それは唐突な事でした。
いつものように昼食を食べ終えてのんびりと昼寝でもしようかと思った時だった。
お兄様が急に口を開いてこういったのだ。
「俺…強くなりたいんだ…だから、イリ…手伝ってくれないか?」
その時のお兄様の目は今でも忘れられません。
力強い意志が込められていて瞳の奥には小さな灯まで見えたほどだったからだ。
「どうして…強くなりたいんですの?」
お兄様はそれに力強い声で答えた。
「俺には大事な女の子がいた…俺はその娘を助けるために強くならなきゃいけないんだ…それに…もうあの日のように惨めな思いはしたくないんだ…」
お兄様の過去…
「その女の子というのは…?」
「ゴメン…まだ心が落ち着いてないんだ…アイツの事を思い出すと頭が狂っちまいそうになるんだ…」
「そう…でしたか…」
この人はどれだけ深い過去を背負っているのか…。
わたくしはとても気になったがこれ以上詮索する気にはなれなかった。
「はい、わかりましたの!わたくしがお兄様をビシビシ鍛えればいいんですよね!」
言葉に詰まったわたくしは満面の笑みを込めてお兄様にこういった。
今のお兄様にはわたくしの笑顔を見て少しでも元気になってもらいたい、そう思ったからだ。
案の定お兄様もつられて笑顔になる。
「おう!手加減なんて許さないからな!」
そうしてわたくしたちの日課であった鍛錬が始まったのでした。
「お兄様!そんな様子じゃ強くなれませんわよ!?」
「くっ…分かってる…!」
わたくしたちは家の地下にある広い訓練場所を使っている。
わたくしの両親は軍人ですから家にいるときも鍛錬が欠かせません。
なので両親はこの訓練場所を作りました。
わたくしには無縁の代物だと思っていましたのに…
こんなことに使うなんて思いもしませんでしたわ…
「さぁ…!もっと…!もっと動き回って相手をかく乱して!」
多数の人形がお兄様の周囲を取り囲んでいる。
その人形はすべてわたくしの異能によるもの。
あの頃からわたくしは多数の人形を操ることが出来ていましたの。
お兄様は襲いかかってくる人形の群れにタジタジでした。
お兄様には才能がある。
だけれどこう多数で襲いかかられた場合は途端にその才能を発揮できなくなる。
これは戦場では致命的だ。
なんせ戦場では集団戦闘が当たり前なのだから。
「もっと相手の動きを見て動きますのよ!ほら、隙ができてますわよ!」
「わかってる…けど…これは多すぎだろ…!」
「戦闘では何が起きるかわからない…これぐらいの数難なく相手にできなくてどうしますの!?」
「それがわたくしとお兄様の初めての鍛錬の時の事ですわ…あぁ…あの時の初々しいお兄様…可愛らしかったの…」
「か、可愛らしいって…」
過去を振り返りうっとりするイリヤ。
「それにしても…あの娘って誰でしたの…?結局お兄様はあの後一度も教えてくれませんでしたの…」
それを俺に言われても…
今の俺は記憶がないんだぜ…?
「ゴメン…記憶が無くてさ…」
「そう言えばそうでしたの…はぁ…結局あの娘は誰の事でしたの…わたくし気になって夜も眠れませんの…」
そこまでかよ…
「う~ん…お兄ちゃんの大事な女の子かぁ…もしかして…私とか?」
「いやいや、ウサギちゃんでしょ!」
「たぶんそのころウサギとは会ってなかったと思うよ…?」
「はっ…!も、盲点だった…」
いや、何が盲点だよ…それぐらい気付けよ…
「だからうるさいって言ってるの!イリヤも早く続けてよ!」
キラの怒号がまた響いた。
俺達はやはり即座に黙り込んでしまう。
「では…次は少し重めの話になってしまいますが…」