溜まってたんだから仕方ないじゃない!
ケントとマリナのクリスマス2014
「ケント、次はどこ行くです?マリナはもっといっぱいいっぱい遊びたいです!」
「そうだなぁ…マリナがいれば俺はどこでもいいかな」
「もぅ…!ケントってばカッコつけてるつもりです?そんなの全くかっこよくもなんともないです!むしろキモいからやめるです!」
「キモいとか言うなよ…」
「ならもっとまともなこと言うです」
「まともなことなぁ…」
聖夜、世間一般では恋人たちが楽しく過ごす日。
もちろん俺も例外なくであり。
こうして彼女でもあるマリナと一緒に街を歩いていた。
「もうケントに任せられないです!マリナちゃんお腹空いたからごはんにするです!」
「はいはい、わかりましたよお嬢様」
クリスマスの派手な街灯がマリナの輝いた笑顔をさらに際立たせる。
いつものような無邪気な、それでいて小悪魔的な笑顔が俺の心をまるで糸のように絡め取り離そうとしない。
それにマリナの服装も俺の心をがしっと掴んでいた。
いつものようなメイド服ではなくちゃんとした冬服だ。
柔らかなミルクティーカラーのパーカー付きのジャケットに真っ白な手袋とマフラー。
子供っぽいマリナの中にもどこか大人の魅力を感じさせる衣装に俺はさっきからドキドキが抑えられない。
それにマリナがはしゃぐたびに揺れるツインテールとそれを追いかける真っ白なマフラーがまたうまい具合に絡みあってとても魅力的だ。
やっぱり俺の彼女は世界一可愛いぜ!
「うわぁ…ケントがキモい目でマリナちゃんを見てくるです…見るな変態ケント!」
いつもの毒舌も俺にとってはご褒美みたいなものさ。
全く痛くもかゆくもないぜ!むしろもっと罵ってくれ!
と、変態的になってしまうほどに俺はマリナに骨抜きなのであった。
「マリナが可愛いから仕方ないさ。ちょっとぐらい見てもいいだろ?な?」
「う、うぅ…ちょっと…ちょっとだけです…マリナちゃんも恥ずかしくなっちゃうです…」
本人は気付いてないかもしれないがみるみるマリナの頬が紅潮していくのが分かる。
これもクリスマスのムードが見せてくれるものなのか!
クリスマス万歳!
「はぁ…バカケントに付き合ってたらすっかりお腹が減っちゃったです…早くご飯にするです!」
「お、それじゃあ俺が予約してる店に行くか!クリスマス限定のケーキが食べられるらしいぜ?」
「予約なんてしてたです!?ケントのくせに準備万端でムカつくです!もしかして明日は大雪です!?」
「お前は俺を何だと思ってる…」
俺達は寒空の下バカみたいな会話をしながらその店へと向かった。
イルミネーションがキラめく夜の街にまるで俺とマリナしかいないような錯覚、そう感じるほどにマリナと過ごすときは楽しかった。
なぜ彼女といればこんなに楽しいのか…?
きっと答えは見つからないと思う。
けど一つ言えることはマリナが俺の大切な女の子で俺が愛していたという事実だけだ。
「ほら、ついたぞ。この店だ」
と、そうこうしているうちにお店に到着した。
お店はクリスマスの装飾で派手に飾られていて入口の所には大きなクリスマスツリーまで飾られてある。
ちょっとレトロな感じの風貌にその巨大クリスマスツリーは妙にマッチしていた。
俺達はそのまま店に入った。
店内もクリスマスムード一色で机には色とりどりのキラキラとした装飾が施されていてBGMにはクリスマスソングもかかっていた。
そして何より目を惹いたのが従業員が皆サンタ帽をかぶっていることだ。
男も女も関係なくその帽子をかぶって働く姿はなんだかとてもシュールに思えた。
「ほんとクリスマス一色で呆れるほどです…」
「だなぁ…でも楽しいからいいじゃんか」
俺は店内を見渡してそう言った。
確かに見ている分には飽きないし周りのお客さんからも楽しいという思いがこちらまで伝わってくる。
カップル、家族連れなどがいるそんな中でひときわ俺が気になった存在があった。
店内だというにもかかわらず真っ黒なローブを身に纏った少女が一人で席についていたのだ。
俺はその少女に見覚えがあった。
確かあれは…
「なぁマリナ?あれって…ハルカ、だよな?」
「そう…ですね…確かにあの見た目はハルカしかいないです」
俺のクラスメイトの少女、ハルカ。
いつも黒いローブを身に纏い幸薄そうな表情を浮かべている少女だ。
俺は彼女に近づき一言声をかけた。
「おいハルカ!お前こんなところで一人なんて…どうしたんだ?」
「あ…ヤマイ君…それにマリナちゃん…?」
ハルカは俺たちの顔を見るなり驚きの表情を浮かべた。
しかしすぐにいつものような幸薄の表情に戻ってしまう。
こいつ、感情表現下手なのか…?
俺は彼女に断りを入れて相席することに。
「それで…お前はどうして一人でこんなところにいるんだ?」
「そうです、クリスマスなんだからみんなと楽しまないといけないです!」
「ボク…みんなと同じように…楽しめるわけない…」
と、彼女はぽつりと弱々しくそう吐いた。
彼女の独特の喋り方がさらにその言葉を弱々しくも、それでいて力強く感じさせた。
「おい、それってどういうことだ?」
マリナも俺と同じで疑問そうな顔をしている。
やっぱりここは聞いておかないと…
「だって…今年…ううん…この先ずっと…お姉ちゃんいないんだもん…クリスマス…お姉ちゃんが一番好きだったイベント…それに…お姉ちゃんの誕生日…」
お姉ちゃんって…ナミの事か…
「もうお姉ちゃんいない…だから…もう楽しくしちゃダメなの…お姉ちゃんの楽しみ…ボクがとっちゃダメだから…」
彼女は嗚咽混じりにそう吐きだした。
いつものようにゆっくりとした口調で…
その間に俺たちの心にも彼女の悲痛な叫びが聞こえてきた。
彼女は姉の死というモノに囚われてしまっているのだ…
「でもそれってハルカが楽しんじゃいけない理由にならないです?むしろハルカのお姉ちゃんははるかに楽しんでほしいんじゃないです?」
「俺もそう思うぞ。俺だってもし妹がいたとしたらいっぱい楽しんでほしいしな。多分お前の行動を見たらナミが怒ると思うぞ?」
「そ、そう…かな…?」
あぁ、と俺は力強くうなずいた。
今のハルカにとって大切なのは姉の死を引きずることじゃない、乗り越えることだ。
今はまだそれが出来なくても…いつかきっと彼女はこのクリスマスという日を大事にするだろう…
「それに目の前にそんなにいっぱいクリスマスケーキを並べてるくせに楽しめないって言っちゃダメです」
マリナはそう言ってテーブルの上に並べられた大量のケーキを指差した。
苺のケーキにチョコケーキ、ガトーショコラにモンブラン、それにプリンまで並べられていて…ってこいつ一人で喰う気だったのか?
「そ、それは…」
と、彼女は恥ずかしそうに頬を染めながらうつむいてしまった。
なんだ…結局こいつもクリスマスを楽しんでるんじゃないか。
「ほら、ハルカ。一緒に食おうぜ!その方がおいしく食べられるし、楽しいだろ!」
「う、うん!」
俺の言葉にハルカは力強くうなずいた。
その顔にはさっきまでのようなさびしそうな影はなかった…
「ふぅ…いっぱい食べたですぅ…もうおなかいっぱいですぅ…」
「だなぁ…俺、たぶん一年分のケーキ食べた気がする…」
「え?あれで一年分です?マリナは一週間分ぐらいだと思うです」
「マジかよ…」
そういやマリナってドン引きするほどの甘党だったっけ…
そう思いだすと同時に昔に味わったマリナ特製の激甘ドリンクの味が思い出されて胸やけがさらに激しさを増した…
「あ…雪が降ってきたです…」
「ほんとだ…ホワイトクリスマスだな」
俺たちの上で真っ白な雪が舞い散る。
それは街灯の灯と反射してキラキラと輝いていた。
「ねぇケント…クリスマスプレゼント…欲しいです?」
「え!?あるのか!?」
「当たり前です…マリナちゃんが用意して無いはずないです」
「じゃあお言葉に甘えてもらっちゃおうかなぁ」
「それじゃ…しゃがんで…目を…閉じるです…」
俺は言われたとおり目を閉じる。
すると俺の体にギュッと温かな何かが抱き着いてくるのが分かった。
抱きつかれた瞬間女の子独特の甘い匂いが鼻孔をくすぐる。
そして次の瞬間に俺は、マリナからのクリスマスプレゼントをもらっていた。
唇に押し当てられた甘くてふにっと柔らかなプレゼント…
それは一瞬の事だった。
キスをされた、そう思った瞬間にはそれはもう俺の唇にはなく残ったのはほのかな甘さと彼女の唇の柔らかさだった…
「へへ…ケント…メリークリスマスです…」
「じゃあ俺からもプレゼントだ…」
そして俺もマリナの唇にキスをした。
俺がしたのは触れあわせるだけのキスではなく恋人同士のキス…
マリナと唇を触れあわせているとまるで麻酔のように俺の頭はボーっとしてきて体の感覚が失われていく。
それどころか時間の感覚もなくなり今どれだけこうしているのかが分からなくなってくる。
いや、だがそれでもいい。
今俺が願うのはこの甘い時間が永遠に続けばいい、ただそれだけだった…
「む、むぅ…!ケント!苦しいです!」
「ご、ごめん!大丈夫だったか!?」
「大丈夫じゃないです…」
「え!?ごめん!俺、マリナの事考えずに…」
俺が言いかけた言葉をマリナは指を立てて静止した。
そして頬を真っ赤にさせて
「マリナちゃん…ケントのこともっと好きになっちゃったです…どれもこれもケントのせいです…!だから責任取るです…これからもずっとマリナちゃんを愛さないと許さないです…!」
こういったのち恥ずかしそうにぷいっとそっぽを向いてしまった…
俺が何か声をかけようとした瞬間彼女は一目散にかけていってしまった。
「くそ…俺も…もっと好きになっちまったじゃねぇか…」
こうしてオレのクリスマスは更けていった…