八百万な、この世界で   作:水混汁

8 / 17
誤字修正をしています。


深淵にて待ち構える者

 扉。

 そう判断するには、見上げる程に大きく、押し潰されそうなほどに重厚だ。

 表面に刻まれる精緻なレリーフは見事の一言。

 芸術として見るのなら、中々の力作と言えよう。

 しかし、それは飾りではなく“陣”。

 侵入者に対する最後の警告だ。

 そして、この先へ進む者へ撃滅の鉄槌を下す者への呼び鈴でもあった。

 ここが最奥、彼らはダンジョンという深淵の最深部に辿り着いたのだ。

「準備、良し! 気力体力、共に良し! さあボス戦だ!」

「ゴールも目前ゆえに中々気合が入っていますね」

「いや、あれはただ単に寝起きを見られた恥ずかしさからだね」

「黙らっしぇ!」

 思わず叫ぶが、ニヤニヤと煽り返される。

 追求したいが、相手は腐っても幼馴染。

 言いたい事を分かった上で、更に煽り返されるだろう。

 自分が逆の立場なら確実にやるからだ。

「――オホンッ。えー、これからボス戦という事で、対処法の再確認といこうか」

「あ、はい。この“チュートリアルダンジョン”最深部にて、ダンジョンコアを守護する存在。通称守護者(ガーディアン)は、基本ランダムで出現します。抽選判定は扉の開放時に行われ、出現する守護者の強さはピンからキリで、且つその特徴は解放した者の職業で決まります」

「つまり、強敵に当たらないように祈るって事しかないじゃない」

 散々苦労して辿り着いたボスが運に左右されるなど、脱力どころの話ではない。

「一応、弱点は体の何処かにある核となる魔石を砕くか抜き取る事。魔石は心臓であり、存在を繋ぎとめる楔でもある。普通に殺す事も出来るけど、核を攻撃した方が圧倒的に楽だし早いしな。でも、無傷で抜き取れたら莫大な資産に化けるぞ? この練習用ダンジョンだとしてもな」

「なるほどね。でも、私達の構成だと短期決戦が強みだからね。誰が相手でもさっさと砕いて終わりにするしかないでしょ?」

 ここに来て人材不足を痛感する。

 大抵のパーティは5人から6人で編成している。

 半分の人数で潜るなど、メンバーに問題があるか、コミュニケーションに難がある者か。

 このパーティがどちらかは言うまでもない。

「ま、それ以外に俺達に選択肢は無いもんな。……で、誰が開ける?」

「博でしょ。“戦士”だし」

「博さんが開けてください。私達の中では“戦士”系列の方が対処しやすいですし」

「ですよね」

 “忍者”の特徴を持った守護者など想像もしたくない。

 自分達が搦め手に弱い事は4階にて散々体験してきたのだ。

 “グロンギ”は戦士に該当するのだろうが、それ以外の不安要素が強く遠慮したい。

 なので、“戦士”という直球の職業が適任と言えるが。

「だけどなー、これって扉を開けた人間の記憶を読み取って、職業に合わせた強敵を作り出すんだろ? ちょっと嫌な予感がするんだけど……」

「あー、よく分からない知識を一杯持っているもんね。だけど、練習用だし有る程度強い存在は弾かれるんじゃない?」

「はい、その点は学園の公表している“チュートリアルダンジョン”の情報に乗っているので間違いはないと思います」

 2人からフォローしてもらうが、それでも嫌な予感がするのは何故か。

 だが、ここでモタモタしていても埒が開かない。

「……それじゃ開けるぞ」

 少なくとも開けた時点で襲われる事はない。

 覗き込んで先にどんな存在か知る事はできる。

 扉の取っ手に手を掛け、力を入れる。

「さーて、どんな相手になるのかなっと」

 軋みと僅かな砂埃を立て、扉は開く。

 扉同士の隙間は徐々に開き、遂には中を窺えるまでとなる。

 張り付くように中を覗き込み。

「…………」

 その扉を閉じた。

 完全に扉を閉じ、2人に振り返る。

 その表情はどこか清々しいものすらあった。

「なぁ、ボスチェンジまで待たない?」

「あの、お言葉ですが、ボスチェンジの権利は一週間後になってしまうのですが……」

「それまで待っていられる状況じゃないでしょ。それで何が居たの? まさかゴブリンの上位種じゃなくてオーガまで行っちゃった感じ?」

「オーガですと、強靭な肉体がそのまま鎧になってしまいますから、生半可な攻撃は通用しませんね。怪力に物を言わせた攻撃は並みの職業じゃ防ぎきれないのも厄介ですね」

 空の想像から、対処法を浮かべる咲。

 だが、博は力なく首を振る。

「違うんだ――」

 どこか申し訳なさそうに彼は告げる。

「――相手は騎士。“深淵歩き”の“アルトリウス”の模倣(コピー)だ」

 その名前が意味する事を理解できる者は、博以外に居なかった。

 

          ○

 

 静寂のみが支配する広間。

 そこは闘技場。

 風化し、人の痕すら消え去った場所。

 その中央にそれは居た。

 それはとある人間の記憶から作られた模倣者。

 それに嘗ての過去は無く、これからの未来も無い。

 自身が何者かも知らず、狂おしい程に求めている何かすら分からない。

 利き腕の左腕は何故か潰れて動かない。

 身を守る全身鎧(フルプレート)は健在でありながらも、その嘗ての輝きは見る影も無い。

 鎧に纏う群青色のマントは大半が千切れ、その残骸がしがみつくのみ。

 無事である右腕に担ぐ身の丈と同等の大剣は、尋常ならざる存在との契約によってその刃をくすませている。

「u――」

 記憶に存在しない嘗てに比べれば圧倒的に足りない、しかし何が足りないのかも分からない。

 故に騎士は休む。

 大剣を担ぎ、膝を着いてその時を待つ。

 頭に浮かぶ疑問、疑問、疑問!

 その答えが遠からず目の前に現れる事だけは、狂気に飲まれた頭に刻まれた真実だった。 

「“深淵歩き”に“狼騎士”ねぇ。聞いた事も無い異名だけど……成る程、只者じゃない事は確かか。狂気に飲まれていながら、この意思の強さ。これ程の戦士と戦えるなんて誉れだね」

「半信半疑でしたが、こうして目にすると相当な力量が窺えます。……利き腕が潰れていると言っても、油断は出来ない相手ですね」

 辺りに響く軋む音。

 それは扉が開かれた証。

 見れば、3人の子供。

 それこそが、自身の求めていた答えだった。

「a――!!」

 上げるのは叫声。

 今の全力を持って、戦う事。

 それが、それだけが自身がここに居る存在理由だ。

 ならば、全力を持ってそれを為そう。

「――ッ!!」

「散開しろ!」

 その大剣を持ってしても届かない彼我の距離は、その跳躍一つで無に変わった。

 

          ○

 

 相対するは、見上げる背丈の騎士。

 自分達の身長の2倍近くはある。

 巨人の血が混じっているのではという説もあるが、定かではない。

 彼は“DARK SOULS”というゲームの中でも人気の高いキャラクターだ。

 初期はその逸話という設定でしか登場していなかったが、追加コンテンツ(DLC)によってボスの一人として相対することになる。

 その人気ゆえに、親友であり従者である灰色の大狼と共にフィギュア化した程だ。

「全く、ゲームの中でも強敵だってのにこうして戦う破目になるとは……っとぉ!!」

 それは画面越しに何度も見た動作。

 咄嗟に身を引けば、大剣が眼前を切り抜ける。

 響く風切り音は、旋風というより暴風。

 体格に物を言わせ、その身の丈と同等の大剣を振り回す。

 人の技術による鋭い剣閃と野獣の如き暴威。

 2つが入り乱れる動きに3人は翻弄されていた。

「――!!」

「危ねぇっ!?」

 大剣を叩きつける大振りな動き。

 超人的膂力を持ってしても、叩き付けた瞬間に隙はできてしまう。

「そこぉ!!」

 見逃さず、空は異形と化した腕を叩き込む。

「――――」

 確実に入ったと思われる一撃は、何も無い空間を過ぎるだけだった。

「な――っ!?」

 見れば、地を転がり、距離を開けられる。

「しまっ――」

 振り抜いた体制の空と転がり終えた騎士。

 先に体制を立て直したのは騎士だ。

 空と騎士の立場が入れ替わる。

 騎士は今まさに剣を振り上げんと力を籠める。

「Gaッ!?」

 兜の視界を塞ぐかのようにクナイが突き刺さる。

 視界確保用のスリットに突き立つが、その刃は中まで届かない。

 頭の一振りで抜け落ちてしまうが、空が体制を立て直す時間としては十分だ。

「聞いてはいましたが、全身鎧であれだけ軽快に動き回れるとは……」

 隙を見てクナイを飛ばすが、全身鎧故に牽制にしかならない。

 だが、威力はあるのか、一本一本が甲高い打撃音を奏でる。

「あの装備で軽ローリングだからなぁ。どれだけ持久力が高いんだか。“スラッシュ”ッ!」

 博が振るうのは、騎士の大剣と比べれば、遥かに小さく脆い鉄剣だ。

 だが、“戦士”の技能による輝きが、その強靭性を引き上げる。

 呪われた大剣と切り結べる程に。

「ぐぅ――がっ!!」

 切り結ぶ刃に火花が散る。

 対等に切り結べた時間は刹那。

 “職業”による身体強化を持ってしても、体格差による不利を補えない。

 それでも激しく回る視界の中、彼は笑う。

「Gaッ!?」

 その巨体が仰け反る。

 たたらを踏んで振り向けば、腕を振り抜く少女。

 打ち抜いた勢いそのままに、飛び上がる。

「まだまだぁっ!!」

 振り上げた異形の脚は、騎士の顔面を捉える。

「……ッ」

 それは今までで最高の一撃。

 快音と共に打ち込まれた衝撃は、兜の中身を強く揺さぶる。

 模倣でありながらも人体の構造は一緒だったのか、軽くふらついた後に力なく地面に倒れこむ。

「ぃやったぁ!」

「粘ってやっと一撃か。模倣にしては再現度高すぎない?」

「脳震盪を起こしたようですね。今の内に核を特定できれば……っ!?」

 全員が距離を取って警戒する。

「o……ッ!」

 その異変は顕著だった。

 地に倒れ臥す騎士を包み込むように現れたのは闇。

 全てを飲み込むような暗いそれは、

「げっ、“深淵纏い”!? 想定はしてたけど深淵まで再現するのかよ!?」

 噴出す闇は深淵の魔物との契約によるもの。

 それはゲームに置いても、自身の攻撃力を増加させる強化技だ。

「うぇっ!? それって博が言っていた強化魔術でしょ? 素の状態であれだけ強いのに!?」

 深淵を纏う最中、頭に攻撃するか一定のダメージで阻止する事ができた。

 咲はその情報を事前に伝え聞いていたため即座に対応する。

「起爆札で阻止します!」

 空気を切り裂くように札が飛ぶ。

 一直線に翔ける札は、纏う深淵をすり抜け鎧に張り付く。

 そのタイミングで印を結び、その封を解く。

「“解”!」

 直後、音と風が辺りを蹂躙する。

 巻き上がる砂埃が騎士の姿を隠す。

「……どうなるか」

 誰とも知れず呟く。

 その答えは直ぐに知る。

「Guo……」

 砂煙から現れる巨躯。

 鎧の一部についた焦げ目は、起爆札によるもの。

 しかし、鎧自体に傷は無い。

「Ga――ッ!!」

 騎士が叫ぶ。

 それは怒りか屈辱か、それとも歓喜か。

 その荒ぶる感情に呼応する様に巻き上がるのは深淵。

「……止められなかったか」

 大剣を担ぐその威容は、先と比べ物にはならない。

「これは……第2回戦ってところかな?」

 先に動いたのは騎士だった。

 

          ○

 

 戦いは互角というにはやや劣勢。

 隙を見つけては騎士に有効打を与えられているが、ダメージレースは騎士が優勢だ。

 行動自体はゲームとほぼ同じため、回避は出来ているが、完全ではない。

 咲から手渡される回復ポーションの数は既に十を越えている。

 短時間の連続服用による副作用は無いが、腹が膨れてきている。

 あと3本服用できれば御の字か。

「あの剣技ですら脅威なのに“深淵撒き”まで追加されるとはね。これじゃ下手に距離も開けられない」

「ああ、“深淵撒き”に関しては使ってこなかったから、深淵の再現はできないと思っていたんだがな。まさか強化後専用技とはな」

 潰れた左腕を振り回し、深淵を撒き散らす。

 ゲームではすぐ傍に深淵を散らす程度だったが、今は放物線を描いて遠くまで飛ばしてくる。

「被弾して呪われたり侵食されたりする事はないけれど、吹き飛ばされるのが厄介だよまったく」

 深淵によって正気を呑まれる点までは再現されてはいないが、ゲームでの性能はキッチリと再現されている。

「耐えるには強靭度を高める必要があるんだけど、元ネタ的にやっぱり重装甲にするしかないのかね」

「もう! ブツブツ言ってないで何か良い案は無いの? このままだとジリ貧で病院送りになるんだけれど?」

 “深淵纏い”を行ってから、全ての行動に深淵が纏わりついている。

 動き自体は変わらないが、一撃の重さは先と比べ物にならない。

「正直これといった弱点が無いんだよな。戦闘前に言った攻撃直後の隙を狙うぐら、いっ!?」

 会話は突き出された刃先によって中断される。

「……正統派に強いって事ね。期限の短縮で奥の手のボスチェンジができないのがネックだよ。撤退も難しいしね」

 ボスチェンジ。

 それは最深部に居座る存在の変更。

 一度確定したボスは一週間は固定される。

 だが言い換えると一週間を過ぎれば、違うボスへの変更ができる。

 ランダム故に、同じ存在が生まれる事もあるが、弱い存在が引ければ儲けものだ。

 その逆もありえるので、あまり良い手とは言えないが。

「今撤退しても、強化前の状態から再戦ですし、それに期限までの時間制限も付く事になります。期限を気にして戦うより、余裕のある今の内に叩いた方が良いと思います」

 現在の攻略は期限まで余裕を持ってのもの。

 しかし、次の攻略を予定するのなら、期限まで残り2日あれば良い方だろう。

 今回の攻略時間を考慮すると、最深部に辿り着くのは期限ギリギリになる。

「流石にタイムアタックは勘弁だな」

 今の戦闘だって、そこそこ長い時間が経っている。

 下手をすれば、戦闘中にタイムオーバーもありえる。

 そんな緊張感は要らない。

「というか戦うのは一度で十分だ――っ!」

 叫びながらその場を飛び退く。

 直後、その場は跳躍してきた騎士によって割り砕かれる。

「――これ以上戦闘が長引けば不利になるのは私達です。ここで勝負を仕掛けませんか?」

 クナイや手裏剣などの暗器で牽制しながら、咲が提案する。

「といってもどうする? 並みの攻撃じゃ通用しないぞ?」

 あの鎧を貫通する攻撃力は“ドリームソード”しかない。

 空による打撃と、咲の起爆札が現時点でのダメージソースだ。

 剣によるダメージは鎧を多少凹ませたぐらいだ。

「私には一つだけ使える術があります。ただ、コントロールできないため、発動後はチャクラ不足で行動不能になりますが、“ドリームソード”を叩き込める隙は作れる筈です」

 チャクラは精神エネルギーと身体エネルギーを練り上げたもの。

 大幅に失うと行動不能に陥り、最悪死に至る。

 チャクラコントロールが不得手な彼女にとって、文字通りの最後の手段であろう。

「確かにアレなら鎧を貫通して魔石を砕けるだろうけど、溜めが必要になる。その時間を作る事が――」

「なら、私の出番だね」

 深淵に吹き飛ばされ、近くに着地した空が言う。

「咲ちゃんと同じで行動不能になるけれど、溜める時間ぐらいは稼げるよ」

「……失敗すれば文字通り次は無いぞ?」

 両者の提案は、共に身体へ重い負担を強いるもの。

 失敗し、病院送りになっても回復に一週間近くは掛かる。

 それは一か八かの賭け。

 通れば勝ちで、負ければ全てが終わりだ。

「だからってやらない理由にはならないよね?」

 挑発するかのように歯を剥きだして笑う空。

「全ての手札を切らなければ勝てない相手ですし、ここで足を止める気はありませんから」

 同意するように微笑む咲。

 2人の覚悟に、彼は応える。

「分かったよ。ただ、誰が失敗しても恨みっこ無しだからな」

「当然」

「必ず成し遂げましょう」

 頷き散開する。

 遅れて突撃してきた騎士に3人は牙を向いた。

 

          ○

 

「咲ちゃん、予備の鉄剣を頂戴!」

「わかりました!」

 巻物から召喚した鉄剣を空へ投げ渡す。

 鋭い軌道を描く鉄剣を、すれ違う様にして掴み取る。

「行くよっ……“モーフィングパワー”!」

 その宣言と共に鉄剣が変化する。

 煌めく銀の刃は、鈍くくすんだ色に変色する。

 刃が全て変色した事を確認すると、防戦一方だった今までと一転、攻勢に出た。

「さーてとっ!」

 騎士は博に意識を向けており、その背中はがら空きだ。

「せやぁっ!!」

「――ッ」

 振り下ろす刃は背に回された大剣に防がれる。

 それはゲームでは有りえない、死線を潜り抜けた者のみが身に着ける技量だ。

「――?」

 弾き飛ばそうと大剣に力を籠めて、騎士は気付く。

 素手で戦っていた空が武器を持っている事に。

「…………」

 技量を確かめるように、一合、二合と剣を結ぶ。

「くっ――たぁ!」

 その剣技は拙いながらも、互角に切り結んでいる。

 “職業”の技能の補正が無い並みの剣では、たった一度でも切り結ぶ事は不可能だ。

 だが、目の前の空が振るう鈍色の刃は、騎士の大剣も、空自身の腕力にも耐えていた。

「――ッ!」

 全力を持って剣を振るう。

 腕力は互角であるが、体格差による不利は避けられなかった。

 遠くへ打ち飛ばした空から博へ意識を向ける。

 それは勘。

 ただ狂うだけの意識が、この場で一番危険な者から排除しようとした。

 大剣を構え、飛び込もうとする。

「余所見している場合かな!?」

 が、空がそれを遮る。

 今しがた遠くへと弾かれたが、その脚力を持って戻ってきたのだ。

「――ッ!!」

 振るわれる刃を大剣で受け流す。

 素手ならともかく、剣を持った今、その一撃は鎧では防げない。

 快音が何度も響き、火花が咲き乱れる。

 見上げる程の巨躯に挑む姿はまるで英雄譚の主人公の様だ。

「ははっ……やっぱり私じゃ越えられないか」

 切り結んだ回数が十は越えたあたりで剣に罅が入る。

「が――はっ」

 掬い上げるような一撃、それが止めとなった。

 限界を迎えた剣は、自壊し衝撃を拡散する事でその使用者を守った。

 輝きを取り戻す破片と共に宙を舞う中、彼女は笑う。

「注文通り時間は稼いだ。後は頼んだよ」

「ありがとうございます。後は任せてください」

 今まで距離をとっていた咲が騎士へと飛び込む。

 迎撃に振るわれた刃を身を僅かに傾ける事で避ける。

「私達は貴方を倒して進みます」

 彼我の距離は5メートルは有る。

 騎士にとっては無にも等しいが、咲にとっては程良い距離だった。

「これが私の全力!」

 印は既に結んでいる。

 後は放つだけだ。

「“火遁・豪火球の術”!」

 深く吸い込んだ息を勢い良く吹き出す。

 チャクラが混じる息は、炎となって騎士を襲う。

 燃え盛る炎は球体を型作り、騎士を包み込む。

「G――a!」

 これには然しもの騎士も堪らず、炎から逃れようと転がり逃げた。

「ローリング直後の硬直って致命の一撃(バックスタブ)のチャンスだよな」

 その言葉と共に自身の胸から突き出る光の刃、それは騎士の敗北を示していた。

「“DARK SOULS”だとシステム的に不可能だけど、こうして実際に相対してんだ。この一撃、記念に持ってけ」

「……ッ」

 光の奔流が胸から迸る。

 天へと立ち上る光の柱が、彼らの勝利の証だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。