あの後無事に帰還できたわたくしたち。
身体の傷は浅く手当すれば跡も残らないそうだ。
だが精神の傷は深かった。
特にお兄様は著しいものがあった。
直にアイツを殺したのだから。
「お兄様、大丈夫ですの…?」
ベッドの上でがくがくと震えるお兄様の背をなでながらわたくしはそう声をかける。
最近のお兄様はずっとこうだ。
何かに怯えるようにずっと震えている。
「あいつが…アイツが俺の耳元でささやくんだ…もっと生きたかったのにって…俺…どうしたらいいかわからないんだ…もう、耐えられない…」
お兄様の精神は思った以上にずたぼろだった。
食事もできないしろくに睡眠もとっていない様で痩せこけてしまっていた。
「お兄様!今のお兄様は全くお兄様らしくありませんわ!もっとしっかりして下さらないと…」
「イリヤは…イリヤは平気なのか…?俺たち人殺しなんだぞ…?なんでそんな平気でいられるんだよ…」
「わたくしだって…」
ぎゅっと拳を握る。
涙腺が自然と緩み涙がこぼれ落ちていた。
「私だって平気なわけないですわ!毎日毎日押しつぶされそうなんですの…」
実際あんなことがあったあとで平気でいれるはずがない。
むしろ平気でいられる方がおかしいのだ。
「でもね…わたくし思ったんですの…もうこんな思いをする人間を出したくないって…戦争なんて終わらせてしまおうって…」
そう、これ以上酷い思いをする人なんて見たくない。
この悲しみはわたくしたちが断ち切らなければいけないのだ。
「だから…わたくしたちがこの世界を作り変えますの…この世界をすべて征服して…あの名前も知らない少年に誓って…」
そう言ってわたくしはお兄様に手を差し伸べた。
お兄様の冷たくなった瞳がわたくしをとらえる。
「い、イリ…」
わたくしたちがすべてを変えればいい。
お兄様とだったら絶対にできる。
「だから…お兄様も約束してほしいですの…わたくしと一緒に世界を変えるって…」
お兄様は一瞬考えたのちわたくしの手を取った。
その手には確実な熱がこもっていた。
「そう…だな…俺もこの世界に不満を感じてたんだ…なら俺たちが変えればいいんだ…これがアイツへの罪滅ぼしになるかワカンネぇ…けど俺たちが頑張ればアイツみたいな思いをする奴もいなくなるかもしれねぇんだな…」
「お兄様…ありがとうですの!」
「それと…その約束にひとつ追加させてくれ…俺たちは誰も殺さないって…世界を変える奴が誰かを殺してたらおかしいだろ?それに…もう手を汚したくないんだ、俺の手も、イリの手も…」
「えぇ、いいですわ…これからはわたくしたちは世界を変えるために戦う兄妹ですわ!この約束は絶対ですわよ!」
「あぁ、もちろんだとも!」
「そうしてわたくしたちの大事な約束が出来ましたの…それ以来わたくしたちはその約束にのっとって世界を変えるために奮闘しましたの…もちろん人は殺していませんわよ?」
「そうだったのか…でも俺、この前人を殺してる記憶を見たんだ…笑いながら敵を斬りつけてるシーンだ」
イリヤと出会った時に思い出したビジョンのことを説明する。
と、イリヤはふふっと笑っていた。
「お兄様、それは演技ですわよ?わたくしたちは人は殺さないけどどうしてもという場合は傷つけますの。次に絶対に戦争に出てこれないようにですわ。あぁやって笑いながらのほうが恐怖を植え付けられますしそれにわたくしたちは強いってことを思い知らせておけば戦おうとする人も減りますし…一石二鳥ですわ」
「なるほどな…じゃあ俺はそいつ以外誰も殺してない、と…」
「そうなりますわね…」
自分は大変な殺人者ではなくてよかったとホッとする。
「そう言えば…何でセンパイはイリヤと同じ異能をつかえたの?それにイリヤも何で異能が2つ使えるの?」
そうだ、それが残っていた。
確かに俺の異能はイリヤと同じものだ。
それに2つ異能が使えるということも俺の異能の秘密を握っていると思う。
「最初のほうは結局お兄様も話してくれませんでしたからわかりませんの…でも2つ目なら説明できますわよ…でもこれを話したら結構問題が多いんですのよね…内緒ですわよ?」
「オッケー、絶対内緒にする」
「異能の遺伝、それによってわたくしの異能は2つですの…稀に親の異能を受け継いで生まれる子供がいるのは知ってますわよね?」
確かにそういう子どもがいるというのは知っているが実際にあったことがある人間などごく一握りしかいないだろう。
なので世間では眉唾物として取り上げられていたのだが…
「その子供でも受け継ぐ異能は一つ、でも本当に、ごくまれに二つの異能を持つ子供が生まれてきますの…それがわたくしですわ」
「すごいよイリヤ!それってハイスペックじゃん!羨ましいなぁ…」
ユキは目を輝かせてイリヤの話に聞き入っていた。
もちろん他の奴らもだ。
まだ見ぬ興味に目を輝かせている。
どうやらイリヤもまんざらでもないみたいだし…
過去の話が進むのはもうちょっと先になるかな…
「マリナの解説コーナーの時間です!」
「お、久しぶりだな」
「ホント久しぶりです!本編でも出番が少なくなってきて…出番が無くなっちゃうかと思ったです!」
「あぁ…俺もだよ…ホントここに出れてよかった…」
「それじゃ今回も解説しちゃうです!」
「はいは~い」
「今回は…異能の遺伝についてです!」
「確か…イリヤがそんなことを…」
「はいです。まずは異能のルールからです。異能は一人につき一つ、絶対にこの世に同じものはないです」
「似たようなものはあっても同じものはないんだよな?」
「そうです!例えば火を使う異能でも火力が違ったり異能の発動範囲が違ったり…それで別の異能として認識されるです」
「結構異能って細かいんだな…」
「そのルールを破ってるのが異能の遺伝です」
「ほうほう…」
「まれに親の異能を受け継いだ子供が生まれてくることがあるのです」
「その子供ってのは親と同じ威力とかの異能をつかえるってことか…で、何でそんな子供が生まれてくるんだ?」
「それはまだわかってないのです。解明のために日夜研究が進んでるです」
「へぇ…それじゃイリヤはどうなるんだ?確か異能が2つ使えるって…」
「イリヤの場合片親じゃなくて両親の異能を受け継いでるのです。このケースは本当に少なくて実在するかどうかも謎なのです。存在してるとばれたら研究対象になるからイリヤもあまり異能を二つ使えると口外してないらしいですよ?」
「ハイブリッドも大変なんだな…」
「噂ですけど両親の異能に加えて自分の異能、すなわち3つの能力を使える異能者もいるとかいないか…です」
「そ、そんな奴敵うわけないだろ…あれ?でも3つの異能ってどこかで見たことあるような…」
「キョウヤの事です?」
「あぁ…確かにアイツは異能を数種類使ってる。ユキ、キラ、イリヤの異能だな…もしかしてアイツ…親が3人!?」
「はぁ!?馬鹿なこと言うなです!アリエナイです!死ぬです?死ぬです!?」
「久しぶりにあって死ぬって…」
「決定です!ケントは処刑です!マリナちゃんにフルボッコにされる刑です!」
「い、痛い!痛いから!」
「もっと鳴くです!痛みに打ち震えるです!」
「あぁ!もっと!もっと殴って!もっとぉぉ!」