「さぁ…出発しますの!」
船に乗り込んだ俺たちにイリヤはそう声をかけた。
ちなみにイリヤは司令室のようなところに籠っている。
なのでこの音声は船内に取り付けられたスピーカーから流されている。
「万が一のために衝撃に備えるんですのよ!」
そうしてごうごうとエンジンの稼働するらしき音が聞こえ始める。
数秒もしないうちに船体がごうんと大きく揺れた。
その瞬間大きな鉄の塊は海原を走り出した。
「うわぁ…お兄ちゃんみてみて!私たち海の上を走ってる!」
ユキははしゃぎながら船の外を指差す。
俺もつられてそこを見る。
ざぁざぁと波を切って走る船体。
太陽の光を浴びてキラキラと波の飛沫が輝く。
そして船体の横には優雅に飛ぶ一羽のうみねこ。
そんな未知の世界に俺の瞳は釘付けになっていた。
ただでさえこの磯臭さでも俺の興奮は高まっているのにこの景色もプラスされるとなると…。
俺の興奮は今最高潮に達していた。
「うわぁ…海ってこんなに広かったんだぁ…ねぇねぇお兄ちゃん!もうちょっと近寄ってみよ?」
俺は妹に手を引かれながら甲板へと。
そこはさっき感じたよりも磯風をすがすがしく感じれる。
少々激しい気もするがまぁこの際気にしない。
「う~ん…気持ちいぃ…」
めいいっぱい伸びをして風を受ける妹。
陽光を背にしてたたずむその姿はやけに幻想的だった。
ただ…風でスカートが翻りちらちらと水色の縞々が顔を覗く。
妹は気付いていないらしくぴょんぴょんと跳ね回るモノでして…
なおさらスカートが翻っていた。
「ん?お兄ちゃんどうしたの?何ずっと見てるの…?」
ユキが俺の目線を辿っていく。
そしてそれが自分のスカートの中に伸びていると気付いた瞬間かぁっと顔が紅に染まっていく。
「むぅ…お兄ちゃん…勝手にパンツ見ないで…」
俺は悪くないのにジト目で見られた…。
うぅ…ほんとに不可抗力だったのに…。
…ってそれより…
「スゲェ!海だぜ海!」
「海です!海です!広いです、青いです、でっかいですぅ!」
「私海なんて初めて見たぁ…すっごぉい!」
そう言いながら甲板の上で走り回る3バカトリオ(ケント&マリナ&ウサギ)。
そのせいで海の景色をゆっくり楽しめないし…。
「…」
ってそんなアイツらをユキは明らかに羨ましそうに見ている。
「お前…もしかして混じりたいのか?」
「え!?…そ、そんなこと…」
といいながらもちらちらとあちらを見ている。
確実に混じりたいようだ。
何かきっかけがあれば…。
と、そう思いながら観察していると突然にウサギがその場に突っ伏した。
その場にいたケント、マリナはもちろん見ていた俺もユキもそこに近づいた。
「だ、大丈夫か!?」
「う、うえぇぇ…気分悪いぃ…はきそうぅ…」
ウサギは真っ青な顔をして気分悪そうにそうつぶやいた。
「おいおいこれって…噂に聞く船酔いってやつか?」
「え!?こ、これがなの…?ってお兄ちゃん船酔いって?」
「船酔いはお舟に乗ると気持ち悪くなることです!」
「へぇ…マリナよく知ってるなぁ…」
「ケントが知らな過ぎるだけです!」
と、俺達は突然のことに大パニック。
航海技術があまり発展してい無いオシリスでは船酔いの対処法などある訳も無く…
「うえぇ…気持ち悪いよぉ…キョウヤぁ…助けてぇ…」
「お、おい!俺のとこに近づいてくるな!」
這ってまで俺に縋(すが)り付いてくるウサギ。
その姿はまるでゾンビのようだった。
「センパイ、船酔いは確か寝てればよくなるって聞いたことが…」
「ナイスだキラ!」
いつの間にか俺たちの元にやってきていたキラはそう助言した。
とにかく今はそれが真実かどうであれ試すほかなかった。
「じゃあ運ぶからな…キラ、そっち持って」
「うん…」
俺達は瀕死のウサギを抱えて持ち上げた。
ウサギは驚くほどに軽く持ち上げて運ぶのにさほど苦労はしなかった。
「うぅ…揺らさないでよぉ…」
「我慢しろっての…」
ウサギを船内に備え付けられている仮眠室に寝かせつけた後その場を後にした。
最後にちらっと見たウサギの顔はさっきよりも少し顔色がよくなっているようだった―。
―出航から約3時間がたったころだった。
それは嵐のように突然だった。
「ん?お兄ちゃんあれは何?」
「え?あれって?」
「あれだよ、あれ…向こうのお空のとこ」
俺はユキが指差したところを見る。
遥か遠い青空の先に小さな影が1つ、また1つと俺の視界にとらえた。
なんだろうと思い目を凝らしてみるも距離が遠すぎて全く見えない。
「大変ですわ!敵集ですの!ドラゴンが来ましたわ!」
スピーカーからイリヤのその声が流れると同時船体にドスンと大きな衝撃が走った。