捉えた密偵は中々口を割らなかった、だから仕方なく試作段階の自白剤をを使ったのは時間的に考えても仕方ない事だった。
まぁ、お陰で濃度と投与の匙加減は大体把握できたけどな。
そして奴から引き出した情報によると、奴さんはジャロウデク王国所属の銅牙騎士団と言う組織である事が判った。
やっぱり、西方諸国の一つだったかしかも目をつけられた国が最悪だ、ジャロウデク王国はここ数年西方にて領土拡大を図っていると噂がある国だ、この情報は西方に通じる複数の商人からの情報だから確実だろう。
密偵に吐かせた情報には、連中はどうやらまだ試作段階の新型を強奪する予定らしく作戦決行日は明日に迫っていた。
「
俺たちの制作した魔導バイクは問題点を無事解決できた事で実用化に扱ぎ付けた、問題になったのは出力の大きさだった元々は大型機の演算装置として使われていた部品だった魔導演算機はその演算出力故に幻晶甲冑よりも小型の幻晶騎機には大きすぎていた、そこで
簡単に言うと、アクセルを軽く入れただけで体に負荷が係るほど加速し、ブレーキを踏めば必然的に急ブレーキ状態になってしまうのだ、幾ら補助インナーでもカバーしきれない衝撃がブレーキを掛ける度に体を襲うのだからとんでもない機動兵器だった。
正にパワーに対してコントロールが間に合ってなかった幻晶甲冑と同様の問題を抱えていたわけである。
最もこっちは制御装置に制限を掛ける事で解決できたから良しとしよう。
「魔導式対物ライフルの調整も終わったよ。」
今回の作戦の要も、整備が終わったようでカインが声を掛けてきた。
「砲弾の精製も終わたってさ、準備は万端だねウェン兄さん。」
砲弾も出来上がったらしい、弾薬制作を頼んでいた部署からの報告をクリスが伝えてくれる。
全ての準備は整った、後は決行を待つばかりだ。
「では、改めて作戦の概要を確認する。参加する者は近くまで来てくれ。」
俺が作戦に参加する人員に、号令をかけるとクルス先輩とカインそしてクリスが集まった。
ここまで、多くの作戦案が提出されその度に議論を重ね、時間がない中で最善と思われる行動を算出して、概要を固めてきた、街道に地雷を仕掛ける案が最初に出たが誰が通るか分からない街道では誤爆の可能性があり却下、次いで襲撃前に先手を打つ案が出されたが具体案が思い浮かばず流れた何より向こうは玄人の暗部、素人集団で太刀打ちできるかもわからない、他にも提案はあったが準備に時間が係ったり大掛かりな仕掛けが必要だったりと現実的ではないと却下されてきた、そして最後の案で頭部又は関節部を狙い破壊することで行動不能にすると云う案が出て来たことで漸く作戦が決まった。
概要はこうだ、当日カザドシュ砦を急襲して強奪された新型試作機テレスターレと僚機カルダトアの頭部及び脚部関節に暗闇でも発行する塗料を付着させる、その後街道沿いに進行する敵部隊をある地点で待ち伏せ付着させた塗料を目印にしてた魔導式対物ライフルで狙撃各部を破壊又は損傷させ行動を制限する、あとは追跡してきた砦付きの守護騎士団任せて此方は妨害に専念、捕縛後は退散と言う流れだ。
我ながらアバウト過ぎるとは思うが、現状は精一杯の抵抗だったりする。
人員も物資もカツカツで、正直心許ないがこれを受け入れない限り阻止は出来ない。
せめてもの足しにと、魔導式バズーカランチャーの破壊弾を試作してみたが完成したのが昨日なのでテストも行えていない。
連中は呪餌をこの国に持ち込んだらしい、魔獣たちを呼び寄せ錯乱状態にする魔獣と人の生活圏が近いこの国では禁忌の秘薬として伝えられてきた代物だ、腹立たしい事だが連中の策は実に有効な策でもある。
まぁ、俺達はその策を逆手に取ろうとしているがな、決行の日時は明日の夜で幻晶騎士は周囲の音が拾えない必然的に視界情報だけが錯乱状態の魔獣を認識する唯一の方法になるわけだ、もしそこで幻晶騎士から視界を奪えばどうなるか、迂闊に森に入れば異常なほど狂暴になった魔獣に取り囲まれ逃走どころではなくなるだろうな。
不安もあるだが今は作戦での成功を祈ること以外に、やれる事がない精々早めに寝て体力を温存するくらいだろうな。
「じゃあ明日に備えて、今日はゆっくり寝てくれ。」
「あぁ、お前もなウェイン。」
「一番眠りそうにないのは、ウェン兄さんだけだもんね。」
「そうそう。」
「お、お前らなぁ……。」
三人からの茶化しに苦笑を浮かべるしかなかった。
クルス視点
俺とウェインも出会いはグリズを介してだった、当時の印象は陰気で気難しそうな奴だと思った事を覚えている。
それから、今の関係になったのはウェイン達が下宿していた宿舎に泊まりに行った時だろうか、寝室ともリビングともつかない独特な雰囲気を垂れ流す部屋の扉を目にした時だった。
傍から見れば何の変哲もない部屋の扉、よく見るとだがドアノブだけが高度な魔術処理が施され特定の人間以外が入れないように細工されていた、宿舎の外観も内装もなんてことはないごくごく一般的な造りなのにも関わらずその一点だけが意匠を凝らした魔道具であるからだろう、室内の様相がとても気になった。
グリズにあの部屋を使っているのは誰だっと尋ねると、何と弟のウェインの専用部屋だと話してくれた。
更に部屋の扉は弟の作だと続けたので驚愕させられた、それと同時にウェインに強い興味が湧いたんだ。
何せ唯の扉に個人認証機能を付与しようとする程の秘密主義なのだから、室内は未知の世界が広がっていると思わずにいられなかった。
俺自身も魔術においては変態的と言われている人間だ、如何にかして中に入りたいこの世界に無いものを目にしたい、知的好奇心に抗えるはずもなくグリズ達の目を盗んで例のドアノブに施された細工を解析して室内に入ろうと試みたのだ。
結果的に解読は難航、幾つものダミー術式が施され一夜では終われなかった。
それからも何度か泊めてもらっては挑戦を繰り返し数日が過ぎた頃、何回目か分からない程の挑戦してもうんともすんとも言わなかった開かずの扉がその日はすんなりと開いたのだ、自身の力で開けられたと己惚れるほど俺は楽天家じゃない。俺は招かれてるこの部屋の主ウェイン・クーランドに、そう感じたからこそ俺も覚悟を決めて扉を引いた。
思った通り、あいつは部屋の一番の奥に悠然と座り此方の値踏みをするかのような視線を向けていた。
「ようこそクルス・エイグラム先輩。」
表層は静かで穏やかに見える表情だったが、俺を映した瞳の奥には無数の刃と芯まで凍てつかせる冷徹さが伺えた。
「まさか、ドアノブの仕掛けを解こうしていた下手人が貴方だったとは狙いは何ですか?」
下手に偽れば言葉だけで丸裸にされる、そう確信できてしまえるほどの威圧感は普段のウェインのイメージからはかけ離れ、こちらの一挙手一投足の僅かな動きも見逃さず可笑しな行動を一回でも取れば首筋に刃が付きつられる幻影が脳裏の過ぎった。
「きょ、興味本位だ……これほど見事な魔術処理は中々お目に掛かれない。」
俺はその時、抵抗しないで素直にありのままを語る事にしたんだ、結果としてこれがいい方向に流れた。
「……嘘は言っていませんね。」
俺の言葉を信じてくれたのか、息をつくとウェインからは剣呑な気配は霧散していた、格が違うと思ったのはこの時が初めてだ。
「教えてくれ、お前はこの部屋で何をしているんだ?」
「知りたいですか?」
「あぁ、このドアノブに触れただけで分かる、お前の技術力の高さは。だから知りたい、そんなお前が態々人目を避けてまでやっていることを。」
「……教えても構いません、先輩はこのドアの術式に干渉した痕跡をほんの僅かしか残さない程の腕をお持ちです。
俺も、その僅かに残った痕跡で今回の事を察知しましたがそれでも疑いがある程度でした。その腕に敬意を評し、この部屋の秘密を明かしましょう。」
「本当か!」
「えぇ、ですが聞いたら直ぐに忘れてください。これは、表には出したくないことです。」
その言葉の後に続いたウェインの話に、俺は共感していたんだ。この国は確かに魔獣の脅威が日常と隣り合う危険を孕んでいるから一見魔窟の中に居るように錯覚するだろう、だが逆に捉えれば自分たちを脅かす存在は魔獣と言う人外の存在で人と人が殺し合う事は殆ど無いだから、人に対しての危機感が薄い。魔獣は確かに脅威だそれでも直接的な行動だけで図りやすい、だが人は友人の様に握手を求めたその手で喉元を搔き切る事がある。
魔獣だけが脅威じゃない……否、真に人にとって脅威となるのは悪意を持った人間だ。俺も普段この国で生活していて思うところはあった。
そして今、目の前でそれを身近なものとして認識し対策を練ろうとしているのが自分よりも幼いウェインだった。
心が震える、俺はコイツと……ウェインと出会うためにこの扉を開けた!
「今ので全てです。先輩、満足してくれましたか?」
ウェインの説明が終わり、俺にそう問いかけてきた。
「あぁ……理解できた……。」
「それでは……。」
「理解できたから、俺も仲間に加えてくれ。」
会話を締め括ろうとするウェインの言葉を遮り、俺は興奮した声音で訴えた。
「は?」
何を言っているのか分からないと、不思議そうな表情を浮かべ此方を見ているウェインの顔を俺は雑じり気の無い尊敬の目で見つめていた。
それが始まりとなり今日まで続いてきたのである、俺はウェインが目指すところならどんな場所でも付いていく、だからこそフレメヴィーラに降り掛かると分かったこの最悪を俺達が防いでみせる!
なぁ、
新型試験機強奪事件、通称カザドシュ事変これは長く安寧の時代が続いたフレメヴィーラ王国を襲った歴史上初となる他国からの侵攻だった、この事件にて死傷者が多数出ただけでなく後に幻晶騎士のスタンダードとなる新型試験機テレスターレを強奪されるに至った。
しかし、この事件の前後で犯行を予見できた居たのかの様に動く一団の目撃証言が多数寄せられていた、もしそれが本当なら動いていた人物とは誰だったのだろうか。
事件を調査にしていた調査員の手記より