赤が散る
赤、紅、朱―
俺の目に映る赤、それがスローモーションのように飛び散るように見える。
全てのモノを染める赤―
それが夜明けの世界全てに飛び散った。
「ゴメン…用意に戸惑って…え…?」
あまりの赤に俺は後ろからの足音を聞くことさえできなかった。
気が付けば隣にはイツキとキラ、そしてウサギがいた。
その3人は目の前の光景を見て一瞬のうちに固まってしまった。
「ウソ…でしょ…?」
声が恐怖にがくがくと震えているのが分かる。
何故目の前の光景が起こっているのか、どうして世界はこうも理不尽なのか…
今の俺たちはその答えを求める。
だが誰も答えてはくれない、答えてくれたところでこの現状は変わらない。
「なんで…アイツが…」
ガタガタと指を震わせてある人物を指差すウサギ。
その指が指す先、そこにいたのは―
「リュウセイ…」
仮面の男に囚われた少年、その少年の首に添えられていたナイフ、それがさらに真っ赤に染まっていた。
それが意味するものは一つ、この世界を真っ赤に染めている張本人がリュウセイだということだ。
「な…」
ナイトが小さく声を上げる。
「なぜ…だ…」
その視線はリュウセイの首から吹き上がる赤、血にそそがれていた。
止めどなく噴き出す彼の命、血、人間の身体にそんなに血というモノが収納されていたのかと思うほどに噴き出していた。
首を掻き切られた彼はありえないという顔を浮かべている。
それはそうだろう、なんせ人質というのは傷つけられるにしろ殺されはしない、そう誰もが思っていたからだ、そしてそれは彼も例外ではなく…
人質とは交渉を有利に進める材料、なのでそれは生きている必要がある。
なのにそれを殺すということは…
いや、まだ殺されてはいないが…だけどあの傷じゃもう…
彼は必死に何かを訴えようと口を動かす。
だが言葉を話そうとすればするほどゴポリと口から血がこぼれる。
それに喉からひゅうひゅうと空気の漏れる音が聞こえるだけだった。
もう彼は呼吸することすらままならないだろう…
「う、嘘だ…こんなの…嘘だ…」
リュウセイの一番近くにいたのに助けることができなかったナイト、彼はその場にガクリと力なく崩れ落ちた。
「まぁこいつがいなくてもここにいる奴らは殺せるし…とりあえず邪魔だったから殺した」
仮面の男はそうすることがさも当然だというようにそう告げた。
なんでそんなことでリュウセイが殺されなくてはいけないんだ…
昨日あんなに嬉しそうに夢を語っていた彼が…なぜ死ななければならない…!
「貴様ぁ!」
怒りが抑えられない、今はただ目の前のアイツを殺す…ただそれだけの感情に動かされていた。
「キョウヤ…力を貸すよ…」
「センパイ…私達も援護する…だから…」
ウサギが銃を構えて敵を見据える。
俺も剣を取り出していつでも攻撃できる体制を整える。
「おいおい、お前らそんなことしていいのか?もっとこいつに痛い目見てもらうぜ?今ならまだ何とか助かる可能性もあるかもしれないが…これ以上傷ついたらどうなるかなぁ?」
そう言って血がこべりついたナイフをリュウセイの前で振り回してみせる。
リュウセイの顔は恐怖で歪んでいた。
彼は必死に口をパクパクとさせて俺たちに何かを伝えようとしている。
俺はじっとそれを見た。
「し、に、た、く、な、い…」
彼はそう言ったのだ、口元を血で真っ赤に染めながらも、涙で顔を汚しながらも、首元から命をだらだらと垂れ流しながらも…
死にたくない、そう言ったのだ…
そんな彼を傷つけられる…俺たちはそれだけで動くことができなかった。
「ウサギ…その銃借りるね…」
「え…?」
だがその場で動けるものが一人いた、ユキだ。
彼女は何の抑揚もない声を発してウサギから銃を奪い取った。
「あいつは…私が殺す…」
そしてそれを何のためらいもなく敵にかまえ、そして…引き金を引いた…