八百万な、この世界で   作:水混汁

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ダンジョン攻略作戦会議(会議するとは言ってない)

 ここは、とあるカフェテラス。

 お洒落な雰囲気でありながら、冒険者達が気軽に利用できるのが売りのカフェだ。

 切った張ったの世界に生きる女性冒険者は、自然と過ごしていても迫力があるらしく、一般人向けのお店には入り辛いという事がある。

 たとえ、武器を携帯せずとも、無意識の圧に怯えられる事があり、一人前の冒険者の通過儀礼とすら言われる。

 結果、入店自体に制限は無いが、お互いへの配慮が女性冒険者からお洒落なお店を遠ざけた。

 なので、こうして冒険者向けという店は、女性冒険者達の憩いの場になっている。

 博のパーティメンバーも例外ではなく、強い希望もあって、攻略会議の場を設ける事になった。

「さて、これより“チュートリアルダンジョン”の本格的攻略に向けての会議……と行きたいところだったが」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「いや、咲は悪くないって。あの性根が腐った連中が全面的に悪いから」

 折角の紅茶も可愛らしいケーキも、落ち着いて味わう事ができない。

 何故なら、

「お前、何勝手にパーティ抜けてるんだよ!」

「貴重な盗賊技能っ……! パーティの安全を守る重大な立場……! 勝手に抜けるのは許されないっ……!」

「ただでさえ、入院費用が掛かったんだぞ! これから少しでも宝箱を開けなきゃ、俺達は明日にでも餓死しちゃうよ!」

「アンタ修行した“忍者”なんだろ!? だったら弱い僕達を守るのが筋の筈! 一般人がダンジョンを攻略できるように手助けするのは、持つべき者の義務でしょ!?」

 テラスまで踏み込んできたかと思えば、一方的な事情ばかりをぶつけてくる男たち。

 彼らは先日、魔物の群れに食い散らかされて病院送りになった連中だ。

 その下卑た視線を隠すことなく、女性陣を舐め回すように眺めている。

「何だろう……この福本作品のモブ感。自分勝手なところがそっくりだわ」

「あうぅ……」

「汎用職業を貰っておきながら、戦いも碌にしないで宝箱で稼ぐだけって……攻略する気あるの?」

 呆れかえる3人と対象に彼らはヒートアップする。

「大体、何だその連中は!? たった2人で攻略する気か? 無理に決まってる!」

「数は力……! 2人よりも4人……! 戦力は倍は違うっ……!」

「そ、そうだよ! そんな頼りない男より僕達の方がマシだよ! そこの彼女もそう思わないか!?」

 身勝手な事を口々に話す4人。

 大声で主張するせいか、周囲には野次馬が出来ている。

 が、本人達は主張に夢中で気付いていないようだ。

「よくもまぁ、初対面の相手にここまで言えるよな」

 仲間ではなく、自分の悪口を言われるのはまだ我慢できる。

 だからといって聞き続ける趣味も無いが。

「オイ見ろよ! アイツ、俺達と同じ汎用職業の“戦士”だ! 攻略の為に彼女を騙したんだな!?」

「圧倒的っ……! 圧倒的な差っ……! 同職なら1人より4人……! 戦力の差は自明の理っ……!」

「そんなヒョロヒョロした体で戦えるのか? 俺達の方がまだ戦えるんじゃないか?」

「彼女達を利用して、ダンジョンを攻略しようとしているんだな!? なんて卑怯な奴なんだ!?」

「……いい加減鬱陶しくなってきたな」

 このままでは落ち着けないし、残念だが場所を変える事を提案しようとすると。

「……今、何て言いました?」

 咲の普段の弱気が、どこかへ行っているのはどういう事か。

 先ほどまでの申し訳なさでオドオドしていた彼女の表情は、無になっていた。

 目が完全に座った姿は、まるで人形のような畏怖がある。

 彼女の内側で何かの感情が荒れ狂っているのは分かる。

 だが、4人はそんな彼女の異変に気付いた様子は無い。

 自分達の優位性や正当性などを口にするだけだ。

 嫌な予感がしたため、咲を宥めようとするが、

「ごめんなさい博さん。彼らがここまで増長したのは私のせいです。弱者だの、義務だのそんな言葉に惑わされ、良い様に使われていたのが悪いんです。博さんが誘ってくれなければ、私は彼らと退学する事になっていたでしょう」

 そう言いながら徐に懐から取り出すのは札。

 四方へ円を描くように陣。

 そして中央に記された“爆”の一文字。

 ……起爆札だコレ。

 簡単に説明すると札の形をした爆弾だ。

「うぉーい!? それは駄目だって! あたり一面吹き飛ばすつもりか!?」

「大丈夫です。狭いダンジョン内で使用できるよう威力を弱めた物ですから。精々が四肢を吹き飛ばす程度ですよ」

「どこも大丈夫じゃない!?」

 回復魔術が存在するこの世界では、大抵の怪我は治療可能とはいえ四肢欠損は普通にやり過ぎだ。

「俺達はともかく、“忍者”が騒ぎを起こしたら“ニンジャスレイヤー”がやって来るぞ!」

「確かにそれは不味いですね」

 “スレイヤー”。

 それは国家公務員の役職の一つ。

 汎用職業であるならば、端末である腕時計で管理されているが、その身に宿る固有職業の管理は難しい。

 その中でも暗殺技術と忍術を得意とする“忍者”は、その気になれば犯罪を起こし放題だ。

 故に、一般人には警察、軍には憲兵といった秩序を保つための職が存在するように、“忍者”には“ニンジャスレイヤー”という専門の職業が存在する。

 “スレイヤー”と名が着くものは、その前に指名する対象に対して特攻能力を得る。

 他に有名なのは“ゴブリンスレイヤー”か。

 かの職業持ちが各地に配置されてから、ゴブリンの被害が激減したという。

 対処法が流布される事によって、冒険者が少ない地域でも被害を抑えれるようになった功績は大きい。

 国の内外に対し、“スレイヤー”という存在は抑止力となっているのだ。

「爆発四散するのはゴメンですね」

 “ニンジャスレイヤー”という存在は、“忍者”にとっては死神と同意語であった。

 罪を犯した“忍者”を処刑する。

 そこに慈悲は無い。

「なら――」

「まぁ、殺しさえしなければ、相手と同じ四肢の爆散の罰で済むでしょう。安心してください、優秀な治療職の友人が居るのでダンジョン攻略に支障はありませんから大丈夫です」

「待って!? そういう覚悟を決めるのはこういった場面じゃないから!!」

 自分ひとりでは、止めるのが難しいと空に助けを求めるが、

「自分の命を張る事も出来ない意気地無しが、よくも博を馬鹿にしたね?」

 なんか、怒りがオーラとして視覚化できるんですが。

 空が怒るのは分かる。

 戦友を侮辱される事は、戦士としての誇りに関わるからだ。

 ただ、今にも人を殺しそうな、その殺気バリバリの目つきは何だ。

「未熟な彼らには戦いというものを教えてあげた方が良いよね?」

 彼らの死角になる位置で腕を異形化するのは、殺意が垣間見えるようで怖い。

「えっと、空は何をするつもりだ?」

「ん? ちょっと一部分を磨り潰すだけだよ? 大丈夫、すぐ終る」

「おっと、ここにも大丈夫じゃないのを一名発見」

 腹が立つ相手だが、先に手を出してしまった方がペナルティを受ける。

 彼らもそれを知っているのか、いないのか、口だけで行動には移さない。

「俺は気にしてないから2人とも落ち着け! 今ここで騒ぎを起こしたら不味いって!」

 本来なら、今日中に情報を纏め、数日中には攻略に乗り出す予定だったのだ。

 残り少ない時間をこんな連中に使うのは無駄以外の何者でもない。

 2人を宥めるために立ち上がる。

 一時的にでもこの場を収めるために、彼らの前に立ちはだかる

「あのですね。ここは他の人も居ますし、また後日話し合いの場を持つ形でここは一つ収めませんか?」

 何日後とは指定しないが。

「――っ! スカしてんじゃねぇぞ! 彼女達に寄生している男――ガッ!?」

 だが、無難に収めようとするその行動が彼らの癇に触ったようだ。

「あ、やっべ」

 反射的に鳩尾に打ち込んでしまった。

「お前っ!? 何のつもりだ!?」

 嗚咽に蹲る男の仲間が気勢を上げる。

「違うんです。汎用職の常時発動(パッシブ)技能(スキル)のせいです」

 悪意を持つ攻撃に自動で反撃する汎用職の技能のせいなんだ。

 顔を近づけてくる攻撃(・・)に対しての自動防御なんだ。

「ゲホッゴホッ……。こ、こいつっ! 暴力に訴えるつもりだな!?」

「チガウ、常時発動(パッシブ)技能(スキル)暴発(ボウハツ)ノセイ」

 決して、この苛立ちをぶつけたわけではない。

 自動で発動してしまう技能が悪いのだ。つまり、この汎用職を配布した国が悪い。

「……博は聖人君子じゃないからね、流石に腹に据えかねたってところか」

「……むぅ、博さん自信が手を出すなら私達が出を出すわけにはいかないですね」

 後ろで仲間が何か言っているが、これは悲しい事故以外の何者でもない、イイネ?

「か、囲め! 周りを囲むんだ!」

「流石にそこまでされると、俺としても抵抗しない訳にはいかないな」

 腰の剣に手をやる。

 刃を抜きはしない、鞘ごと引き抜けるように止め具に手を掛けるだけだ。

 勢い余って骨が折れちゃったとしても仕様がないよね。

「こ、こいつぅ……っ!」

 敵意を向けて尚、動揺すら見せない事が彼らの神経を逆撫でする。

 顔を赤くした男達の中心で、彼は呼吸を整える。

「何時でもどうぞ? ただ、無傷で済むとは思うなよ?」

 歯を見せて威嚇する博に、彼らは一瞬たじろぐが。

「お、俺達と同じ“戦士”なんだ。4人で囲めば勝てない訳がない!」

「そ、そうだ! 俺達と同じ汎用職業なんだ! 使える技能は同じなんだ」

「ああ! それに汎用職業を貰ったのは同時期! 経験だって違いはない!」

「余裕っ……! 人数的有利……! 負ける筈がないっ……!」

 一人の鼓舞に、他のメンバーもやる気を出す。

 だが、鼓舞をした当の本人が一番距離を取っているのはどうなのか。

 多分、他のメンバーが弱らせるまで、あまり手を出さない心算なのだろう。

 というか、全員が誰かが手を出すのを待っているのは何なのだ。

「来ないなら、こっちから行くぞ?」

 先手を打つべきかと、鞘を引き抜こうとしたその時。

 それはやって来た。

「はいストーォップ」

 気だるげな声を上げる、それは男。

「何だぁ? 今回の新入生候補は皆血気盛んなのか? どいつもこいつも元気にハシャギやがって……。監督官の仕事を増やすのは止めてくれや」

 凝った肩を解すかのように揉む姿は、だらしないおっさんにしかみえなかった。

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