八百万な、この世界で   作:水混汁

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異界の中で

 そこは、部屋。

 2つに分かれる、洞窟のような通路が出入り口だ。

 普段は、静謐を奏でるであろうその場所は、血潮に彩られていた。

「セイッ! ハッ!」

 剣閃が2つ走る。

 剣気が籠められた刃は、出入口から飛び込んだ2つの命を奪う。

「接近戦は嫌いな割に中々やるよね」

 まるで、日常を過ごすかのような声であるが、無造作に放つ拳打一つで命の灯火を掻き消していた。

「絶対に宮仕えだけは成りたくないからな! 収入が不安定? 日々命掛け? それでも俺は自由に生きたいからな! 絶対ぇ、こっちで成り上がってやる!」

 叫びつつ振るう剣に迷いは無い。

 一つ、二つと命を刈り取っていく。

 それでも、

「だぁー! 数多すぎだろ!?」

「そこに居る誰かさんの仲間が、魔物寄せのトラップを起動させちゃったからね。幸いこの階層の魔物は私達で対処できるレベルで良かった――っと」

「ごめんなさい、ごめんなさいぃ!」

 謝罪と共に放たれる十字手裏剣は自分達の敵を穿ち、その行動を阻害する。

「通路の奥から援軍! これ以上は私も持たないね」

「ああったくもう! 出し惜しみは無しだ! 《ドリームソード》で片方の通路を一掃する! 時間を稼いでくれ!」

「了解。そこの君も準備して! 開いた隙から逃げ出すから!」

「はいぃぃ! ごめんなさい!」

 一旦戦線を離れて剣を構える。

 《ドリームソード》は強力な技であるが、構えて力を溜めなくてはならない。

「グロンギの底力を舐めないでよね!」

 振り回される拳と足は、眼前の敵を穿ち、砕き、潰す。

 その人外染みた力はグロンギの種族特性。

 異形と化した四肢は人としての形は残っているものの、その暴威は人の領域から外れている。

「未覚醒だから部分変身しか出来ないけれど、時間を稼ぐ位ならこれでも十分!」

「え、援護します!」

 2つの出入口から飛び込む異形の群れを、手裏剣の援護と共に処理をする。

 だが、押し寄せる数の暴力に、処理が徐々に追いつかなくなる。

「ぐっ。そろそろキツイかな?」

 敵からの被弾も増えてきた。

 大半は異形化した部分で受けているが、生身へのダメージも増えてきた。

「準備完了! 右の通路を一掃する!」

「――っ」

 掛けられた合図と共に、戦線から離脱する。

 異形の壁から離れた瞬間、煌々とした輝きが片方の通路を駆け抜けた。

 押し寄せる波は、通路を満たす光に断ち割られる。

「今だ! 行くぞ!」

「はいぃぃ!」

「何とかなったね」

 慌しくも、彼らは通路の中へと駆け込む。

 その後ろを追いかける異形も居たが、大半は部屋の中に散らばる餌を貪り喰らっていた。

 

          ○

 

 周囲に敵が居ない事を確認して扉を閉める。

 ここは異界の中にある数少ない休憩部屋だ。

「で、どうしてくれるわけ?」

「いや、あの、その……」

 彼女が直接悪いわけではないが、一言言わなければ気が済まない。

「あれだけ倒したのに、魔石が回収できなかったから、私達骨折り損なんだけれど?」

「うぇっ!? それは、その、ごめんなさいぃ……」

 今にも泣き出しそうな雰囲気だ。

 というか、既に半泣きである。

「……はぁ、これ以上君に当たっても意味が無いしな」

「そうだね。直接の原因は今頃病院のベットの上で寝込んでるだろうしね」

「あうぅ……」

 申し訳なさそうに身を縮まらせるのは少女。

 変わった点としては、忍者装束であるという事か。

「とりあえず、切り札も切っちまったし今日は上がるとするか」

「そうだね。貴女も一緒に来る?」

「え? い、良いんですか!?」

 そんなに驚く事か。

「別に死んでリスポーンしたいって言うなら、私達は止めやしないけれど?」

「い、いえ着いて行かせてください!」

 少なくとも自傷趣味は無いようで安心だ。

「じゃあ、休憩ついでに職業の情報交換と行こうか。俺は人間で汎用職業の“戦士”だ」

「私は種族兼職業の“グロンギ”。まだ未覚醒だからモーフィングパワーも満足に使えないけれどね」

 改めて見ても前衛職しかいない。

 後衛か遊撃を絶賛募集中である。

「えと、わ、私の種族は人間で、固有職業の“忍者”です」

「へぇ、固有って事は血筋か?」

「はい、古くから続く一族なんです」

 固有職業。

 それは、生まれながらにして持つ才能。

 家系や血筋で受け継がれやすいと聞く。

 誰でも扱える汎用職業よりも自由度が高く、また扱いが難しいという点が挙げられる。

「“忍者”の系統としましては、体術よりは魔術寄りです。チャクラと印を用いて忍術を扱います」

「ああ、“NARUTO”系か。戦力としては優秀じゃないか」

 才能に左右されやすいが、用いる忍術は強力だ。

 体術自体も人外れた技量を持ち、その実力は並みの“戦士”や“魔術師”を上回る。

「“なると”って何でラーメンの具材? まぁ、それは置いといて、“忍者”は引っ張りだこって聞くけれど?」

「そうだな。あんな連中なんかよりも、もっと良いパーティと組めたろ?」

 この世界、斥候に罠看破が得意な職業、と言われれば上位に挙がる名である。

 他に類似する職業には、一段劣る罠看破の“猟兵(レンジャー)”や上位争いの“盗賊(シーフ)”がある。

 だが、“猟兵”では罠看破に不安があり、“盗賊”は斥候と罠看破においては同等以上だが戦力として期待は出来ない。

 探索と戦闘を高い水準でこなせる“忍者”は、人気の職業の一つだ。

 特に、彼女の様に魔術めいた忍術が使えると倍率ドンだ。

「その、私、上手くチャクラを練る事が出来なくて……簡単な術の一つも出来なくてそれで……」

「何だ、落ちこぼれか」

「……はい」

「ちょっと博!」

 しまった、あの忍者漫画の印象が強すぎてつい口にしてしまった。

「あ、いやスマン。失言だった」

「いえ、本当の事ですから……」

 どうしよう、落ち込みすぎて彼女の周りだけ暗くなってるんだけど。

「……ねぇ、あの子に何かアドバイスは無いの? どうせ何か知っているんでしょ?」

「どうせってお前なぁ」

 チャクラが上手く練れない原因は幾つか思いつくが、アレは特殊過ぎる事例だ。

 だが、確認しない理由にはならないだろう。

「よし、じゃあまず服を脱げ」

「ふぇ!?」

「いきなり何トチ狂った事を言っているのかな?」

「ウェイウェイウェイ、待って。異形化した腕で殴られたら頭取れちゃうから! 理由は有る! 有るから!!」

 素振りを止めて、風切り音がマジ怖い。

「それで理由は? 下らない理由だったら頭捥いで病院送りね」

 ここでは死ぬと病院にリスポーンするからって酷くないですか?

「あ、はい。えっとですね。チャクラの練成を阻害する要因として、何かしらの存在の封印とか呪いが無いかの確認としての提案でして」

「そ、そうだんですね。ですが、その点は確認済みです。封印はされてませんし呪いも掛かってはいません」

「あ、そうですか。じゃあ人柱力の線は無しか」

 流石にあんな特異な存在がポンポン居る訳が無いか。

「人柱力って、よくご存知ですね。忍の界隈以外ではあまり知られていませんのに」

「あー、昔出合った冒険者が小話として教えてくれたんだよ。今思えば“忍者”関係の職業だったんだろうな」

 もちろん嘘である。そんな相手は居ない。

 というか、機密情報とかじゃなくて良かった。

 原作からして、一種の戦略兵器扱いだった事をすっかり忘れていた。

「オホン、それは横に置いといて。そうなると練り方というかコントロールの練習方法ぐらいかな」

「え、それは一体どんな方法なのですか!? 教えてください!」

 喰い付きが良すぎないか?

「いや、本職の人間に偉そうに教えるような事ではないんだけどさ。確か、足の裏にチャクラを集めて木の幹を登る、とか?」

「あー、懐かしいです。故郷の里に居た頃は皆で遊びました。結局、私だけ最後まで登れなかったんですよね……」

 しまった。悲しい歴史を紐解いてしまったようだ。

 というか出来なかったんか。

 ナルトだって幼い内に成し遂げてたぞ。

 あれ? アレはアカデミーを卒業した後だっけか?

「だ、だけど自由に登れるようになればコントロールは大分マシになるんじゃないか?」

「確かに言われてみればそうですね。子共の遊びだと思ってすっかり忘れていました」

 苦い思い出も原因の一つではありそうだが。

「俺が知っているのはそれぐらいかな。昔出合った冒険者からの受け売りだから確実性は薄いけどな」

 一応、名も無き冒険者に手柄を押し付けておくとしよう。

 予防線は幾ら張っても足りない。

「さて、あと10分ぐらい休憩したら上がるべ。魔石は道中で遭遇(エンカウント)した魔物から回収って事で」

「それで構わないよ」

「わ、私も大丈夫です」

 同意を得られたところで水筒を取り出して喉を潤す。

 結局、今回は普段よりも短い時間の探索だったが、疲労も稼ぎも過去最悪な結果になってしまった。

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