初陣へと
キョウヤたちは待っていた。
クラス模擬戦でのパーティを待っているのである。
かれこれもう10分も待っている。キョウヤはもう待ちくたびれていた。
「ごめんセンパイ!準備に手間取っちゃって…」
その声とともにやってきたのはイツキであった。
「あぁ、イツキか。お前が一番のりか」
準備に戸惑ったと言っていたが何をどうしたらこんなに遅くなるものかと、キョウヤはイツキをなめるように見た。
「ちょっとセンパイ…やめてくださいよ…」
イツキはそんなキョウヤの視線を感じたのだろう。恥ずかしそうに体を隠すように腕を組んだ。
「ちょっとこの服を着るのに手間取っただけですから」
「あぁ、そうなのか」
この服というのは多分戦闘服であろうとキョウヤは納得した。
イツキはいつもの制服ではなく身軽に動ける服装をしている。
デザインとしては制服とあまり変わらないがそれを構成している素材などが違うため動きやすさなどが格段とあがっているのだ。
「ってセンパイ、ゴメンの一言も無しですか?女の子を舐めるように見ていたのに謝らないってのはどうかと思いますが?」
イツキは不機嫌なままそう言った。そりゃ女の子をそんな目で見ていた自分に非があると思いキョウヤは即座に頭を下げた。
「ゴメンな、イツキ。そういうつもりはなかったんだけど不快に感じたならゴメン」
「キョウヤセンパイって意地とかプライドはないんですか?普通の人だったらそんなに早く謝らないはずですよ」
「いや、だって悪いのは俺だしさ。それに下手な言い訳しても意味ないだろと思ってな」
それはキョウヤの本心から出た言葉であった。
「センパイって案外…いや、なんでもないや」
そう言って言葉を濁すイツキ。
何を言おうとしていたのかキョウヤは首をひねって考えたが全く答えが見当たらない。
「お待たせです~」
キョウヤが答えを探しているうちにマリナの準備が終わっていたようだ。
マリナはいつも通りメイド服を着ている。特に違っている部分は何もない。
「ゴメンです。ちょっと仕込みに戸惑っていたのですよ」
「仕込み…?何のことだ?」
キョウヤはマリナにそう尋ねた。
「ちょっとした戦いの準備です。まぁ戦う時になれば見せてやるです」
そう言ってマリナは辺りを見渡し、一人欠けていることに気が付いた。
「ケントはどこですか!?このマリナちゃんを待たせるとはいい度胸なのですよ、あのうすノロ!準備位10秒で終わらせてくるのですよ!」
お前が言うなよと思ったキョウヤだったが今のマリナには何を言っても通用しないと思い口をつぐんだ。
イツキも何か言いたそうな顔をしていたがきっとキョウヤと同じことを言いたかったのであろう。
「マリナちゃん、そんなに怒ることないんじゃない?」
「いいや、イツキは甘いです!甘すぎです!おしるこに砂糖を入れるほど甘いです!」
「私ってそんなに甘いんだ…」
「いや、そこで落ち込むなよ」
妙な所で落ち込むイツキにツッコミを入れるキョウヤ。
(てかおしるこに砂糖って普通いれないだろ!?)
キョウヤはキョウヤで別のことが気になっていたらしい。
「おぉ、待たせたな~」
そう言いながらヘラヘラとやってくるケント。どうやら全く自分が遅れてきたことに罪悪感が無いらしい。
「遅いです!マリナちゃんを待たせるとどうなるかわかってるのですか!?それを踏まえて遅れてきたってことですか!?」
マリナはケントを見たとたん噛みつかんばかりに吠え散らした。
「す、すいませんマリナ様!マリナ様を待たせてしまい申し訳ありません。このノロマなケントにお仕置きを…」
ケントはそう言いマリナにすり寄った。その早さ約0.1秒
「はぁはぁ…マリナ様。この悪い駄犬にお仕置きを…はぁはぁ…」
ケントは息を荒げながらマリナにそう言った。
ケントの眼は尋常ではないぐらい本気であった。
「き、気持ち悪いです…!近寄るなです!ケントのくせに生意気ですよ!」
「あぁ、マリナ様がその小鳥のさえずるような可愛く綺麗な声で俺を罵っている…!はぁはぁ…もっと!もっと罵倒してください!」
「その辺にしておけ、ケント」
「そうですよ、ケントセンパイ!」
そう言いキョウヤとイツキは見事に息の合った蹴りをケントの鳩尾にお見舞いした。
ケントの身体がくの字に曲がった途端打ちあがる。そして数秒後床に打ち付けられる。
「あれ?俺何してたんだっけ…?」
どうやらケントは素に戻ったらしい。まぁ今になってはどっちのケントが素なのか疑問なのだが。
「そういやケント。その剣はどうした?」
そう言いながらキョウヤはケントの背中に担いである剣を指差しながら尋ねた。
その背には大きな刀が背負われていた。しかしそこには一つ違和感があった。
剣の上下が反対になっているのである。切っ先が下に来るのではなく上に来るように担いでいるのである。
「あぁ、こいつか。新しく作ってもらったんだ。切れ味とかは保証するぜ」
「いや、そういう意味じゃなくてな…」
ケントは質問の意味が分からないというような顔をする。
「どうして上下逆さまにしてるのかってことなんだけど…」
ケントはそんな事かと笑いながら答えた。
キョウヤにしてみれば何でそこで笑うのかと不思議に思うのと同時に笑うことないだろうという怒りが込み上げてきた。
「これは俺の流儀(スタイル)だ。剣の技を考えてる時に思い付いたんだ」
スタイルって何だよ…とキョウヤ達一同は思ったがあえて口に出さないことにした。口に出さない優しさってものもあるんだぜ?
「と、それはそうと俺とキョウヤは今回で初陣だな」
「いや、初陣じゃないだろう。編入試験もあったんだしさ…」
ケントは記憶を無くしたためこんなことを言ったのだろうと思ったキョウヤだがケントの反応からしてどうやら違うらしい。
「クロノスでの初陣ってことだよ!わくわくするよな!」
「あぁ、そういうことか」
そう言いキョウヤは少し笑みをこぼした。
初陣という言葉の意味を理解した途端キョウヤの心はまるで子供のようにうずうずしていた。
「なるほど、二人は戦闘処女だったってことですね。納得です!」
「戦闘処女って何だよ!?」
マリナのわけのわからない発言に突っ込みながらキョウヤ達は戦闘の場である決闘場(コロシアム)へと歩を進める。
その間ずっと彼らの鼓動は高まり高揚していた。
「よしっ、お前ら!今から好きなだけ暴れてこようぜ!」
「ケントのくせに生意気言うなです!でもまぁ暴れてやるですよ!」
ケントが全員に聞こえる声でそう言い、マリナもまんざらではないという顔を作りそれに続く。
「それじゃあキョウヤセンパイ!一発決めてきましょうか!」
イツキがキョウヤに手を差し伸べ、キョウヤはその手を取る。
「あぁ、行くか!」
キョウヤは唇の端を釣り上げ決意のこもった眼をし、そう言った。