さて…部屋に入ったのはいいものの…
「ここは妹である私がいいと思うんだ!」
「いやいや…やっぱりモフモフしたウサギちゃんがいいと思う!」
「妹ならわたくしにも権利があると思いますわ!」
「いいや、センパイが変な気をおこさないように監視しないといけないから私が!」
『うぅ…!』
全員眼から火花を散らして睨み合う。
目を逸らしたら負け無ようで全員一歩も引かない。
「な、なぁ…仲良くじゃんけんとかで…」
『お兄ちゃん(キョウヤ・お兄様・センパイ)は黙ってて!』
全員から一気に黙れって言われた…。
俺の精神はそれでことごとく削られていく。
どうしてこいつらはこんなに険悪なムードなのか…。
理由は一つだ…。
「もう諦めたら?妹に勝てるわけないよ?…お兄ちゃんと一緒のベッドで寝れるのは妹の特権なんだからね!」
「諦める?ユキこそ諦めたら?キョウヤは妹と一緒に寝るのは恥ずかしい年齢のはずだよ?」
「何をおっしゃってるのやら…お兄様はまだまだ妹と寝たいお年頃…むしろ妹と一緒のベッドに入って間違いが起こることを望んでいるお年頃ですわ!」
「センパイってそんな事思ってたの…?それならなおさら私が一緒に寝てあげないと…センパイに間違いなんておこさせないよ!」
そう…誰が俺と一緒のベッドで寝るかだ。
この部屋に備え付けられたベッドは2つ。
元々こんな大人数で止まることを想定されてない部屋なのだろう。
ただベッドは結構な大きさで一つのベッドに二人は余裕で寝れるサイズだ。
なので二人と三人に分かれてベッドを使おうとなったのだが…。
こうして喧嘩がおこってしまったのだ…。
「一緒がいい!お兄ちゃんと一緒のベッドがいい!」
ずっとこんな調子で埒が明かない。
それに俺を巡って争われるとこちらの気がもたない。
「お前らちょっと黙れ!これ以上騒ぐと俺は床で寝るぞ!」
俺がそう一喝すると皆ぴたりと動作を止める。
物分かりだけは良いようだ…。
「それじゃこうしよう…トランプで決着をつける、それでどうだ?」
俺は得意げにポケットからトランプを取り出す。
暇をしないようにとロビーから拝借してきたのが役に立ったようだ。
ただ…こう言うかたちではあんまり使いたくなかったんだが…。
「トランプで?」
「あぁ…1位で抜けた奴が好きな奴と寝れる、それでいいな?」
「いいけど…センパイ、トランプで決めるって言ってもいっぱいゲームはあるよね?7並べとかブラックジャックとか…」
ブラックジャックって結構渋いところ突くな…。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
「勝負は…ババ抜きだ!先に3勝した奴が勝ちだ!」
数十分後…
「うぅ…ババ抜き飽きたぁ…」
「そうだな…さすがに3勝は多かったか…」
「えぇ!?ババ抜きやめちゃうの!?私まだ勝ってないのに!」
「ウサギが勝つまでやってたら日が暮れちゃうよ…」
俺達はもはやグロッキー状態だった。
初めは面白かったのだが…。
4回目ぐらいからか、相手の札を取って自分の札を取らせるルーチンワークに飽き飽きしていたのだ。
現在ユキ、キラが2勝、俺、イリヤが1勝、ウサギは全敗だ。
ウサギは顔に出るタイプらしく余裕で勝つことができる。
対してイリヤはポーカーフェイスでまったく隙がない。
ユキとキラはものすごい幸運の持ち主で引いた札は7割の確率で捨てている。
凡人程度の俺は何とか一勝もぎ取ることができたという感じだ。
「はぁ…つまんないなぁ…はい、イリヤ…イリヤ?イリヤ!」
「は、はい!」
「イリヤのターンだよ?…もしかして寝ちゃってた?」
「ね、寝てませんわ!お兄様の前で寝るなど…妹もどきの分際で…むにゃ…」
「ほら!ねむそうじゃん!絶対寝てたよね!」
「ね、寝てないったらねてないの!」
イリヤは大声で反論する。
が、眼をごしごしと擦ってまだ眠そうな顔をしてたら説得力のかけらもないぞ。
「ほら、早く引いて?」
「それでは…」
イリヤが一枚のカードに手を伸ばす。
「それはダメです。その2枚右です」
と、唐突に聞き覚えのないダンディーな声が。
俺は声の主を探すべくきょろきょろと辺りを見渡すが誰もいない。
ユキたちも探しているが見つからないようだ。
「ちょっとセバスチャン!ずるはダメですわよ」
「申し訳ございません…」
「え?イリヤ…それって…」
イリヤのゴスロリがもぞもぞと動き黒っぽい何かが飛び出してくる。
黒っぽいそれは俺たちの前に姿を現す。
サイズは30センチぐらいだろうか、とにかくかかえられるレベルだ。
モフモフのモコモコ、どうやら人形のようだ。
そいつは真っ黒な燕尾服をぴっちりと着ている。
だがきているキャラクターがまた歪だ。
羊のような馬のような悪魔のような…よくわからない生き物だ。
パッと見ると馬のような顔、だが角は羊のように丸まっている、それに背中には悪魔のような翼、シッポも絵本に出てくる悪魔のそれだった。
そいつは一歩前に出るとまるで上流貴族のようなお辞儀をする。
「どうも…わたくしイリヤお嬢様のお世話をしております…気軽にセバスチャンとでもお呼びください…」
礼儀正しいそいつに俺たちはペコリとお辞儀をするしかなかった。
「この子はわたくしが初めて操った人形ですの…どういう理由かわからないのですがこうして自分の意思で動き喋ることができるようになったのですわ」
俺達はババ抜きをいったん中断してその執事人形の話を聞いた。
「私とイリヤお嬢様は10年ほどのお付き合いをしています…」
10年、か…。
計算するとイリヤが4~6歳ぐらいの時にこいつと知り合ったってことか…。
そんな幼い時に人形を操れるようになってるなんてな…。
俺は素直に感嘆の息を漏らした。
「そういえばイリヤお嬢様…そちらの方はもしかして…キョウヤお坊ちゃまじゃないでしょうか?坊ちゃまのように強い憎悪のオーラを感じないのですが…やはりどこからどう見てもキョウヤお坊ちゃまです」
「え?」
その執事人形は俺をまじまじと見つめてうんうんとうなっている。
「お兄ちゃんを…知ってるの?」
「はい」
執事人形は強くこくりと頷いた。
どうやら間違いはないようだ。
「な、なぁ…俺のことを…もっと教えてくれないか?」
「お、お兄様!?」
「俺…記憶がないんだよ…だから昔の事とか全くわからないんだ…自分が何者だとか…俺知りたいんだよ…」
もう俺は自分が何者かわからないまま生きていたくない。
自分が誰で何をしていたのか、それをはっきりさせなければいけない…。
例え俺が何者でもいい…
とにかく自分が知りたい…
「わかりました…では…イリヤお嬢様とわたくしがキョウヤお坊ちゃまとお会いした時の話から…」
「ううん…わたくしが話しますわ…いいでしょ、セバスチャン?」
「御意…」
「じゃあ話しますわ…わたくしとお兄様が初めて会ったあの日のことから…」