とある冬の日に
白銀が舞い降りた。
窓の外の世界、そこがだんだんと真っ白に染まっていく。
しんしんと降る雪を窓の外から眺めていた私。
真っ白な刹那の命に私の目は釘付けになっていた。
「おはよ…今日は朝から寒いねぇ…」
あぁ…どうしてこうも雪というのは儚くてきれいなモノだろう…
「お~い…聞いてる?」
「ん?…あぁ、ごめんごめん考え事してた」
呼び声に気付き顔をあげるとそこには二つの大きな果実を携えた低身長の少女が立っていた。
「はぁ…またユキの考え事…もぅ…私のことを放っておかないでよ!」
「ごめんごめん。今度ジュースおごるから許してよ、ウサギぃ」
目の前の少女、ウサギ。
彼女とは長い付き合いになる。
元々は同じクラスだったが何かをやらかしたらしく今では別のクラスに移っている。
確か…特別クラス…え~と…詳しい名前は忘れちゃったけどそこに移ってしまった。
けども休み時間毎に私の元へと会いに来てくれる、とっても優しい娘なのだ。
まぁ孤児院にいた時からの付き合いだから気が知れているということもあるが…
それなしでも彼女とは親友と呼べるぐらいに仲がよかった。
「うぅ…こんなに寒いのに雪まで降らないでよぉ…もっと寒くなるじゃん…ねぇ?」
「え?別に私はそんなに寒いとは思わないんだけど…」
「ウソだ!…ってそう言えばユキはその異能があるから大丈夫なんだっけ…いいなぁ…」
私の能力、氷を操ることができる力、それが覚醒してからはあまり寒さを感じなくなった。
しかし寒さを全然感じないというわけではなく…そりゃ雪山で全裸でいろと言われれば凍え死んでしまうだろう。
便利なんだか不便なんだかわからない力だ…
「そう言えば…今日はいないの?」
「いないって…誰が?」
「ノノちゃん」
「たぶんまだ寝てるんじゃない?…もう授業が始まるまで時間もないのにね」
私は苦笑いでそう答えた。
ウサギもつられて苦笑してしまっている。
「もぅ…あの子のお寝坊さんは治らないのかなぁ?」
「無理なんじゃない?」
私達がそう話していると廊下の奥からドタドタという足音が近づいてきた。
「遅刻遅刻ー!これじゃ先生に怒られちゃうよ~!」
女の子が大声で叫びながら廊下を走っている…
そんなことをする人を私は一人しか知らない、多分これは…
「セーフ!あ、おはよ~ユキにウサギちゃん」
がらりと勢いよくドアを開けて例の少女は私たちの元へと近づいてきた。
寝癖まみれの髪を携えた少女ははぁはぁと肩で息をしていた。
「お、おはようノノちゃん…」
この娘は星羅(せいら)ノノ、私のクラスメイトでこの学園でウサギの次に気を許せる女の子だ。
「もぅ…ノノったらまた寝癖つけて…こんなにきれいな黒髪なのにもったいないよ?」
「えへへ…ごめんごめん…だって朝起きたのギリギリだったもん…」
「はぁ…しょうがないなぁ…」
私は櫛を取り出してノノの髪の毛を好いていく。
「い、痛い痛い!やめてよユキぃ」
ノノの髪の毛はもともとくせ毛ということもあり寝癖が治りづらい。
治しても治してもぴょこんと必ず戻ってきてしまう。
だから私も戻ってこれないように力を込めるのだが…ノノのくせ毛に勝てたためしはなかった…
「ユキ、やめてあげなよ。ノノちゃん痛がってるよ?」
「でもぉ…」
「この寝癖がノノちゃんのトレードマークなんだから許してあげてよ」
「うぅ…ウサギちゃんは優しいなぁ…むにゅむにゅしたい!それに比べて…そこの金髪ツインテときたら…」
大きく澄んだ瞳がじとーっと私を見つめる。
「なんで私が悪いみたいになってるの!?」
これがいつもの私達3人組だ。
この輪の中にいれば私は嫌な事を忘れられる。
私の中に渦巻いている黒い部分を抑えることができる。
私にとってウサギとノノは心のオアシスだったのだ…
「ふぅ…それにしても…雪凄いねぇ…もうあんなに積もっちゃってるし…」
「だねぇ…あ!お昼休みに雪合戦しない?私とウサギちゃんチームとユキチームで!」
「なんで私ひとりなの!?しかもそれだとチームになってないし」
「えぇ~、だってウサギちゃんは私の嫁だしぃ」
「そうそう、ウサギちゃんはノノちゃんのお嫁さん…ってなんで!?」
「だってぇ…ウサギちゃん可愛くてプニプニロリッ娘だし一生懸命背伸びした感があってそそるし…それにおっぱいふかふかそうだし」
ノノの目がきらりと光る。
手をわきわきさせながらウサギのおっぱいを狙っているようだ。
「はぁ…また始まった…ノノの可愛い娘好きが…」
「またって何よ!またって!可愛い娘は正義なの!これは譲れないんだから!…あぁ、そういうこと…ユキは自分じゃなくてウサギちゃんばっかり可愛がってるからやきもち焼いてるんだぁ。そうでしょ?もぅ…ユキもあとでちゃ~んと可愛がってあげるからさ」
「いや、そんなことはないから…断じてないから」
「そんな事言い合ってる間に助けてよぉ…このままじゃノノちゃんにウサギちゃんの初めてがぁ…」
「ぐっへっへ…ウサギちゃ~ん…大丈夫だよ、最初は痛いけどだんだん気持ちよ~くなってくるからぁ」
ほんとノノって何歳なのよ…
言動がすごく親父臭いんだけど…
「さぁ…早く堪忍して私におっぱいをみせたまえ~…ってもうチャイムなっちゃったの!?空気読めないなぁ…じゃあウサギちゃん、またね♪次の休み時間はお楽しみだよ~」
チャイムが鳴ると同時、ウサギは脱兎の如くその場から逃げ去ってしまった。
はぁ…ウサギって逃げ足だけは早いよねぇ…
私はそんなことを思いながら席に着いた。
ふと窓の外を見てみるともう一面が銀世界だった。
真っ白におおわれた世界…そこでお兄ちゃんと遊べたら…
ふとそんなことを思ってしまう。
と、同時にだんだんと心が凍りついていくのが自分でもわかった。
もうお兄ちゃんとは会えないんだ…
私がどんなに足掻いたってお兄ちゃんは…
黒い闇が私の心を凍てつかせていく。
だんだんと周りの奴らが妬ましくなってくる。
どうしてこいつらは幸せそうな顔をしているのか…
幸せそうに…何も大切なモノを失ってもいないくせに…のんきに過ごして…
ウサギたちと話していた時はこんなこと全く思わないのだが…一人になった途端これだ。
ずっと…ずっとそうだった…
お兄ちゃんを失ったあの日からずっと、私の心にかかった真っ黒な靄は消え失せてはくれなかった…