blank page   作:瀧音静

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お待たせいたしました。

頑張ったので巫女さんの尻尾モフらせてください。



馬耳東風(ウイニングラン)

「ま、そうなるやろなぁ」

「そんなの納得出来るか! です。どう考えてもズルだろ、です」

 

 カラカラと笑う巫女と、納得出来ないと声を荒げるいづな。

が、そんないづなを巫女が(たしな)める。

 

「いづな、勝手な事言うたらあかんよ? カイはちゃんとうちらをハメただけや」

「そもそも戦うのはカイと蝙蝠のはずだろ、です。何であいつが戦ってやがる、です」

「それはね、巫女さんの勘違いだよ? 私は誰と組むと一言も言ってないよ?」

「せやなぁ。条件からルールから決めた場所に、ただ偶然居ただけやんなぁ、そこの蝙蝠」

 

 煙管(キセル)を吹かして内心に覚えるやり場の無い怒りを吐き出すように。

 ゆっくりゆっくり煙を吐いて。

 

「もっと考えとくべきやったなぁ。わざわざお互いの手牌を確認できるようにした意味を。麻雀の役を適用した意味を。な」

「互いに当たり牌を重ねて同時(ダブ)ロン狙う為じゃねーです? 麻雀はカイが分かりやすく覚える為の手段じゃねーんです?」

 

 巫女は至った思考に追い付けなかったいづなは、素直な、つい先ほどまで()()()()()()()()()()理由を口にする。

 

「ま、そう考えてまうよな。ほんにうまいわ。()め手(からめ)め手ちゅうんは、こうして使うんが正解なんやなぁと思ってもうたわ」

「何でなんだ、です。カイ、教えろ、です」

 

 尻尾の毛を逆立たせ、威嚇をしながらカイを見つめたいづなに正解を教えたのは、他ならぬ巫女だった。

 

「いづな、よう考えてみんか。あの魚の女王に陬雀の、妥協して麻雀のルールが理解できると思うん?」

「ぜってー無理、です」

「ほんなら、あの魚をパートナーにするならあいつの代わりに自分が打てるようなルールにせなあかんな?」

「それがお互いの手を確認出来る様にした理由、です?」

「その通りー。どう考えてもあの人はルール理解出来ないよねーと」

 

 ライラの耳には届かぬように、少し声を細くして笑いながら言うカイ。

 その言葉に思わず頷いてしまった巫女は、さらに答えを続けていく。

 

「麻雀に絡めたのはそもそも簡略化する為やろ? 陬雀の定石なんざ一夜漬けでどうにかなる訳あらへんし」

「ルール聞いたけど、あの二人みたいに理解出来る訳がやっぱり無かったし? あのルールは付けてて正解だったね」

 

 実の所、巫女も手を打ってはいた。

 血壊を配牌の瞬間にだけ、いづな共々発動して手牌を良くしようとしていたり、ではあったが。

 残念ながらそのことごとくは失敗していた。

 

「まさか水にさえ入っていれば、全精霊を引き付けるなんちゅう規格外(デタラメ)を持って来られるとはなぁ」

 

 発動しようにも、体内の精霊はすべからくライラに引き付けられ、血壊自体が不発。

 

「ほんで極めつけはこの卓に掛けられた、あの蝙蝠の魔法や。各々にの精霊によって手が良くなる、っては言うとったが、具体的にはどんな魔法やなんてあいつしか知らへん」

 

 やれやれと首を振った巫女はしかし。

 

「と思っとったのがそもそもの間違いやんなぁ」

「そ、そーなのか、です」

「考えてもみいや。そんな不確定な要素をカイがあてにすると思うん?」

「……やんねー、です」

「何か段々いづなちゃんに嫌われていってる気がする……。巫女さん、フォローしてよ」

「堂々とうちらまとめて嵌めといて何言うとるんや。んで? 実際の所どうなん? 蝙蝠に前もってかける魔法を指定しとったんやろ?」

 

 答え方によってはイカサマと取られる誘導尋問じみた問いを投げた。

 あわよくば引っ掛からないかと。多少自嘲気味な笑みをその顔に張り付けて。

 

「まっさかー。そんな事したら巫女さんとプラムきゅんの八百長勝負の盟約に反するでしょ? しっかり予想したよ?」

 

 案の定、引っ掛からなかった。――どころか全部を見透かしていたカイは、プラムの掛けた魔法を暴いていく。

 

「精霊に反応して偏る。口で言うと簡単だけど、魔法にするとメンドクサイんだろうなーと考えて、じゃあどうしたら面倒じゃないかと考えたの。そしたらさ、高い役を作れる牌が体内の精霊に引き寄せられるようにしておくのが簡単じゃないかなーと思ったの」

 

 膝元にある木箱を撫でながらカイは続ける。

 

「でも牌自体に意志も無ければ動く事も無い。じゃあ、()()()()()()()()と偽装して、その精霊が牌以外の精霊に引き寄せられるようにするんじゃないかって考えた」

 

 自分が一番愛しているから、想っているから、考えているから。

 プラムなら、そうするだろうと。愛という根拠にならない根拠に全幅の信頼を寄せたカイの予想は。

 その思いの強さを示す様に、寸分狂わず合致していた。

 

「その前提を確定事項としとったからこそ、あの魚をパートナーにして、あらゆる精霊を引き付けたっちゅう事なんやろ」

「その通り。そして結果は見ての通り、問答無用のトリプル役満」

「……っ!? あの時の賭けはこの時の為だった、です!?」

「賭け? カイは魚と戦っとったんか?」

 

 気が付いたいづなの言葉に、首を捻る巫女。

 

「てっきり、なんや空にお願いするとか甘い事言うて連れて来たんや思うとったんやけど」

「蝙蝠共々カイに負けてる、です。その時の賭けの内容が、「私と一緒に戦って欲しい」だった、です」

「蝙蝠呼ばわりはもう構いませんけどぉ、ライラ様のせいで負けたんですぅ。僕だけの勝負だったら絶対に負けてないですぅ」

「いのから何も聞いてへんのやけど……そうか、そないな事があったんか……」

 

 横から口を挟んだプラムは無視され、神妙な顔つきになる巫女。

 その巫女へ、カイはいののフォローをする。

 

「いのさんについては私が盟約で縛ってるから、ほとんどの事を言えないと思うよ?」

「じぃじ、カイに負けやがったです!?」

「それも初耳――なるほどな。それらも盟約の中っちゅう事か。ん? でもいのから、カイが情報持っとるって報告あったで?」

 

 驚愕するいづなと、納得した巫女。そして巫女に思い当たる節は当然。

 

「その報告は私の盟約の賭けの内容なので。どんな内容だったかはご想像にお任せします」

「けしかけさせられた。なるほどなぁ、ほんに、手のひらの上やったわけや」

 

 密かにいのへの処罰を考えていた巫女だが、考えを改める。

 結局同じなのだ。

 自分も、いのも。いづなさえも。

 獣人種(ワービースト)の筆頭とも言える3人が同じ相手に敗北した、ただそれだけの事なのだ。

 

「ついでにもう一個教えてんか? 魚が親になったんも蝙蝠の仕業やろ?」

「それすらも精霊に惹かれる様に設定してくれたみたい。後で一杯血をあげるからね」

 

 喜ぶように木箱がゴソリと大きく震えて、すりすりとカイにすり寄っていく。

 

「ほんで、うちらの負けなんやけど、カイの要求は立ち入り許可と魔法設置許可やったな。何処に入りたいんや?」

 

 煙管の灰を捨て、(たもと)に片付けながら巫女は、ぼかされたままのカイの要求の詳細を求めた。

 それを受けてカイは。

 

「東部連合首都・巫雁(かんながり)の一角。鎮海探題府(ちんかいたんだいふ)の応接室。流石に地下には入れて貰えないだろうし、そこで我慢する」

 

 と愛する者が活躍する、挿絵でのみでしか確認出来ていない、惚れた直接的な場面を見る為に。

 

「その場所に、天翼種(フリューゲル)の魔法を仕掛けさせてね?」

 

 未だに獲得していない、確認する為の術はこれから。

 必ず負かして履行させる。と、密かに信念を燃やすカイは、その場に居た誰もが息を飲む事を言ってのけた。

 

「? ね~ぇ~、ライラちゃん帰ってい~い~?」

 

 ――一人、分かって居なかった。


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