八百万な、この世界で   作:水混汁

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終わりと始まり

 最後に自宅に帰ったのは何時だったのか。

 そんな記憶が薄まる程に続く、仕事、業務、残業。

「あ、やばい」

 そう言えたのは奇跡に近い。

 突然来たそれに、驚きは無かった。

 やっぱりという気持ちすらあった。

 床が迫る光景を見ながら、俺という人生は終った。

 筈だった。

「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ!」

 ……次があるなら、宮仕えだけは絶対止め……え?

 これまでの人生を総括をしているうちに、新たな生が始まっていた。

 理由は知らない、ただ今度は自由に生きようとだけは決めた。

「日本だけど日本じゃないな」

 違和感に気付いたのは何歳だったか。

 少なくともかなり早い段階だったと思う。

 だって、自分の知る日本では武器の所持は認められなかったし、鉄塊みたいな武器を易々と振り回す人間は居なかった。

 パワードスーツを纏って見たことのない化け物と戦う人間も居なければ、魔法陣を展開して空を翔ける人間も居なかった。

 海上を滑って移動する大砲を担いだ人間も居なければ、見上げるような鉄の巨人も居なかった。

 人ならざる姿に変わる人間は居ないし、人と混じる人ならざる存在も居なかった。

 結果としては自身の知る、そして生きてきた日本とは似て非なる日本であった。

 だが、その力の正体は自身の知識に存在していた。

「何で、漫画やゲームの能力が存在しているんだ?」

 それらは、自身が慣れ親しんだ娯楽そのものだった。

 

          ○

 

「汎用職業……か」

 自身の手首に巻かれたそれを眺める。

 腕時計の形をしたそれは、そのまま時計であり、何の力も持たない者の希望である。

「“戦士”ねぇ」

 側面に刻印された文字。

 自身の超常の力の源であり、戦う身分としての職業だ。

「出来れば“銃士”が良かったなぁ。《ドリームソード》が可能って事はキャノン系列や《ムゲンバルカン》もできるんだろうし」

 敵と至近距離で切り結ぶなどゴメンだ。

 だが弾薬費等、条件を突き詰めた結果、戦士と成ったのだ。

「でも結局、何だかんだ慣れちゃったしな」

 腰に下げた鞘を撫でる。

 感じるずっしりとした重さは、命を奪う武器。

 先日、不調故に整備に出した武器だ。

 何の変哲も無い数打ちではあるが、手に馴染む程使い込んだ愛用品だ。

「私としては“戦士”である事は誇らしい事だけど、博は違うんだもんね」

 いつの間にか隣に居たのは、幼馴染の蒼乃空だ。

「“グロンギ”としては戦いは神聖なものなんだっけ?」

「そうだよ。といっても尊ぶのは“闘争”であって、“殺し”じゃないから。そこら辺を間違えないでね」

「そ、そうだったな」

 この世界では知識や記憶との差異がままある。

 “グロンギ”とは彼女の一族を指す種族であり、戦う身分としての職業である。

 知識にあるのは“仮面ライダークウガ”という作品の敵怪人の種族としてだ。

 作中では、他者の命を奪う事に対し、躊躇いも罪悪感も無い残虐な存在として描かれていた。

 そんな彼らの目的は種族内で成り上がる為。

 その手段としてのゲーム、通称“ゲゲル”を行っていた。

 内容はいわゆる人狩り(マンハント)だ。

 ルールを定め、期限内に規定数の人間を殺すというもの。

 行われた一部のゲゲルは、当時の幼い子供達のみならず大人にも深いトラウマを刻んだ。

「力が覚醒するのは15歳からだから、もうすぐなんだよね。グロンギとしての真名もその時に教えてもらえるって話しだし、楽しみだなー」

 この世界では、闘争本能が高いというのが特徴の種族だ。

 “命”というものを理解できなかった作中の存在ではなく、普通の人間と同じように営みを送る数多き種族の一つだ。

 ……いや、まぁ、オルフェノクが人類と共存しているだけじゃなくて、他にも深海棲艦がアイドルやってたり、破面(アランカル)がランキング上位にランクインしている時点で世界の敵としての定義が違うんだろうな。

 もちろん、彼らがこうして穏やかに暮らすようになるまでに、数多くの悲劇や衝突はあった。

 が、今こうして平和を築けているのは、相互理解の弛まぬ努力の結果であろう。

「っと、悠長に話している場合じゃないよ。今日はダンジョンに潜るんでしょ? 早くしないとバスが出ちゃうよ?」

「そうだな。少し考え事が過ぎたみたいだ。急ぐか」

 時間を見ればバスの出発時間まではまだ余裕はある。

 だが、席を確保するために移動する。

 席を確保できずに、長時間立ち続けるのはゴメンだった。

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