八百万な、この世界で   作:水混汁

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クラスメイト

「――全員席に着いたな?」

 熱田が教室内を見渡す。

 用意した席は全てが埋まっており、欠席者は無しだ。

 初日から無断欠席も無く、ひとまず安心だ。

「まず、説明しておくと、このクラス分けについては実のところは学園が管理しやすい様に人数を分けただけだ。分けるに当たって試験の成績を基準にはしたがな」

 教室がにわかにざわめく。

 はっきり言って、努力の証である試験結果を軽視していると言っているも同然だ。

 騒ぐ彼らの気持ちも分からないでもないが、話を進める。

「話を続けるぞ。成績自体はしっかりと反映してあるから安心しろよ」

 実際に軽視はしていないが、重視もしていない。

「というかな。冒険者と成るならば、“チュートリアルダンジョン”の攻略は最低限のラインでしかない。攻略の早い遅いの違いはあるが、俺からすれば全員が平等にひよっ子だ」

 彼らにすれば、攻略の順というのは大きな差ではあろう。

 だが、決して死なず、事前の準備と協力さえあれば攻略可能な時点でお遊びに過ぎない。

「それはどういう事ですか? 魔導士としての級位を持つ私が他の者と同じだと?」

 手を伸ばし、異議を主張するのはマツリ・カーテッジだ。

 資料によると大手魔術具企業の娘だ。

 才気に溢れ、幼少の頃より英才教育を受けてきた彼女にとって、凡才と同列視されるのは我慢ならないのだろう。

 彼女が持つ級位は、鍛えた二年生ですら合格は難しく、三年生から取得者が出てくるのが通例だ。

 そんな他者より優れた能力と自信に裏打ちされたプライドは高い。

 数年に一度はこのような者が現れるが、逆に言えば上下関係を叩き込む機会でもある。

 躾けるにしても、あしらうにしても、どう上手く捌くかが職員の腕の見せ所だ。

「お前の名前はマツリ・カーテッジだったか。確かに、魔術分野において、同学年でお前を上回る者はそうは居ないだろうな」

「当然ですわ。ですから、先の発言は――えっ?」

 勝気な黄金と碧のオッドアイが、驚きで見開く。

 彼女だけでない。

 教室に居る、ほぼ全ての人間が驚愕していた。

 驚いていないのは、種を知っている一人だけだ。

 呼吸のリズムを乱して解こうとはしているが、今回は少し本気を出す。

 彼らからすれば、今自分自身は教室という空間から消えている様に見えている。

「い、一体どこに!?」

 慌てて周囲を見渡す彼女の元へ歩み寄る。

 その途中で窓から入る光でできた影が幾人かの生徒を横切る。

 だが、誰も気付く事はない。

 影に気付かず見当違いの方向へ目を擦らせるのみだ。

 優等生である彼女の席は最前列に在り、僅かな歩数で辿りつく。

 が、あえて背後へ回り込む。

 ちょっとした悪戯心だ。

「――っそこ!」

 何かを察し、マツリは一点へ向けて拳を放つ。

 確信があるのか、その顔には笑みを浮かべていた。

 放たれた拳は熱田の存在を確信したものだった。

「残念、外れだ」

「きゃうんっ!?」

 “歩法”を解いて出席簿にて頭をはたく。

 マツリの伸ばした拳は、熱田の一歩手前の場所へ伸びていた。

「……あれ? センサーには引っ掛かってたのに気付かなかった?」

「義体でも意識があれば認識から抜けられるのか。流石は対異世界用戦闘術だな」

 常人以上の感知能力を有する義体が欺けられた事にレイドが驚く。

 センサーの記録を確かめれば確かに残っている。

 しかし、その瞬間は気付きもしなかった。

「と、まぁこのように魔術だけ特化しても意味がない。何かしらの魔術で感知したんだろうが、それはそれでやり様は幾らでもある。――実戦だったら次は無かったぞ?」

 頭を抑えるマツリを尻目に教壇まで戻る。

「将来お前らは、数多の世界を渡る事になるだろう。だが、異世界にはお前らの想像も付かない技術や常識が溢れている。それらの基本を最低限は叩き込むのがこの学園だ。冒険者と成るならば、たった一つの分野だけを修めただけじゃ無知と変わらん。それだけは覚えておけ」

 見渡せば、全員の向ける視線の質が変わっていた。

 少なくとも侮る様な視線は消えた。

「それじゃ、まずお前ら同士の無知を減らすために各自の自己紹介を行うぞ。種族と職業、いわゆる種職と名前を一人ずつ言っていけ。一言付け足すかどうかは各自に任せる。それじゃお前からだ」

 適当に隅に居た生徒を差す。

 指された生徒は、突然の事に動揺しながらも自己紹介を始める。

 切り替えが早いのは良い事だ。

 静かになった教室に自己紹介の声だけが響いていた。

 

          ○

 

 ……やっぱり、門戸が広い分、色んな種職が集まっているな。

 最後の一人が席に着き、自己紹介は終る。

 レイドは固有職業と姿も相まって好奇心の視線に晒されていたが。

「……終ったな? それじゃあ今から資料を配る。これからの学園生活について要点を纏めてあるから各自で読んでおけよ?」

 前の席から回ってくる紙束から自身の分を取って後ろに回す。

 ホチキス止めされた分厚い紙束。

 それは学園生活について、と表題された漫画だった。

 ペラペラと捲ってみれば、項目事に担当が違うのか絵柄が違う。

「……あの、先生。何でこんな漫画風なんですか?」

 一人の生徒が手を上げて質問する。

「あん? ああ、それはそっちの方が分かりやすいだろうっていう学園の方針だ。ただ文字を並べるよりも手に取りやすいだろ? ちなみに漫画研究会が実績作りの一環で毎年担当しているぞ。過去の分もデータに残っているから、気になる奴は資料庫に行けば見れるからな」

 ポップだったり劇画調だったりと様々な画風に彩られた冊子は、確かに読み応えがありそうだ。

「要点はしっかり纏めてあるから、一通り読んでおけば困る事はないぞ」

 読んでみたくはあるが、まだオリエンテーションの途中だ。

 読みたい気持ちを押し殺し、鞄の中にしまう。

「おい、読むのは後にしろよ? それと伝達事項だ。明日の必修実技だが、お前らの実力を確認するために模擬戦を行う。装備を忘れずに用意しておけよ。以上、解散だ」

 そう言って熱田は教室を出て行く。

 それから一呼吸の間を置いて、クラス内に活気が満ちる。

 時間は昼前。

 遊ぶにしても学ぶにしても時間の余裕がある。

「先に腹ごしらえでも済ませておくかな」

 嬉々として予定を立てる彼らと同じように、予定を立てていると誰かが近づいて来た。

 レイドかパーティメンバーの誰かかと思えば、予想外の相手だった。

「盛武博! 明日の模擬戦で私と戦いなさい!」

 目の前までやって来て、高らかに告げたのはマツリ・カーテッジその人だった。

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