「はぁ…雨、やまないなぁ…」
私は外を眺めながらため息をつく。
雨はやむ気配はなくざぁざぁと世界を濡らしていた。
「しかも服も乾くの遅いし…」
こんなことならあんなところで寝ちゃうんじゃなかった…
後悔が募るも過ぎてしまったことは仕方ない。
しかもずっと下着姿でいるのもだんだん慣れ始めているころだ…
変な性癖が付かなきゃいいけど…
「はぁ…こんなんじゃお兄ちゃんと早く会えないじゃん…」
決意した途端これだ。
どうして世界は私とお兄ちゃんを切り離してしまうのだろうか…
私もお兄ちゃんも何も悪い事なんてしてないのに…
そう考えてまたため息をついてしまう。
「やめやめ!そんな暗い事考えてちゃ!もっと明るい事考えよう」
そう、帰ったらお兄ちゃんと何をしようか?
まずはお食事かな?一緒においしいものをいっぱい食べるんだ。
それともお風呂?寒かったもんね。
う~ん…添い寝も捨てがたい…
「にへへ…いっぱい楽しいことしようね~」
そんなことを考えると自然と頬が緩んでしまう。
やっぱりつらい時こそ楽しいことを考えなくっちゃ!
かこん…
と、洞窟内に何かの音が響いた。
かこん…かこん…
一定のリズムを刻むそれは…人の足音!?
まさか…敵!?
私は手に冷気を集中させて氷の短剣を形作る。
息をぐっと飲み込み足音に集中する。
洞窟内に反響する足音、それがだんだんと近くなってくる。
「誰だ!」
気付くと私は叫んでいた。
そしてハッとする。
もし敵が銃を持っていたら…?
私はなんと安直な事をしたのだろうか…
「へぇ…こんなところで女に出会うなんてな。珍しいこともあるもんだ」
しかし帰ってきたのは人の声、男の声だ。
そしてだんだんと暗闇から姿を現したそれにゴクリと息を飲み込む。
軍服を着た男が3人。
それだけなら見慣れたモノだ、だが一人だけ歪なモノがいた。
それは私が今まで見たこともないもので恐怖心をあおるには十分な姿をしていた。
顔には麻袋がかぶせられていて手足が拘束されている。
車いすにのせられたそれの身体にはぐるぐると鎖が巻き付けられていた。
まるで囚人のような姿のそれに私の背筋はゾクリと震えた。
「ここに紛れ込んだ鼠を彼って命令だったが…こんなにも早く見つかるとはな」
男のうちの一人、軍服がほかの二人とデザインが違うのでリーダー格だろう、がそう言った。
鼠とはやはり私たちの事だろう。
これは…敵だ!
「けどこいつほぼ全裸だぜ?そんな奴が敵だなんてなぁ」
その中の長身が下卑た風にそう笑う。
敵に集中しすぎて服着ること忘れていた…
うぅ…恥ずかしい…
けど…そんな悠長なことを考えている暇もない。
今はこの歪な奴らを片付けないと。
私はぎゅっとナイフを握り構える。
あいてはまだ油断している…
今のうちに…!
私は足をばねのようにして地面をけった。
爆発的なスタートダッシュで敵の懐へ目指す。
まずは一人…!
敵の目前まであと5歩もない。
後はこれを突き刺すだけだ…!
ぎゅっと力を込めてナイフを握る。
その瞬間、それは起こった。
私の手に握られた氷のナイフ、それが木っ端微塵に粉砕したのだ。
「なっ―!?」
私が握りつぶした!?いや、そんなことは無いはずだ。
だってこのナイフは誰にも壊せやしないんだから…
ならなぜ…!?
考えるよりも先に私は体をひねらせてそこから距離を取る。
あそこで止まっていては危ない。
そう判断した私の身体はとっさに体を動かしていたのだ。
「今度はこれで…!」
私は目の前に無数の氷弾を展開させてそれを敵に向かって撃ちこんだ。
あられのように降りそそぐ弾丸。
これなら…!
が、それも敵の目前で消滅してしまう。
「な、何で!?そんな…私の氷が…」
「ハハハ!俺たちの前に異能は通用しない!このユーリカ様がいる限りな!」
そして長身の男は例の車いすの人物を指差した。
アイツが…異能を…消した?
しかしそんなことがあり得るのか!?
異能を消す異能なんて…
自身が異能でありながら異能を無効化する、それはあまりにも矛盾しているではないか!
何か仕掛けがあるはずだ…
必ずそれを探し出して見せる…
私はいつも隠している場所からナイフを取り出そうとして、気が付いた。
隠しナイフがあるのは私の服、それは今乾かしているところだ。
そしてそれがあるところは私と敵とのちょうど中間。
「ちっ…」
舌打ちをしてぎろりと敵を睨む。
迷っている暇などない、まだ敵が油断しているこのうちに…
「届いて…!」
全速力で走り手を伸ばす。
あと数センチ…!
その距離まで来たところで私の喉元に鈍色に光るモノが突きつけられているのが分かった。
「はぁ…どうやら相当なめられているみたいだな。その報い、死んで償え!」
あと一人の男が私に向かって剣を振り上げる。
あぁ…まさかここで終わり…?
ゴメンね、お兄ちゃん…私、もう…
「ちょっと待て。殺すのはまだ早い…こいつはつれて帰って情報をはかせる。いいな?」
「ちっ…あんたの言うことなら反論はしねぇよ…」
た、助かったの…?
けど安心するにはまだ早い…
ここからどうやって逃げ出せばいいのか?
異能は使えないし武器もない。
今の私はライオンの群れに囲まれたウサギだ。
何もできることが無くただ怯えるだけの存在になってしまう…
「なぁリーダー。こいつ、使ってもいいですかね?」
「は?」
「こいつさっきから下着姿でずっとうろついてるもんですからもう、ね?…まだまだガキっぽいですけどそれもまた一興」
「まぁ好きなようにやれよ」
ぎらぎらとした野獣のような眼光が私をとらえる。
「ひっ―!」
「なら俺も参加しようかな。なにせこの数か月ろくに処理できてなかったからな」
「お前帰ったら奥さんいるだろうが、浮気か?」
「浮気?そんなことはないさ、これは拷問の一環で必要な事だ」
「うっわぁ…ゲスい…」
「そういうお前こそ何人の女とやれば気が済むんだよ?」
「俺は底なしだからなぁ。世界中の女としても足りないんじゃないか?」
そんな下卑た会話をしながら私に近づいてくる。
この瞬間初めて男が怖いと思った。
男の欲望に私の心が潰されてしまいそうだ。
「や、やめて…私…そんなのしたくない…!」
「へぇ?そんなのって何?どんな想像したの?…あ、エッチなこと?ほんっと変態娘だなぁ」
「ダメ…近寄らないで…!」
身体が勝手にがくがくと震えてしまう。
涙が勝手に零れて顔を濡らしていく。
「わ、私…まだ…初めてだから…いや!こないで!…助けて…助けてよお兄ちゃん!」
叫んだところでお兄ちゃんは来てくれない。
もうお兄ちゃんはこんな私に愛想を尽かしてしまったのだろう…
やっぱり…もう…
しかしそう考えてもお兄ちゃんを呼ばずにはいられなかった。
だって…大好きな人だから…
大好きな人がおとぎ話の王子様みたいにさっそうと現れて欲しかったから…
「お兄ちゃん!助けてよ…お兄ちゃぁぁぁん!」