blank page   作:瀧音静

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  (ウィナー)

 カイの行っていた記憶法、それはトランプの並びを1つの物語に変換し記憶するもので。

例えば、先程のスペードの9とダイヤの6、これら2つを塩コショウ。

ハートの2とダイヤの3をトマトと頭の中で変換する。

 

 これら4枚だけで、塩コショウをトマトにかけた。というストーリーとなりーー、これをトランプ52枚分、2枚1組で26組で作り上げたストーリーを数秒で記憶する。

それ故にーー

 

(ちょっとでもズレが出ると組み換え難しいんだよね……)

 

 心の中だけで苦笑しながら空に合わせ15を宣言。

確認すればクローバーのJ(11)とダイヤの4で、カイの頭の中のストーリーにはそんな組み合わせはやはり記憶されていない。

 

(白ちゃんの指示かなー? いくつズラすってのは。本当にこの『  (ふたり)』は……)

 

 空からトランプを受け取りながら、どうしたもんか。とカイは思案する。

 

(また表にして記憶する? いや、そんなの今やったら自分の記憶が曖昧だと公言してるようなもんじゃん。…………まだ多少しかズラされて無いはずだし、そのズレを見極めるしかないか)

 

 先程までのシャッフルと同じ、まるで順番を変えないシャッフルをし二枚を伏せて。

 

 一度目を閉じ、頭の中のストーリーを一度数字に分解。

クローバーの11とダイヤの4の場所を確認し、今まで消化した札を消して…………

 

(修正完了。これで違ったらお手上げさー)

 

「6」

 

 その宣言を受けて空は、思わず笑みをこぼす。心の底から勝負を楽しむように。膝の上で兄と同じくご機嫌になった白と共に。

 

「「6」」

 

 と声を揃えて宣言する。

 

 結果はスペードの3とクローバーの3であり、カイは見事に修正に成功していた。ーーがここで少しでも気を緩めれば、その空気を空に読まれれば、また状況が苦しくなる。

 

 故に一時足りとも気が抜けないカイの頬に、暑さのせいではない汗が流れる。

 

 しかし、それも無駄になっていることをカイは分かっていなかった。

 

 空に渡したトランプ。それに緊張のせいで張り付いたこれまでと違う汗の量を、空は当然見逃さない。

 

(緊張してたって事か。なら今の宣言は確信が持てなかった訳だ。カードの並びだけを記憶して、並びが変わるとそれに対応出来なくなる可能性があるって事だろ? んじゃ、仕掛けるとしようか。俺の思う完全勝利に向かって、さ)

 

 トランプに付いた汗。その量だけでそこまで把握した空は、膝を僅かに動かし、その上の自分の片割れに意思を伝える。

 

 ーー動くぞ。と。

 

「18だ」

「18」

 

 親の空の宣言に当然合わせたカイは、開かれたダイヤのQ(12)とクローバーの7に思わず目を見開いた。

 

(嘘!? 白ちゃんがミス? ーーなんて、楽観出来るわけ無いでしょ! 確実にわざとーーしかもまたズラされた! うー、強い~)

 

 あの白がミスをするとは当然思えず、つまりこれはある種の宣告なのだとカイは理解する。

 

 すなわち、「親と同じ宣言しかしないなら勝てないよ?」と。

「私たちは好きに順番を変えられるよ?」と。

 

 半ばいじけながら現状を把握し、この時点でカイは勝ちが無くなった事をうっすら悟る。

 

(もう少し、追いすがれると思ったんだけどなー)

 

 が、しかし。ゲームで一番つまらないのは相手がやる気を無くし、適当にプレイされる事。ならばやはり、最後まで足掻くしか他は無いのだ。

 

 空からトランプを受け取り、やっぱり順番を変えないシャッフルをし、そこから先程より深くに思考を落とす。

 

 残りも少なくなってきたトランプをどう動かされたか、それをした意図を、せめて思考だけでも追い付こうと頭をフル回転させる。

 

(『  (くうはく)』は完全勝利を目指すはず。けど、目指した完全勝利はノーダメプレイじゃなかった。ーー()()()()()()()()()()?)

 

 けれども、どれだけ考えても『  (くうはく)』の思考に辿り着けない彼女は、ここからゆっくりポイントを減らし始める事となった。

 

 

 現在、カイの残ポイントは22。対して『  (くうはく)』の残ポイントは29。そして、残りのトランプは4枚。

 

 カイは数字の見当がつかないなかで、実際に空すら驚くほどにポイントを保っていた。空がわざと違う数字を宣言し、失ったポイントと。

それに引っ張られて失ったポイントを差し引いてもわずかに7ポイント。いくら記憶していたとはいえ、中々に驚異的な勘の()えだと『  (くうはく)』は舌を巻いた。

 

 そして、カイもまた、ようやく『  (くうはく)』の思い描く完全勝利を理解した。

 

(なるほど、それが2人の中の完全勝利かーーそう来るか……)

 

 たった4枚のトランプを混ぜもせず、そのまま裏向きに置いたカイは、悔しそうに宣言する。

 

「20」

「だろうね。もう俺らの考え理解してるよな?」

「……にじゅう……いち」

 

 楽しめた、と両腕を広げる空と、カイに向かってVサインを送る白。

 

 表にしたトランプはハートのK(キング)とスペードのAで、

 

「「ブラックジャックだ!」」

 

 と声を揃えて言った『  (くうはく)』に頷いたカイは。

 

「子が21を宣言していて実際に21だった場合は、それまでに子が失ったポイントも同時に差分と合わせて失う。ーーわざわざ21ポイント減らして、差分とあわせて22ポイント。ぴったりジャストキルって訳かー」

 

 ルールに書いてあることを起こさずに何が完全勝利だ? と、言わんばかりに誘導されたこの局面に感心しきりだった。

 

 しかし、そこで生じる1つの疑問。残った1組のカード、その中身。何故、そのカードを残して完全勝利なのか? という疑問。

 

 それをカイが『  (くうはく)』に質問する前に、本人達から説明された。

 

「カウンティングはしてるか? してなくても流石に残った2枚は分かるよな?」

「残った……2枚は、……ハートのQ(クイーン)……と」

「スペードのK(キング)。ま、そんなガラじゃないが? 一応王様と女王様な訳だし? ()()()()()()()()()()()、つまり勝者であると自分等から主張させて貰うぜ?」

 

 満足感から、また、心から楽しんだという充実感から、饒舌(じょうぜつ)に語る空と。

 

 カードの並びを全て記憶し、どれだけ並びをズラすかを指示し、兄の完全勝利のシナリオを汲み取り、そのシナリオに向けて全力で思考を巡らせ、兄を導いた頼れる小さな存在は。

 

 言うだけ言って、兄の腕に抱かれ、頭を撫でられながら、体に見合った小さな寝息を静かにたて始めた。 

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