銀の鳳の影に潜む者   作:マガガマオウ

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時は来たれり……。
銀の鳳はその翼を広げ今にも飛び立たんとする。
その動きに合わせ影の者たちも動き出す、世界の時を動かす為に……。


疾く駆けるは轟音~機動兵器出陣~

約束の日、その日は空が澄み渡り視界を埋め尽くす青を湛えていた、地下の格納庫から地上へ続く通路を走り出た俺のヘルメットディスプレイにも新鮮に映るのは心境がそう見せるからだろう。

あれから色々試行錯誤を繰り返し完成したエルネスティからのお題に対する答え、幻晶騎士(シルエットナイト)ではない俺たちなりの機動兵器の形を見せる事が今日の目的、ついでに言えば指定日を今日にしたアイツの狙いにも乗っかろうとしていた。

その為のキャパシティブレームを重ねて作った装甲板が機動兵器を覆い被せて、傍から見て昆虫を連想する事は請け合いだ。

 

「エルネスティ団長閣下に応答を願う、こちらはもうすぐ合流できそうだ。」

「了解です。こっちはもう既に街道を進行していますから、列に加わってください。」

 

昨日の内に地上の通行用道路の擬装を外しておき、街道に出るためのトンネルに入る前に向こうに連絡を送ればすぐに応答が返ってきた。

 

「心得たでは後程。」

「はい、心待ちにしております。」

 

隊列に加わる許しえた事を確認してから通信を切りトンネルの中へ、少し長いがこれも秘匿の為に通路を入り組ませた結果、そして再び日の下に出ると前方に風変わりな幻晶騎士(シルエットナイト)らしき人馬が一機荷台を引いて猛進しているのを確認し後方から追い駆け確認の通信を入れる。

 

「エルネスティ団長閣下、前方に見えるのが貴殿らの隊でいいのか?」

「はい!こちらも其方を確認しました、やはり貴方は面白い方でしたね!あぁ、アディ彼は魔獣ではありませんから攻撃はしない下さい。」

 

どうやら人馬の騎操士(ナイトランナー)が此方に攻撃を仕掛けようとしていた様だが寸前で止められた様だ、ひやひやするぜまったく……。

 

「その本体を包む装甲はキャパシティブレームですか?相当な量を積んでるようですが、その機体はそこまで魔力が必要なんですか?」

 

直ぐ後ろまで近づく事が出来た時、通信魔道具を介してエルネスティの質問が飛んでくる。

 

「いや、これは別の目的で積載したものだ、本体だけなら幻晶騎士(シルエットナイト)より少ない魔力で動かせる。」

 

何せ基本の構造幻晶軽機(シルエットライダー)を拡大させただけなのだから、そう難しい構造でもないし動かしてる機関も場所を取らない。

 

「成る程成る程、ではやはりその大量のキャパシティプレームはコッチの……。」

 

此方の狙いを察してるらしいエルネスティは、発言にそれを匂わせながらもしばし無言の間が置かれた。

 

ではあの火砲類は……ん~何ですかアディ?あぁ、もうすぐ到着するんですね。」

 

エルネスティの脳内でコイツの考察を巡らせていた時、人馬機の騎操士(ナイトランナー)から話題を振られ目的地に近い事が分かった。

 

「もう少し深考に更けていたかったのですが……致し方ありません、ちゃっちゃと用事を終わらせてその素晴らしいメカに思いを寄せましょう。」

 

おい……国王陛下の招集だろ、それをガキの使いみたいに言うか?恐れを知らないなコイツ……。

エルネスティの怖いもの知らずな性格は知っていたが、それでも上限はあるだろうと考えていたが……機械が係ると天上天下唯我独尊の我が道を征く奴だったとは。

だがある意味で理想的な協力者と言えるのか?こんな型破りな天才はいい誘蛾灯だ、エルネスティに近付く人間はこれから多く集まるだろうし中には良からぬ考えを巡らす者も現れる、きれいな光に寄せられて近付いてきた所をこっちが押さえれば。

 

「そろそろ合戦場です!皆さん気分を上げていきましょう!」

 

俺がこれからの組織構想を脳内で巡らせていた時、エルネスティの号令がかかり我が国の王都カンカネンの門を過ぎ闘技場へと辿り着く、外ではもう既に国機研の責任者が国王陛下に新型のプレゼンを声高らかに述べている様だ、声音から相当な自信があると伝わってくる饒舌な熱弁だ。

一頻り話した後、国王陛下からのお褒めのお言葉を頂きその声には控えているが嬉しさを滲ませている。

 

「お呼びがかかりましたね、では僕らが先行するので貴方は後に続いて下さい。」

 

あっちのプレゼンが終わりこっちの番がくる、暗い通路を抜け開け放たれた登場門を潜り抜けた巨大な人馬の後を追い闘技場の中へ進み出る。

 

「なっ……何だ⁉何なのだアレは⁉」

 

現れたる異様に会場が驚きざわついて国機研の責任者と思われる老人が目を剝いて叫ぶ、観衆はきっと人馬に目が行って此方にはあまり目を剥けていないだろうと考えていると。

 

「人と馬を合わせた幻晶騎士(シルエットナイト)に昆虫型魔獣の姿をした小型機だとぉ⁉」

 

バッチリこっちにも焦点合わせてたよ……俺達が作り出したのは重機、仮に幻晶重機(シルエットモビル)ホッパーとでも呼ぼうか、それは一言で言うなら胴体にタイヤが付いた巨大バッタである。

 

「やりおったわエルネスティ、それでこそ儂が見込んだ者………いや予想以上か!まったく……まったく楽しいぞ!」

 

国王陛下も生き生きされているご様子、先生がおしゃった通りのお人柄だろう事はアリアリとつたわってきますね。

闘技場の内縁を一周して国王陛下の前で止まった人馬騎士の横へ移動し、六脚の固定肢を展開して設置し機体を持ち上げタイヤを地面から離すと正面のハッチ、バッタの顔を開けて臣下の礼を取る。

 

「ご苦労であったエルネスティ、また色々と愉快なモノを作り上げよったな。」

 

幻晶騎士(シルエットナイト)から降り陛下の御前で傅くエルネスティ達に、先ずは労いとお褒めのお言葉を後に期待を超える成果を見せた事へ賞賛とも呆れとも取れるご感想を告げられる。

ただただ感心されたご様子の陛下の脇から、例の責任者らしき老人が息を乱し足並みを早しエルネスティ達の下へ詰め寄っていた。

 

「お……っおっお前のような子供がアレを設計したと言うのか⁉ありえぬっ‼あっあんなもの普通は動くはずがない‼違うっ作れるはずがない、しかし!なぜだ……ならばどうしたのだ⁉」

「……え~と『ツェンドルグ』には魔力転換炉(エーテルリアクタ)を二基搭載しておりまして。」

 

あのご老人、見た目通りにかなりアグレッシブな人物のようだ、国王陛下の御前だと言う事を忘れているかの様に、無邪気に興奮しておられるよ。

それに対しさしものエルネスティも動じているようでしばし戸惑っていたが、ゆっくり人馬騎士『ツェンドルグ』と呼んだ幻晶騎士(シルエットナイト)の事を説明している、やっぱり一番の興味はそっちだよなうん、よかった最初ホッパーの方にも言及してたし飛び火するんじゃないかと冷や冷やしてたぜ。

 

「お主は仮面は取らんのか?」

「っ!申し訳ございません陛下、御身の御前でありながら。」

 

ヘルメットの下でほっと息をつけていると急に国王陛下からお声を掛けられ戦々恐々としながら、御前までおりて傅き顔を晒せない非礼を詫びる。

 

「いや、よい別にお主を責めている訳ではないからな。しかし、仮面姿で我が前に現れるとはシャーロンの前当主を思い出すな、お主あの家の関係者か?」

「シャーロン家の前当主ウィークス伯はわが師にございます。わが師よりの言いつけで人払いがなされていない場所では仮面は取るなと言われております。」

 

俺がヘルメットを外さない理由は自分個人の意思もあるが先生と約束もある。指導を受けていた時期に何度となく言われ続けた誓い、「仮面は取るべき時以外では決して外すな、それが例え尊き方々のお相席なさる場でも」と理由は聞かないが凡そ分かる、顔を覚えられては任務に支障が出ると言う事なのだろう。

 

「そうか…………では今度、ウィークスとクヌートを呼び寄せるゆえそれに供せよ。」

「はっ!」

後は、バルガにも声を掛けておくか……。

 

先生の事を話したら何か深くお考えになられた国王陛下、熟考の後に先生と公爵閣下を呼ばれると仰りそこに同席しろと命じられた。

何故⁉いや、国王陛下の命である以上は従う他ないが、何故先生と公爵閣下まで?さらに今小声で仰られたのは若しや隣領に坐、現役時代は国王陛下と武の双璧を成したと言う猛将にして我が兄の師匠たるガーディス伯爵家の前領主バルガオス・ガーディス様では?

 

おまえ!そこのおまえがあの魔獣の様な機械を作ったのか⁉アレは何というのだ!?あの二輪の動輪で動いていたがどういう構造だ⁉なぜあの形になった⁉

 

ポロッと出た陛下のお言葉に仮面の内側で困惑の表情を浮かべていると、先程エルネスティに食い気味に質問を投げつけていたご老体がこっちに詰め寄ってきた。

あっ……これだけ興奮した人間が近くにいると逆に冷静に成れるはこれ、国王陛下のお発言がいきなりな上に向こうがやけに訳知りなご様子でおられたから混乱したが、クヌート公とは当然お繋がりがある筈だし俺の事を知っていても可笑しくない、さらに言えばクヌート公とウィークス前伯は義兄と妹婿謂わば義弟だから呼ばれても問題はない……うん、じゃあ何故バルガオス前伯までお呼び掛けされるのか?

ガーディス伯爵家と言えば確か、国王陛下の妹君の降嫁された家だった筈だ……当時の王女時代の前伯爵夫人は猛虎姫と呼ばれ程のお転婆なお方で、嫁がせ先に難儀された王女自身が腕の立つ騎士だった事で自分より弱い男とは添い遂げられないと豪語されたとか、それで幾多の腕に覚えのある騎士達が挑んでは返り討ちに合う事態になり、最終的に若獅子と呼ばれ威烈な鎗裁きと速度と手数で国随一と呼ばれ攻めの頂上に居られた国王陛下と対を成すとされ変幻自在に楯を操り迂闊に攻めれば隙を突く様に鋭い一撃を差し込まれる守りの塞翁バルガオス前伯に白羽の矢が立ったのだ、後は誰もが知る通り体力が尽きるまで往なされ続けた王女が最後に疲れ果てて負けを認めた事で王女は落ち着きバルガオス前伯の妻として現在に至る。

……そう言えば、うちの領主家と隣領家は共に建国時から続く貴族だったな、それでお互いの家同士が仲が良くて領民同士の交流も多い……シャーロン家の子息は現領主と弟の二人でうち弟は行方が分かっていない、ガーディス家の子供は三人で巷では三人とも男だと言われているが、一番下の子も行方が分かっておらず当時の姿絵を見た事があるがその時は既視感があったと言うか母親に似ていた……そう言えば内の領主家の弟君の姿絵が見つからなかったなぁ……まさかな?

 

「……おい!聞いておるのか!少しは語り合わんか!

 

おっと、すっかり物思いに耽っていて荒ぶるご老体を忘れていたよ、そろそろ何か返さないとヘルメットを取られそうだし何か答えるか。

 

「あれは幻晶重機(シルエットモビル)、これよりさきこの国に限らず多くの人類の文明と技術の発展を願い作った多目的マシンです。」

幻晶重機(シルエットモビル)?それがアレの名称か!して多目的マシンと言ったな!どういう意味なのだ?

僕にも聞かせて下さい!あのメカが一体どう人類文明の発展に繋がるのかその意図を詳しく!

 

熱気が凄いなこの爺さん一人いるだけで心なしか蒸れてきた気がする、そしてそれがもう一人増えるとだ……サウナにでも入ってる気分だぜ。

 

「落ち着いて下さいお二方、先ずは聞きたいお二人はこの世界の技術の発展の仕方が可笑しいと感じた事はありませんか?」

 

ふつう技術の発展とは人間社会の生活環境の変化に起因する。最初は火を操り夜の闇を乗り越えた結果活動時間が増えた。結果的に生活圏は広がりより広範囲に足を延ばせるようになり他のコミュニティや外敵要因との遭遇率が上がり意思を伝える言葉や文字、身を守る為の武器が発達した。さらに人間同士の交流が増えた事で全体の人口が増えさらに行動圏は大きくなり出来る事も多くなったと共にそれだけの人数を賄う為の食料も必要になり農業を行う必要が出てきてその為には土地が必要で、コミュニティ同士の土地の奪い合いが発生する。ここに来て自衛用だった武器が攻撃の用途でも使われ更に発展するのだ。

 

「ここまでが基本、武器はより強くなるにつれ大きくなってしまいがちだ。だから、移送用の道具が作られ発展していく。」

 

武器になる物は非戦闘時には無用の長物、出来るなら戦い以外にも使いたい筈。そこで武器として以外の使い方が模索され生活用具にも応用され始めるのだ。

それは別の観点でも起きるもの、それまで別用途で使われていた若しくは非戦闘を目的に作られた技術でも戦いにも使用し有効ならば使われるのが世の常、武器の原型は自衛用の装備だったり工作器機だったり狩猟用だったりと様々、いきなり戦闘目的の武器が出て来るのは殆ど無いのだ。

 

「だが幻晶騎士(シルエットナイト)は違う……と言う訳ですか?」

「えぇ、そもそも本当ならいきなり二足歩行の機動兵器を作ろうとはしない筈なんです。」

 

二足歩行には色んな課題がある重量のバランスや歩行時の振動に速度を上げれば際限がない、そんな問題を抱えたシステムを作るなら大人しく低姿勢で地形をある程度無視できる車輪のついた機動兵器を作っていた方が良いまである、縦しんば作るとしてもそう言った移動システムの延長で足をクローラーにしたタイプを介していなければ可笑しいのだ、しかしこの世界ではどういう訳か車輪を用いたシステムは発展せずいきなり歩行それも二足タイプが実用化し繁栄している。

 

「それこそ卵から雛が孵るより早く鶏が生まれた様なものです。」

「言われてみれば確かに……。」

「ボクも違和感自体は感じていましたが、こうはっきり言われると何故とは思いますね。」

 

もしも昔は車輪駆動が主流で歩行型がそれから発展していたのならどこかしらに名残が残ってる筈だ、でもその名残の影も形も無いのだからこの世界では初めから二足歩行の機構が使わていた事になる。

面白い技術大系だし確実に駆動系の技術なら前世の世界より進んでいるのも事実だがいきなり高度な技術が生まれた事で起きた弊害もある、それ以外の技術の主に車輪機動の自動化とそれの伴う各種専門車両の開発や遠距離通信とか映像・音声の記録法に関連したものその他諸々の人類文明を何段階も引き上げる為の技術革新が起きていないのだ。

 

「現に先の事件ではそれが諸に影響されたと言ってもいいですね。そもそも連絡役ですら二足歩行機を使っていた....使わざるを得なかった、何故ならそれしか手段がないから。」

 

本当ならもっと速度を出せる駆動機で移動できれば急襲されず済んだかもしれない、二足歩行を貶す訳ではないが戦闘以外ではお荷物になる他ないのも現実なのである。

 

「だから戦闘を主目的としない、複数の用途で使えて戦闘時は補助や援護に回れるマシンが必要だと考えました。」

「それが、幻晶重機(シルエットモビル)……重機とはそう言う意味でしたか。」

「確かに、あれが出回れば我らの世界に革新が起きる……主に移動手段や建設方面では大きな革新となるだろう。」

 

二人は技術者だ。凡そを言えばこちらの意図も汲んでくれると思ってはいた、その証拠に幻晶重機(シルエットモビル)を見上げる二人の目には待望の視線が見えた。

 

「話し合いは終わったかおぬしたち?」

「っ!も、申し訳ありませぬ陛下!」

「御身の御前でありながら場を弁えぬ行い申し開きもございません!」

「陛下も話し合いに加われますか?とても楽しい語らいですよ!」

 

ずっと話が終わるのを待って居られた国王陛下の一声でこの場が誰の御前であるかを思い出す俺とご老体は揃って頭を下げるが、エルネスティはただ平然と何事も無いかの様に陛下に会話への参加を呼び掛けている。

 

「それは後でゆっくりと時間を取るゆえ落ち着け、仮面のおぬし名は?」

「クウザ……クウザ・ノーネスとお呼びください陛下。」

 

エルネスティの傾奇者ぶりに戦々恐々としていた俺を余所に、陛下もエルネスティの性格は知っておられるのかさらりと躱され俺に名を問うて来られ、俺は予め決めていた仮面の時に通す名を伝える。

 

「クウザか……よしおぬしの志は聞いた、その結果はこの後で見せて貰う!」

「はっ!」

 

国王陛下の威風堂々たる眼光を向けられ身が引き締まる想いでお言葉を受け取った、仮面越しに見つめられただけでここまでの覇気が感じるのだから直に顔を向け合えばどうなっていたか。

 

「ガイスカよ、おぬしはこやつらを見てどう思った?」

「はっ!一言で表すならば出鱈目でございます。」

 

あのご老体、名をガイスカと言ったのか……にしても出鱈目か、確かに俺はエルネスティのお題で幻晶重機(シルエットモビル)を作ったから直接国王陛下の命を受けてないと言えば言い訳は立つが、エルネスティは騎士を作れと言われ人馬を作った訳だしな……言われても仕方ない。

 

「この両名が作りし物は確かに奇抜です、小僧が作った人馬は一見すれば下半身に目が行きますが上半身は騎士の体裁を保っている、見た目だけなら幻晶騎士(シルエットナイト)と呼ぶに差し支えない訳で御座います。」

 

そう来たか、確かに姿形に取らわれて幻晶騎士(シルエットナイト)の定義そのものには目が行かなかった、馬の胴の機動力と人の体の汎用性それは他には無い強みだしそれそのものは騎士と定義してもいい。

 

「対してクウザが作った幻晶重機(シルエットモビル)は異例なのか問われればそれも違う、見た目と用向きを考えるならば騎士と呼ばれない、しかし敢えて重機と呼ぶ事で騎士と混同させない配慮もある……何よりこやつの言い分を汲むならば幻晶重機(シルエットモビル)とは騎操士(ナイトランナー)だけが扱う幻晶騎士(シルエットナイト)ではなくもっと広く万民に扱える機体を想定していると考えるべき、ならばこそ敢えて人の形から外れていても問題は無いと考えに至りました。」

「うむ一見奇抜でも抑えるべき所は抑えている人馬と騎士の定義から外れていても想定される用途から見れば理に適っている幻晶重機(シルエットモビル)、珍妙に見えて確りした意味も持つがゆえに出鱈目とな。」

 

ガイスカ翁は中々の正眼の持ち主だ、騎士の呼称を使わない最大の意味は結晶筋肉(クリスタルティシュー)の民間用機種の応用であり、動力とバッテリーの特性を併せ持つこの技術を民間レベルまで普及させられれば多くの益を生み出すことが出来る、例えば食品の配送コストなどは現状の馬車などから幻晶軽機(シルエットライダー)幻晶重機(シルエットモビル)に置き換えれば迅速かつ多くの物量を一度に運ぶ事が出来るし、それらを整備する為の工場や運用する為のインフラ整備事業、またパーツの規格を統一すれば国内のどこの街の工場でも生産・供給を行え中には自分達でこれらの機体を製造する工場も出て来るだろう、これは新たな産業が始まりそうな気配を匂わせある程度育てば入る税も膨大になり国も潤うし人の生活水準も大きく向上するのだ。

 

「これは我々の様な凝り固まった概念でモノの尺度を決める集団には収まり切りませんね、寧ろ敢えて組織を違えたからこそ得られるモノは大きい。」

 

陛下の脇で静かに佇んでいた一見年の若そうな頭にバンダナを巻く男性が納得した様子で、立ち並ぶ二陣営の手で作られた機体たちを見比べる。

向こうは以前の試作機を再設計と最適化を果たした量産検討型、こっちは試作機に手を加えた改良型と完全新規試作機そして形式の全く違う試験機、まるで顔色の違う機体が同じ場所に並ぶのは不思議な壮観さを覚える。

 

「さよう、正にそれが狙いよ。ただ一つ懸念すべき事案もあった。」

「……扱い易さですな、実際にダーシュの原型テレスターレは運ばれて来た当初、こんなものが実際に動くのかと疑った程、操縦に難儀するであろう事は悠々に想像できる代物でした。」

 

陛下はご自身の考えが理解を得られた事にご満足された様子で頷かれ、しかし二つに分ける上で心掛かりな事もあったのだと溢される。

これにガイスカ翁は心当たりがあったのか神妙な顔つきで髭を撫でツラツラとテレスターレの最初の印象を語る。

 

「であろうな、あのテレスターレの件も踏まえればツェンドルグも普通の操縦法では動かせまい。」

「そんな事はありません。ただ騎操士(ナイトランナー)が二名必要と言うだけです。」

騎操士(ナイトランナー)が二名も⁉」

 

ガイスカ翁の苦労が偲ばれる意見を耳に入れ、やはりと言った表情を浮かばれた陛下は人馬騎士に視線を運ばれ今もご懸案されている事を口に出された。

それに反論するのは自分が常識外れだと考えているのかないのか分からない男エルネスティ・エチェバルリア、本来一人で十分動かせる筈の所を二人乗りで漸く操縦できる機体を出してきたのだ。ガイスカ翁が驚くのも無理はない。

 

「思案に耽るのは後にせよ……まあこのように、エルネスティの創作物は様々の長所はあるが粗削りであるが故に短所も多い、磨かれておらぬ宝玉の原石であり研磨してやらねば美しくは輝かぬ。」

「会得しました、つまりは我らには今後に彼らが創造する原型を我々に合わせて調整する、仕立て直しをしていけば良いのですね?」

 

どんなに優れた新技術も最初は見向きもされない。扱いの難しさや必要性の無さが原因だ、評価されるのは後にそれが必要とされた時で十分に技術が検討と改良を施された後である、よってそれを早期に可能性を見出せる真贋を持つお方は貴重であり希少なのだが、国王陛下には先見性をお持ちの稀有なる御方なだろう。厚顔不遜なエルネスティを個性と認め厚遇されておられるのもその徳深きお心ゆえであると納得できた。

そしてそんな陛下の展望を察したバンダナの男性もそのお考えに賛同していると分かる表情で、結論が合っているかを尋ねられた。

 

「うむ!それを可能にする知恵と技を持つのは、国機研の他には心当たりが無いよろしく頼むぞ!……後は皆もあの人馬の騎士や幻晶重機(シルエットモビル)なる物の力を見たいと考えたのではないか?」

 

陛下は今回の貴族を集めた目的を果たす為、前座を締め括りに取り掛かられ会場に集まる観衆に向け彼らの興味を最大に駆り立て煽られておられる。

無論彼らは貴族、決して声を荒げる事は無いが表情から好奇心が溢れ出していた、それもそうだ、彼らこそが国防の要、日々領民の生活を守るために鍛錬を続け有事には機体を駆って魔獣を討つ、そんな彼等だからこそ気になるのだ。今回の結果が自分たちの今後の戦いにどう影響するのかが。

 

「これより国機研と銀鳳騎士団による模擬戦を執り行う双方準備いたせ!」

 

国王陛下の号令を受け国機研と銀鳳騎士団+俺は両陣に別れて機体に乗り込んだ、幻晶重機(シルエットモビル)の操縦席は幻晶軽機(シルエットライダー)である、これは操縦システムの単純化と習熟性の簡易化を考えてこうなった、幻晶軽機(シルエットライダー)の操縦さえ覚えてしまえば後は多少の履修と矯正を行えば誰でも幻晶重機(シルエットモビル)に乗れる、正に俺が求める汎用性を満たしていると言えた。

後は銀鳳の人員と如何に息を合わせるかだが、作戦は伝えてある。後は向こうがそれに乗って来てくれるかどうかだな。

 

人馬騎士ツェンドルグ

 

人型の上半身と馬の胴体部を持つ特異な形状を持つ幻晶騎士(シルエットナイト)

その見た目通りの機動性と重量を持った重い一撃離脱戦法を得意とした機体であり、二基の魔力転換炉(エーテルリアクタ)による有り余るパワーは他の機体を乗せた荷台を牽引する事が出来る程。

ただしこの機体の操縦には騎操士(ナイトランナー)に二名が必要であり、更には阿吽の呼吸とも呼べる連携力も要求されるため通常の騎操士(ナイトランナー)には操縦難度の高い機体とされた。

後に一人でも操縦できるように改良された量産機が作られるが、そちらも其方の操縦の習熟度も難度の高いものであった。

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