夜明けの襲撃
「お兄ちゃん!お口開けて~…はいあ~ん」
「キョウヤ!私もあ~んするの!」
俺の両隣、ユキとウサギが俺にあ~んさせようとしている。
ふにっとしていて柔らかい体が押し当てられる。
それだけで体は恥ずかしさで上気してしまう。
「ほらお兄ちゃん!お口開けてよ!」
「ねぇ…私のほうを食べてくれるよね…?」
普通ならうれしいシチュエーション、しかし今はそれが苦痛でしかない。
多分どちらを食べてもバッドエンド確定だ…
背中につつぅと冷や汗が流れる。
ごくりと唾液を飲み込んで溢れてくる感情ごと喉に流し込んだ。
『あ~ん…』
だんだんと二人の持っているスプーンが近づいてくる。
これは…逃げるしかない!
俺は体をばねのように動かしてその場から逃げ出した。
俺は必死に走る、しかしこの二人は執拗以上に俺を追ってくる。
まるでゾンビのようだ、まぁゾンビはあんまり走らないけどね。
身体のすべてを使って俺は走った。
だが目の前には俺の行く手を塞ぐように壁がそそり立っていた。
10m程度のそれは到底飛び越えるなど不可能だ。
「ちっ…」
舌打ちをし右に方向転換…しようと思ったが右手にも壁。
なら左だ…!
だがそこにもいつ現れたかわからない壁が…
最早逃げ場はない。
後ろから狂気の笑みを含んだ少女たちがせまってくる。
その少女の視線は虚ろになり俺しか映っていないようで…
「お兄ちゃん…」
「キョウヤ…」
『食べて…』
二人はそろってスプーンを差し出してくる。
いつの間にかその上にはどろどろと煮えたぎった何かがのっていた。
俺はイヤイヤと首を振るがお構いなしだ。
地獄の使者が刻一刻と迫ってくる。
「お兄ちゃん!」
俺は…もう…
でも…こんな可愛い娘たちにやられるなら…
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
俺の口から力のない笑みがこぼれた。
「お兄ちゃん!…もぅ!起きろバカ!」
その瞬間俺の世界が揺れた…
バっと体を起こすとそこは薄暗い場所だった。
どこにもあの狂気に染まった少女の影はない…
どうやら夢を見ていたようだ、おかげで汗びっちょりである。
あんな夢を戦場で見るなんてな…自分の気の抜けように思わず苦笑が漏れた。
しかしなぜだろう…脇腹が痛い…
「お兄ちゃん!何のんきに寝てるの!早く起きて!敵が…」
慌てた様子のユキ、その言葉が終わる前に外で大きな銃声が聞こえた。
鼓膜をつんざくような死をもたらす音に俺の眠気はどこかへと飛んで行った。
「ほかの奴らは?」
「みんな飛び起きて準備をしてるよ…私はちょっと早く起きてたから急いで対処できたけど…」
周りを見るとまだ眠気眼を引っ提げた連中がそそくさと戦闘態勢を整えている。
「お兄ちゃんも早く用意!じゃないとヒカリちゃんたちが…!」
「ヒカリが!?」
「今の時間はヒカリちゃんとデンシが見回りでリュウセイとナイトが見張り番なの…ヒカリちゃんが急いで知らせに来て…それでまた戦いに行っちゃったの…」
俺達は昨夜のうちに見回りと見張りを決めておいた。
全員がここで眠ってしまえば敵が来たことに誰も気付けない。
だからそのためにと付けておいたのだ。
しかしヒカリとデンシが…
もし夜襲されればあの二人はひとたまりもないということでその恐れのない早朝を選んだのだが…
どうやらその選択は敵に読まれていたようだ。
なにせここは敵の手中、俺たちをどこか遠くから把握するなんて簡単にできる。
俺達はその可能性をどこか見て見ぬふりをしていたのかもしれない。
ここに滞在していたナイトたちが無事だったことに安堵して…
敵のてのひらで泳がされているとも知らずに…
だがなぜ今になってだ…?
やろうと思えば最初からナイトたちを倒すことだって…
もしかして敵は俺たちが固まったから狙ってきた?
いや…だが俺たちが合流するなんてどうやって知った?
ナイトたちが生きてここにいること自体俺は昨日初めて知った。
あまりのことに頭がパンク寸前だ。
敵の考えが読めない、真実が黒く塗りつぶされていくようだ…
「お兄ちゃん!考え事は後!今は…」
「そうだな…!」
俺は戦闘用の服に着替えて洞穴から抜け出した。