初見様は他の話も読んで行って下さい。
俺、グリズ・クーランドは迫り来る魔獣の群れに弟から贈られた短槍型の杖ランスロッドを振るって薙ぎ倒した。
今日俺達はライヒアラ騎操士学園中等部の2年と3年の合同でクラケの森の奥地で魔獣との遭遇を想定した演習を執り行っていた。
その最中、突如魔獣の大群が現れ此方に雪崩れ込んで騒然となった、一時は混乱したものの生徒会長の機転で木々の少ない開けた場所に防衛線を張る事になって大分落ち着いた。
後は味方の救援が来るまで耐え凌ぐだけだったが、思った以上に魔獣の数が多いのと元々長時間森の奥に居る予定では無かった為に物資も乏しい、じりじりと消耗していった。
絶対防衛線は死守できているがそれでも、前線が押され始め後退してきていた。
「オウラッ!」
「グリズ、助かった!」
「気にするな!次が来るぞ!」
「おう!」
倒れて動けない所を猿型の魔獣に襲われかけた級友を助けた後、手を貸して立たせて迫り来る魔獣を睨み付ける。
暫くランスロッドを振るって魔獣を屠っていたが、前線が崩れ始め立て直しの為に後退する。
「此処が最後か、皆!此処より先へ通せば本隊が崩れる、故に何としても此処を死守する!これが正念場だ、覚悟を決めろ。是より先に、退路は無い!」
「「「「おう!」」」」
士気はまだ十分にある、これならまだまだ耐えられそうだと確信する。
其れからも防衛戦が続き、マナ切れを起こす生徒も増え始めた。
あれだけ高かった士気も疲れと共に下がりつつあるのが見て取れる、そんな時防衛線を超えて数匹が本陣に侵入した。
「ちぃ!数匹取り逃した!こっちは手一杯だ、其方で対処してくれ!」
「承りました。」
後方で本体を指揮している生徒会長のステファニア・セラーティの声が返って来る、それを聞いて再び前から来る魔獣に槍の先端を突き刺して火球を打ち込む。
「棘頭猿です、こっちに向かって来ます。」
「判った。あれは俺が対処する、他は薄くなっている前線の立て直しに向かえ!」
「「「「了解!」」」」
足を縦に大きく開き腰を低く屈め、ランスロッドを両手で前に突き出す様に構える。
一瞬の静寂と共に俺が地面を強く蹴り体を前に突き出す、猿型の魔物は体こそ大きいが細かい揺動に弱い、事実俺が突進したの合わせて奴も突っ込んで来たが直前でランスロッドを地面に突き刺して火球を放つ事で方向転換した事に対処できていなかった。
「オラ!」
そのまま背中に回り込み、やつの急所にランスロッドを突き刺すと火球を体内に直接打ち込んだ。
内側から一瞬だけ膨れ上がり、口から血と煙を吐き出して仰向けに倒れた。
「もう一体来たぞ!」
「っ!次から次へと、俺が行く!陣形は崩すな!」
「「「「了解!」」」」
正直、此処も限界だがそれでも本隊にこれ以上侵攻させる訳にはいかない、歯を食いしばり足腰に力込めて魔獣に突撃を仕掛ける。
「はぁはぁはぁ。救援はまだか?」
「まだです、それより退いて下さい!」
「そうか、それは聞いたら尚更退けないな…俺が退いたら、前線が崩れる…。」
「グリズ君!」
「其れよか、良いのか?指揮官が、こんな場所まで出て来て?」
「それは…良いんです。もう後方も大分ボロボロですから。」
「前も後ろも無いか…へっ!こうなりゃ、腹括りますか…!」
「えぇ、お供しても構いませんか?」
「…止めろって言っても聞かないんだろ?」
「はい!」
「じゃあ…止めようがねぇじゃねぇか…。」
「良く分かっておいでですね。」
「仕方ねぇ、好きにしろ…但し、目立つ場所に傷は作るなよ。いざ生き残ったら、後々面倒になる。」
「じゃあ、そうならない様に守ってくださいね。」
「けっ!こんな状況で、肝の太い女だ…行くぞ。」
「はい!」
まだまだ終わりが見えない魔獣の群れに、俺達は息を合わせて迎撃を開始した。
救援をまだかまだかと待ち乍ら、互いに背を守りながら次々に押し寄せる魔獣たち迎え撃っていた時、後ろから短い悲鳴が聞こえた。
「きゃ!」
「ステファニア!ぐぅぅぅ!タリャ――!」
攻撃を受けて飛ばされたステファニアを押し退けて、突進してくる魔獣をランスロッドを突き立て受け止める、火球で追撃したいがマナが切れていて打ち出せないので力任せに振り回して投げ捨てる。
「うっ!はぁはぁはぁ…。」
思った以上に体力を使い、膝を着く。
「グリズ君!大丈夫ですか⁉」
立ち上がったステファニアが駆け寄って来る、言葉を発する事も難しく手だけを上げて答えた。
「このままじゃ、お願い誰か…。」
「お待たせしました先輩方!」
男にしては大分高く、女にしては少し低い少年の声が元気よく響く。
「はぁはぁはぁ、や…とか…。」
疲れていたのか、何故一年生のエルネスティがとかの疑問は浮かばなかった、ただやっと助かったと言う安堵感が張り詰めていた緊張感を解して強い睡魔に襲われた。
「グリズ君!」
「スゥ…スゥ…スゥ…。」
「…お疲れさまでしたグリズ君…。」
微睡みの中で最後に聞いたのは、ステファニアの優しい声だった。
ステファニア視点
私の腕の中で、ゆっくりと寝息を立て始めたグリズ君を優しく抱き留めて、弟と妹がお世話になっているエルネスティ君を見る。
「グリズ先輩は大丈夫ですか?」
「えぇ、疲れて眠ってるみたい。ずっと戦い続けだったから。」
「そうですか。其れより、森の奥だからでしょうか?魔獣の数が多いですね。」
エルネスティが辺りを見回して、今この時も奥から湧いて出る魔獣の大群を視界に留めた。
「まぁ、幻晶騎士の敵ではないでしょうが。」
彼がそう続けた後、大きな音と共に生い茂る木々の間から巨大な人の形をした機械仕掛けの騎士が現れた。
「幻晶騎士だ!救援が来たぞ!」
「助かった!俺達、助かったぞ!」
「あぁ、一時はダメかと思ったぁぁぁ。」
これまで頑張って戦っていた生徒達が、感涙の声を上げる中には安心したのか号泣する生徒までいた。
「良かった…皆、生きてる…。」
私も感情が昂り目尻に雫が溜まる、修羅場を乗り切り少し感傷的に為ったのだろう腕の中で安らかな顔で眠る彼のおでこに軽いキスをした。
「守ってくれてありがとう…グリズ君。」
寝ている彼に、小さな声でお礼を囁いた。
ウェイン視点
森の奥から帰って来た上級生達の中に、生徒会長に寄り添われて眠る兄貴を見たのは何かの間違いだと思いたい。
いや別に兄貴が異性にモテないと言う訳では無い、実際地元に居た頃は結構な女子に思いを寄せられていた、だが今回は生徒会長である、かの有名なセラーティ侯爵家の長女だぞ、そこそこ名の知れた商会の長男坊とじゃ如何あっても発展は難しい、第一侯爵家のご令嬢と恋仲になんてなったら俺の立場が…!
「え~っと、貴方がグリズ君の弟さん?」
ついさっき目撃した衝撃的な光景に、脳が拒絶反応を示し苦悶していると渦中の人物であるステファニア・セラーティ生徒会長から話し掛けられた。
「…はい、弟のウェイン・クーランドです。」
「あぁ、良かった。一度会って挨拶したかったの。」
俺に会って挨拶したかった!そそそそ、其れってやっぱりそう言う事なのか⁉
「私は、ステファニア・セラーティ。生徒会長をやっています。」
「えぇ、存じておりますが!」
パニック状態になっている俺は、声が上ずってしまう。
「あらあら、緊張させてしまったかしら?」
そんな俺に、朗らかに笑い返してくる生徒会長様。
「あ、あの!大変失礼で不躾な質問をしますが宜しいでしょうか⁉」
この際だ、気になる事は聞いておこう。
「?何かしら、私に答えられる事なら何でも答えてあげるわ。」
いえ、貴女にしか答えられない事です。
ご本人からの了承も得て、緊張で乾く口を開いて質問する。
「家の兄とは如何言った類いのご関係で?」
「えっ?」
「いえ、先程その…寝ている兄に寄り添っていたので…。」
俺の質問の意図を汲んだのか、顔が赤くなる生徒会長様。
「あ、あの!彼とは、まだそう言うのではなくてですね!」
必死に取り繕っておいでですが、今まだって言いませんでした⁉
「も、もう失礼しますね!弟と妹に顔を見せにいきたので!」
これ以上ボロを出さない様に戦略的撤退を敢行した生徒会長様を見送り、我が兄貴の人たらし振りに思わず目元を片手で覆い俯いた。
会長と何が有ったんだよ兄貴…。
これからの身内の恋愛事情について考えていると、どんどん気分が落ちて来るので一旦忘れて別の事を考える事にした、そう今日の魔獣の群れに関して落ち着いた今なら考えられる。
明らかに異常だった、まるで何者か自分達より上位の生物に生活圏を追われて混乱していた様にも見える今回の魔獣たちの様相を思い出して考察に耽っていると、何処からともなく地鳴りが響き地面が揺れた。
明らかに巨大な生物が移動する足音の様な地響きに、俺の第六感が最大級の警告を促していた。
「やれやれ、イレギュラーは兄貴の人間関係でお腹いっぱいだってぇーの…。」
俺の呟きが掻き消える程、野営地は錯乱していた。
後に陸皇襲来と称されたこの事件は、この後一人の大英雄が世に出る切っ掛けとなった。
陸皇襲来レポート
これは、当時それを実際に体験した元ライヒアラ騎操士学園の生徒だった騎士から聞いた話を纏めた物である。
騎士D:当時の事?勿論覚えているよ、何せべへモスと実際に戦っていたからね。
書記:怖くは無かったのですか?
騎士D:あぁ、実際私はあれを前にしたら足が竦んだよ。
書記:矢張り迫力も、相当だったでしょうね?
騎士D:うむ、ここだけの話だが…私はその時、戦いの途中で逃げ出してしまったんだ…。
書記:!では、一体誰がべへモスを討ったのですか⁉公式では、騎士団が討伐した事になっていますが?
騎士D:ハハ。それは、私の口からは何も言えないな…ただ一言、彼はあの頃から規格外だったって事だよ。
書記:それは!彼とは一体⁉
記録は、ここで終わっている。
この続きがどうなったかは、何処にあるかは現在も所在知れずであると言う。
ご拝読ありがとうございました。
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