「あ、どうも」
すれ違う人々に会釈をしながら歩を進める。
人が五人も並べなかった通路は、今や十人が手を広げても余裕のある幅だ。
「あ、出口です!」
土をくり抜いたような道は、今や石レンガが規則正しく敷き詰められている。
薄暗かった洞内は、外からの日差しに徐々に明るくなる。
「やっと抜けたか」
眩い光に目を瞬かせ、異界を出れば、そこは広場。
見渡せば数多くの人々に混雑していた。
様々な衣服を身に纏う人々に共通する点がある。
誰一人として武器を持ってない者が居ない。
なぜなら、
「チュートリアルだからって油断は出来ないよな」
「練習だから死んでも病院送りになるけれど、本物のダンジョンはそんな事ないもんね」
「このダンジョンに慣れ過ぎない様に気を付けないといけませんね」
これから挑戦する人の邪魔にならないよう、出入り口から離れればそれは見える。
入口の上に“チュートリアルダンジョン”と看板が掛けられている。
何故かファンシーな絵が描かれているが、製作者の遊び心か。
「ところで、俺達はこのまま休むけど、アンタはこれからどうするんだ?」
緊張が解けたせいか、重くなった体を解しながら確かめる。
「えっと? どうするとは?」
「このまま連中とパーティを組むのか、それとも別のメンバーを探すか? って事」
質問をよく理解していない少女に空が意図を噛み砕く。
「もう“チュートリアルダンジョン”制覇のノルマ期限まで、もう一ヶ月切っているぞ? 大抵のパーティは役割分担が決まりつつあるだろうし、どこかのパーティに移籍を考えるのならもうギリギリになるぞ」
人が増えれば手は増える。
だがその分、役割分担をキッチリ決めなければ、足を引っ張り合う事になりかねない。
ノルマの期限は既に当初の半分を切った。
各パーティが、それぞれ集めた情報を精査し、攻略に向けて本腰を入れ始めるだろう。
そうなってしまうと、連携の習熟等で新人の参入は難しくなる。
「他人目線だけど、あの連中とパーティを組むのは止めといた方が良いぞ?」
「あの連中、貴女の事厭らしい目で見ていたもんね。気弱そうだし、何か有ったら責任を全部擦り付けて良い様に扱われるのがオチだと思うよ」
少なくとも宝箱から出たアイテムを身内で奪い合うような連中だ。
折角、少女が解除したであろう“魔物寄せの罠”を起動し、他の連中を蹴落とそうとまで考える者まで居る始末。
おかげで、たまたま同じ場所に鉢合わせただけなのに、延々と寄せられる魔物の群れを相手する嵌めになった。
他の連中? 餌になって病院送りだよ。
「魔術刻印付きの鉄剣が宝箱から出たんだっけ? 確かにSSRクラスの大当たりだけど、誰の物か揉めに揉めた挙句魔物の海の中。回収は出来ずにダンジョンに吸収される結果とか、今日日コントでも聞かねぇよ」
魔術刻印とは、そのものが力を持つ刻印。
自動で効果が発揮される物もあれば、魔力を流す事で魔術を発動する事も出来る。
今回刻まれていたのは、数打ちの鉄剣とはいえ、売れば一般家庭の半年分の利益は得られる。
だからといって、魔物を利用しようとしてまで手に入れようとするのは、頭がおかしいとしか言いようがない。
「それは……私としても今回の件でパーティを抜けたいとは思っています。ですが、こんな落ちこぼれの忍者を受け入れてくれるような人たちなんて」
どこか泣きそうな表情になるのは、自信の無力さを知っているからか。
「
俯き、悔しげに拳を握る。
彼女の足元に増える水痕は雨ではない。
暫しの沈黙、それを破るのは一人の少年。
「だったら、俺達と行こうぜ。前衛2人じゃバランスが悪くてさ。後衛か遊撃を募集してた所だ。アンタさえ良ければどうだ?」
「……え?」
「私も賛成。罠への警戒って疲れるからね。漢探知と漢解除をしないだけでも楽……って誰が漢か!」
「グロンギの再生能力凄いですね」
「それほどでもない……って、痛いものは普通に痛いんだけど?」
“チュートリアルダンジョン”はその名の通り練習用だ。
故に罠も悪辣なものや致命的なものは存在しない。
グロンギの強靭な肉体と優れた再生能力は、それらの罠を正面から粉砕できるが、やはり痛いものは痛い。
「と、いうわけで俺達は大歓迎なんだが」
「その……私なんかで良いんですか?」
「アンタだからこそだ。努力を怠っていないってのは、ダンジョンの中での援護や、その肉刺だらけの手を見れば分かるさ」
魔物の群れと応戦していた時、彼女の援護は的確なものだった。
敵味方全体の立ち位置を把握し、不利な状況にならないよう魔物の牽制をしてくれていた。
彼女の援護が無ければ、被害は今と比べ物にならない事になっていた、と胸を張って言える。
「チャクラコントロールはノルマ達成してからでも遅くは無いし、何より美人だしな」
「ふぇっ! わ、私がですか!?」
忍装束で目立たないが、出る所は出ているスタイルだ。
素顔も今はオドオドとした雰囲気のせいで暗いが、ニコニコしていれば癒されるであろう整った顔立ちだ。
「あ、ちょっとゴメン。ちょっと今鳥肌立った」
「何でや!? 素直に感想を言っただけやろ!?」
「いやぁ、キザなセリフが全く似合ってなくて」
空は身を暖めるように腕を擦る。
そんな2人のやり取りに少女は目を丸めると。
「ぷっ、あははは!」
人目を憚らず笑い出した。
「やっぱり、笑える程似合ってなかったよね」
「ちょっと俺への評価酷くない? ――っと、それで答えはどうかな?」
手を差し出すと、答えるように少女も握り返してきた。
「はい! お願いします!」
これから長い付き合いになるであろう仲間が増えることとなった。
「これにて一件落着だね。……そういえば名前を聞いてなかったね」
「あ、そういえばそうだったな」
初対面の時は、魔物の相手でそれ所ではなかったし、その後は何だかんだで聞き出す切っ掛けが無かった。
「あはは、そうでしたね。それじゃあ改めまして、“
そう言って微笑む彼女は、花が咲いたように綺麗だった。