乗船
窓からうっすらと朝日が差し込める。
その光が俺の顔に届き目を覚まさせた。
あぁ…ついにやってきてしまった…。
絶望の朝が。
今はこのすがすがしい朝日でさえ憎らしい。
しかしそんなことよりも身体に心地よいぬくもりを感じる。
これはただ布団のぬくもりだけではないだろう…。
どこかほっとする優しいぬくもりだ。
「ユキ…」
ぽつりとつぶやき俺は妹の頭をくしゃりと撫でた。
にへらとその寝顔が気持ちよさげに歪む。
俺はそれを見て内心で苦笑した。
今から死地に赴くというやつの表情じゃないだろ、これは…。
「んっ…んん~…ふぇぇ…あしゃぁ…?」
「おう、朝だぞ」
妹はこすこすとまだ眠そうな瞼を擦りながら起き上ってきた。
ふにゃりとしたその顔はある種の興奮を誘った。
「んぁ…?おにーちゃん…?」
「そうだぞ、お兄ちゃんだぞぉ」
「えへへぇ…おにーちゃんおはよ~」
完全に寝起きでまだぽわぽわのようだ。
頭をぐらぐらと揺らしながら妹は俺に朝の挨拶をする。
正直みていて危なっかしい。
いつコテンと地に頭がつくかドキドキだ。
まぁ下はベットだから痛くもなんともないんだけど…。
「んにゅぅ…ふぁぁぁ…」
「ほら、起きろよ。それに早く朝ご飯食べないと間に合わないぞ?」
「ふぇぇ?なんでぇ?おにーちゃん今日何かあったぁ?」
オイオイ…まだ忘れてるのかよ…。
それとも忘れた方がいいのかもしれないが…。
「お前なぁ…今日は出撃の日だぞ?」
「…」
一瞬の間
そして―
「ほんとだ!」
俺の耳をつんざくほどの絶句が世界に響いた。
そして数時間後―
俺達は朝食を食べ終え現在は例の海に来ていた。
「さて…それじゃあ全員そろいましたわね?」
イリヤ一人が俺たちの前に躍り出る。
金色の髪が朝の光を浴びてキラキラと輝いて見えた。
その光はこの先の希望を表しているのかいないのか…
俺にはまだわからなかったが前者であると期待したい。
「金剛の調整は昨日のうちに終わりましたの…今すぐにでも迎えますわよ…」
これから旅立ちだというのにイリヤの言葉は弱い。
「これに乗り込めば多分もう戻れないですの…覚悟は…できてるんですわよね?」
そう言ったイリヤの肩は震えていた。
皆も彼女の言葉をききぎゅっと唇を結ぶ。
誰も口を開こうとしなかった。
重苦しい静寂が場を支配する。
「…いこう。俺たちの未来のためにさ…」
その静寂を打ち破ったのはケントだった。
彼は皆の顔を見据えてこう言い放った。
「俺達はこんなところで死ぬわけにはいかない…まだまだやらなきゃいけないことだってたくさんあるんだ!…だから、絶対に生きて帰るんだ…いいな!全員だ…全員でまたここに戻ってくるんだ!」
そして拳を天高く振り上げた。
拳は光を裂きすっと天を貫いた。
俺は…いや、俺達は無意識のうちに自らの腕で天を貫いていた。
『おう!』
世界を震わせる威勢のいいそんな掛け声とともに…。