ドガン!ドガン!カカカカッ!
そんな音が辺りを支配している。
煙のにおいと海の匂いが混ざり合い俺の頭を刺激する。
無数にいた龍はその数を格段に減らしていた。
これは勝てる。
俺はそう確信していた。
が、それはすぐに絶望へと変わった。
「お兄ちゃん、あれ…」
「あれ…?」
ユキがある一点をさした。
俺もつられてそちらを見る。
そこは雲の切れ間。
その切れ間から巨大で真っ白な龍が姿をあらわした。
光を浴びて君臨するその姿はやけに幻想的だった。
ぐおぉぉ!
と耳をつんざくような叫び声。
俺達はそれに一瞬いるんでしまう。
その一瞬が命取りだった。
その白い龍は戦艦へと急降下してきた。
そして船の表面を抉るようにシッポを払った。
バリバリと嫌な音と共に甲板がはがされていく。
それだけではなかった。
甲板にはいくつもの砲台が設置されている。
無惨にもそれは龍の尾によりそぎ落とされてしまった。
そこからは速攻だった。
攻撃手段を奪われた俺たちは一気に龍に取り囲まれてしまう。
龍は今までの恨みといわんばかりに攻撃を仕掛けてくる。
船体はもうボロボロになってしまっていた。
船に備え付けられた砲台はもう使えない、それに普通の銃じゃアイツらは撃ち落とせない…。
ここまで来て俺たちはもう終わりなのか…。
そう思った瞬間俺の頭に一つの考えが浮かんだ。
あれならできるかもしれない…。
気付けば俺は駆け出していた。
「ウサギ!」
「なにぃ…?気分悪いんだから大きい声出さないでよぉ…」
俺が来たのはウサギの部屋。
そこにこの現状を突破するカギが眠っている。
「お前の銃はどこにある?それが必要なんだ」
「銃は全部そこにある…けど何に使うの?」
「ちょっと今ヤバいからな…現状打破だよ」
「なら私が…」
「いや、やめとけ。今のお前じゃ役に立たないよ」
船酔いのやつを戦いに参加させても無駄なだけだ。
それにウサギはドラゴンにトラウマがあるらしいし…。
ウサギに頼るわけにはいかなかった。
「お、あったあった」
俺は銃の中からお目当てのそれを見つけた。
「ありがとな、これ使わせてもらうぜ」
そうしてオレはウサギの部屋を出た。
もう一度甲板に出た俺の目に映ったものは地獄絵だった。
船のところどころからは火が上がり始めている。
それに船の上にも龍が張り付いていた。
ケントたちはそれをはがすために奮闘している。
あの短い時間でここまでやられるとは…。
俺は急いでウサギから借りたそれを構えた。
ウサギのそれ、スナイパーライフルだ。
「これ凄いでしょ!と~っても遠くまで弾が飛ばせるのに威力は全く落ちないんだよ!…はぁ…早く使いたいなぁ…」
この前ウサギがこう言って自慢げに見せてきたものだ。
これなら空中の龍に届くし致命傷も与えられるはず…。
俺はそう考えてウサギからそれを借りた。
スコープを覗き照準を絞る。
が、銃自体が重く手がぶれる。
いくらいい銃を持っていても撃ち手がダメならタダの鉄の塊だ。
俺は自分の無力さにとことん絶望した。
「はぁ…それ、貸していただけます?」
突然俺に声がかけられる。
その声はマヨだった。
この前編入してきた和服少女。
正直こいつの実力は俺はまだ知らない。
そんな奴にこの希望を預けていいか不安になる。
「早く渡していただけますか?私なら絶対にイケます」
彼女の瞳には自信に満ちた輝きが灯っていた。
俺はマヨを信用することにした。
そんな輝きを見せられたら誰だってそうするはずだ。
「ありがとうございます…さてと…それじゃあパーティーを始めますわ!」
和服少女は膝を地に付けてそれを構える。
さっきの俺の構え方とは全く違う。
「こういうタイプの銃はこうやって構えるんですよ?…それでゆっくりと銃身を動かして…照準があった一瞬を狙って…撃つ!」
ズガン!と耳をつんざくような轟音と鼻をつく火薬のにおいが辺りに散らばった。
吐き出された銃弾は一直線に龍を目指した。
そしてそれは見事に着弾する。
龍は断末魔の声さえあげれずに海に落ちた。
「フフ…ドラゴンでも頭を撃てば即死ですわね…さぁ…どんどんいきますわ!」
マヨは恍惚とした表情を浮かべながら龍を打ち落としていく。
どれもこれも頭に銃弾が吸い込まれては消える。
全く寸分の狂いもなくマヨは龍を撃ちぬいていった。
スナイパー、それも超凄腕の。
あんな和服少女もこんなに豹変してしまうのかと俺は内心で苦笑してしまう。
「あと1匹!」
残るは巨大な白い龍のみ。
マヨは銃をその頭に向けて引き金を引いた。
「チェックメイトですわね…」
それは明らかに龍の頭へと吸い込まれていった。
誰もがその瞬間を見ていた。
だがおかしい。
真っ白な龍はまだ動く。
全く攻撃が聞いていないとでもいう風に。
「え?…そんなこと…有り得るのか…?」
もう一度引き金を引いたマヨ。
確かに着弾した。
が、龍はひるむわけでもなくただまっすぐに俺たちを睨んでいた。
「なんで…?なんで死なないの!」
一発、また一発と弾丸を撃ち込む。
が、それも全くの無意味。
カチャカチャと軽い音が響く。
どうやら弾切れを起こしたようだ。
「もう…無理ですわ…」
マヨはその場にぺたりとへたり込んでしまう。
手から力なく銃が落ちてカラカラと音を立てて地を転がった。
誰もが真っ白な龍を恐れの目で見ていた。
アイツを殺す術は何もない…。
真っ白な龍が大きく口を開いた。
あぁ…俺たちはもう死ぬのか…。
その口から真っ赤な炎がはかれた瞬間俺はそう思った。
だが俺はその一瞬の間に走った。
愛する人を守るために。
「ユキ!」
呆然と立ち尽くす妹を見つけそこに覆いかぶさる。
そんなことをしても無駄だとは分かっている。
でもそうでもしないといけない気がした。
妹を一人で逝かせられない。
「お兄ちゃん…」
妹の声は何も色がこもっていなかった。
ただ吐かれたそれに俺は胸を痛める。
「大丈夫だ…俺が…お兄ちゃんがずっと一緒にいるから…」
そして俺は妹の身体を壊れそうなほどぎゅっと抱きしめた。
「うん…ありがと、お兄ちゃん…大好きだよ…」
妹のその声は爆音に掻き消されて俺の耳には届かなかった…。