blank page   作:瀧音静

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結構な頻度で更新してるような気がしますが、錯覚です。
また間隔が開くかも知れないので、その時は生暖かい眼で見てください。


敗路行進(レペント)

 勝負開始の合図からしばらくして、いくら待てども『秘めました』と言わないカイに、若干の苛立ちを覚えるアズリール。

 体を前後左右に揺らしたり、髪を掻きむしったりと、落ち着いていないのが見て取れる。

 そんなアズリールの姿を確認したカイは、ようやく口を開いた。

 

「アズにゃん、私が秘めるのは大戦に関する事だよ」

 

 その口から出てきたのは『秘めました』という言葉ではなく、何を秘めるか、という宣言。

 だからどうした、と流そうとしたアズリールは、手放しかけた思考を必死にたぐり寄せる。

 リーヒェンゲルテを知っていた。

 今は大戦の事を答えにしようとしている。

 果たして、このカイという人類種(イマニティ)にしか見えない彼女は何者で。

 一体どこまでを知っているというのか。

 この世界をどれほどまでに把握しているのか。

 まるで、アズリールのその思考を読んでいるとでも言いたげに。

 

「今の十の盟約が設定される前。そのきっかけになった大戦終盤の事と、どのようにして大戦が終わったか。さらに言えば、誰が、どうして、どのようにして終戦に向かわせたか。その程度なら知ってるよ?」

 

 ここまでの情報を開示して、カイは果たして何を考えているのか。

 一層勝たなければと考えたアズリールは何を秘められても外せるように、カイの思考の外にある解答を用意しようと今の時間を使って頭を回す。

 今カイが口にしている事など、勝ってから考えればいい。

 そう考えていたアズリールに、

 

「じゃあ、しっかり考えてね? ()()()()()()()()()。『秘めました』」

 

 待ちに待った言葉、『秘めました』が言い渡されて。

 

「答えは――」

 

 適当に答えようとしたその時である。

 カイの視線が、どこも見ていない、虚空を覗いていた事に気がついた。

 

(? 何の顔にゃ? ……ん? 秘めましたの前に、こいつは何て言ってたにゃ?)

 

 答えの続きを紡ぐ前に、引っかかりを覚えた一つのフレーズ。

 

(貴方の最後の質問を? どういう事にゃ? 質問なんて向こうがルールから外したはずにゃ)

 

 このアズリールの気分次第で勝ちにも負けにもされるルールを制定したのは他ならぬカイであるし、そのカイが質問なんて言い出すのはどう考えても不自然だ。

 ましてや最後などと……。

 

(待つにゃ……あの時なんて言ってたにゃ?)

 

 フラッシュバックさせる記憶はつい先ほど。

 お互いが盟約に誓うその直前。

 

(あいつは、要求したこと全て飲むように変更したにゃ。けど、最初からそんな予定だったにゃ?)

 

 最初のカイの要求は、あの獣共の領地に入って魔法を仕掛けさせろ、というもので。

 それこそがカイの今必要な全てなのだろう。

 確かにアズリールに好きに要求出来るとなればやれることは増える。

 しかし、盟約によって人間種(イマニティ)並の能力に制限されているアズリールに頼めることなど、たかが知れている。

 ではなぜあそこで要求全てを飲むなんて文句に変えたのか。

 

(そんなの、勝つ為の布石のはずにゃ)

 

 たどり着いた結論に妙に納得できてしまい、そして――アズリールは戦慄する。

 

(――っ!!? いや、待つにゃ。そんな筈無いにゃ!)

 

 一瞬だけ浮かんだ狂気に満ちた結論。

 それを振り払うように首を振ったアズリールはしかし、その狂った結論以外では辻褄が合わない事を理解する。

 だから、あのような眼をした訳で。

 だから、最後の質問などという言葉が出てきた訳で。

 

(もうすでに口にした要求は勝ったときに問答無用で行使されるって事にゃ!? それじゃあ、こいつは()()()()()にゃ!)

 

 煽られるのが鬱陶しくなり、つい言葉に出てしまった、死ぬか黙れ、という言葉。

 その後で要求全てを飲むとされたせいで、そのどちらかをカイは負けた場合に飲まなければならない。

 つまり……。

 

(負けた直後に死ぬ気にゃっ!? だから最後なんて言い出したにゃ!!?)

 

 普段のアズリールならば、気にせずに死ねとばかりに適当な答えを言っていただろうが、この時ばかりは違った。

 『  (くうはく)』との勝負で人間種(イマニティ)の本質に気付かされて、大戦時の人間種(イマニティ)の動きに疑問を持った今ならば。

 その答えを持っている目の前の人間を、わざわざ見捨てるなどという選択肢は……無かった。

 

(最後の質問にしてしまえばうちの負けで、最後の質問にしない為に、うちに負けろ? こいつ……)

 

 内心で歯がみしながらも、思索するアズリールは徐々にカイの思考に追いついていく。

 

(うちに答えさせるために秘めたって事は、どう考えてもうちが知りたがってた事にゃ)

 

 それを踏まえて、紐解いていけば、(おの)ずと答えは絞られる。

 

(さて……どっちにゃ?)

 

 たった二つに絞られた答え。

 ずばり、アルトシュの事か、人間種(イマニティ)の事か。

 

(うちがずっと心で思ってたのはアルトシュ様の事にゃ。けど、最近強く思ってるのは人間種(イマニティ)の事にゃ……。どっちの答えを用意しているにゃ?)

 

 ここまでたどり着いたアズリールの、最後の二択。

 簡単に言ってしまえば、過去か、今か。

 

(だったら、うちが選ぶのはこっちにゃ)

 

「カイ、あんたが思い浮かべたのは『大戦中に人間種(イマニティ)はどのようにして生き延びたか』にゃ!!」

 

 ようやく辿り着いた解答を、アズリールはどや顔で言うのだった。

 ――――敗北する為に。




というわけで今回はいの戦でやったことの逆と言いますか。
相手の発言逆手に取ってのハメ技というか。
ぶっちゃけこれ出来そうなのが天翼種の二人しか居なくてですね……。

アズリールには犠牲になって貰って、敗北者になって貰うことになりました。

次がいつになるか確約出来ないのでゆーくりとお待ちください。
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