バーンの死後、魔界を中心にヴェルザーが暗躍している。
新たなる混乱の予兆を察知した勇者ダイは、異世界リィンバウムに戻ったアティを頼った。彼女の知恵を借り、魔界行きのメンバーを編成するために。
魔界へは海底の底にある結界を魔法力で一時中和し、無理矢理に通り抜ける必要がある。
突破の際には相応の衝撃、負荷がかかるため、肉体的に頑健でない魔法使いは同行できない。
身重のマァムや王女であるレオナ、王配となったアバン、祖国復興に忙しいノヴァらも立場的に動けない。ヒュンケルは人々からの心象上、地上から消えるのは望ましくなく、ハドラー達と馴れ合うのも難しい。
結果的に突入メンバーはフリーな者による少数精鋭となった。
まずは、リーダーである勇者ダイ。
魔界の瘴気にあてられても正気を失わない強い意志を持った元獣王・クロコダイン。
魔族と人間のハーフであり、魔界においても目立ちづらい陸戦騎・ラーハルト。
アティの同行に反対し、代わりにメンバーとして志願した少女、『不滅の炎』の担い手・アリーゼ。
竜闘気を纏ったダイと『抜剣』したアリーゼを中心に境界を突破した四人。
彼らが辿り着いた魔界は地上とは様相の異なる世界だった。
荒れた大地。瘴気を発する魔界の植物。森や草原すら数が少なく、魔物達による共食いさえ日常的に起こる場所。食いつなぐには力づくで奪うか騙して得るか、あるいは高い魔力を用いて食べられる植物を栽培するしかない。
魔界では戦乱が始まろうとしていた。
バーン派の残党とヴェルザー派、そしてどちらでもない者達により三分された領域。
ダイ達が降り立ったのは小さな集団が乱立する第三勢力圏内の中でも最も小さな一つ、女と子供が中心となって作られた、弱い者が寄り集まってできた部族の集落だった。
魔族ではあるものの、子を育む母達の思想によって互助の精神が成り立つそこは、ダイ達にとっても理解のしやすい一団。
力仕事や狩り、漁などを手伝う代わりにしばしの宿を取らせてもらい、情報を集めるうち、ダイは「これからどうするべきか」悩むことになる。
魔族と魔物による勢力争い。
強者が弱者を食い物にする構図ながら、それは一方的なものではなく。愚鈍な力馬鹿を知恵者が出し抜くことさえ日常的に発生する。誰か悪者をやっつければそれで終わらない戦いは、若いダイには難しかった。ヴェルザーの策略も突きとめねばならない以上、あまり時間もない。
しかし、戦乱を放っておくこともできない。
悩むダイにクロコダイン、ラーハルト、アリーゼはそれぞれ自分の視点から助言する。彼らの意見を聞き、悩んだ末にダイが出した結論は、魔界にも愛を根付かせること。
戦乱になればすぐさま壊滅するであろう母達の集落を守り、他の地域にもいるかもしれない「話のわかる魔族」を集めて安住の地を作ること。
もちろん他の勢力同士が殺し合うこともできるだけ止める。
きっとそれがヴェルザーの企みを止めることにもなるはずだ――という、なんとも欲張りなものだった。
しかし、ダイを、あるいはアティを知る者にとっては「それでこそ」という目標。
勇者一行は団結し、魔界を平和にするために動き出した。
楽天家のダイと憶病なところのあるアリーゼが意見をぶつからせながら。
周辺の勢力と話し合ったり、力比べをしたり、時には決定的な決裂を迎えてぶつかり合ったりしながら、少しずつ勢力圏を伸ばしていく。
アティの発案で持ってきていた果実の種や穀物を植え、魔界独自の術で促成栽培したり。
名もなき島にある独特な建築技術や農耕技術を応用して利便性を上げたり。
生活事情の良いところには人(魔族だが)が集まってくるもので、自分から仲間にしてくれと言っている者もいた。
そんな時、彼らの前に一人の少女が姿を現す。
ラツィ(仮称)と名乗った彼女は竜の騎士と抜剣者を相手に一歩も引かぬ実力を見せる。ダイを生け捕りにすることが目的らしい彼女は邪魔者を殺すことも厭わぬ苛烈さを持ち、それでいて、どこか寂しげな雰囲気をその身に纏っていた。
ダイ達に撃退されては逃亡し、重要な局面で何度も戦いを挑んでくるラツィ。
戦いの中で言葉を交わすうち、彼女には迷いが生まれ始める。私には何もないと語るラツィは迷いを振り切るようにダイを狙い、三度敗れる。
殺せ、と乞うラツィをダイは介抱し、友人として匿う。
反発するラツィ。アリーゼは「別の危惧」から少女の保護に反対するも、ダイがこれに納得するわけがなく――魔界としては異常なほどに温かな母達の集落の様子に、ラツィも次第に心を開いていく。
成長中の記憶がないという彼女。
小さな子供のようなラツィに、アリーゼもお姉さんをせざるを得ず。一緒に食事や読書、ひなたぼっこや農作業を行ううちにラツィは本当の仲間になっていく。
特にダイには良く懐いた。
クロコダインは「ダイは動物や魔物に好かれるからな」と言っていたが、ラツィは次第にアリーゼや他の女に対して幼い嫉妬を見せるようになる。アリーゼが懸念していたことが現実になった。
ダイだけでなくラツィとも言い合いが日常になった頃、一行の元にはヴェルザー派の凶行が伝わってくる。
無数の機械兵士――キラーマシーン2による破壊と略奪、そして
敵勢力の魔物や魔族を殺さず捕らえたヴェルザー派は
それは、ヴェルザー派のリーダーである研究者リリエラ(仮称)の策略だった。
一時期ザボエラと恋仲にあり、ザムザを産んだ彼女は元恋人と袂を分かちヴェルザーについた。初老に至った彼女はザボエラにも負けぬ知性と悪辣さをもって研究を重ね、ザボエラの研究室からキルバーンが盗み出したデータをもとにキラーマシーン2や複製ボリクスをも量産していた。
これに対し、ダイ達はバーン派の残党との共闘を決意。
最初は反発したバーン派だったが、ダイの熱心な説得と「このまま滅びるよりは」という消極論から一時的な同盟を了承。
自ら協力を申し出たラツィと共にヴェルザー派を阻み、押し返し、駆逐することに成功する。
そして、いざリリエラの打倒に乗り出そうかという段になって――それは起こった。
突如として姿を現したリリエラ。
彼女が放った特殊な呪法により苦しみだすラツィ。
そう。少女はダイを捕らえるためにリリエラが放った配下だったのだ。施されていた条件付けは時間と共に薄れてしまっていたが、直接強化してやれば逆らえるものではない。
無意識のリミッターを解除したラツィの強さはこれまでとは一線を画していた。
それもそのはず。
リリエラはラツィを生み出すのに多大な労力をかけている。
長い時をかけて開発した呪法装置によって
培養曹で急成長させた赤子には超魔生物を応用した改造を施し、魔族と竜の属性を併せ持ち超再生を有しながらも戦いの度に進化する「もう一人の竜の騎士」と言うべきものを作り上げたのだ。
本来はラツィとダイをつがいとし、できた子にヴェルザーを転生させる計画だったのだが。
ダイの身体にヴェルザーを降ろすのでも構わぬと、リリエラは高笑いを上げる。
ダイは、アリーゼは憤った。
娘を計画のためだけに改造して使い捨てる所業。伝説の聖母竜さえ素材としか思っていない冷酷さ。
負けられない戦い。
自分自身さえ超魔生物と変えていたリリエラ、そして彼女に操られたラツィとの戦いは熾烈を極めた。しかし、辛くもリリエラに止めを刺したダイ達はラツィを元に戻す手立てを模索し、どうしようもないことを知る。
術者が死んでも洗脳は解けない。
改造によってボロボロになったラツィの身体はいずれにせよ長くはもたず、今回のリミッター解除によって崩壊寸前だった。
倒すしかなかった。
死の間際になって奇跡的に正気を取り戻したラツィは、アリーゼをお姉ちゃんと呼び、彼女に「殺してほしい」と頼む。
アリーゼはもちろん拒否した。
照れ隠しや嫉妬ではなく本心からラツィを罵倒し、怒り、生きなさいと叱咤した。
しかし、もはやラツィには時が残されておらず。
泣きながら心臓に突き立てられた『不滅の炎』が少女の存在を浄化し、刃を通してアリーゼの新たな力とした。それは、ラツィから「姉」へのプレゼントだったのかもしれない。
最後に。
ダイに、アリーゼに、他の面々に言葉を残してラツィは消滅し。
もはや戦争を起こすだけの力を失っていたヴェルザー派とバーン派、そしてダイ達は敵対状態を解除し、魔界の環境改善と融和を模索し始める。
そこに、最後の敵が姿を現した。
ヴェルザー派の領地最奥。
洞窟の奥で時を待っていた竜が目覚めたのだ。
肉体を封印されていた冥竜王ヴェルザー。
彼はリリエラが密かに作り出した「ヴェルザー≒」に己の意識を移植し、身体に馴染むのを待っていた。そして十分な力が戻ったところで動き出した。
かつてバーンと勢力を二分した冥竜王の再来である。
魔界の覇王となったヴェルザーは逆らう者を皆殺しにしていく。
眷属を全て失った彼はもはや知略を尽くす気がなかった。かつて自分を奉じていた者達であろうと、今、傘下につかぬのであれば容赦なく殺した。
立ち向かえるのはダイ達だけだった。
バランでさえ封印するのがやっとだった敵。異世界にいるアティやバランを呼んでいる暇はなく、一行は勇者ダイと抜剣者アリーゼを中心として決戦に挑んだ。
「まるで、父さんと一緒に戦っているみたいだ」
光の翼で宙に舞い、極大呪文さえ片手で用い、アティから借り受けた『果てしなき蒼』を手に二刀で戦うアリーゼ。人の心を力に変える魔剣を持ち、ラツィの力を受け継いだ彼女は竜の騎士と完全に同等だった。
竜の騎士は二人いない。
絶対的な法則を自分達の手で破った冥竜王は、かつて自分を苦しめた男の息子によって最後の野望をも打ち砕かれた。
倒れ伏し。
灰となっていくヴェルザーを見送ったダイ達は戦いの終わりを知った。
否。
終わったと思った瞬間、真の「ヴェルザーの企み」が発動した。
最悪のタイミングだった。
ほぼすべての力を使い果たした状態。
万全であってもなお、精神体にすぎないヴェルザーをどうにかする術はほぼなく――アリーゼは、ダイに自分を殺してもらうことを決断する。
そうすればヴェルザーが生まれてくることはない。
ラツィがそうしたように。
殺してと懇願する少女を前に、ダイは、どうしても決断することができなかった。
迷っている間にも事態は進む。
見る見るうちに大きくなるアリーゼの腹。母親の身体を食い破らんばかりのそれはまさしく、新たなヴェルザーがいる証拠であり。
『駄目。お姉ちゃんは殺させない』
窮地を救ったのは、残留していたラツィの思念だった。
アリーゼの中に残っていた彼女の魂がヴェルザーの精神と戦い、争い、相打った。
共に消えていく、父娘といってもいい存在達。
脅威が去ると同時にアリーゼの身体も元に戻り――こうして、本当に戦いが終わった。
払った犠牲は大きかったが。
地上に戻るダイ、リィンバウムに戻るアリーゼ。
クロコダインとラーハルトは魔界に残ることを選択した。まだまだ魔界が安定していないというのが一つと、それぞれ魔界で「いい人」を見つけていたからだ。
ゆくゆくは彼らの子が魔界の実力者となって世を変えていくかもしれない。
そして。
大切な人達の元へ戻ったダイやアリーゼもまた、経験により一回り大人になっていた。
大きな愛を、欲望を知った少年と少女。
二人が決断し、選択した『これから』とは――。
本作版魔界編の妄想が膨らんでしまったので。
アリーゼの性格がもう思い出せない上に長すぎて書け起こすことはできませんが……。