砂だらけの体を、とりあえず海水で洗うことにした。
海水で洗うとベタベタするだろうと思うが、しかしすでに海水と砂で服も体も汚れてしまっているので今更ではある。
俺は浜辺に誰もいないことを確認すると、脱ぎかけのズボン(下着をつけていなかったことから、これは多分水着だと思う)を脱ぎ捨てて全裸になる。
真っ白な肌が日の光に照らされて、体に付着した砂が海水と反射してキラキラと輝く。
……今気づいたけど、この砂は少しガラス質のようだ。
加工できればガラス瓶でも作れるかもしれない。
まあ、そのためにはコンロも必要で、かつ高温にしないといけないのだからそれなりの耐熱性を持つ容器も必要だろう。
他にもいろいろ必要な機材はあるけど。
……よし、ガラス瓶を作るのは保留にしておこう。
とりあえず今は水と火を探すことが先決だ。
初めて人類が使った火は、自然に燃えてできた火、つまり野火を使っていたというが、あそこの難破船を探せば何か見つかるだろう。
例えばライターとか。
私は海に潜ると、体についた砂を流し始めた。
体を洗い終えた私は、体が乾くのを待って、水を使わずに来ていた服の砂を払い落として着直した。
息子がいないので少し変な感じはするが、気にしたところでどうともならない。
緊急事態なのだ、どうにもできないことは諦めて、できることからしていかなければ命に関わる。
そう、これはテストと同じだ。
わからない所は飛ばして、できるところから始めていく。
それが終わると、今度は難破船を探索することにした。
……どうして難破船を調べるのかって?
そりゃ、食料や食器類、調理器具があればこの先楽に過ごせるだろう?
ここから見た感じ、目の前の森はかなり深そうだし、ここを突き抜けて人の住む場所へ出ようてしてもそれなりの日数がかかる。
だから、それを生き抜くためのツールがまずは必要なのだ。
ちなみに、食料はあるならば缶詰が一番いい。
缶詰は非常に長く持つからな。
幸い、中が腐っているかどうかの見分け方は知っている。
使えないやつは放置して、使えるものだけ持ってくればそれでいい。
ちなみに、なければ持ってくる缶詰は空でもいい。
空の缶が2つあれば、簡単なコンロを作ることができる。
いちいち泥を火で固めてコンロを作る手間が省けるからな。
閑話休題。
俺は波打ち際の湿った砂浜を歩きながら、難破船へと向かった。
嬉しいことに、難破船はほとんど形が崩れていなかった。
座礁して木っ端微塵になっていなかったことは僥倖だと言えるだろう。
船の大きさは、ざっと100から120人程が乗るような少し小さめの遊覧船程度。
材質は金属と木。
作りは粗雑で、あまり現代の技術で作られたような雰囲気はしない。
それに、少し苔も生えている。
それなりに時間が経っているのだろう。
私が漂流した時期よりもずいぶん前に座礁したことが推測できる。
この様子では、食料はあまり期待しないほうがいいかもしれない。
おそらく、人もいないだろう。
いつの日か救助が来て、全員助かったのか。
それとも船だけが残っているということはらまた別の事情があるのか。
……考えるだけ無駄か。
俺はそう考えをまとめると、船底に空いた穴から中に入った。
○● ○●
中は暗かった。
暗いというか、ほとんど何も見えない。
座礁して壊れてできた穴から、かろうじて日光が入り込んでいるが、それ以外はサッパリだ。
湿った空気が、俺の頬を撫でた。
うん。
本格的なお化け屋敷みたいな怖さがあるな。
それに、ホコリがあまり立っていないことから、最近ここに何かが入ったということは無いみたいだ。
この船は無人かもしれない。
――カラン。
しばらく壁伝いに歩くと、足元に何かがぶつかって音を立てた。
「ひっ!?」
思わず小さな悲鳴が上がり、無人の船底に俺の声が反響した。
嗄れているが、かわいらしい女の子の悲鳴が、俺の鼓膜を震わせる。
……やっぱり、俺は女の子になってしまったんだな。
認めざるを得まい。
俺は内心ため息をつくと、足にぶつかった何かを拾い上げた。
それは懐中電灯だった。
スイッチを押してみると、まだ灯りが点く。
どうやら電池は生きているらしい。
「ラッキー!」
これで夜も少しは安全だろう。
電池がまだ生きていたことに感謝した俺は、スイッチを切って上に続く階段を登った。
○● ○●
調理場を見つけた。
電気は点かないので、代わりに持ってきた懐中電灯を使う。
うん、いろいろ使えそうなものが揃ってるな。
鍋とか食器とかは使える。
錆びて入るが、使えないほどではない。
うーん、お皿は割れてるから使い物にならないな。
割れたガラスが散乱している。
おそらくグラスの破片や、食器棚に使われていたものだろう。
うん、これがあれば火をおこす材料になるな。
持っていこう。
他は……プラスチック製の食器はないみたいだ。
木製のものは朽ちてしまっている。
使えるのは鉄製のものだけか。
俺は使える物を一通り揃えると、使えそうな大きめの寸胴鍋に放り込んで一度船を出ることにした。
船から出た俺は、砂浜に転がっている鍋などを回収して、満潮でも海に沈まない場所へ移動することにした。
その途中で、ヤシの木から樹皮を持っていくことを忘れない。
ヤシの木の樹皮は繊維質なため、火をおこすときに使えるのだ。
ついでに水分補給用のヤシの実も1つ持っていくことにした。
○● ○●
それから俺は森の中を歩くことにした。
履いていたサンダルはすでにペラペラだが、森の中を歩く上では不便しなかった。
むしろ助かった。
しばらく歩いて傾斜に出る。
大量の器具を担いでの山道は、水分不足気味な現在の俺には難しいだろう。
とりあえず今はここまでにして、持ってきたヤシの実で水分補給をして休むことにした。
しばらく休憩した後、再び森を歩き始める。
森というよりもう山道だが。
方向感覚を見失わないように、樹木の枝葉の茂り具合を参考にして内陸に向かう東へと突き進む。
自然そのままの樹木は、その茂り具合で方角を調べることができる。
理科の授業で、山で遭難した場合は切り株を見て、そこに写る年輪を参考にすればいいと習ったと思うが、それは間違いである。
そもそも、自然の中にそれほどわかりやすいような滑らかな切り株などなく、あるとすれば朽ちて折れた大樹であり、その場合株はとてもギザギザで年輪なんか見えやしないのだ。
ならばどうすればいいか。
簡単だ、葉の茂り具合を確かめればいい。
樹木は日光をたくさん浴びるために、朝日の登る東に向かって多く葉を茂らせる。
つまり気を見上げて、多く茂っている方が東であるとみわけることができるのだ。
他にも、山道を登っているのか下っているのかを見分けるのにも、木の状態を観察するのは大きな助けになる。
閑話休題。
しばらく進むと、川に出た。
幅が広く、流れはあまり急ではない。
河原には手頃なサイズの石が集まっている。
よし、今日はここで野宿だな。
俺はそう決めると、荷物を置いて川の水を掬って口の中の砂を洗い流した。
口内の砂の感触が洗い流されてサッパリする。
もう一度掬って、今度は喉に流し込む。
喉の乾きが癒えるまで、飲む。飲む。飲む。
「は〜、生き返る〜ぅ!」
そのまま今度は顔を洗い、汗を流す。
ヤシの実でベタついた手も洗い流し、ついでに海水でベタつく髪や肌もここで洗うことにした。
水で濡れて体温が奪われる?
いや、今はまだ日が照っている。
日光の熱で十分乾く。
次に、持ってきたものを川の水で洗う。
汚れたままじゃ使えないしな。
「さて……。
水は確保できたわけだし、今度は日の準備だな」
ここは水辺だ。
夜になるときっと寒くなるはず。
日が沈むまでしばらく時間がある。
今から焚火の準備をするとしよう。
というわけで、戦利品の確認をする。
まず大鍋が1つ。
大きめの寸胴鍋が1つに、一回り小さい寸胴鍋が1つ。
ボウルが大小含めて4つ。
ザルは穴が空いているものが1つ、使える状態のものが1つ。
食器類のナイフ、フォーク、スプーンが10数本。
調理器具の包丁が5本。
割れたグラスが4つ。
こんな体で良くもこれだけのものを持ち運べたと思うが、どうなってるんだろうな。
ちなみに、今の俺の体は10才程の幼い体である。
10才にしては胸が大きいので、実際はもう少し歳はあるのだろう。
だが、筋力はそれ程あるようには見えない。
体力は……まだ息が1つも上がっていないし、まだまだ大丈夫っぽい。
……底なしなのか、俺?
まあ、細かいことは気にせず、やるべきことをまず始めるとしよう。