バンっ!
渇いた音がその場に鳴り響く。
続けざまにバン!さらにバン!、と音が響く。
鼓膜を震わせるような破裂音、そして鼻をつく火薬のにおい。
鉛の弾がユキの放つ銃から吐き出された。
それは超高速の殺人兵器として目的へと吸い込まれていく。
俺の目には全ての動作がスローモーションに見えた。
そして…
「ぐっ…」
その声が響いたと同時に俺の目は正確な時間を取り戻した。
まるで暴風雨のように吹き荒れる弾丸の嵐。
それが仮面野郎の身体に吸い込まれていく。
もちろんリュウセイの身体にも…
着弾したところから真っ赤な筋が吹き上がる。
あんなに軽くて小さな鉛弾一つ、それが命を奪っているのだ。
それでもかまわずにユキは引き金を引き続ける。
こいつには今目の前で起こっている光景が見えているのだろうか…
もし見えているとするなら…何故リュウセイまで撃っている…?
腕、足、胸、頭…その全ての銃弾を受けたリュウセイはもう絶命しているだろう。
でもなんで…何で仲間だというのに平気で撃てるんだ…
そんな能面をつけたような無表情で…何故仲間が撃てるんだ…
「やめろユキ…!」
そう叫ぶが俺の声は弾丸を吐き出す音に無様に掻き消されてしまった。
ならば…
俺はユキの身体をぎゅっと抱きしめた。
「やめろ…ユキ…お願いだ…」
そう耳元でつぶやいた…
「お…にい…ちゃん…?」
その瞬間ユキの瞳に色が戻った。
そしてガチャリと大きな音を立ててその手から銃がこぼれ落ちた。
カラカラと音を立てて銃は地面を転がった。
「はは…こんな異常者がいるなんてな…イテテ…こんなに傷つけられたのは久しぶりだ…」
ユラリと仮面の男が動く。
その体に纏っていたローブはボロボロに破れていた、だが身体からはあまり血がみえない。
まさか…あれだけの銃弾に当たったというのにダメージが…?
「こいつがいなかったら多分死んでたな…」
どさりとリュウセイだったものをまるでモノのようにその場に放った仮面の男。
その行為にいらだちを通り越しありえないぐらいの殺意をおぼえた。
「ここでお前たちを殺すのもいいんだが…ごらんのとおり俺のナイフもボロボロになっちまった…」
どうやらナイフも銃弾を躱すために使ったようだ。
切っ先はボロボロになっているにしてもまだ形は保たれていた。
「また殺しに来るから…それまでに死んだ方がいいと思うぞ?」
そして高笑いを残しながらその仮面の男は去っていった。
背後から襲いかかってやろうと思ったが足が動かない。
なぜかあの男の前では身体がすくんでしまう。
それほどまでに身体が恐怖を覚えてしまっているのか。
「リュウセイ…!」
俺はナイトのその声にはっとした。
そうだ…リュウセイは…
俺は走り寄って彼の姿を見た。
が、到底直視できるようなものではなかった。
体のあちこちから真っ赤な液体をこぼし、それに見るも無残に穴だらけだった。
彼の体のあちこちに銃痕が残っていた…
「ユキ…お前…!」
俺はユキに走り寄った。
今まで感じたことのない怒りが俺の体を突き動かしていた。
いや、それだけではないな…あの仮面の男に太刀打ちできなかった怒り、それが八つ当たりというかたちで動いていたに違いない。
「なんで撃ったんだ!仲間だろ?なんで…!」
「だって…」
顔を伏せていたユキが俺の顔を覗き込んだ。
その瞳には何も色が灯っていなかった…
「もうアイツは助からない、なら撃ったっていいでしょ?私間違ったことした?結果はどう?あの仮面逃げて行ったでしょ?あそこでお兄ちゃんたちが躊躇ってたら私たちがリュウセイみたいなことに…」
確かに言ってることはもっともだ…
でも…
「だからといって仲間を撃っていい理由にならないだろ!」
「なんで?」
その瞬間に俺はぞくりとした。
なんで…そう尋ねたユキの声音、そこには何も含まれていなかったのだ。
それはさも当然の行為で、そうするのが普通で、そうしないのが異常で…
当たり前のことをしているのにその理由をどうして教えなければいけないのか…
ユキの言葉は何も含まれていないからこそそう物語っていた。
「なんで?」
そしてもう一度、ぽつりとユキはそう言った。
俺は途端にこのユキという少女が恐ろしく感じた。
気が付けば俺はユキから距離を取っていた。
彼女から逃げようとしていた。
「お前…狂ってる…」
「え…?」
口から言葉が自然とこぼれ落ちた。
そして…その瞬間に恐怖が体全体を包み込んだ。
「お前は狂ってる!もう一緒にいることなんてできない…!」
俺はそのまま駆け出した。
ユキを、大切な妹と…ずっと一緒にいようと思っていた少女に背を向けて…逃げだした。
「待ってお兄ちゃん!」
「キョウヤ!一人は危ないから…!」
「センパイ!勝手はダメですって!」
仲間の声が聞こえる、だけど俺はまるで脱兎の如く…その場から一秒でもいいから早く…その思いのままに逃げた。
俺は妹から、仲間から、悲惨な現実から、そしてこの理不尽な世界から…逃げたのだ―