終焉ペレストロイカ   作:如月ライト

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お兄様の記憶 part.2

お母様はあのあと3日間家に滞在しました。

その間ずっとお兄様のお世話ばっかり。

幼いわたくしは大好きな母を奪った敵としてみていました。

対するお兄様はずっとぼぅっとしていて何をするのも上の空、まるで心が無くなっているようでした。

そんなお兄様の姿を見ているうちにわたくしの幼いながらのお節介が生まれていました。

この子を助けてあげたい、と。

その思いはお母様がまた家を出てお兄様と二人で暮らすことになってからさらに膨れ上がり続けました。

その時からわたくしはお兄様のために手を尽くしました。

料理も作ったし絵本も一緒に読んだ、人形遊びだってした。

なのにお兄様はわたくしに全く心を開いてくれなかった。

そんなお兄様の態度に私はどうしようもない怒りと焦りが混じっていました。

早くお兄様を何とかしてあげないと…どこかにふっと消えてしまう…

そのころのお兄様にはそんな危うさがありました。

 

それはある日の夜の事でした。

お兄様はわたくしといるといつも無言でした。

なのでわたくしはお兄様の声をきいたことがありません。

しかしその日、私は初めてお兄様の声をききました。

「離れたくない…逢いたいよ…」

布団の中でぽつりとつぶやかれた言葉。

それはお兄様の寝言でした。

ですが初めて聞いたお兄様の声、言葉。

その日以来わたくしはお兄様が寝た後もずっとお兄様を観察していました。

"逢いたい…"お兄様は決まって毎日装寝言をこぼすのです。

わたくしはそれでわかりました。

この子は人のぬくもりを欲しているのだ、と。

それもわたくしではない誰か大切な人の…。

でもその誰かにわたくしがなれたら…。

そう考えたわたくしはある日の夕食後お兄様に言ったのだ。

「ねぇ…わたくしたちもう家族ですのよ?これからずっとず~っと生活していきますの。前に何があったかわかりませんが…わたくしはどこにも行きませんわ…それに家族ですから力になってあげることもできるはずですわ…」

わたくしの言葉をきいたお兄様は目を見開く。

はじめてみせたお兄様の変化。

もうひと押しだと思ったわたくしは一番の想いをこめていった。

「私はずっと離れないいい妹になりますわ、。だから…だから私の…イリの兄になって…お兄様」

数秒の沈黙。

そう言えばこの子にお兄様といったのは初めてだ。

わたくしがそんなことを考えていると…

「わ、わかった…俺が兄ちゃんになる…だから…もうお別れは絶対させない…俺から離れさせない…もう…あんなことは嫌なんだ…」

お兄様は泣きながらそう答えたのでした。

お兄様の過去がどうなっていたのか訊きたいことが山ほどあった。

この小さな体でどれだけのことを背負ってきたのかとても気になった。

だが今はその時期じゃないのは幼いわたくし自身でもわかった。

今は泣きじゃくるお兄様をぎゅっとすること、それだけがわたくしのすることだと思ったのだ。

「お兄様…お兄様…」

わたくしはお兄様の頭をなでながらゆっくりとそう繰り返す。

「う、うぅ…グス…ありがとな…イリ…」

その日からわたくしはようやく本当の兄妹になったのでした。

 

「その次の日の朝にお兄様がわたくしに作ってくれたスープの味は今でも忘れられませんわ…」

「へぇ…イリヤとセンパイにそんな過去が…」

イリヤの話に俺達一同は聞き入っていた。

「それにしても…キョウヤって小っちゃいころからシスコンだったんだね!」

「はぁ!?」

唐突にそう言ったウサギに俺は変な声をあげてしまった。

「だってキョウヤが心を開いたのって…お兄様って呼ばれたからでしょ?」

「いや、たぶんちが―」

うとは言い切れなかった。

俺の心のどこかにそんな気も…というのが浮かんでしまっていたからだ。

そう考えるとさっきの話も途端にバカっぽく聞こえる。

「いいもん!お兄ちゃんはシスコンで!シスコンじゃなかったらお兄ちゃんじゃないもん!」

「ブラコンのユキに言われても説得力ないよ?」

ウサギがニヤニヤしながらユキをからかう。

「ブラコンでもいいもん!お兄ちゃんはシスコンで私はブラコン、ほら両思いじゃない!」

「なにが両思いなの!それなら私だってキョウヤと両思いだもん!」

「へぇ?どこが?」

「ばいんばいん好きのキョウヤとキョウヤが大好きな私!ほら、立派な両思い!」

「お兄ちゃんはおっきなおっぱいより妹のちっちゃなおっぱいが好きなの!それにウサギのそれつめものでしょ?そんな幼児体型にばいんばいんはないと思うなぁ」

「ちょっと!二人とも黙ってて!私はやくイリヤとセンパイのお話聞きたいのに!うるさかったら進まないでしょ!」

珍しく怒りの感情を見せたキラに二人は小さくなって静まるしかなかった。

関係のない俺までその凄味にひるんでしまった。

それほどまでにキラの怒りはすさまじいものだった。

キラは絶対に怒らせてはならない、俺はそう胸に刻み込むのだった。

「じゃあ続きをお願いね?」

「わ、わかりましたわ…次はその数か月後から…」

 

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