「なんで抜けたんだろうなぁ…?」
ケントは例の剣をぶんぶんと振り回しながら不思議そうにつぶやく。
「ケントはキョウヤより力があるってことじゃないの?」
ウサギはそういうが実際のところ力なら俺の方が上だと思う。
それにあの剣は力まかせで引き抜ける代物でもないはずだ。
ならなぜ…?
しかしどれだけ考えても答えは出なかった。
いや、今は答えのない問題を解いている暇はなかった。
俺がすること、それはユキの捜索だ。
危うく目的を忘れかけるところだった。
どれもこれもケントのせい…
「キョウヤ…その…殺気めいた視線で俺を見ないでくれ…」
そこからさらに探すこと数十分、俺達は大きな池があるところまで来ていた。
少し奥には滝がありごぉごぉと大きな音をたてながら水しぶきを上げていた。
「ねぇ…少し休憩しよ…?私疲れちゃった…」
「それ賛成!ずっと歩き続けて疲れちゃった…センパイも休んだ方がいいですよ?」
「お、おう…」
しかし雨が降る中どうやって休めと…
とりあえず喉が渇いたし…水でも飲むか…
池の水はきれいに澄んでいてキラキラと輝いていた。
俺は池のほとりまで歩く。
すると、しゃくり、と何かを踏んだ。
「なんだ…?」
疑問に思い俺は足元を見てみる。
するとそこには銀色に輝く氷があった。
いや、正確に言えば水が凍っていたというべきか。
これは…ユキ?
「ユキ!」
俺は思わず走り出していた。
この近くにユキがいる…!
池の周りをぐるりと回り妹の姿を探す。
(いや…もしかすると雨宿りできそうなところに…)
もう一度ぐるりと辺りを見渡す。
と、滝の裏に大きな穴があることが見受けられた。
もしかすると…あそこに…!
もうすぐユキにあえると思うと俺の足は自然と速度を速めていた。
滝の裏の洞窟、俺はゆっくりとその中を覗く。
真っ暗な洞窟、そこに少しの光がこぼれ落ちている。
「うえぇぇん…」
そして聞こえてくる少女の声…
やはり奥に誰かいる…
「助けてぇ…お兄ちゃぁん…」
「!?」
この声は…ユキ!
それにさっき助けてって…
「みんな!ユキがいた!ここにユキがいる!助けを求めてるんだ、早く来てくれ!」
俺はそう叫ぶとすぐにその洞窟の中へと入った。
妹を助けるために…
「ユキ!どこだユキ!?」
俺は声を張り上げる。
洞窟の壁に俺の声が反響して嫌に大きく響いた。
「お、お兄ちゃん!?」
俺の声にこたえるようにユキの声が聞こえた。
やはりユキはこの奥か…
俺は声のした方へ走った。
「ユキー!」
だんだんと灯が近づいてくる。
そして人の気配もある。
早くユキにあいたい…
その一心で俺は足を進めた。
「お兄ちゃん!きちゃダメー!」
「え…?」
俺は驚きで一瞬足を止めた。
と、目の前で何かが空を切るのが分かった。
「くっ…」
身体が危険に対して勝手に後方へ引いた。
俺の前を通り過ぎら何かはかろうじて前髪を数本切り落とすだけに終わった。
「ちっ…やりそびれたか…」
目の前で剣を振るったのは俺より数十センチは身長の高い男だった。
その大男はにやにやと笑いながらもう一度剣を振るった。
俺はそれをもう一度後ろへ躱した。
「へぇ…避けるのはうまいんだな」
「伊達に戦闘繰り返してないんでな」
大男と視線が交わる。
ギラリと鋭い眼光で睨むも相手には全く効果がないようだ。
「なら方法を変えよう。さっきので死んでればよかったと思うぐらいには絶望してもらうぜ?」
大男はそういうと俺に背を向けた。
何をするんだ…?
あいてが向かったのは洞窟の壁際。
そしてそこにいたのは…
「ユキ!」
「お兄ちゃん!」
なぜか下着姿のユキだった。
ほんの数時間合わなかっただけだというのにもう何年もあっていなかったようななつかしさを彼女から感じて目尻につつぅと涙を流してしまう。
しかし今は感動の再開というわけにはいかなかった。
ユキの目の前には大男、そしてもう一人の男がいた。
「よかったねぇユキちゃん、大好きなお兄ちゃんにあえて…」
「ひっ…!」
もう一人の男が下卑た笑みを浮かべながらユキを舐めるように見つめる。
「さぁて…これから俺たちはこいつを犯す!お前は妹がおかされてるところを黙ってみてるんだな!」
グヘヘといやらしい笑みを浮かべながら男たちは一歩ユキへと近づいた。
ユキは顔いっぱいに恐怖を貼りつけて俺に助けをこう。
「おいクズ共…テメェら…俺の妹にそのきたねぇ手で、指で触れてみろ…俺がぶっ殺してやる!」
「へぇ…ならやってみろよ」
「言われなくてもなぁ!」
いつものように武器を取り出して俺は敵めがけて一直線に向かった。
怒りがばねとなり爆発的な力を発揮する。
あともう少し…俺は剣を強く握りなおしてそのまま真一文字に切り裂いた。
「ぐぁぁ!…な~んてな」
「!?」
今のは渾身の一撃のはず…
なのになぜ相手は死なない!?
いや、まず攻撃があたって感触が無かった。
何が起こったんだ…?
俺はもう一度手の中の剣を握りなおそうとして、そこで気が付いた。
剣が…ない!?
俺の手の中の剣がいつの間にかなくなっていたのだ。
「なんで…剣が…?」
「お兄ちゃん!避けて!」
剣を失い呆然となっていた俺に鋭い横なぎが入った。
「ぐあっ…」
俺の体の表面をなぞるように切り込まれた剣戟。
傷口が熱を持ったように熱くなりそこから血が噴き出した。
真っ赤な鮮血が宙を舞う、俺の体から一瞬だけ力が抜ける。
「お兄ちゃーん!」
「ぐっ…!はぁはぁ…」
俺は足に力を込めて踏みとどまる。
大丈夫…傷口は浅い…
ユキが危ないと言ってくれなければ傷はもっと深いものであっただろう…
「お兄ちゃん、ここじゃ異能は使えないの!あいつの力で封印されてるの!」
ユキが指差したそこに顔を向ける。
そこにいたのは車いすに縛り付けられたまるで囚人のような存在だった。
見ているだけで恐怖と嫌悪感がわいてくる。
俺はすぐに顔をそこから背けた。
「お兄ちゃん!早く逃げて!私のことはいいから…早く!」
「でも…」
「いいから逃げて!最後に…お兄ちゃんにあえてよかった…私はもういいの…だから…お兄ちゃん!」
「そんなことできるか!俺はお前にちゃんと謝らないといけないのに…こんなところで逃げれるかよ!」
「よく言ったキョウヤ!それでこそ俺の親友だぜ!」
「え…?」
突然の声にふりむくとそこには俺の仲間たちが立っていた。
「はぁ…ケントってばカッコつけちゃって」
「これだからケントはダメなんです」
「だ、誰がダメなんだよ!?」
いつものようなバカノリの連中にホッとする。
なんだかそのやり取りを見ているだけで俺の心にまた熱が灯るようだ。
「お前ら…」
そうだ、まだ終わりじゃない。
俺には最高の仲間が付いているのだから―!