魚を食って腹も膨れたことだし、次はさっそくキャンプを作ることにしよう。
俺は食べ終わった魚を串刺しにしていた枝を火にくべると、さてと立ち上がった。
枝についた魚油が焚き火で蒸発して、パチリと音を立てる。
キャンプ。
つまりは拠点のことだ。
拠点に必要なもののうち、火と水、それから鍋などの道具は揃っているので、あとは寝床が必要となる。
野宿のときに1番注意しなければならないのが、地面に直に寝てはいけないということだ。
ああ、それと木に凭れて寝るのも良くない。
それはなぜか。
地面や樹木に接した状態で寝ると、体温を奪われ低体温症になる危険が増えるからだ。
焚き火があれば火の熱でどうにかなるので今回はあまり心配しなくてもいいが、しかしイレギュラーもある。
そのイレギュラーとは何か。
この地域はヤシの木があることからも推理できるように、温暖湿潤気候だ。
つまり定期的に雨が降る。
俺の言うイレギュラーとはつまり、夜に雨が降った場合だ。
そうなると火を作ろうにも焚き火が濡れていて火がつけられない。
おまけに曇っていれば収斂発火も難しいだろう。
つまり何が言いたいかというと――屋根が必要なんだ。
○● ○●
手頃な太さと長さを持つ木の枝を森の中から引きずってくる。
あと蔓性植物の蔓。
頑丈なのを数本引っ張ってくる。
あとは大きな葉が数枚。
できれば表面がツルツルしているバナナの葉がいいだろう。
「運良く見つかってよかった」
これから作るのは、原始的なログハウスだ。
時間はかかるが……そうだな。
今太陽は中点を少し過ぎたくらいの位置にある。
だいたい現在の時刻は14時くらいだろうから……完成はうまく行けば16時までにはいきそうだな。
つまり下手をすれば日が暮れるので、早く始めよう。
作り方は至って簡単だ。
まず1番長い木を支柱とするために真ん中にぶっ刺す。
そしてその周囲に小屋の広さを決める四つ角に、ほぼ均等な長さの木をぶっ刺す。
四つ角の木同士をまた別の木で渡して、今度は蔓で結んで固定する。
支柱と、今度は結んで固定した木の間にまた木を引っ掛けて蔓で固定して……ある程度屋根の形を作る。
大体の家の形ができれば、次はバナナの葉を加工する。
屋根の形に合わせて、バナナの葉を扇状に並べて穴を開け、蔓紐を通して結びつけるのだ。
大きさは角錐の側面積を測る方法を流用して計算した。
だいたいでいいので、そこまで細かく計算しなくていい。
今回はめんどくさいので目算にした。
さて、バナナの葉の加工が終われば、今度はそれを屋根の上に被せて蔓紐を端でくくる。
このとき、小屋の骨組みとくくり合わせること。
ただ被せただけでは、強風が出たときに吹き飛ばされるから要注意だ。
「よし、とりあえず壁はないけど寝床は完成だな」
俺はパッパと手を払うと、遠くから自分で立てた小屋の出来栄えに目を輝かせた。
壁はまたおいおい作るとして、とりあえず寝床は半ば完成だ。
あとは中の焚き火が煙を散らしてバナナの葉の中にいる虫をあぶり出してくれれば完璧だ。
あ、早速一匹落ちてきた。
「清潔には欠けるが、まあ仕方ないだろう」
俺は小屋の外の河原に腰を下ろすと、空を仰いだ。
この低身長のおかげか、小屋を立てるのに少し苦労した。
ほんの些細な苦労だったが、それでも精神的に疲れた。
おまけにここは暑い。
何度熱中症になりそうだと思ったか。
……あー、汗で蒸れて気持ち悪い。
そこの川で体洗うか。
ても汚れたしな。
俺はガバリと上体を起こすと、川に向かって這っていった。
○● ○●
水着を脱いで裸になる。
相変わらず肉体は幼いが、しかし巨乳というわけではないが胸だけはそこそこある。
「……」
少し揉んでみる。
掌に収まるサイズより少し大きめのそれは、吸い付くような手触りと、押せば跳ね返す弾力を持っていた。
擬音で表すなら、フニフニが適当だろうか?
「って、何やってんだ俺は」
しかし哀しいかな、それが男の性というものだ。
そう言っておきながら俺は、自分の胸を揉むことをやめようとはしない。
「んっ……///」
あ、やべ。
気持ちよすぎて止まらない。
胸だけじゃなくて、股の方にまで自ずと手が伸びてしまう。
……ここからは、少し刺激が強すぎるのでカットさせてもらおう。
○● ○●
「ふぅ……///」
ヤバい。
外でやるオ○ニーの破壊力、まじヤバイ。
めちゃくちゃ気持ちよかった……。
おかげで何回もイッてしまって、気がつけば日が暮れ始めていた。
危ない危ない。
俺は指に付着した液体を川の水で洗い流し、全身を洗った。
ヤりすぎたせいか、すこし足元が覚束ない。
股間が少しヒクヒクしてる。
それはさておき。
俺は火に燃料をくべると、水浴びの最中に獲った魚を石のまな板の上に置いた。
昼も夜も同じ串焼きというのも味気がないので、今度は別の料理にする。
といっても、焼くだけのことに変わりはないが。
まず、魚を〆る。
鱗をとって、腹を裂き、ワタを抜く。
ワタを抜くときのコツだが、腹膜を破らないようにすると中にワタが残らずスルッと抜けるのでおすすめだ。
これは、獣を解体するときも同じだ。
で、鍋に水を組んできて、焚き火コンロにセット。
その間に魚を三枚におろして……お湯が沸騰したらそこに魚を入れる。
完成、めちゃくちゃテキトーに作った魚のしゃぶしゃぶ。
生で食うとアニサキスなどの寄生虫の心配があるのでちゃんと火を通して食べること。
これさえ守れば問題はない。
もしアニサキスにかかったらどうなるか……。
ものすごい腹痛ではすまないだろうな。
私は苦笑いを浮かべると、出来上がった魚をフォークで突き刺して口に運んだ。
……ああ、せめて米がほしい。
できるなら醤油も。
「はぁ……」
無いものは仕方ない、今度は別の食料も見つけられればいいんだが。
見つけられるとすれば……バナナ、ココナッツは見つけたし、あとは希望が持てるのはパイナップルか。
でもそんなの主食には出来ないしなぁ。
タロイモはどうだろう?
この気候なら森の中で見つかるだろうし、明日探してみるのもいいかもしれない。
俺はそう思いを馳せると、燃料の枯れ枝を継ぎ足した。
○● ○●
夕食を終えた頃には、日が暮れて夜の帳が降りていた。
思っていたよりも冷える。
パチパチと音を立てて燃える焚き火の風上に陣取りながら、俺は空を見上げた。
空はいっぱいの星が輝き、俺のいる地上を月明かりとともに照らしている。
空気が澄んでいるのか、とても星空がきれいだ。
だが、そんなことよりももっと気になることがあった。
「ん……?」
思わず、眉を顰める。
空気が澄んでいるのは、満天の星でわかる。
だが、そうじゃない。
俺は今、ここが地球上のどの地域でもないことを証明する、とんでもないモノを視界に映していた。
「月が……2つ?」
そうだ。
月が2つあるのだ。
大きな蒼い満月に重なるようにして、2回り小さな紫色の月が浮いているのである。
天文学に詳しい方ではないが、少なくとも紫色の月は見たことがない。
少なくとも、俺の知る太陽系の衛星のどれにも当てはまらない。
……これは、もしかすると本当に異世界に来てしまっていたのかもしれない。
「待てよ……?
となると、食べた魚ももしかして、元の世界の魚と違ってよくわからない毒とかついていたりする可能性も……?」
途端、ぎゅるる、とお腹が悲鳴を上げ始めた気がした。
うう……ちょっとトイレ行ってこよぅ。
あ、トイレ無いんだった。