blank page   作:瀧音静

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4章 ゲーマー少女は仕掛けを始めるそうです
計算者(ジョーカー)


 初瀬いのの朝は早い。

城の誰よりも早く起き、身体を動かして目を覚まし、今日の分の内政を終わらせようと移動する。

執務室の扉を開ければ、彼より先に来てすでに書類と格闘をしているステフの姿が。

 

「おはようございますドーラ公。……つかぬ事を尋ねますがお眠りになられたのですかな?」

「あ、おはようございますいのさん。えぇ、寝ましたわ。気を失うように10分程」

「……寝た方がよろしいのでは?」

「えぇ、この書類が片付いたらそうさせていただきますわ」

 

 時たまどこと分からず遠い所を見たり、若干左右に揺れているステフを見ながら、心の底からの思いを伝えたいのは。

ステフの隣へと座って、内政に取り掛かる。

 

 それからしばらくして、生理現象の為に一度部屋から出たいのは、もの凄く気になる音を聞いた。

獣人種(ワービースト)特有の優れた五感だからこそ拾えたそのわずかな音は、小さな湿った音で。

もっと具体的に言うなら何かをしゃぶっているような音で。

あまつさえ聞こえている音源がカイの寝室ともなれば気になってしまうのも仕方のない事だろう。

 

 ましてや、吸血種(ダンピール)を抱き枕にして寝るという行為をしているとなれば、彼女の身の安否が気になってしまうわけで。

ゆっくり扉に近づいて聞き耳を立てると、悩まし気な吐息とぴちゃぴちゃと響く水音。

そしてたまに聞こえてくるプラムが絶品だと早口で捲し立てる食レポを聞いた辺りで、いのの理性は飛んだ。

 

 カイの安全を確保する為という名目で扉を突き破り、カイの居る部屋へと侵入したいのの目に映ったのは。

プラムを愛おしそうに抱き締めているカイで。

 

「……何か御用で?」

 

 飛び込んで来たいのを、()()()()()叫び声さえ挙げなかったカイに対していのは。

ただただ土下座するしかなかった。

 

*

 

「んで? じーさん。弁明があるなら聞こうか?」

「いやぁ、……早とちり、ですかなぁ」

 

 開いている扉からこれまた生理現象を収めようと通りがかった空に見られ、そのまま王室にて取り調べをされているいのであったが。

突き詰めると結局いのの早とちり以外の何物でも無く、結果弁明などは出来るはずも無かった。

 

「一応聞いとくけど、カイはプラムに何吸わせてたんだ?」

「にぃ……血に……決まってる」

「そうそう。血を吸わせてたよ? 濾過した血液をね?」

「濾過? んな装置なんざこの世界に…………!? 待て、まてまてまてまて、え? 何? カイって出来てたの? ていうか出るの? え? 誰の子? やっぱプラム? 待って? 分かんない分かんない分かんない」

 

 ぶっこんだ発言をしたカイの発した「濾過した血液」の意味を理解した空は露骨に困惑する。

そんな兄にツッコミを入れる事を忘れ、ただただ驚いていた白は。

 

「カイ……出る……の?」

 

 胸の前に手を持っていき、まるでナニかを絞る様な動作をしながらカイへと質問する。

 

()()出ないよ? でも、プラムきゅんの魔法で私から母乳が出る様に誤解させればほら。赤ちゃん居なくても授乳出来るじゃん?」

 

 あっけらかん。と。特に恥じらいなくそう答えたカイは、相変わらず膝の上に乗っているプラムの頭を撫でる。

そう、いのに見られた時にはプラムに授乳させていた場面であった。

 

 思わず赤面するいのだったが、それを逃さず見つけた空は言及する。

 

「じーさん何赤くなってんだよ。普通にアウトだからな? しっかり罪の重さを数えろ」

「女性の……敵は……許さない」

「というかぁ、許可なく吸うなんて行為、出来るわけないんですぅ。ですのでぇ、そもそも部屋に入って来た意味が分かんないんですぅ。あ、もしかしてぇ、ただ女体が見たかっただけですぅ?」

 

 と煽るプラムに対し、額に青筋を浮かべながらも土下座をするいのを無視して空は。

 

「んで? じーさんが聞いたっつー食レポってどんな内容だったの?」

 

 大胆にセクハラを試みる。願わくばオカズが手に入らん事を願って。

 

「にぃ、18禁」

 

 当然来る妹からの停止命令。しかし、読めていた。と。

理論武装は完璧だ。と空は白へと反論する。

 

「ちょっと待ってくれマイシスター? カイは客人で俺は国王、そして今回のこの騒動はこの城で起きた事だ。俺にはこの騒動の詳細を聞く権利があり、そこから二度と起きないように対策する義務がある。この城で起きた問題は全て知る必要があるのだ!」

「ではもう少し、城内だけではなく()()の問題にも目を向けていただけませんの!?」

 

 ステフの涙の訴えを黙殺し、白からの反論も無い事を確認し、視線をカイへと向ける。

正式に質問として、先ほどの問いをカイへ投げかける為に。

そして、それを受けたカイは。

 

「何て言ってたっけ? まろやかなでクリーミィなコク。滑らかな舌触りと芳醇な香り。血とはまた違う濃厚さと口当たり。とても美味しいです。……だったかな? 何? 空も飲みたい?」

 

 などとまたまた爆弾発言というか、爆弾質問を投下した。

当然反応しない筈がない童貞(そら)はしかし、その反応は白にかき消される。

かき消されると言っても、空の首を白の方へと向けただけなのだが。

強引に、なんなら骨が軋む音をあげる程の勢いだった事が果たして「だけ」なのかは甚だ疑問ではあるが。

 

 うめき声を上げながら首をさする空を見ながら、カイは。

今の所思い通りに物事を動かせている事に満足しつつ、プラムのうなじに顔を埋めるのだった。

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