引き絞られた弓から離れた矢はもう戻る事はない……。
鳳の雛は静かに狂喜の喧騒を浮かべ影は静かに闇の潜む……。
彼らに、戦うための大義名分を与えてはいけなかった……。
指定のポイントに辿り着いたのは、意外にもまだ日が高い昼間だった。
そこから、
隠密の基本は何時でも眠れる事にある、俺は地元で先生から睡眠に入る訓練を受けていた。
別動隊のクルス先輩たちも準備を終えた頃だろう、そんなことを考えながらいつもの様に微睡みの中に沈んでいた。
そしてその時は来た……。
「起きてるかpurple4……。」
俺は半身を起こすと、向かい合うように寝ていたカインに声を掛けた。
「うん、ばっちりだよ。」
そう返すして顔を上げたカインは、目を合わせて外に出る。
魔獣除けの薬剤を周囲に撒いたので、近くに魔獣が接近した気配がないのを確認して木の根の影から魔導式対物ライフルを引っ張り出して
「ジョイントコネクター接続良し!マナ供給の確認良し!魔導式対物ライフル各部機能異常なし!」
俺が
「距離良し!方角良し!風は無し!」
カインが周辺状況を確認していく、すべて予定通りの進んでいる。
「現状において、迎撃に支障なし!目標の到着まで待機する!」
「了解!」
さぁ、いつでも来いよ……銅牙騎士団!
クリス視点
作戦が始まってから数時間、カザドシュ砦から火の手が見えたのを遠くから確認した私達は塗料弾を装填した魔導式バズーカランチャーを担ぎ、戦闘の最中であるカザドシュ砦の壁の近くまで移動した。
砦の中では結構激しい戦闘が起きているらしく、戦いの衝撃が壁を伝って此方に迄届いたほどよ。
「流石は、ディクスゴード公爵閣下直属の騎士団ですね。」
「あぁ、この国の中でも最高位の騎士団だ。彼方さんも一筋縄ではいかんだろうよ。」
このままここで取り押さえられたら、私達も面倒が無くていいんだけどね。
「出て来たな、準備は良いか?」
「勿論です!」
そうは問屋が卸さない。門が破られ強奪されたテレスターレやカルダトアと思わしき幻晶騎士の姿を確認できた。
私は
「こっちに気付いた!」
「予定通りですね!」
噂に聞くサブアームがこちらに向けられたの見て急いで退避して近くの森林に身を隠す。私達がすぐに逃げたのを見ていただろう相手方が直ぐに狙いを外し、フレメヴィーラと西方諸国を隔てる高い壁オービニエ山脈へ続く街道を進み始めた、敵機にマーカーが付着しているの視認すると森に隠れながらその一団を追跡し始めたわ。
あっさり狙いを外したのは、実害が無かったからかしらどっちにしても現状で張り合えるほど私達は身の程知らずではないわ。
「……妙ですね?」
「何がだ、purple3?」
「この辺り静かすぎませんかパープル2?」
呪餌を使っている割には、不自然なほど魔獣の気配がない。まるで何かが厄介払いしていった後みたいな……!
「右に避けてください!」
「?分かった。」
急いで街道側に出るように指示をすると、一瞬遅れて巨大な偉業の腕が私たちの居た場所を突いた。
「幻晶騎士! しかし、俺たちの国の物じゃ……。」
「相手方の持ち込んだ物でしょうね……。」
魔獣を相手にするためこの国ではまず見ない最小限の装甲と視認性を下げるためなのか、腰から全身を屈めた低い姿勢と手腕部も人の形をしていない。対人を意識した隠密強襲機だわ。
矢張り潜んでたのね。ウェン兄さんが警戒して置けて言っていたから意識していたけど……。
「外したか……勘のいい奴らだ。」
幻晶騎士ごしに聞こえた声は男で、少しばかり驕った性格が滲む。
「それにしても例の新型以外にも、見慣れない玩具があったとはな。あいつの報告にはない物だから驚いたよ。」
相手方の騎操士は
どのみちコレは私達を見逃しはしないだろうし、何より近くに僚機が隠れていたら視界を潰しても誘導されてしまう。
ヘルメットに組み込んである通信装置のマイクで、クルス先輩に声を掛けた。
「purple2、あれを開けた場所まで誘導するように走ってください。」
「何か考えがあるんだな。」
「はい、勿論です!」
「分かった、その考えに乗ってやる!」
森に再び入り走り始めると、魔導式バズーカランチャーを敵に向けて放ち注意を引き付けた。
「なっ!待ちやがれ!」
掠りもしないのに私達の反撃されたと思ったのか追いかけてくる。明らかに格下と甞め切った態度だったから挑発すれば追ってくるとは思っていた。
敵の機体は軽量の為か、幻晶騎士の中では早い方だろう。
しかし、機動力が違う。ウェン兄さんは地に足のついた生き物の移動能力は地面に接している面積で決まると言っていたわ。
二本脚の動物が四本脚の動物より遅いのは、歩行の際に地に接している面積が常に一つだけだからだそうよ。
それで、車輪の場合は常に地面に一定の面積が地面に接するから、歩行兵器よりも機動力に勝るのだと言っていたわね。
「は、早い⁉ くそっ、追いつけねぇ!」
やがて幻晶騎士が動くには手狭だけど私達が動くには丁度いい位の広さがある場所まで出て来た。この辺りは何度か下見をして潜伏場所の候補として見張っていた場所よ。
「ここからどうする?」
「アレがここまで来たら周りを回ってください。」
「分かった!」
敵の到着を待ち構える。そして奴は現れた。
「やっと追いついたぞ! はぁはぁ……。」
息を荒く吐き出して私たちの前に現れた相手の周りを予定通りに周回して、魔導式バズーカランチャーに破壊弾頭を込めて放つ。
「何!?」
此方のバズーカの弾頭は敵幻晶騎士の腕部に直撃した。思ったよりもダメージが通っているのは装甲が無いせいだと思う。
隠密性を高めるために装甲を最小限にした弊害は単純な防御力の低下なのよ。だから普通の幻晶騎士では掠り傷にしかならない攻撃も大ダメージになるの!
さぁ、何発まで打てば倒れるかしら?
幾ら防御しても無駄よ。だってここは開けた場所で遮る物なんてないんだから。
次々と直撃しては、大きなダメージを機体に受けて満身創痍の敵は最後の一発であっけなく機能を停止した。
「終わったのか?」
「さぁ、他にお仲間が居たら助けに来るでしょうけど。」
そう言って警戒してみるけど助けが来る様子はないわね。あの騎操士が人望が無いのかそれとも初めから決まっていたのか、救助に来ようとする幻晶騎士は現れなかったわ。
それより幻晶騎士の騎操士を捕縛しておかないと重要な情報源だわ。後は急いで街道に戻って……大分離れちゃったわね、間に合えばいいんだけど?
ウェイン視点
街道が見渡せる高台でこの魔導式対物ライフルの射程距離に入る場所は意外に限られている。物が物だけに軽々とは持ち運べない為、一度分解して運ぶ必要がある。
更に射線上に障害物があるのも困る。だからこそ現地の様子に詳しい人間からの情報を頼りに狙撃ポイントを厳選して5か所の地点にこれと同じ物を配置してある。
俺達が持ってきたのは、最初の狙撃ポイント配置する物が一昨日完成したためである。
弾丸は各ポイントに10発ずつ配備し、合計で50発は確保したがちゃんと発射できるのはその内の何発になるやら。
最初のテストじゃ10発撃って内7発は不発だったし、あれから精度調整もやって最後のテストで漸く半分成功した。
やっぱり鍛冶の専門家が居ないのはいけないな……。
そもそもこの世界には火薬が無い。材料はあったが何故だが精製することが出来なかった。だがそれだけで銃火器が作れないかと言われれば否である。要は発破現象さえ起こせればどうにでもできる。
この弾丸も薬莢に詰めているのは液体だ。そして装填部には発熱装置が取り付けてある。
爆発的蒸発現象、いわゆる水蒸気爆発の原理で弾を打ち出す訳だ。威力は火山の噴火が立証してくれている。
発射までのタイムラグはあっても、割と安定して撃てるからこの先も重宝しそうだ。
「来たよ……10時の方向に距離は1000……数は三機は全部新型。」
「了解……。」
思ったより多いな。これはここにある10発で足りるか?
不安がっても仕方ないか、足りなければ次の地点でまた狙えばいい。
「発射!」
「………目標命中、頭部半壊確認!」
引き金を引き少し間が明いて、敵機の頭部を捉えた。
命中した敵機の頭部は半分が吹き飛び、残り半分も機能しているか怪しいか。
「次弾装填!発射!」
「……次弾命中!左腕部機能不全確認!」
次いで頭部が半壊した機体に駆け寄って行ったもう一機の左腕部の関節を狙っい引き金を引く。弾丸は狙いすまされた弾道を通って目標に吸い込まれ左の二の腕から先がだらんと垂れ下がる。
流石に警戒しだしたな、密着状態で周囲を見回している。
足は止まったが狙いが定め辛い、密集しているせいでまだ万全な機体が隠れてしまってる。
幸いこちらの位置には気付いていないらしいが、マーカーの存在には気が付いたらしく目印を覆い隠すように密集している。
こちらも如何にか引き剥がそうと狙撃を続けたが、結局狙い通りの個所に命中させられたのは最初の二発だけだった。
「移動するぞ……。」
「うん……。」
準備した十発の弾薬が無くなり、俺達は次のポイントへ
新型機テレスターレ
現在の幻晶騎士のスタンダードとなった機体の原型機。
その制作に用いられた技術は、今をもって尚革新的だったと称賛され続けている。
驚くべきは、これを制作したのが当時まだライヒアラ騎操士学院に在籍していた学生たちであった事だろうか。
さらにこの機体の原案を発案したのが、当時12歳のエルネスティ・エチェバルリアであった事は余りにも有名である。
本機は試作機として五機制作されたが、カザドシュ事変にて四機が破壊され一機が強奪された。