銀の鳳の影に潜む者   作:マガガマオウ

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ご拝謁ありがとうございます。
毎度ながら、飽きもせずに何時もの始まり方ですいません。


隠者たちの真価~密偵捕縛任務~

エルネスティ達が製作している機体がテレスターレと言う名前らしい事が判った今日この頃、そのテレスターレが完成に近づく度に彼奴の周りも活発になっていた。

件の生徒、密偵と思われる男が完成度を上げていくにつれ例の酒場へ出向く回数も増え、幾分か行動パターンも絞れてきた。

俺達は、他にも紛れ込んでないかエルネスティの周りに居る生徒達の素性を洗い始めていた、結果としては現在調査中の連中との関わりが有る人間はその男子生徒だけであったが、主に国内の別の団体から送り込まれていた輩は多くいた。

まぁ、今の所は動きが無いので無視しているのだが。

問題は、テレスターレに組み込まれた新技術が国外の人間に知られて悪用される事にある。

今はいい、まだ対策の余地は幾らでもあるのだから、しかし完成度が高まれば高まる程必要とされる対応策の何度は上がる、まして是までにない発想から生まれた技術ともなれば様々の状況下で起こりえる事も踏まえるといくら考えても足りない程である。

だからこそ、まだ完成していない現段階から情報が流出している現状は看過できない。

 

「…!お…!おい!ウェイン!」

「っ!すいません先輩…話の途中でしたね。」

「いや、大した話じゃなかったからいいが…。」

 

少しばかり思考の深みに嵌っていた俺を、クルス先輩が引き戻してくれた。

 

「ウェイン、お前最近ちゃんと寝てるのか?」

 

如何にも反応が悪い俺を気使ってか、クルス先輩がそう尋ねて来た。

 

「ちゃんと睡眠は摂ってますよ…ただ、最近やる事が一気に増えましたからね。」

 

元々計画していたたたら製鉄は兎も角として、魔導バイクの方は基本の形にはなったもののそれから発展させる段階で行き詰ってしまい現在は停滞している、そこにエルネスティの周辺人物の調査を行っているので中々精神的にくるものがある。

 

「なぁウェイン…。」

「何ですか先輩?」

 

何か言い辛そうにしながらも俺に言葉を掛けようとしているクルス先輩に、俺から問い掛けた。

 

「いやな、やっぱり俺達だけじゃ限界があると思うんだ…。」

「先輩…。」

「お前の熱意は、重々承知しているつもりだ。だけど、まだ俺達だけで出来る事にも限りがある。」

 

先輩の言っている事も最もだ、だがそれだと余程信頼のおける人物でなければ任せられない。

もし協力を依頼した人物が他国又はこの国の簒奪を狙う人物だった場合は、完全に此方も黒になる。

そうで無くとも、新しい技術の利権関係でごたつき最悪完成した技術ごと奪われる可能性も捨てきれない以上、安易に外部から協力者を募る事は憚られた。

だがアイディアが煮詰まっているしまっているのも事実だ、現在のメンバーだけで出来る事にも限界が見え始めている。

 

「…少し考えさせてください。」

「ウェイン…判った、俺も少し結論を焦り過ぎていたな済まん。」

「いえ、先輩の言っている事も事実ですから……少し学園に顔を出してきます。」

「あぁ、そう言えばここ暫く行ってなかったな…俺も行こう。」

 

俺達はこっちの研究に専念する為に、学園に休学届を出して引き籠っていた、そのせいかは解らないが気分が軽く鬱屈していたのも原因だと判断して、学園に顔を出して気分転換を図ろうと考えた。

他のメンバーにも余暇を出して、俺達は学園に向けて歩を進めた。

久しぶりに歩く昼間の街中は、普段駆け回っている風景とは別物に見えてくる、同じ町の馴染みある道の筈なのに全く別の道に思えるのは心が荒んでいるからだろうか。

 

「うぉ!珍しいな、お前さん達が昼間に顔を見せるなんて。」

 

ここ最近調査の為に通っている酒場の主が、食材の仕入れだろうか市場の方から店に戻る途中で鉢合わせた。

 

「…はぁ、昼に声を掛けるのは控えてくれて言ったろ…。」

「俺達とあんた等が顔見知りなのは、日が落ちてからだろうが…。」

「お、おぉ…そうだったな…。」

 

俺達と店主達の間には、幾つか密約が交わされていてその中には会話を交わす時間帯も厳格に決められていた。

 

「まぁ、今回は拠点の近くで監視も付いてるからいいけど、今度から気を付けてくれよ。」

「ああ…じゃあ失礼して…。」

 

俺達が若干不機嫌になったのを感じてか、店主はそそくさとその場を離れた。

 

「…子供の遊びとでも思われてるですかねぇ~。」

「今の所しょうがないだろ、はぁ~。」

 

やってる事はもう子供の飯事とかのレベルじゃないのだが、それでもまださっきの店主の様にごっこ遊びだと思われている節が有るのを二人で嘆いた。

学園へと続く道を再び歩き出した俺達は、これまでにして来た事を振り返り始めた。

この世界に生を受けてから十数年の歳月が経った、俺はこれ迄に地元で知識と技術を蓄えここライヒアラでクルス先輩と共にそれまで、只の真似事だった俺の技術を実用可能な所まで引き上げた、そしてまだ俺達が手を付けていなかった分野に手を伸ばして行き詰っている、こうして顧みるとこれ迄が順調過ぎたのかもしれない。

 

「停滞期に差し掛かって来たのかもな…。」

「停滞期か…ここを乗り越えれば飛躍の可能性も有ると見て良いのか?」

 

何気なく出た俺の呟きに、クルス先輩が反応を返してくれる。

 

「それは何とも…望みが有ると信じて、挑戦を続けましょう。」

「そうだな、先ずは自分達を信じないとな…。」

 

やはり気分転換と言うのは大事だ、たった数十分外を歩いているだけでここ迄気分が持ち直し、更にはここ迄にあった事を顧みる余裕さえ出て来た。

これで後は、学園で新たに発想の種を見つけられればだ尚良しだが…。

少し軽くなった足取りでクルス先輩と他愛無い話で談笑しながら学園に向かった。

 

「少しの間来てないだけで、随分懐かしく感じるな…。」

「えぇ……。」

 

辿り着いた学び舎は数週間見なかっただけでとても懐かしく見えて、在学生でありながらまるで卒業生の様な感慨深さを感じさせた。

 

「あれ?ウェインとクルス先輩じゃないか?」

 

謎の感傷に浸っていた俺達に気が付き、声を掛けて来る人物が一人居た。

 

「…よう、久しぶりだなバトソン。」

「お、おう?久ぶり…何か機嫌悪くなってないかウェイン?」

「気のせいだ。」

「いや、気の所為って感じじゃ無かったぞ、なぁ先輩?」

「いいやバトソン、お前の気のせいだ。」

 

折角の雰囲気をぶち壊しにしてくれたバトソンに若干の恨めしさ覚えつつ、俺達は挨拶を交わした。

 

「それで如何したんだよ、暫く顔見なかったけど。」

「うん?……………………………………………少し、野暮用でな。」

「待て、今の不用意に長い間は何だよ⁉」

 

バトソンとエルネスティは密接な繋がりがある、だが事実に気が付いたのはかなり仲良くなった後だった為に距離を置く事も難しくなっていた、それでも此方の事情は話していないから最低限の秘密は守られているのが唯一の救いなのだ。

 

「まぁいいや、其れより二人に見て欲しい物が有るんだ。」

「見て欲しい物?」

「何だ?」

「あぁ、こっちだ。」

 

バトソンが、俺達二人に背を向けてその見て欲しい物の在処へ案内を始めた。

元々気分を変える為に来ていたし、別段バトソン個人とは親しくしているので付き合う分には問題ない。

俺達はバトソンの背を追い、後に続いた。

 

「今エルの奴が居なくて困ってたんだ、二人が来てくれて助かったよ。」

「?エルネスティが居ないって、如何言う事だ?」

「あれ?知らないのか、数日前にディクスゴード公爵の配下の騎士団に人が来て結構話題になったんだぞ?」

「あぁ…すまん。ずっと休学しててな、ここ数週間学園に来てなかったんだ。」

 

いや…学園に通っているメンバーが言っていた気がするな、ただ俺が聞き逃していただけか……。

何方にしてもこの時期に招聘されたとなると………!以前先生から聞いた事がある、この国の宰相殿は豪く心配症で用心深いと、先生が領主として現役だった頃も随分警戒されていたと聞かされた話だ、そして今回は数百年振りに出来た機体改良ではない新型幻晶騎士の開発………公爵閣下はエルネスティを警戒している?

だとしたら肩透かしを食らっている所だろうな、あれの行動原理は子供が玩具に熱中するそれと同じ、用は興味に突き動かされた結果だ、更に続けるなら権利と言うものに頓着しないと言うか対外的な名声より個人的に益のある方を取るタイプの人間だ、先生から聞いた国王陛下に似た精神構造と取ってもいい。

精神的に満たされていれば後は野となれ山となれ目の前の目標を達成すれば次の目標を定めて邁進する、良い意味でも悪い意味でも周りが見えず巻き込むタイプの一見すれば傍迷惑な趣味人タイプだ、敢えて別の言い方をすれば究極の道楽者だろうか。

 

「着いたぜ、ここだよ。」

 

バトソンが歩みを止め小さめの倉庫の間に立った、如何やらここに俺達に見せたいと言っていた物が有るらしい。

そうこの扉を開け放ち、中にある物が露になると俺達は息を呑んだ。

 

「おい…こいつは⁉」

「へへ。スゲーだろ、幻晶甲冑って言うんだ。発案はエルだけど、実際に作ったのは俺達なんだぜ!」

「おぉ…見た目と名前からして、幻晶騎士の縮小版って感じか?」

 

バトソンが得意げに説明する横で、俺達はその存在に圧倒されていた。

一見ただ幻晶騎士を小型にしただけの様に見えて人間サイズでも扱い易いように工夫されている、人が入る事を想定されている為若干大柄に作られてはいるが、それでもバランスを崩さない程度に配置された結晶筋肉は幻晶騎士とは違った取り付けられ方をしている。

 

「でもこれじゃあ、余程魔術に長けていないと真面に動かせないぞ。」

「あぁ、せめて魔導演算機でも積んでれば話は違うだろうがな。」

「あははは…やっぱり、二人もそう言う結論を出すか。」

「やっぱり?もう動かしたのか?」

「まぁ~な。」

 

俺の質問に答えたバトソンの反応が如何に可笑しい、稼働させたのはいいものの結果はお察しだったらしい。

俺も何となくだがこれの扱いにくさは解る、現状の魔導バイクも似た様な状況だからだ、魔導演算機を搭載したのはいいのだが元々人型の物を動かすパーツだったのだ。魔法術式の書き換えだけでも一苦労だった。

おまけに、その書き換えた魔法術式も上手く機能してくれないのだ、何度か試行錯誤を繰り返して一応は完成したのだが、次の段階に進める上で重要な機能が付けられなくなっていた。

 

「しかしこれは……単に魔導演算機を積めばいい話じゃないのか?」

 

クルス先輩の話も最もだ、コストの面を除けば小型機動兵器としては十分な完成度だと思う、だが俺は何かが引っかかっていた。

 

「……バトソン、少し弄って見ていいか?」

「?良いけど、如何したんだウェイン?」

「ありがとう。」

 

この引っかかった何かの正体を突き止める為、幻晶甲冑を実際に動かしてみる事にした。

動かしてみて解った、これと俺達の常用しているインナーには互換性があった事に、そして魔導バイクの問題を解決できるアイデアの基も。

 

「如何だ?何か面白い事でも分かったか?」

「えぇ、やっぱり学園に来てよかった、今度からまた行き詰ったら先ずはここに顔を出してみる事にしましょう。」

「あぁ、そうしよう。」

 

その後、バトソンの頼み事を熟し校内をぶらついていた時に、鍛冶師科の生徒達の話声が聞こえて来た。

 

「今日も、ウーズは来てないのか?」

「テスタお前、あいつと家近かったよな?」

 

俺達がマークしてる生徒が登校してきてないと聞こえたを聞き逃さなかった。

この時期に学校に来てない?しかし、昨晩も奴は例の酒場に………!まさか、逃走の準備を⁉もしそうなら、斯うしてはいられない。

 

「先輩…!」

「あぁ、急ぐぞ…!」

 

急いで校舎を離れ街に散っている仲間に呼び掛けて、対象を取り押さえに向かった。

対象の居住地に到着する頃には、俺達の共通の装備を着た仲間たちが粗方集まり俺達を待っていた。

 

「奴は?」

「まだ中です、退学届けを作成していると思われます。」

「よし。赤布の部隊は逃走路を塞げ、対象の捕縛は俺達紫布がやる。」

「御意…。」

 

其々、纏った布の色で別けられた部隊に別れ行動を開始した。

正面玄関を音を立てない様にゆっくり開き建物の中に侵入し、対象が居るで在ろうとされる部屋に進む。

部屋の戸は僅かに開き、窓を閉め切りカーテンを閉ざしたのか陽の光ではない明かりが零れている。

 

「これで、この国ともおさらばだな。」

 

対象の独り言が聞こえてきた、本人の意思で出た言葉では無いのだろう、奴が国外に出ようとしている事の決定的な証拠だ。

 

「悪いが、お前に出ていって貰っては困る。」

「なっ!誰だ⁉」

 

廊下から声を出して奴の注意を引く、奴は声の主を探して出入り口から顔だけ出した。

その隙に奴の部屋の中に入り、ローブのフードを外して待ち構える。

 

「誰も居ない?」

「此方だよ……。」

「!な…に…?」

「驚かせてしまったかな?それは済まない事をしたね、だがこのまま君を行かせる訳にいかなくてね。」

「何者だ⁉俺が侵入に気付けないなんて……何が狙いだ⁉」

「何……私が、これからする質問に答えてくれさえすれば、直ぐにでも立ち去ろう。」

「質問?」

「あぁ、君がこのところ頻繁に接触していた彼らとは如何言った関係性かな?なるべく詳しく聞かせて貰いたい。」

「……くっ!」

 

俺の尋問擬きの詰問に答える事なく、密偵行為を働いた男子生徒が出口を求めて走り出した。

 

「そうか……素直に答えて貰えないなら、此方も少々強引にいかせて貰おう……やれ。」

「はっ……。」

「がっふ…。」

 

俺の短めの合図の後、逃亡を図ろうとした男子生徒がドアの傍に控えていた仲間に意識を削ぎ落とされた。

その後、手足を縛り口に布を噛ませ頭に布をかぶせて担ぎ上げる。

 

「直ぐに尋問にかける、虚偽識別装置も準備しておけ。」

「承知…。」

 

男を抱えながら、近くに居た仲間に指示を出し先に拠点に戻らせると、現場の片づけを終わらせて人に見つかれない様に拠点に帰還した。

良くない事が起きようとしている、それを肌で感じつつ俺達は出来るだけの事をしようと動き始めた。

 

 

ライヒアラ調査レポート

このレポートは、当時のライヒアラ騎操士学園の在校生が纏めたメモをとある記者が纏めた物である。

その中に、気になる一説が記されていたので紹介しよう。

 

このライヒアラ騎操士学園に最近ある噂が流れている。

気配も存在も感じないのに、後を着けられている様な足音が聞こえると言うものだ。

この話には、昔無念の死を遂げた生徒の霊が自身が死んでいる事に気付かずに校舎内を歩き回っている等、様々な憶測が流れているがどれも現実味が無いものばかりである。

自分も聞いた事がある為、気にはなるが踏み込んではいけない何かを感じるので深追いはよそうと考えている。

 

尚、現在はこの不審な足音は聞かれていないので安心して貰いたい。

 




最後まで見て頂きありがとうございました。

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