦がしている。
「……な」
「これが、大魔王か」
展開された出来事に誰もが驚愕していた。
――目で追うのがやっとの早業だった。
閃転突破が児戯に思えるような
己の目を疑いたい気持ちに陥りながら、アティは見たものを極力、正確に思い返す。
まず、ハドラーの超魔爆炎覇が炸裂。
バーンはこれを、すくい上げるように持ち上げた右手で防御。防具すら着けていない掌は覇者の剣に斬り裂かれるどころか、刀身ごと技の全威力を防ぎ切った。
勢いを殺され、逆方向に押されたハドラーは目を見開きながらそれを受け入れた。受け入れるしかなかった。
次いで、ヒムの
これを迎撃したのは振り下ろされた左手。闘気に覆われたオリハルコンの腕を
最後に、ハーケンディストールを放とうとしたラーハルトは。
ハドラーの技を迎撃後、掲げられた右手に生まれた不死鳥――カイザーフェニックスをまともに喰らうこととなった。
ヒムとハドラーも余波を受け、結果として大魔王は無傷。
一方の三人は致命傷になりかねない大ダメージを負うこととなった。
「っ」
「―――」
マァムが右腕の魔弾銃を起動したのは、大魔王の額が輝く直前だった。
直後に輝いた光は誰一人『瞳』に変えることなく消え去った。
「惜しいな。別の者を回復してくれれば一人、戦力を落とせたものを」
片腕を失ったものの、ヒムは出血しないし素の防御力が高い。
魔炎気を操るハドラーは炎に強く、再生能力を持ち合わせている。
ラーハルトはカイザーフェニックスの直撃を受け、鎧の魔槍で防いでなお酷い火傷だった。生身であり、速度と技量を大事にする彼には致命傷。
故にマァムはラーハルトを優先したのだろう――その機転が功を奏した。
「だが、我が天地魔闘の構えは絶対に破れん」
「……天地魔闘」
「そう。攻撃、防御、呪文の行使――三つの動作を一瞬で繰り出す奥義だ」
口で言ってしまえば簡単ではある。
だが、実際の恐ろしさは想像を絶する。
「フェニックスウイングはあらゆる攻撃を弾き返す」
魔法剣と同等である超魔爆炎覇すら無力化された。
その性質が防御ではなく反射――攻撃の方向を変えることにあるとするならば、メドローアですら例外にはならないだろう。
「カラミティエンドは最強の斬撃。余に武器など必要ない。この手刀はあらゆるものを斬り裂き、砕く」
ヒムの腕が両断されたのが証拠。
ダイやバランでも、竜闘気を全開にしていなければ剣を折られてしまいかねない。
「そして、カイザーフェニックスが全てを焼き尽くす」
あれを何度も受けて生きていられるのはハドラーくらいだ。
何の備えもなければ一発で焼け死ぬのが落ち。
――それが、一瞬で。
通常であればどれか一つだけでも奥義を名乗れる技だ。
竜の騎士の魔法剣が伝説的に語られているように「一行動で二つ以上の効果を生み出す」技には絶対的な効果がある。
にもかかわらずバーンは三つの技を繰り出せる。
強くないはずがない。
どころか、彼はハドラー達を迎撃してなお、構えを解いていない。
「バーン。あなたは、その技を何度使えますか?」
「……さあ。数えたこともないな」
嘯くバーン。
あれだけの技だ、十も二十も使えるはずはないが。
相手が大魔王である以上、常識が通るとは限らない。
「………」
「………」
一体、どう動けばいいのか。
飛び込めばカウンターが来る、それも技を三倍にして返されるとなれば動くのは容易ではない。
大魔王もまた動かない。
マァムが輝石に呪文を補充し、魔弾銃をヒムに向けて、
「――別に、こちらからも動けることを忘れてもらっては困るな」
「マァム!」
バーンは、悠長に待ってはくれなかった。
急に構えを解いたかと思えば、亀裂を一息に飛び越え挑みかかってくる。
「っ……!」
マァムはヒムへの回復を優先。
幸い射線は通ったものの、回避を後回しにした少女を手刀が襲う。
手持ちの武器では防げない。思わず目を閉じるマァム。
振り下ろされた手刀は、真魔剛竜剣によって弾かれた。
「……無事か」
「え、ええ……っ!」
マァムは慌てて頷き、その場から飛びのく。
大魔王が舌打ち。
やはり、剣に闘気を集中すればカラミティエンドを防ぐことはできる。
が。
「懐ががら空きだぞ」
「がっ!?」
鋭い蹴りがバランの腹に突き刺さった。
瞠目し、くの字に身を折り曲げるバラン。
「貴様っ!」
「大魔王っ!」
ラーハルトが、ハドラーが再び挑みかかるも、
「はははははっ、愉快な気分だ!!」
バーンは両手から無数の
爆球は他の爆球、あるいは床とぶつかって連鎖爆発を起こすが、何もかもお構いなし。
ラーハルト達も立ち止まって防御を余儀なくされる。
だが、ただ守っているだけでは勝てない。
それどころか、爆風に煽られた身体は徐々に疲労とダメージを蓄積していく。
「……これは」
強い。
これまで戦ってきた強敵とは次元が違う。
バーンの攻撃には溜めがない。
カイザーフェニックス――メラゾーマクラスの呪文ですら一息に放つことができ、それが低級呪文になれば今のような有様である。
しかも、彼のイオは並のイオラを凌ぐ威力を持つ。
――こうなると、一人であることに意味があります。
複数の精鋭と、彼らの総合戦力に匹敵する個人。
どちらが強いかといえば間違いなく後者である。
何故なら、格下が格上に挑むには恐ろしいハンディを背負う必要があるからだ。
強大な個は、時に数の利を圧倒する。
「だからって、無敵ってわけじゃねえだろ……っ!」
「ポップ君」
眩いばかりの光がイオの嵐を貫く。
互いの視界が遮られたタイミングを狙い、バーンに向かって。
「無駄だ」
フェニックスウイング。
無情にも跳ね返されたメドローアを、ポップは準備していた二発目で相殺。
「……今ので跳ね返されるのかよ」
「当然だ。大魔王を何だと思って――っ!?」
「おおおおおっ!」
小さな影が大魔王に向かって突進する。
ダイだ。
今まで動きを見せなかった彼だが、何も傍観していたわけではない。
彼の剣が纏うのはギガデイン。
胸の前で構えた姿勢から、勢いを殺さぬままに後ろへ下げて。
「ギガストラッシュ!」
「面白い!」
天地魔闘。
フェニックスウイングがギガストラッシュを完全防御。
カラミティエンドがダイの肩を深々と切り裂き、
カイザーフェニックスが勇者の全身を焼いて後方に吹き飛ばす。
――間に合う、んですか。
こうなれば、両陣営ともに止まれない。
「アバンストラッシュ……っ!」
「超魔爆炎覇!」
かつての敵同士が同時に放った必殺技が当然のように迎撃され、
「闘気拳!」
「ハーケンディストール!」
「何度来たところで同じだ」
イオの嵐が止まったことで復活したヒム達が、ぼろぼろになって飛ぶ。
仲間達が皆、倒れていく中。
アティは居ても立ってもいられずに駆けていた。
大魔王と目が合う。
彼は、冷徹な瞳でアティを見下ろしてくる。
一瞬、喜びの色が生まれたかと思うと、天地魔闘の構えが復活し。
「閃転、突破……!」
「天地魔闘っ!!」
『果てしなき蒼』が玩具のように弾き返される。
同時に放った
それでも、剣は砕けない。
――私はまだ諦めていません!
アティの心を映した剣は、諦めない限り決して折れない。
『抜剣』によって強化された身体を無理矢理動かして再度、魔法剣を繰り出す。
不死鳥とは相打ちだった。
「―――!」
劫火の余波を食らったアティは一瞬、呼吸を止め。
しかし、本体は切り裂いて吹き散らす。
「見事だ。やはり、其方は余の物に――」
「言ったはずです。お断りします、と」
がくり、と腰を落としたアティは。
右手から『果てしなき蒼』を消すと、左手を地面すれすれまで下げて。
必殺技をした連発ばかりの大魔王に向けて『もう一つの剣』を繰り出す。
――燃え上がる炎のような紅の刀身。
初めての生徒にして大切なパートナー、アリーゼの守り刀。
『
「はっ――!」
「お、おおお……っ!」
大魔王は驚愕の中に歓喜を織り交ぜ。
激突は互角。
剣と手刀が弾かれ、アリーゼの魂を宿る剣もまた折れることはなかった。
そして。
「
「
大きな隙を作ったバーンの頭上に雷光が閃き。
「「
大きさの違う二つの雷が大魔王を直撃した。
「が、ああああああぁぁぁっ!?」
バーンが絶叫する。
竜の騎士にのみ許された呪文は、かの大魔王にも通用した。初めてのまともなダメージに全員が安堵し、次の手を打つため思考を巡らせて。
「舐めるなあああああっ!」
ばあん、と。
闘気の放出が雷を吹き散らし、額の宝玉が輝きを放つ。
回復は間に合っていない。
『瞳』に捕らわれた者は、三人いた。
「く……っ」
「ちっ、ここまでかよ……っ」
「まだ、だっ……」
歯噛みし、息を漏らす彼ら。
ラーハルト、ヒム――そして、アバン。
「ようやく居なくなってくれるか。元勇者、アバン」
大魔王の言葉に安堵が滲む。
「其方が居なくなれば、余の懸念は大きく減る」
「生憎だが――」
その身が『瞳』へと変わる直前。
ポーチを外してマァムへと放りながら、アバンは告げた。
「私が先頭に立つ意味はもはや無い。我々は、誰もが誰かを導き――道を切り開く」
「戯れ言を」
からん、と。
新たに三つの『瞳』が転がり、勇者達は数を六人に減らした。
アティ。バラン。ダイ。ポップ。マァム――ハドラー。
バーンは一同を一瞥し、天地魔闘の構えを取る。
声をかけるのはかつての部下。
「ハドラーよ。其方の顔も見飽きた。そろそろ逝く気はないか?」
「ご挨拶だな大魔王。ご自慢の技を一体何度繰り出した?」
鼻で笑ったハドラーだが、その身体は満身創痍だった。
都度再生するとはいえ、かつての彼に比べるとそのスピードは遅い。
あれだけ立て続けに攻撃を受ければ癒しきれるはずもなく――むしろ今『瞳』になっていないのが不思議なくらいだ。
ある意味、大魔王の判定は公平すぎる。
『瞳』に変える基準はおそらく一定――都度、大魔王が「値なし」と定めているわけではなく、故に、どれだけ傷を負っていようとも「脅威に値する」何かがあればその場に残してしまう。
つまり、ハドラーはまだ終わっていない。
「さすがのあなたも、こいつらの相手はしんどいと見える」
「そう見えるか? ――単に久しぶりの身体ではしゃぎすぎただけのこと」
「そうかな?」
好戦的な笑みを浮かべ、ハドラーは魔炎気を噴出する。
周囲にいたアティ達までもが「熱い」と感じるほどの熱量。
後のことを考えていないのは明白だった。
「思いがけず拾ったこの命――最後まで悔いなく使わせてもらう」
「……いいだろう」
目を伏せ、笑みを浮かべた大魔王。
彼は直後に刮目すると大きく告げた。
「来い!」
「参る!」
魔炎気の炎にハドラーの魔力――疑似抜剣の輝きが重なり。
繰り出された超魔爆炎覇は、やはりその威力を発揮することができなかった。
胸を切り裂かれ、劫火に焼かれて。
ハドラーは光の中『瞳』となって消えていく。
しかし。
バーンの頬にはぴっ、と一筋の傷が刻まれた。
それは小さいが、確かな傷跡。
フェニックスウイングの守りが突き破られた証に大魔王が驚愕する暇もなく。
メドローアが再び輝きを放った。
大方の能力解説はこれで終わったかと思います。
次回、順調に行けば天地魔闘攻略編です。