「うぅ…戦闘訓練なんて本当に必要なの?私苦手なんだけどなぁ…」
「文句言わない。ちゃんとやらないと成績もらえないよ?」
「は~い…」
同日2時間目、戦闘訓練。
この学校は兵士の育成校としてつくられた。
よってこういう戦闘訓練の授業が一日の半数を占める。
今は近接戦闘の練習だ。
互いに訓練用の模擬ナイフを使って相手を組み伏せるという内容だ。
私の相手はノノ。
「おい星羅!だらけてるぞ!お前わかってるのか?今オシリスは黒の国と戦っている、いつ出撃がかかるかわからない状況だ。そんなに気を抜いていると瞬殺だぞ!」
「は~い…」
教官の怒声をきいたもののは全く以って響いていない様子。
いや、このクラスのほぼ全員もそうだろう。
例えどれだけ怒られたところで戦争になんか駆り出されないとたかをくくった平和ボケした連中ばかりだ。
私達は大切なモノを二度と奪わせないように強くならなければならないというのに…
「はぁ…どうせ戦争に私達みたいな学生が呼ばれるほど戦況は悪化してないって」
「ノノは知らないの?今オシリスは劣勢なんだよ?ヘタしたら領土に入ってこられるかもしれないっていうのに…」
「え?それホント?」
私はこくりと頷く。
ノノは一瞬顔色を変えたが…
「ま、私には関係ないか。どうせ他の人ががんばってくれるって」
結局いつもの飄々としたノノに戻ってしまった。
まったく…これだからダメなんだよ…
私はナイフを握りしめてノノに斬りかかった。
「うわっ!不意打ち禁止!」
私の不意打ちをもろともせずにノノは切り返してくる。
それを避けてもう一発打ちこむ、それをノノが受けて返す。
激しいナイフの競り合いが起こる。
だんだんと私の中の人間味を帯びた部分が影を潜めてくるのが分かる。
こうして闘っているとどうしても黒い部分がせりあがってきてしまう。
周りの奴ら全員がお兄ちゃんの仇に見えてきてしまう。
絶望を知らずにぬくぬくと育ったこいつらが妬ましくてたまらない。
そんな思いが心を支配してナイフを通じて発散していく。
切っては避けてまた切り込む。
私の身体はそれだけを繰り返す、まるで機械のように…
だんだんとノノの太刀筋が読めてくる。
これなら…
私は鋭い一撃をノノの首元に向かって放った!
その瞬間時が止まった。
今まで勢いよかったノノが固まりギャラリーが静まる。
からりとノノの手からナイフが落ちた…
「こ、降参…」
「ふぅ…」
ノノの首元を紙一重でとらえたナイフ、それをゆっくりと手元に戻す。
そして私の中にだんだんと人の心が戻ってきはじめる。
「やっぱりユキは強いね…私なんかじゃかなわないや」
「ノノもすごいと思うけどなぁ…」
個人的に訓練を積んだ私と同等に打ち合うことができるのは今まででノノしかいなかった。
ノノが本気を出したら私を倒しちゃうかもしれない…
「それにしてもさ…ユキって戦う時は別人みたいになるよね」
「え?」
「なんか怖いんだよね…まるで人じゃない…みたいな…あ、ごめんね!別に悪口を言おうとか思ったんじゃなくて…えと…その…」
「いや、いいよ…私も知ってるから…」
困惑するノノにそう声をかける。
だがノノはさらに困惑していた。
やっぱりそうだよね…こんな私なんだもん…変だと思うよね…
「ねぇ…何でそうなっちゃったの?何か理由があるはずだよね?もし私ができることなら手伝うから!ね?」
「なんで…何でそんなこと…」
「だって…見てられないんだもん…ユキが壊れちゃう気がして…」
その言葉に私の心は抉られたような衝撃が走った。
こんな私なのに…気味悪がるどころか助けたいって…
はは…そう言えばノノってこんな娘だっけ…
初めて声をかけてきた時もそんなことを言ってたっけ、見てられないって…
でも、私は彼女の言葉に救われたのは確かだった。
だから…私は彼女に自分のことを…
「あのね…私…」
しかしその言葉を遮る様にサイレンが鳴り響いた。
これは…出撃命令!?
なんてタイミングの悪い…
「お前ら!早く出撃体制を整えろ!すぐに出撃だ!」
その声を最後に後に残るは悪魔の警報の音だけだった…