エルキア王城のとある一室。
日本の冬には欠かせない、とある暖房器具があるその部屋で。
腰から先をその暖房器具に突っ込み、みかんを捏ねて柔らかくしているその存在は。
ジブリールより複雑な模様を描いて回る光輪と、肩まで伸びた翡翠色の髪からは一本の角が伸びている。
光りを編んだような羽は綺麗に折りたたまれ、青と黄色の瞳に自らの捏ねているみかんを映しながら……。
怠惰を貪っているのは
全翼代理者の最終決定権保持者。
――ジブリールの自称お姉ちゃん。
アズリールだった。
「しかし暇だにゃ~。みんなうちを置いてどっかに行っちゃうし、この城にもほとんど誰も居ないにゃ」
暖房器具、コタツに全体重を預け、およそ権利者と思えない顔を誰も居ない扉へ向けながら、それこそ暇を貪っている時である。
そんな耳に届くのは、一人の足音で。
ちまちまと小さく千切れるみかんの皮を煩わしそうに剥きながら、自分の方へ向かってくる人物が部屋に入ってくるのを今か今かと待っていると。
「あずにゃ~~ん!! お願いがあるんだけど~!!」
扉を蹴破る勢いで、……文字通り蹴って破っているのだが。
そんな勢いのままアズリールの背中に抱きついて頬擦りをする女性。
最近この世界にやって来たカイとか言う少女だったか。
悉く自分も含めて敗北せしめたあの『
「めんどくさいにゃ~。そもそもうちの今の能力は
視線すら動かさずに拒否ったアズリールに、しかしカイはめげずにアズリールに言う。
「他の
ピクリ、と反応したアズリールを見逃さず、カイは言葉を続けていく。
「気になった? そうだなー……例えば、ジブリールが『
もはや聞き流す、という事が出来ない程に、アズリールの興味をそそるもので。
「お前、それ本気で言ってるのかにゃ?」
思わずSANチェックが入りそうな形相でカイを睨みつけたアズリールに対して。
「そうだよねー、知らないよねー。……何せ、ジブリールの性格じゃ自分から言わなさそうだし」
ビックリするくらいに空と重なるいやらしい笑顔で煽るカイ。
「なるほどにゃ。それがお前の言うタダでは無い――言うなれば手土産かにゃ~?」
「それが手土産がいいならそれでもいいよ? 他にも欲しがりそうな情報はあるし」
「今すぐ教えるにゃ! ジブにゃんの事でうちが知らない事は許されないのにゃ!」
人間並みの身体能力に制限されている筈であろうに、目にも止まらぬ速さでカイに詰め寄ったアズリールは、鼻息を荒くして肩を掴み大きく揺さぶった。
「つぁっ!? まっ!? ちょぎっ!!」
変な言葉を発してしまったカイは、――まぁ揺さ振るのを辞めさせようとする抗議の言葉なのだが。
割と強く揺さぶられたがゆえにそのような言葉が出てしまった。
「なんにゃ!? もう一回言うにゃ! ほら、何て言ったにゃ!!?」
思い切り身をかがめて、何とかアズリールの魔の手から逃れたカイは、数回軽く咳き込んで、アズリールへと言い放つ。
「情報が欲しかったら私に勝負を挑む事! もちろん盟約に誓ったしょうb」
「上等にゃ! 挑んでやるからさっさとジブにゃんの情報を渡すにゃあぁぁぁっ!!!」
「アズにゃん飛ばしてるねぇ。交渉成立って事で♪」
第一関門はクリア。と上機嫌のカイは、アズリールに対して、ジブリールが勝てなかった、
初見殺しで、ゲームという概念を知らなければ対応不能で、得意の魔法は一切の使用を禁じられるそのゲーム内容を、である。
当然の如くアズリールにとっては知りたい内容ではあるが、そうそう教える事など無いだろう。
と、半分諦めかけたアズリールだったが。
「ゲームに勝った時の要求は、お前の知ってる全情報をうちに教える事。でいいかにゃ?」
「それ以外を要求する気だったの? 初めからそのつもりだと思ってたんだけど?」
閃いた! と口にした要求は、あっけらかんとカイに承認されて。
そもそもその要求で進めようとしていた事を明かされて、戸惑いを覚えるアズリール。
「それで? どんなゲームで勝負する気にゃ?」
その戸惑いを振り払い、何とか心を落ち着けて聞いたアズリールに対してのカイの返答は――。
「秘めましたってゲームだよ?」